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俺のルームメイトはスーパーヒーロー  作者: 夏城燎
第一章 新たな職場編
9/35

第九幕 「囁く厄災」



 朝だ。


「ん……うぅ~」


 俺は朝8時くらいに目が覚める。

 目が覚めると。

 壁に掛かった絵画が視界に映って。

 同時に右手側にある窓から、車の行き交う音が入ってきた。


 路地裏にある家だから音が反響しやすい。

 ま、この騒音があっても目覚めないのが俺なんだが。


 視線に入るタンスには小さな時計がジリジリと聞きなれた音を叫んでいる。

 俺は布団から這い出て立ち上がり。

 その時計を叩くようにして止めた。


「ほわぁ、ねむ」


 何だか今日は恐ろしく【眠い】。


 こんなに眠くなったのは。

 初めてかもしれないと思うくらいには寝起きが悪い。

 昨日の書類整理で脳が疲れていたのだろうか……?


 ……いやまぁ確かに疲れる仕事ではあったけど。

 こんなものだっただろうか。

 俺の体力は。

 俺も、まだまだ普通の人に比べ体力がないのだろうか。

 衰えたな。


「みのる……は出張だった」


 俺は自分の部屋からそう顔を出すが、すぐ相方の不在を思いだした。

 やけに家が寂しいなと思っていたら。

 そう言えばそうだった。

 ルームメイトがいないだけでこれほど静かなのは忘れていたな。

 一応これまで何度かこの静けさは感じていたが、長い事出張が無かったので忘れていた。


「たしか……今日はアムに呼ばれてんだっけ」


 昨日の帰り際、田口から。

「明日の10時に港区の田町駅に来てくれると助かるでやんす」と言われた。

 今日はそのため、電車に乗ってその田町駅へ行こうと思っている。

 明日は勤務日だが遊んでいいのか?

 と聞くと。

 どうやらその用事とやらは仕事関係らしく。

 仕事関係の同行ならばと言う事で了承した。


 一体どんな用事があるのかは聞けていないけど。

 『ヒーロー事務所』へ行くと言われている通り。

 恐らくサポータアイテム関係で事務所へ出向くのだろう。

 俺が必要な意味をまだ知らされていないのが怖いところだ。


 俺は服を脱ぎ、パンをトースターにセットしながらタンスを開ける。

 中から外行きの服装に着替え。

 鏡で自分の姿を確認し。


「ん……?」


 と言うか。

 そういう系の仕事はカナメさんがやっているのではなかったのだろうか?

 自分の事をよそ行きの看板って言ってたくらいだし。

 でも田口が来るんだよな今日。

 どういう事だ?

 う~ん?


