第五幕 「ねえ、見てみて!!」
※竹内ソウタ視点。
休日にこの公園へ来るのは最近のルーティンだ。
つい最近新設されたこの公園では。
散歩するには十分な広さの公園であり。
昼間から可愛らしい子供がボールで遊んでいる。
開放的であり、都会のくせに何だか空気がおいしいこの公園は。
鬱屈としている俺のメンタルには優しかった。
考えてもみれば最近はまた不幸が立て続けに起きていた。
このくらいの安らぎは、あってもいいだろ。
子供たちがワイワイとしているのを俺は見ながら。
先ほど買ったサンドイッチを頬張る。
うん、美味しい。
そして安らかだ。
「そう言えばソウタ」
なんて言葉が横耳に聞こえた。
「やっと新しい就職先を見つけたんだって?」
「ああ、今回はツテだがな。もう普通の会社に就職は難しいだろうし」
茶髪の彼、崖土ミノルは心配そうに聞いてくる。
就職先が見つかるだけで安心する部分がある。
もちろんまた不運に見舞われすぐ退職するかもしれないが。
一時期の安堵はちゃんと感じるのだ。
ここまでくると普通の会社に付くのも難しくなってきた頃だし。
今度の職場は昔の人脈に頼ってしまったが。
長続きすることを祈るしかない。
「………」
しかし考えてもみれば。
ミノルが休日なのも珍しいな。
「お前は何を買ってきたんだ? 俺はこの野菜とチーズと辛子のサンドイッチ」
「さっきあそこのお店で売ってた、カップサラダだよ」
「ここに来て野菜か? ぶれないなお前も」
「いいじゃん。好きな物を食べたり娯楽を嗜むのが休日なんだから」
「ま、それもそうだな。俺も野菜スティックとか好きだよ」
「ん。ありがと~」
ベンチに座り。
昼間の太陽を肌で感じる。
出来る限り全身を脱力させながら。
自然に包まれたこの公園で背筋を伸ばした。
普段俺に隠れながらヒーロー活動をしている彼だが。
ちゃんと休みと言う物があるらしい。
令和後期のヒーロービジネスは中々にブラックだったらしいけど、
この『超世』になってからはヒーローにもある程度の自由が与えられた。
昔のヒーロービジネスは中々悲惨であり。
休日無しは当たり前、もちろん残業もあった。
まずまず考えれば、ヒーロー活動なんて慈善事業のようなものだし。
それをビジネスとして展開しようとしたら、まあそうなる。
それに。
当時のそのシステムのお陰で。
今の平和さがあると言っても過言じゃない。
当時のヒーローはたまったもんじゃないだろうが。
平和な時代にヒーローしているミノルはまだ恵まれている方だと。
俺は肌で実感できる。
「最近仕事はどうだ? 書類仕事も慣れて来たのか?」
「ああ、まあね。最初は中々難しかったけど。今はもう慣れて来たよ」
ま、俺はお前が書類仕事していないのを知っているんだがな。
お前がしているのは積み上げられた書類を捌く仕事ではなく。
空を飛びながら市民を助けるのが仕事だ。
別に意地悪をしているつもりはないけど。
知った上で軽く嘘を付くミノルを見るのは。
どこか優越感を得る。
我ながら悪い感情だと理解している。
ははは。
「逆に聞くけど、最近ソウタはどうなのよ」
「どうって。お前も知っているだろ?」
そりゃミノルは当事者だったもんな。
会社倒産の。
あ、会社倒散の。
「そういう話じゃないよ。僕は聞きたいのは、こう、精神的な話で……」
「あー。まぁ大丈夫なんじゃね? もう慣れたよ。この体質にも」
「ソウタだけが苦労するのも流石に見てられないよ。なんでそんなソウタだけに不幸が集中するのかな」
ミノルは真剣な顔をしながら視線を下げる。
そんな悲しい顔をしないでほしい。
俺だってこの体質にはまだ慣れない。
でも、俺からしたら。
この公園で黄昏る時間が、とても新鮮で心地がいいのだ。
「さあな、俺も知りたい所だよ」
再度全身で脱力。思考を放棄するように俺は瞳を閉じた。
「ん?」
するといきなり。
足元を軽く蹴られたような感覚が走った。
「あ」
飛び出るように言葉が出た。
ミノルの声だ。
俺は瞳を開け、ゆっくりと体を起こす。
ベンチの背もたれに寝転がるように座っていたから。
起き上がるのに時間が掛かったが。
「あ……おこしちゃった」
起き上がり。
視線を下に向けると。
そこには俺の両足。
はたまた股間の下から小さな男の子らしき頭が出て来た。
表現に他意はないぞ。
「どうした子供、俺に何か用か?」
「ち、ちがう。ボールがこっちにとんじゃって、おじさんの足にあたったから」
ナチュラルにおじさんって呼ばれた。
俺まだ21歳ですけど。
「なるほど?」
「おじさん、ねてたなら、えっと、ごめんなさい」
オドオドと目元に涙を溜める男の子。
別に怒っている態度を取っている訳でもないんだけどな。
俺がでかいからか?
