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俺のルームメイトはスーパーヒーロー  作者: 夏城燎
第一章 新たな職場編
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第六幕 「新しい就職先 - 前編 -」



 考えてみれば。

 悲しい事に、俺の人生において『まともな労働をする』。

 と言う事はあまりなかったような気がする。


 まあここ最近は労働しようとしても。

 基本理不尽な理由で解雇されるか。

 会社がつぶれるかのどっちかだったし。

 大袈裟かもしれないが、一カ月続いた会社なんてないと思う。


 でもそういう心配事とかより。

 この感覚はまた違う気がした。


 改めて全貌を見て、俺は心臓の鼓動が早くなるのを感じる。


 天気は晴れ、時刻は朝の10時。

 街から外れた場所にあるこの仕事場なんだが。


 今まで広告代理店やデパートの従業員。

 あまり人が出入りしないような場所の見回りをしてきた俺だが。

 こんな場所の工場で働くのは。

 本当に初めてで、どこか胸の内が興奮していた。

 それこそ不安も含まれているが。未知への好奇心というのか。

 そういうのがあった。


 その建物はザラザラとした石のような建材だった。

 建物の奥には、多摩川が見え。

 開放的に感じるその空間に、ぽつんと建った建築物。

 数えたかぎり4階はありそうだ。

 そして2階から3階の間の壁に。

 大きな白い看板が、これまた堂々と掲げられていた。



『―― 大本サポートアイテム修理工房 ――』



「あ、すみません。もう事務所の方は開いてないんですね」

「えっ」


 俺がその建物の前で茫然としていると。

 いきなり横から話しかけられて。

 俺は視線をそこへ流した。

 そこには、ネクタイを締め。

 両手にいっぱい物が入ったレジ袋を掴んでいる青年がいて。

 少し申し訳ない笑みを浮かべてくる。


「受付はネット予約か、早朝7時から早朝9時の間の事務所受付のみになっております。真に申し訳ありませんが」

「あ、すみません。えっと、ここで今日から働くことになっている者なんですが」

「えっ。あっ! すみません!! 何というか、出で立ちが顧客に見えたので」


 あぁ、そうなのか?

 割とスーツって当たり前だと思っていたんだが。

 ……そう言えば、別にスーツとかじゃなくてもいいって言われたな。

 いちおう社会常識的にスーツの方がウケが良いかなって思ったんだが。

 そういうデメリットがあったか。

 盲点だった。


 彼の見た目は印象的だった。

 ズレのないネクタイにスーツ。

 容姿も結構整っており。

 イケメンと言えばイケメンだ。

 でもモテそうかと言われるとそうではなく。

 ルックスは持ち合わせているが、雰囲気はとても落ち着いているようにみえる。

 落ち着きがある大学生。って感じだろうか。

 大学生なのかはさておき。


「……えっと、ここの方ですかね?」


 俺は恐る恐るそう聞くと、彼は顔を変え俺に視点を合わせ。


「はい!! 僕は皆口呂みなぐちろカナメと言います。あなたが話にあった?」

「そうです! 大本さんと知り合いで、今日からここで働かせていただけると聞いたのですが」


 あぁ、よかったぁ。

 いつになっても初めての人と会話するのは少し緊張する。

 彼が俺の事を聞いていてくれて良かった。

 ほらさ? なんかあるじゃん。

 何かの手違いで俺の事が会社に行き届いてなかっただとか。

 怖いじゃん。ね?


「それなら今からここを案内しますね!! もしよければ、お名前を聞いてもいいですか?」


 皆口呂みなぐちろカナメと名乗る人物は。

 そう礼儀正しく伺ってくる。

 そんな彼に、俺は名乗る。


「竹内ソウタと言います。よろしくお願いします。皆口呂さん」

「カナメで大丈夫ですよ、ソウタさん」


 丁寧な対応。

 落ち着いた態度で彼はお辞儀をする。

 これが社会人と言う物なのだろうか。

 緊張してしまうけど、彼はまだ話しやすい雰囲気をまとっていた。


 ふと思った事なんだが。

 この皆口呂カナメと言う人物は、女性人気が高そうじゃないか?

 初対面の人に失礼だろうが。

 物腰柔らかな美形って何だかいいオーラをまとっているし。

 彼女とかいるのだろうか?