「うし」


 焼けたパンをコップの上に置き。

 熱いパンにバターを塗り込む。

 そして次の瞬間、俺はそれを口に運んだ。

 俺は簡単に朝食を済ませ、タンスから出した黒いコートを羽織り。

 俺は貴重品を入れたバックを背負い、家を出たのだった。



――――。



 時刻、7時43分に駅に到着し。

 俺は電車から降車した。


 初めての場所を歩き出し、話に合った場所へ向かう。


 確か待ち合わせ場所は。

 田町駅東口にあたるペデストリアンデッキ周辺であり。

 そこへ向かう為、改札を出た。


 するとすぐ目の前にその目的地があり。

 案外拍子抜けと思いながらも、そこに立った。


 スマホを見るともうそろそろ約束の時間だ。


 思えば、人と待ち合わせすることは俺の人生においてあんまりなかった気がする。

 だから謎のワクワクがあるのだが。

 まあ、別に楽しい訳ではない。

 ここら周辺、というかここ『港区』は初めて来たのだが。

 人が多いと言うイメージそのままの光景が広がっていた。

 駅でこの人だかりだ。少し人混み酔いをしそうになりながら俺は前を見てみる。

 あぁ、やっぱり目が回りそうだ。


 最寄り駅で購入したお茶を飲み。

 何んとなしに開いたアプリで、漫画を読むことにした。

 こういう隙間時間に読む漫画は。

 小説でも同じなのだが、時間を有意義に使っている様で何だかいいよな。


「おはようござる、ソウタ殿」

「おう。おはよう田口。……まて、おはようござるって何だ?」


 俺がスマホから視点を上げると。

 前には特徴的なデザインの眼鏡をし。

 わりとオシャレな服装の田口アムが立っていた。


 ……こういうのは失礼と言うのかもしれないが。

 勝手なイメージだが。

 もっとこう、赤のチェック柄とかで来ると思っていた。

 案外外ではオシャレなんだな。


「よし……。ん゛ん、お待たせ、待った?」

「いいや、数分前に来た」


 田口の言葉に俺は軽く返答する。


「ノリが悪いですねソウタ氏は」


 赤い顔をしながら軽蔑の視線が送られた。


 そんなおかしいだろ。

 悪いが俺は生憎、ノリを選ぶ人間なんだ。

 ……つうかあまりお互いの距離感つかめてないんだから。

 のれる冗談と分からんノリが存在してるんだ。


 田口の朝のテンションはわりと高めと言う事なのか、

 それとも裏があるのか。

 深読みしすぎかもしれねぇけど。


 なんて俺が考えていると。

 「……では改めて」と田口は一度喉を鳴らした。


「今日は近くにあるヒーロー事務所にとある部品を取りに行くのです」


 両目を閉じ、右手の人差し指を立てながら彼は言う。


「部品? 部品調達も俺らの仕事なのか?」

「いいや、今回は特例でやんす。そのヒーロー特注サポテムの部品は、また作るにしても壊れる前の物がないと」

「……そういう物もあるのか」

「詳しい経緯は歩きながら話しましょうか」


 俺と田口は駅を出て、ペデストリアンデッキの上を歩き始める。

 歩くと見えてきたのは。

 見上げるくらいのビル群で。

 流石東京、と胸の中で呟いた。


 そして一緒に歩く田口から、事の経緯が語られる。


「数日前、ヒーロー事務所『キンモクセイ』の方から依頼されたサポテムがうちに届いたのですが」


「どうやらそのサポテムはそのヒーローの為にゼロから作られた特注でありまして」


「一応うちは、特注アイテムの修理は高額になりますが請け負っているのです。が、問題は壊れた部品が一緒に送られてこなかったのです」

「送られてこなかった?」

「その通りでやんす。一応相手方に連絡を取ったところ、使用しているヒーローが天然すぎて部品の存在を忘れていたらしく」


 とんだ戦犯じゃないか。


「それにそのヒーローの方が特殊な方で、色んな部品を自身の能力の為にコレクションしているらしいのです」

「は、はぁ」

「で、どれか分からなくなったと」


 戦犯もA級レベルじゃねぇか。


 つまりだ。

 直してもらおうと送ったが手違いで修理したい部品を送り忘れ、

 それにその部品を数あるコレクションの中に入れてしまったから、どれか分からないと。

 なるほど、そりゃつまり。


「俺ら振り回されているな」

「そればかりは否定できませんな」


 横断歩道の赤信号が青に点滅し、聞き覚えのあるメロディーが頭上で鳴る。

 俺らはそのうちに横断歩道を渡り始めた。


「はぁ、とんだお使いに俺らは行かされるらしい」

「本当でやんすよ。全く、天然だとは言え、我々が出向かう事になるとは」


 そう考えるとちょっとムカついて来たな。

 でも、こういう仕事なんだろうな。

 社会ってしっかりしてそうで、実は誰かが迷惑をかけて誰かが我慢する。

 そんなもんだと思えば何だか納得できそうだ。

 個人的に許しはしないがな。


「というか、どうして俺がこの場に呼ばれたんだ?」


 そうだ、正直俺は工房へ戻り、書類整理をしていた方が色々と効率がいい筈。

 どうして田口は俺を誘ったのだろうか?

