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俺のルームメイトはスーパーヒーロー  作者: 夏城燎
第一章 新たな職場編
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第七幕 「新しい就職先 - 後編 -」


 まずこの大本サポートアイテム修理工房の主な事業は。

 『ヒーローが使用するサポートアイテムの修理である』と説明された。


 基本的にサポートアイテムの修理は。

 そのサポートアイテムを作った製作会社に問い合わせをし。

 そこで修理してもらう物なのだが。


「ここに来るのは基本的に、正規の会社にお願いする時間が無かったり、資金がない場合に限ります」


 まず前提として。

 『ヒーロー事務所』という物にも色々と種類がある。


 ここでは分かりやすくするため。

 大まかに括ろうと思うが。

 『大御所』と呼ばれる金字塔の3事務所と。

 そうでない場所で構成されている感じだ。


 警察から直々に依頼をされるレベルのヒーロー事務所が大御所だ。

 大御所は在籍しているヒーローの人数が多く、

 そして比較的に有名な人が多い。


 有名で言ったらそうだな。

 『電撃ヒーロー』ザ・エレクトロだとか。

 『魔法ヒーロー』ウィッチ・ベラトリクスだとか。

 『合金ヒーロー』インハルトだとか。

 そこらへんの名も広がった。

 グッツとか出しているヒーローがいるのが大御所だ。

 そいつらの主な仕事内容は区画的に分かれており。


 『他事務所の増援や、警察からお願いされた事件の捜査や偵察が主だ』


 この東京で大御所と呼ばれる事務所は3つ存在している。

 『ラインハルト』。

 『ハイドアンドシーク』。

 そして最近発足された『ムジーク』の三事務所だ。


 その逆である普通の事務所は、

 治安維持の為に各街をパトロールし。

 マイナーレベルのヒーローが在籍しているのが特徴だ。


 1事務所にヒーローは主に15人から30人ほどであり。

 小規模ながらもちゃんとヒーロー事務所の体裁は保っている。


 もちろんこれ以外の種類のヒーロー事務所は存在している。

 例えば『物質生成系しか入れない事務所だとか』。

 『概念操作系の能力者しか入れない特殊な事務所』もあるらしい。


 少し脱線したが。

 実質、大御所の事務所と他の事務所の違いは。

 警察に頼られるかどうかってくらいだ。

 それで判断してほしい。


 大御所の事務所はぶっちゃけ色んな所に顔が効く。

 それはサポートアイテムを製作している会社なども例外ではない。

 となると、逆に他の大手ではない事務所はどうだろうか。


 ヒーローの中には。

 サポートアイテムの存在が無きゃ能力値が下がってしまうヒーローも存在する。

 だがサポートアイテム製作会社も暇じゃない。

 それほど重要度の高くない事務所の依頼は基本後回しにされる。

 そういう場合。

 サポートアイテムの正規の修理時間が惜しかったり。

 そして何より大手の会社の修理だとお金がかかってしまう。

 (捕捉:大手は修理代が基本的に高いらしい)。


 だからうちのような修理工房へ。

 普通のヒーロー事務所は依頼してくるのだ。


「……」


 興味深い話を聞けた。

 こういう業界の裏話とか面白いよな。

 暴露系のインフルエンサーが有名になるのもわかる気がする。


「うちは基本的に、ヒーロー事務所へ出向いたり。配送で送ってもらったりで。故障したサポートアイテムを受け取り。2~3日の間に直す。それがここの業務です」


 渡された資料を見る限りおおむね同じような事が書かれているが。

 この説明にどこか手馴れている感じがあり妙に分かりやすかった。


「なるほど……中々面白そうですね」

「ほ、本当ですか?」


 そう言うと明らかにカナメさんは嬉しそうな顔をする。


 実は大本から少しはここの内情について聞いている。


 この工房、意外と新人として来る人が多いらしい。

 何故ならこの時代、機械いじりができる人間も多く。

 それにここには良く。

 ヒーローのファンも仕事先として選んでくるらしいのだが。


 しかし、

 例えヒーローのファンだとしても、

 ここの重労働にすぐやめて行ってしまう人が多いらしい。

 その話を聞いた時は一体どんなけ重労働をさせているんだと思っていたけれど、