 あぁ、そこまでいくと流石に気持ち悪いか。





 こうして俺はついに、大本サポートアイテム修理工房へ足を踏み入れた。



――――。



「1階はお客様をお通しする客間です。

 まあ基本的には僕が相手方へ出向くことが多いのですが、ここでも時々お客様がいらっしゃいます」


「2階は物置です。作業員の作業はこの上で、社長室は4階にいらっしゃいます」


「ここ3階は作業場です。

 いつもここで依頼されたサポートアイテムなどの修理を行っており。

 基本的な通常業務はここで行います」


 1、2、3と上がってきて。

 何となく気が付いたことがあった。


 ここは思っていたより広くないらしく。

 どこも手狭なイメージだと言う事だ。

 案外小さな会社という感じなのだろう。


 と思うと何だか安心するな。

 今まで大きな会社に入ればビルが大体60パーくらい壊れていたから。

 ここは派手に壊れなさそう。と。


「……なんて俺は不謹慎な男なのだろう」

「どうされましたか?」

「あいや、こっちの話です」

「あら、了解です」


 俺は3階の部屋を見渡した。


 天井が思っていたより低い。

 そう言えば4階建ての細長い建物の癖に、あんまり背丈は高くなかったな。

 でもこういう狭い部屋ってなんかいいよな。

 少しでも背の大きい人が来たら頭をぶつけそうな。

 あ、決して俺が低身長と言っている訳ではなくだな?


 一般住宅みたいな白い壁に。

 似合わない大きな棚が並んでおり。

 棚がない一部の壁には。

 多種多様の工具が壁にぶら下がっていた。

 見れば見るほど見劣りしない重々しい機械が二、三台部屋の端に鎮座しており。


 その前方の椅子で。

 俺とカナメさん以外に『2人の人物』が作業をしているようだった。


 どうやら他にも作業員がいるらしい。

 いやまあそうか。

 サポートアイテムの修理工房なんだから人が他にも居ないと回らないだろう。

 きっとこんな、カナメさんのような生真面目な人が沢山……。


「ムム、ミキ殿や。それは少々早計ではありませぬか?」


 俺のフラグにいち早く反応するように。

 奥でどこか鼻の付く声が響いた。


 ……同時に、眼鏡をクイッと持ち上げる擬音が聞こえた気がする。


「どこが早計よアムくん!! これを見れば一目瞭然でしょ?」


 それに応対するように、愛らしい声色の言葉が響く。

 俺が視線を巡らせその声の方へ意識を向けると。


 そこにはピンクの服を来た女性と。

 眼鏡をし出っ歯を光らせる青年の二人組が。

 必死な顔をしながら討論していた。


「いやはや……ミキ殿は分かっていないようですなぁ。

 あのヒーロー『スクリーンショット』が本当にこんなサポテムを使うと?」


 変な用語が出ていたな。サポテム?


「……サポテムは『サポートアイテム』の略です」

「あぁ、なるほど」


 眼鏡の男が自信満々に喋ると同時に。

 俺の横に居るカナメさんから解説が入る。


「『スクリーンショット』はサクノクです!!

 脳内に保存した画像を印刷するのに。

 こういう機構のサポテムを使っていても不自然じゃない筈ですが!!

 それかこれの上位互換、機能面でも新しくそれも高性能な物が存在するとでも言うの?」


 負けず劣らず女性は食い気味で噛みついていた。

 結構白熱している。


「……サクノクは、『索敵能力』の略です」

「は……はあ」


 高度な会話なのか?

 知らない単語が並んでいるからちとついていけない。

 てか、『索敵能力』で頭文字のサクはまだ分かるが。

 能力からノクだけを取るのはどういう意味なんだろうか?

 『のうりょく』のそんな中途半端な部分をどうしてとったんだ……?