 俺が必要な理由でもあったのだろうか?


「いえ、一人で行くのは寂しいですから、暇そうなソウタ氏で行こうかと」

「暇そうなっつった? ねえ暇そうって言ったよね?」

「まさかソウタ氏があんな快く了承してくれるとは思わなくて、拙者感動しました」

「燃やしてやろうか?」

「いえ結構です」


 食い気味で否定された。


 ……俺も巻き添えをくらったってわけか。

 まぁいいか、たまには気晴らしに人に振り回されてやろうじゃないか。

 職場二日目にしては少し枠を出ている気もするが。

 これも社会経験だと大目に見よう。


「ま、それは冗談半分で。本当はこういう仕事も今後やってもらいたいだけなんですがね」

「あぁ、そうなのか?」

「カナメ氏の仕事はずっとカナメ氏一人だけで回してきました。その補助と言うか、カナメ氏のカバーも今後覚えてほしいなと、昨日社長と話したんですよ」

「なるほどなぁ、そう言う事なら納得も許しも出来そうだよ」


 どうやら今まで割と無干渉を貫いていそうだった大本は。

 案外社員と今後について話すらしい。

 あいつにそんなイメージは無かったんだが。

 やはり、鬼族時代のイメージを引きずるのは良くないな。

 それか一昨日の俺との会話のせいか?