 話を聞いてみれば理由が分かった。

 納期2、3日でサポートアイテムを修理するのだ。

 よほどの機械オタクでなければこの仕事に適応出来ないのだろう。


 色んな人がやってきて、そして辞めていく。

 今や残っているのはあの二人だけ。

 だと言う事なら。


「面白いんですけど、その分大変ですよね……オマケに修理ができるのはあの二人だけ。僕はあくまで外行き用の看板ですから」


 カナメさんは奥で作業している二人を見ながら朧げに語った。

 この人も恐らく、色々と苦労しているのだろう。

 ………。


「俺も精一杯頑張ります。これから先、よろしくお願いします」


 俺は席から立ち上がり。

 頭を下げた。


 少し昭和臭いと言われてしまうかもしれないけど。

 俺は初めて。

 こんなに壊れてほしくない場所を見つけた気がする。


 俺は不幸な人間だが。

 別にそれはどこか諦めているし、俺は無気力だ。

 でもここにいる人間は違う。

 田口アムも愛川ミキも、このカナメも。

 ここで頑張っている。

 こいつらはまだ諦めていないのだ。

 自分らしく生きることに。


 それがこの社会でどれだけ難しいか俺は知っている。


 誰かの為に誰かが傷つく世界。

 それを『悲しい世界』と人々は分かっていながら。

 実際の世界はそうなってしまっている。

 俺はそういう世界の仕組みについて。

 ネガティブな事を言って無頓着に唾を吐こうとは思わないが。

 だが、多分俺じゃなくても、他の人間は今の俺と同じ考えになるのだろう。


 自分らしく生きるために努力をしている人間を見てしまうと。

 自分を捨てた人間からしたら。

 とんでもなく大きなものを見せられていると錯覚してしまう。


 皆口呂カナメは『自分を捨てた人間』だと俺は思った。


 それと同時に、他人にある程度『尊敬』の念を抱いている人間だと感じた。


「――――」


 この男、皆口呂カナメは。

 恐らく、この工房の職員の事を一番に思っていると感じ取った。

 実際に本人から聞いた訳じゃない。

 しかし、この人の態度や視線がそう語っている。


 男は自分の為じゃなく、

 ここに居る人の為に。

 自分を捨てられる優しい人なのだ。


 捨てた人から見たときの頑張っている人は眩しすぎる。

 それに時々、心の毒にもなる。

 でもそれに素直に手を差し伸べられるのは。

 人間として出来上がっていると思うのだ。


「あ、いえ!! そんな改まらなくていいですよ。もう沢山話した仲ですし。気楽にね?」


 皆口呂カナメはそう頬を染め、頭の裏側を片手で掻き、嬉しそうに笑った。


 きっとこの先何があっても。

 この人とあの二人が悲しまないようにしたいと。

 空っぽの心で、俺は何となくそう思った。



――――。



「あ、もうそろそろ社長帰って来てますよ」


 そんなカナメの言葉から始まり。

 俺は今、3階から4階へ上る階段に足を掛けている。


 すっかり時間は昼の1時。

 どうやら話し過ぎたらしい。


 ここの感想を言うならば、活気に溢れていて楽しそうな職場だった。

 割と俺もヒーローを知っているから話もあうし。

 まぁ俺はどちらかと言うと。

 ヒーローオタクと言うか、敵側だったというか。

 まあでも。熱心に好きなものについて議論できるのは楽しそうだと感じた。


 ヒーローにもこういう超人が居て、

 こういうサポートアイテムを使っていてとか。

 色々興味深い話だったから、聞き専で居ても楽しめるのだろう。


 何だかふと。

 俺が鬼族に拾われてなきゃ。

 今頃ヒーローとかになっていたのかなとか考えたりしたけど。

 俺の性格的に難しいのは知っているから忘れよう。




 4階へ上がって来た。

 扉の向こうから明らかに人の気配を感じる。


「失礼します」


 俺はそう口に出して扉を開けた。


 室内は照明が消えていた。

 不穏と言えば不穏かもしれないけど。

 この感じはどこか身に覚えがあった気がした。

 部屋に入ると右手側には段ボールが積み上げられていた。

 部品とかそういう類の段ボールだろう。

 社長室と書かれた部屋だったのに、ここまでもダンボールが。

 片付けが全体的になっていないな。


 部屋の中央には大きなソファーが存在した。

 その向こうに大きいデスクがあった。

 なんていうんだろう。

 刑事ドラマとかである部署で並んでる机っていうか。

 磁石がくっつく素材の机?