「ノンノン。もちろんあのスクリーンショットならば――」

「ッんん」


 その討論に終わりを齎すように、俺の横に立っていたカナメは喉を強く鳴らした。

 すると二人の口は止まり。

 ゆっくりと視線がこっちに向いて。


「あ、カナメさん。お疲れ様でやんす。あ~……」

「エナドリ買ってくれましたか? もう私、眠くって仕方ないんですが……!」


 眼鏡の男がカナメの空気を何かしら感じ取ったのか。

 遅れて申し訳なさそうにする。

 しかしもう一人の女性は何も察さず。

 そうカナメの手に握られたレジ袋に視線を移した。


「田口アムさん、愛川ミキさん」

「え、はい」


 二人の名前? を呟き。

 カナメは鋭い視線を二人に向ける。


 数秒後、カナメは片手で顔を抑え。


「新人さんの前で恥ずかしい事をしないでください」


 言いながらカナメさんは下に俯き、恥ずかしそうに頬を染める。


「………」


 やっと気が付いた女性は、俺と目が合う。

 互いの事をなんも知らないが、その一瞬、すごく気まずい空気により。

 目と目が磁石の様にひきつけ合って。

 そして。


「す、すみません……」


 女性は瞬時に、やってしまったと言う顔になった。

 青い顔を見せながら、俺に頭を下げる。

 眠気で頭が回っていなかったのだろうか。

 まぁ真偽は不確かだが。


「………」


 何だろうこの空気。

 俺。

 何か申し訳ない事をしているような感覚だ。

 いや、違う。

 故意ではないとは言え。

 俺は今一つやらかしたんだ。


 そうだ。

 かといって謝るのか?

 でもなんかそれも違うかぁ。

 でも、今この状況ってよくないよな?