 ……まさか、そんなわけないか。



――――。



 ビル街を歩いていき。

 歩み始めてから約15分が経過した。

 少し街の中心っぽいエリアから外れ。

 俺ら二人は路地裏を歩きながらまた歩道へ出る。


 そしてその瞬間、おもむろに田口は手を突き出して。


「あそこがヒーロー事務所『キンモクセイ』でやんす」


 ビルは一見、普通のビルだった。

 全面ガラスであり。

 そしてエントランスからは人がゾロゾロと出入りしているのが見て取れる。


 主に『港区』の犯罪取締りを担っているこの事務所は。

 地域の人間たちの心の拠り所と言ってもいいのかもしれない。


 昨日の資料整理のせいで、少しばかりこのキンモクセイの事を知っている。

 在籍ヒーローは26名、中規模の通常事務所であり、さっきも言った通り。

 ここらへんの治安を守っている。

 割と、最初にしては大きい事務所へ来たな。


 ビルに入ると。

 吹き抜けのエントランスの中には人の歩く音が響いていた。

 大理石の床の足音はビル内に反響するくらい響いており。

 ……少し慣れが必要だった。

 俺は耳がいいからか、痛くなりそうで困った。


 そのまま受付へ向かう田口に、俺は付いていくと。

 田口は受付で止まり、口を開いた。


「大本サポートアイテム修理工房の者です。今日の8時半からの、サポートアイテムの修理についてで伺いました」


 受付で田口は、恐らく外行きの笑顔をつくり丁寧な言葉遣い(やんす、ござるは控えた口調)で話をしていた。

 普段とのギャップが凄いと驚いていると。

 田口の話を聞いた受付嬢が。

 上の階にあると言う事務所に連絡線の様なもので確認を取り始める。

 その間暇になった俺は、何んとなしに回りを見回した。


 ヒーロー事務所は初めて来たが、案外フリーに場所が公開されているらしい。


 ぱっと見スーツを来た会社員っぽい人も歩いているが、

 目を凝らすと奥の方にキッズルームと書かれたエリアが存在していた。

 確かにヒーロー事務所は、子供を預けるのに最適で一番安全な場所なのかもしれないが。

 何だか事務所ってより。公民館? って感じがするな。

 うっわ、人がやっぱり多いな。

 人混みは得意じゃないんだ。


「っ?」


 ふと後ろから肩を叩かれた。

 振り返ると田口がいて。


「いくでござるよソウタ氏」

「……お、おう」


 何だか分からないが、その口調に安心感を抱いてしまった自分がいた。






 『6階』と書かれたボタンを押し込み、同時に扉が閉まる。

 ガタッと一度揺れてから。

 エレベーターは上昇を始めた。


 受付で手渡された来客用の入場証を首から下げ、俺らは目的の階へ上る。


 4、5、6。

 そう備え付けのモニターで階層を刻み、そして扉が開く。

 出るとそこは落ち着いた雰囲気のエレベーターホールが広がっており。

 落ち着いたBGMが掛かっている廊下の壁際にはこの階層の案内図が設置されていた。


「事務所があるのはこの階なのか?」

「いや、正確にはこのビル全部が事務所なんでやんすよ。キンモクセイさんは色んな施設をこの建物内に作って、ここ港区の中心にしているのでやんす」

「そりゃ……ずいぶん地域に寄り添っているんだな」


 事務所の中に施設がこんなにあるとは。

 考えても無かった。


 初めて来るヒーロー事務所だからだろうが。

 始めて見る光景ばかりで新鮮だ。

 最近は新鮮な事が多くて楽しいぜ。


 色んな施設があるって事は。

 多分探せば、このビルの中に飲食店などもあるのだろう。

 なんというか、正直お気楽だと感じてしまう自分がいるが。

 ……でもこれくらいがいいのだろう。


「ヒーローは地域の好感度が大切でやんすから。活動する上で、信用が無ければ。守れるものも守れなくなるんでやんす」


 そう、ヒーロービジネスは信用が大切だ。

 ファンサービスだとか、グッツだとか。

 ただの好感度稼ぎでお金儲けの一面もあるだろうが。

 それを手に取る人達が、ヒーローと言う希望を信じられるようにする。

 感じられるようにする。

 そんな効果があると俺は思っている。


 そういう現実味を感じる物が。

 今のヒーローには必要なのだ。


 手っ取り早くヒーローの信頼を勝ち取る為に必要なのはただ一つ。

 その『身近さ』だと俺は思う。




 奥へ進むと。

 まるで銀行の窓口の様な光景が広がっていた。

 小さな観葉植物が窓際に設置されており。

 モニターがぶら下げられているカウンターの先には正装をした男性女性が座って待っている。


「……もしかしてここ、銀行も兼ねているのか?」

「いいや、ここは違うでやんす。ここはヒーロー事務所直通のお悩み相談室で」

「そ、そんな事もしているんだな……」


 確かに個々に分けられた仕切りの中に人が入っている。

 色んな相談窓口があるのだろうか。

 ヒーロー事務所ってのも多彩なのか?


「ここまで地域に寄り添っている事務所は、わりと珍しいんでやんすよ」

「流石にそうだよな……全部こんな感じだったら大変そうだし」

「ちなみに、お悩み相談室としても一面もありますが。ここでヒーローに個人的な依頼をしたりも出来るんですぞ」


 それがこのヒーロー事務所直通のお悩み相談室の特徴でやんす。

 と田口は鼻を伸ばした。


「依頼? 個人でヒーローを呼んだりできるのか?」

「まあめっちゃ個人的な物は難しいですが、法人向けの依頼はもちろん、不審者を見かけたから巡回を強化してくれだとか、例えるなら一昔前の警察の様な立ち位置で、市民の声を聞くための場所って感じでやんす」