 あれなんていうんだっけ。

 まあいっか。


 如何にもな社長室にどこか意外な感情を抱きつつ。

 俺は奥に座っていた人物と目が合った。


「相変わらず値段がおかしいですな……」


 そう語り出したのは、目の前の男だった。

 少し灰色になっている髪の毛に、釣り目が鋭い視線を送ってくる。

 ボロボロの、足まで伸びている上着が特徴的な男。

 彼こそがこの工房の代表取締役。

 『大本タツミ』だった。


「また俺の値段を見ているのか。大本」

「失敬、久方ぶりに見るあなた様の価値に、目を奪われてしまいました」


 俺は片手で飽きれたようなジェスチャーをしながら言うと。

 彼は笑いながら口元を緩ませた。


「久しぶりだな大本。老けたな」

「そんなあなた様は、また一層大人になってしまいましたね」


 大本タツミ、年齢42歳。

 身長は176センチ、お気に入りの洋服はレトロ服装。

 そんな彼と俺の関係を簡単に言うなら。

 彼は俺の元部下であり。

 同時に、


 鬼族の元工作員でもあった男だ。


「あなた様は辞めてくれないか? もう俺は幹部じゃないんだ」

「……ソウタ様?」

「様もいらない」

「ソウタくん? 中々しっくりきませんね」


 苦笑いをし、大本は椅子から立ち上がった。

 とことこと特徴的な靴の音を出しながら、俺の前に立つと。


「聞かれていた事ですが。私はもう、鬼族から足を洗ったので現在の鬼族を知りません。申し訳ないです」


 大本は90度自身の体を前に倒し、頭を下げてくれる。

 ……うーん。

 さっきもう幹部じゃないからやめてと言った気がするんだが。

 まあ、いいか。


「いや良いよ。大本がもし知っていて、俺に喋ったら。……もしかしたら、粛清対象は大本になるかもしれないし」


 粛清。

 鬼族はこれでも悪党ヴィラングループであり。それなりに厳しい。

 だから、鬼族を脱退する場合、科せられる制約が存在するのだ。


 抜けるときの制約として。

 『今後自身が鬼族であったと言う事を言いふらしてはならない』

 『今後鬼族に歯向かう事を禁じる』

 『鬼族に関する情報を漏洩させた場合、即刻処分』と三つがある。


 今回の場合は一番最後の、情報を言った場合処分と言う部分だ。

 処分=粛清。

 即ち、殺される。


「……まさかソウタくんは、鬼族に歯向かおうとしているのですか?」


 大本は頭を上げ、疑問を口ずさんだ。


「ああ。もちろんだ」

「……なるほど、私は、まあ、止めません」

「ほお、止めないのか?」


 基本的に止めてくるのが普通の鬼族の構成員だ。

 あんな組織でも仲間意識は存在していた。

 それはこの大本を見ていれば分かる事だ。

 あの組織は、歯向かったら死。

 そんな場所でもあったが。

 ある一定の変人にとっては、居心地のいい場所となっていた。

 だから基本的に仲間を救うという思考になり、裏切りを止めようとするのだ。

 が、


「私はもう鬼族ではありません。今、鬼族に対し別に恨みもないし、私が加担した犯罪が許されるものではないとしても構いません」

「覚悟が決まっているんだな」

「警察にバレた場合は潔く罪を認め。死刑台にでも出向きましょう。もしその先で鬼族に粛清されるなら。それもまた運命なんでしょう」


 まるで自分の人生に執着がないような言い草だった。

 昔の俺なら別に何とも思わないんだろうけど。

 今の俺には、その言葉は聞き捨てられない物だった。


「この工房はどうするんだ?」


 この工房。

 ここで働いている人間。

 皆口呂カナメ、愛川ミキ、田口アムはどうなるのだろうか。

 元鬼族の下で働いていたからこいつらもまさか……。

 なんて理不尽な世間の当たりも。

 ここ最近では珍しくないのに。


「……さあ、私が居なくなったらどうなるのやら」

「………」


 こいつも大概、無責任だな。

 こういう所に鬼族に適性があったのかもしれない。

 まあただ。俺はそうは思わないけどね。


「この工房は大事にするべきだよ大本。あんなに良い人が集まるのは、珍しい」


 俺は背中を彼に向けそう告げる。

 すると沈黙の後、彼ははっと笑った。


「……やはりそうでしょうか。あまり物や人に執着したくないのですが」

「もう鬼族じゃないんだろ。好きに、自分をさらけ出すといい」


 彼も俺も鬼族を辞めて3年が経過した。

 でも彼はきっと、まだ色々抜け切れていないのだろう。

 そればかりは仕方がないと俺は思う。

 俺もまだ抜けていない部分がある。

 と言うか、抜ける抜けないの話じゃない。

 どうあがいても、『残る物』がある。


 今日はもともと、ここに来て挨拶をするだけの予定だ。

 本格的に業務をするのは明日から。

 だから俺はもうそろそろ、時間的に帰ろうと扉に向かった。

 でも、その前に。


「これからよろしく。紹介してくれてありがとうな」


 そう俺が頭を下げると。

 彼、大本タツミは、今まで見た事がない声色で言葉を紡いだ。


「よろしくお願いします。あの子達とも、仲良くしてやってください」


 自分を捨てた人生はどこか悲しいのかもしれない。

 だが時には、捨てなければやっていけない時だって存在する。

 でも俺は。思うんだ。


 ――人は、他人無しでは生きていけない。と。



――――。



 工房を後にし、俺は地面を歩く。

 懐から取り出した煙草を咥えながら、火をつけて。

 灰色の煙を吐き出した。


「今だけ不幸じゃなければいいな」


 呟き、俺は空を見上げる。


 人は、他人無しでは生きていけない。

 そう初めて理解したとき。

 俺は初めて、綺麗な仮面を被った。





 頑張ろう、竹内ソウタ。





 俺のルームメイトはスーパーヒーロー。


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