 ………………。

 言う事は一つか。



「……あ、頭を上げてください!!」



――――。



 と、とにかく。

 この二人がここで働いている従業員。

 そして、俺の仕事仲間になる人達であった。


 ちなみにだが。

 俺はここの社長『大本』と働くか働かないかと言う相談の際。

 特に何も考えないまま、『働きます』と意気揚々と答えてしまっている。


 分かりにくかったかもしれないから。

 分かりやすく結論だけ言うと。

 俺はもうここの作業員として正式に迎えられることが確定しているのだ。

 いわゆる拒否権がないということ。

 行使する前に拒否権を放棄したのは俺だがな。


 俺は席について、3人に囲まれながら自己紹介を聞く事になった。


愛川あいかわミキと言います。ここの従業員で、主に格納ガジェットやヒーローのサポーターを直しています」


 淡いピンクの服に長いスカートを履いた彼女は。

 自らの事を『愛川ミキ』と自己紹介した。


 なんて女性らしい名前なのだろうと言う感想が出て来た。

 実になんの捻りもない平凡な感想なのは重々承知だが。

 どう捻ってもこんな感想しか出ないのだ。

 彼女は女性らしい女性。

 そしてどこか落ち着いたような感じだった。

 先ほどと比べたら随分スンッとしている。

 やはり眠気に駆られていたのだろうか。


田口たぐちアムと言うでやんす。拙者は基本オールマイティ。拙者に備えられた『魔眼』を使えばどんな機械でも丸わかりでやんすよ」


 シマシマの囚人服のような柄のシャツ。

 黒い長ズボンを履いていた。

 そんな出っ歯の彼は、『田口アム』と自己紹介をする。

 何というのだろうか。見た目から漂うこの感覚は……。

 どこか昔のミノルと似ている? ような気もする。

 それに……。


「触れてもいいのか分からないのですが。魔眼とは何です?」

「イエス! 拙者のこの能力『マニアック』はどんな機械でも一目見ただけで全てを理解できる優れものなのです」


 なるほど。

 つまり彼は『能力者』ということだろうか。

 それで、自分の能力の事を『魔眼』と呼称している。

 ……こういうの中二病って言うんだっけ。

 面白い人間もいるもんだな。

 この世界には。


 この世界に超能力に覚醒した人。

 即ち『超人』が結構な人数存在している。


 それはいつどのタイミングで覚醒するかも分からない。

 もしかしたらいきなり爆発の能力が覚醒し、自らの身を滅ぼすかもしれない。

 そういう世の中なのだ。

 現状、能力の覚醒条件は分かっていないのは前に説明したが。

 その理不尽さは割と酷い。


 人口の、どのくらいだろうか。

 でも、能力者は全国の人口をみれば、まだまだ少ないはずだ。

 年々増えているとは聞くが、能力を持つ者はそう頻繁に急増していない。

 しかし、この職場には少なからず。

 能力を持っている人間が居る。

 これは気になるな……。


「もしかしてミキさんも超人だったりするんです?」


 突然のミキさん呼びはあまり良くなかったかもしれない。

 彼女は慌てたように頬を染め、両手を勢いよく振りながら。


「え、いえいえ!! 私はそんな存在じゃないですよ。無能力です」


 なるほど、この人は無能力と。


「ちなみに僕も無能力なんですよ?」

「あ、カナメさんもなんですね」


 先ほどまで恥ずかしそうにしていたカナメさんは。

 既に普通の調子に戻っていそうだった。

 さっきのはあれかな。

 例えるなら身内が友達の前で粗相をしているような。

 そんな恥ずかしさなのだろうか。

 俺は身内がいないからか、

 あんまり想像は出来ないが。


 それで、整理すると。

 皆口呂カナメと愛川ミキは無能力。

 そして田口アムと、あと大本も能力者ということだ。


 この会社の社長である大本は『能力者』だ。

 これは古い友人の俺だから知っている。

 大本がここの人に自身が能力持ち事である事を言っているかは知らないが。

 ま、気にしなくてもいいだろう。


 おおかた話を聞いたところで。

 その場にいる人間の目線が俺に注がれる。

 どうやら相手の自己紹介は終わったようだ。

 ってなると俺か。


「じゃあ俺の自己紹介をしますね。俺は竹内ソウタ。21歳。ガジェット弄りは趣味程度でやってて、なので教えて貰えれば伸びしろはあるかと」

「趣味でガジェット弄りか!! 君は素晴らしい趣味を持っているね」


 眼鏡をクイッとし田口さんは相槌を打った。


 無難な自己紹介をしているか不安だ。

 こういうのは第一印象が大切だと相場が決まっているので。

 あまり気合を入れないようにしたのだが。

 簡潔とし、俺がどういう人間か分かってくれればいいけど。


「ここに来た理由は、大本さんと昔からの知り合いで。ここを紹介されて」

「21歳で大本さんと知り合いと言う事は、幼い頃に?」


 愛川ミキさんは右手を顎に当て考えるように聞いてくる。


「まあそういう感じですね」


 実際間違いではないし良いだろう。

 俺と大本との関係は少し歪で難しいが。

 当時の年齢を考えたら俺は未成年だった訳だし。


「ソウタさんと社長はどういう関係だったんです?」


 カナメさんはそう興味津々そうに身を乗り出し聞いてくる。

 そんな気になる! て目をされてもね。

 ……ここからが演技だな。


「……ごめんなさい。実はあまり人に言えるような関係でもないんです」

「と言うと?」

「あまり話さなかった。と言うか。実はあまり彼と親しい仲では無かったんです。俺が一方的に覚えてて、彼からしたら多分」


 ここで俺は言葉を切る。

 すると三人は少し察したような表情を浮かべたまま静止した。

 こういう話をするのは向いていないんだがな。

 演技力もあまりある方ではないと自覚しているし。

 これで正しく認識してくれればオールオーケー何だが。


「――――」


 気まずい空気が流れ始めた。

 まあそうだよな。

 あまり感動のない、面白くない話をしてしまったから仕方がない。


「――――っ!」


 沈黙を破るように、

 三人の中でいち早く椅子から立ち上がった人物が居た。


「ま! ここで今日から働くなら、ここからですよソウタさん!!」


 そう握り拳を作りグッとする愛川さん。

 彼女は人に気遣う事が出来る人間なのか。

 覚えておこう。

 自慢ではないが、人の長所探しは俺の趣味だ。


「……そうですね。ありがとうございます」

「ところでソウタ氏」


 ソウタ氏?

 何だか親しみがある呼び方だな。

 わりと好きかも。


「ソウタ氏が趣味としているガジェット弄り。その作品とか見てもいいでやんすか?」


 話は変わり。田口アムはそう聞いてくる。

 雰囲気が一転し、どこかみんなに熱が入っていった。


「ああ、ならこの――」


 俺は持参した物を持ち歩いていた手提げから取り出した。


 初日で少し不安だったけど。

 ここの人はどれもいい人そうだった。

 そこから数分はガジェット系の話をした。

 しかし、数分話した所で仕事をしなきゃいけないと言う事で。

 田口と愛川さんは仕事へ戻っていった。




 俺とカナメさんは残った席で、

 『大本サポートアイテム修理工房』について簡単な説明をしてもらう事になった。

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