「なるほどなぁ……時代も進んでいるんだな」

「超世になってから色々と変化したらしいですよ、まあ拙者は令和生まれですが」


 これは持論だが。

 古き良き『作品』、古き良き『食べ物』はあると思うが、古く良き『システム』はないと思っている。

 システムは更新する。最適な形にだ。

 人がいる限り、人が残す限り、そのアップデートは止まらない。

 だから新しくなる。


「もうそろそろでやんす、ほら見えて来た」


 田口と相談窓口を進んでいくと、奥に一風変わった雰囲気の区画があるのが見えてくる。

 近づくと見えて来た看板には、『喫茶店』と書かれていた。


「ここが待ち合わせ場所でやんす」

「やっとか」


 これが本音だ。

 この建物は施設が多すぎる。

 もう俺のお腹はいっぱいだ。


「時間的に中で待っている筈でやんす、いきやしょうか」


 田口の先導により、俺らはその喫茶店へ足を踏み入れた。


 落ち着いたBGMが流れる店内は。

 全体的に木造の様な作りだった。

 =お洒落って事だ。

 木の板材で作られた床を歩き。

 レジの上につるされた草のオブジェクトが風で揺れる。

 店内には午前中だからかお母さま方やおばあさんなどが目立った。

 何だかいずらい感覚を抱くな。

 自分にふさわしくない気がして。


「ん? あれは」


 そんな中、明らかにこちらに手を振っている無愛想な女性がいた。

 変な女性だった。

 全身が真っ白の、幽霊の様な雰囲気の……。


「あ、居ましたね」

「え? あの人なのか?」


 ……確かに女性だとは言われてなかったけど。

 何となく男だと思っていた。


 席に近づくとその女性は机に小さな箱を抱えているのが見え。

 紙の様な、汚れを知らない白い髪が。

 床につきそうなくらい長く生えており。

 その儚い存在感を纏った彼女は、小さくため息を付き、その細目で俺らを見た。

 そして次の瞬間。


「……えっと、はるばるここまでありがとうございます。私は『植物ヒーロー』のブルーメと申します」


 小さく高い声でブルーメさんは挨拶をしてくれた。


「存じております。私の名前は田口アムと申します。こちらは後輩の竹内ソウタです」

「よ、よろしくお願いします」


 田口の丁寧な挨拶と共に、俺も頭を下げる。

 軽い自己紹介を終え、俺ら二人は席に腰を下ろした。


 『植物ヒーロー』ブルーメか。

 聞いたことはないが、名前から個性があるな。

 しかし、植物ヒーローと名乗る癖に、彼女の見た目は恐ろしく白色だ。

 長い白髪もそうだが、白い布のような服。

 そして極めつけは白い瞳と来た。

 もう白色ってよりは『透明色』と言う方が正しいような配色をしている。

 ヒーローの普段着ってのはあんまり見た事がないが、

 ミノルですら筋肉モリモリのマッチョマンだったんだ。

 多分だが、ヒーローってのは普段からいい意味で奇抜なんだろう。


「早速ですが、部品を探してもいいでしょうか?」

「構いません。私達が触った形跡があると思いますが、あまり気にしないでください」


 そういい、ブルーメさんは手で抱えていた箱を差し出してくる。


 田口と一緒に中身を覗いてみる。

 すると、どうやら中身は全部機械の部品の様だった。

 本当にコレクションされていたんだなとビックリした。

 部品か。いやまぁ確かに面白い形のもあるけど。

 やっぱり世界は広いのだろうか?

 俺からすると、機械の部品を集める趣味に共感は示せないな。


 田口は部品を取り出し。

 手に握った物を一つ一つ順番に見ていく。


「これは車の部品ですね」

「そうですね、私のお気に入りです」

「こっちは電動ドリルのカバーだ」

「その通りです、それもお気に入りで」

「ここらへんの部品はほとんど工場の機械部品ですね」

「へぇ、そうだったんですね。まだまだ魅力的な部品がこの世界にはあるのかもしれませんね」


 田口は冷静に分析にブルーメが反応する。

 何だか嬉しそうだ。うんうん、うんうんと返答している。

 どうやらこのブルーメと言う人物は本当にこういう部品が好きなのだろう。

 さっき自分が触ったとまで言っていたんだ。

 植物ヒーローの肩書にあわなそうな趣味だとは思うが。

 なんか奇抜すぎるが、何だかかわいく思えて来た。


 ……ん? というか。


「田口はなんでそこまで分かるんだ?」

「え、あぁ。簡単な話、拙者の魔眼を使えば色々と教えてくれるんですよ」


 彼の言う魔眼は超能力の事だ。

 確か『マニアック』だっけか。

 一目見ただけで機械の全てを理解する?

 いやでも、部品を見ただけでなんの機械の部品かも分かっていると言う事は。

 機械の全てを理解し、全てを知ることが出来るのか?

 本当の意味で『機械の神様』みたいな、そんな能力なのかもしれない。

 面白い能力だな。

 今度詳しく聞いてみよう。


「……うーん」

「どうされましたか?」


 俺がそんな考えを巡らせていると、いきなり田口は唸り始めた。

 そんな様子を見てブルーメは心配そうに田口を見つめ。


「失礼ながらブルーメ様、この箱の中の部品で全てですか?」

「ええ、その筈ですが……」

「なるほど……それは困りましたね」

「どうしたんだ?」


 何やら引っかかる事があるらしい。

 俺は何を感じたのか、どうしたのか聞こうと声を掛けると。

 田口は箱を見たまま、口を動かした。


「この箱の中に部品がないでやんすよ」


 ……部品がない?


「ブルーメ様。お聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


 俺が会話を繋げる前に、田口はブルーメさんに視線を向けた。


「まず、あのサポートアイテムをどこで破損してしまったのでしょうか?」

「……えっと。数日前に強盗を捕まえたとき、その強盗が振り回したバットに当たってしまって」

「その時にあなたは、破損した部品などをちゃんと持ち帰ったんですよね?」

「ええ……ですけど、正直あんまり自信はありません」

「というと?」

「私、抜けている所があるので……」


 そう自身が無さげに言うと。

 なぜか『透明色』だったブルーメさんが、薄い水色に変わった気がした。

 流石に気のせいだと思うが。

 少し下向きの言葉が、彼女の印象を変えたのだろう。


「なるほど……もしかしたら、まだその場に部品が残っている可能性も少なからずあると言う事でしょうか?」


 すると唐突に、田口はそう切り出した。


「……あり、得るかもしれません。ですが、そうなるとどうすれば?」

「どうせなら僕らで探しますよ」

「えっ……ご迷惑ではないですか?」

「いいえ、そんなことはありませんよ。僕のまがっ……能力を使えばすぐに発見できるので」


 今魔眼って言いかけたな。


「もしブルーメ様のお時間がよければ、その現場に僕たちを連れて行ってくれませんか?」

「……ん、んーん」


 ブルーメさんは垂れる。

 何を悩んでいるのかは分からないが。

 とりあえず田口の真似をして俺は口を閉ざした。


 確かに田口の能力を使えば探しやすい。

 消えた部品がどういう物なのかは知らないが、

 恐らく無くすと修理が難しくなるようなものなのだろう。

 ネジだとかモーターだとかそういう簡単な機械ならまだしも、

 ヒーローの専用に作られた特注の装備だ。

 なので、そう簡単な話ではない。


 だから探しに行こうと言った。

 元々うちに頼んでいると言う事は、『急いで直してほしい』と言う事だろうし。

 修理の為に、ブルーメさんには全面協力をしてもらうのがベストか。


「………」


 ……つうか、俺この会話にあんまり参加できていないな。


 いや、参加する余地があるようには見えないが。

 ……これじゃあ俺がこの場にいる意味がない気がする。


 だが考えてみれば間違いではないか。

 あくまでここに俺を連れてきたのは。

 俺にカナメの補助を今後させたいからであり。

 仕事内容を学ぶと言う、いわば『研修』の様な目的があるわけだ。

 だとすると、俺の今の仕事は、この田口を見て学ぶこと。

 だから別に俺が口を出す必要は無いんだ。


 田口の立ち回りは勉強になる部分が多い。

 ブルーメさんのミスのカバー、外行きの敬語の使い方といい。

 俺にとってお手本になるような部分が沢山あった。

 そういうのを学びに来ているんだ。

 なら俺のすることは一つ、『観察』だ。


「分かりました。少し歩きますが、よろしいでしょうか?」

「こちらは問題ないですよ」


 ブルーメさんの言葉に満面の笑みでそう言う田口。

 外行きってみんなこんなもんなのか?

 少し出来すぎやしないか?

 と言うか社会人はみんなこんな感じで営業できるのか?

 すっげえな。


「ではお手数ですが。一度エントランスにてお待ちいただけないでしょうか? 外出する準備をしておきたいので」

「了解です。では、またエントランスで会いましょう」


 お、おお。

 てなわけで流れるまま会話が終わり、俺らはエントランスで待つこととなった。


「………」


 社会人は凄いなと改めて感じた。


 相手側のミスのカバー、不快にさせない会話。

 社会人経験が無さそうと思っていたのに。

 田口アムは思っていた以上に社会人をしていた。

 年齢は一応年下の筈なんだがなぁ(田口アムは20歳)。


 20代でここまで大人っぽいのも凄いと思う。

 もちろんいつもの拙者状態での田口も凄いが。

 一度スイッチが入れば真面目になるのだろう。


 歳で言ったら一つ上の俺だが、

 田口外行きverを見ていると。

 自分の無力さをこれでもかと痛感させられるな。

 俺も頑張らねばいかんらしい。

 年上の尊厳を取り戻すぞー!!

 うおーーー!


「………」


 ここまで話がトントン拍子で進んでいる。

 それからエントランスで待っていると。

 特に服装も変わっていないブルーメさんと合流。

 そして一緒に。

 サポートアイテムを壊してしまったと言う現場に向かう事となった。



――――。



 ※田口アム視点。



 ブルーメ様の案内により到着した路地裏は。

 やけにジメジメとしていた。

 何だかゴキブリが普通に住んでいそうな環境に。

 拙者は不快感を覚えるが。

 拙者は満を持して口を開く。


「ここらへんですかね?」

「……はい。一応ここらへんの筈です」


 ここらへんか。

 ふーむ、探しにくそうだな。

 日光が入らない構造の路地裏、決して広くない癖に謎に分かれ道がある感じ。

 大変な作業になりそうでやんすね。

 でもこれは仕事だ。

 相手の要望に応えるため、拙者は意を決して足を踏み出す。


「分かりました。では探し始めますね。一応、ソウタ氏も探してください」

「もちろん」


 拙者の魔眼の力を使えば簡単に見つかるかもしれないが。

 こういう場面は手分けした方が早く見つかったりする。

 一応、スマホの衛星マップを使用し場所を確認しつつ。

 拙者は右の分かれ道。

 ソウタ氏は真っすぐ路地裏を進み。

 そしてブルーメ様は左の分かれ道を進むこととなった。


 ブルーメ様曰く。

 強盗との逃走劇の最中にサポートアイテムを壊してしまったらしく。

 それに追いかけている最中だったから。

 落としたとみられる場所の目星がつけられないらしい。


 これは困ったことで、

 今日中に見つけられなければ早期修理も出来なくなってしまう。

 なんせ他の依頼で後の予定は埋まっているんだ。

 だから理想は、部品を早めに見つける事だ。

 そういう意味で手分けするのは最適解だと思った。


「では僕は行くので、そっちもそっちでよろしくお願いします」


 拙者が向かった道には。

 ゴミ袋や水たまりなどが地面にあった。

 一応『マニアック』でみてはいるけど。


 落ちているゴミをみてみる。

 でもあるのは、おもちゃのネジだった物や。

 壊れた電子レンジのつまみなど様々な物だった。


 拙者の能力『マニアック(脳内検索)』は。

 一度拙者が覚えた機械や部品を検索することが出来る能力だ。


 範囲は拙者が目で見渡せる限り全てで。

 そして物質にもよるけど物超しの情報も見ることが出来る。

 例をあげるなら、プラスチックのゴミ箱の中身にある部品はみられるけど。

 コンクリートを挟んだ奥の部品までは見えないと言った感じだ。


 マニアック(脳内検索)にヒットした部品や機械は。

 横にUIらしきものが浮かび上がり、そこに部品の詳細が記される。


――――――――#

 部品名 小ネジ

 詳細  最多玩具製作所のウサギ型目覚まし時計

     本体はなし、本体は故障している、再利用不可

――――――――#


 このように落ちている部品の詳細が。

 拙者の目にUIの情報として写ってくれるのだ。


 この能力の難点を言うなら。

『拙者の知らない物は分からない』と言う事だ。


 一度拙者が仕組みを理解したり、実物を触ったりして。

 対象の物を覚えていなければUIに何の詳細も出てこない。

 結局は拙者の頭の引き出し次第というわけでやんすが。

 どうやら歩いているだけでは。

 目的の部品が見つからないでやんすね。


「ふぅ……疲れて来た」


 それに長時間この能力を使っていると、頭のリソースが食われてしまう。

 例えるならおんぼろPCでとんでもない知識が入ったデータバンクにアクセスするように。

 あまり使いすぎると脳がパンクしてしまうのだ。


 コツコツと、拙者は路地裏を進む。


 こういう暗い場所は苦手だけど。

 こうなっては仕方がない。

 仕事だと割り切って進んではいるけれど。

 随分と奥まで進んできたから怖くなってきたと言うのが本音だ。


 あぁ~こわいぃ……。

 そうだ、ヒーローの事を考えよう。

 拙者はヒーローオタク、好きなもので平穏を保つのでやんす。


「『合金ヒーロー』インハルトは力持ち~」


 歌い始めてから3歩ほど進むと、青色のゴミ箱が見えてきた。

 中に何個か部品・機械の反応があるみたいだな。


「『狙撃ヒーロー』スナイプは視力がいい~」


 拙者はそのゴミ箱へ近づき、おもむろにフタを開け、物色を始めた。

 中を開けるとゴミが中に入っており。

 調べるために、少し嫌だったが右手を突っ込んだ。


「ひっ……『予測ヒーロー』トラジェクトは頭がいい~」


 これも違う、あれも違う……。

 ……よく考えればゴミ箱に入っている事なんてないか。

 望む部品がヒットしないことと、そういう思考の末、諦めを感じたその瞬間、

 とあるUIが拙者の目に入った。


「……これは?」


 め、珍しい。

 名前が見えないのに詳細だけ確認できる物なんて久しぶりに見た。

 そういう場合は恐らく。

『その部品の役割や機械の仕組みは理解しているが、実際にその物を触ったことがない』時に起こるバグの様な物だ。

 だからこういう部品は触ってみてみると。

 名前が出てくるはずでやんすけど。


「『重力ヒーロー』グラビトルは、街を舞う」


 手先でゴミ箱の中で探っていると目的の物を触る事が出来た。

 何か柔らかい感覚のそれを、拙者は持ち上げる。

 するとゴミの山から出てきたのは――――。


「……ぬいぐるみで、やんすか?」


 出てきたのは、デフォルメ化された象の様なぬいぐるみだった。

 本当に普通の子供が好き好んで買いそうなぬいぐるみで。

 なんの変哲もない見た目に疑問を感じる。


「おかしいでやんすね……ぬいぐるみにどうしてUIが……?」


 そう人形を握ってみると、ぬいぐるみの中に何やら重みを感じて。

 その瞬間、UIが揺れた。
















――――――――#


 部品名 人形型爆弾ドールボム

 詳細  製作者・制作会社不明

     爆発物、取扱注意、残り時間17分


――――――――#










「………は?」









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