子供は自分より何倍も大きい物を怖がると言うし。
「別に寝てなかったら大丈夫だよ。だろ? ミノル」
そう会話のバトンをミノルに繋ぐ。
すると、子供は涙を溜めた目をミノルに向ける。
その顔を見てミノルは困ったような顔をするが。
そこは本業らしく。
「このおじさんはね、怠惰を謳歌していただけだから大丈夫だよ」
そう張り付けたような笑顔をしながらミノルは言った。
流れるように嘘を吹き込むな。
お前別に子供苦手でもないだろ。
「言い方あるだろ言い方、今の子供に怠惰が伝わるわけないんだから」
「おじさん、めんどくさがりなんだ」
「あれぇ?」
これは不味い。
俺の子供達からのイメージが、怠惰で自堕落なおじさんとなってしまう。
汚名返上しなければ。
「……子供よ、一つここでゲームをしないか?」
「ん?」
「ソウタ?」
俺の唐突の提案に。
子供は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする。
そんな様子を見て、ミノルはどこか不安そうに俺の名前を呼ぶ。
「君はまず友達はいるのかね?」
「うん。ともだちとあそんでて」
「何してたんだい?」
「ドッチボール……?」
「なるほど、ではおじさんをその仲間に入れたまえ」
そう言った時、子供は嬉しそうな顔をし。
ミノルには小さなため息をつかれてしまった。
――――。
※崖土ミノル視点。
いきなりの宣言。
ただ自分の株が下がるからとかいう理由で。
竹内ソウタは子供と一緒にドッチボールを始めた。
「………」
僕はその様子をベンチから見ていた。
傍から見ればそれはダサイ大人であった。
子供からの評価を下げたくない一心で。
子供相手に本気になる。
いわゆる子供な大人に見える。
実際先ほど通りがかった大学生らしき人達に、ソウタは鼻で笑われた。
でも、それは違った。
ソウタは今、数人の子供とドッチボールをしているのだが。
「アイタアア!!」
「おじさん弱いね!! あはは」
大人 VS 子供のドッチボールは現在。
子供側の3連勝で進んでいる。
「ふふっ」
ソウタは手加減をしているのだ。
その光景はまるで子供と遊んであげているスーツ姿の社会人。
微笑ましい光景と言えばそう見える。
実際子供たちはとても楽しそうだ。
「ぐはーーーー!!」
がははと笑いながら、大袈裟に崩れ落ちるソウタ。
滑稽なのかどうなのか。
ソウタは恐らく自分の株が下がる事を危惧していると建前を作っているが。
……もちろんそれも少しはあるのだろうけど。
本当は。
泣かせてしまった男の子に。
お詫びをしたかったんだと、僕は思う。
「……優しいな」
竹内ソウタは優しいのだ。
彼がどんな不幸を背負っていても。
彼が太陽の様な人物だから。
彼の背中には人が付いてくる。
僕の大事な親友である彼は。
お酒が大好きで、優しくって、でも不幸な人間。
不幸。
不幸か。
「――――」
無意識に、拳に力が籠る。
現状に不満しかない僕は、今を変えたいと明確に思っている。
当の本人はそんな気はないのかもしれないけど。
でも僕には、思えてしまうのだ。
彼には何か、隠していることがあると。
きっと予測だと。
我慢しているんだと思う。
自分が不幸で、自分が原因で周りに迷惑をかけているのを。
……きっと。
彼も平和を望んでいると。
もしかしたらそれは違うのかもしれない。
3年前、忽然と姿を現した彼は。
どんな人間なのかまだ僕でも分かっていない。
彼に裏の姿があるのかもしれない。
彼に、そういう過去があるのかもしれない。
でもいいんだ。
例えどんな人間だったとしても。
僕からしたら今のソウタが竹内ソウタだから。
だから僕、グラビトルは。
この超人社会から“不幸”を失くすんだ。
――――。
※竹内ソウタ視点。
「サラダは食い終わったか?」
そう質問をすると、ベンチに座っていた茶髪の男は笑顔で答える。
「随分前にね。今は2個目のアボカドサラダに」
「流石の食いしん坊だな。そっちのけで遊んですまなかったな」
いいつつ、俺はミノルの横に座った。
子供と遊んだのは時間的には30分くらいだ。
あまり長いとミノルに悪いなと思い。
切り上げてきた。
子供たちは楽しそうで何よりだった。
こうも手玉に取られるのも初めてだった。
我ながら上手い演技だと自画自賛してみるが。
考えてみると得られたものは何もなかったのでやめだ。
完全に予定外のイベントだった。
だが思い切りの行動にしてはそこそこ楽しかったような気がする。
子供も案外捨てがたいな。
「さっきの子たちはもういいの?」
「時間も時間だ。昼ご飯を食いに家に帰るらしい」
「そっか、世間一般ではそういう時間なんだね」
「大人になるとそーいうの無くなるよなー」
この時間になると子供は家に帰る。飯の時間だからだ。
俺達大人はと言うと……。
朝、酒、昼、酒、夜、酒。
なんて生活もしたことがあったっけか。
大人になるってのは解放されると共に、何かを忘れるもんだ。
俺は忘れないように生きていきたいぜ。
「ミノルは遊ばなくて良かったのかよ」
俺がそう冗談めかしく言うと、案外ミノルは表情を曇らせた。
「僕はいいよ別に」
「ストレスとか溜まってないの?」
「え、うーん」
ミノルは困ったように唸り声をあげる。
「案外スッキリするぜ、ボール当てられるのも、ボール思いっきり投げるのも」
「そうなのかな? じゃあ今度機会があったらやってみるよ」
「多分次の休日もここにいるんじゃねぇか? だからさ、次の休日こそ――」
「――おじさーーん!!」
一つ、聞こえて来た声があった。
鳥が囀り、木々が風に流され聞き心地のいい音を出している。
広い公園の特権である。
植えられた大きい木は。
どこか街の色を根本的に変えている気がした。
その木はビルの日陰になっていた。
木から顔を出した人影は、先ほどの男の子だった。
満面の笑み、子供らしい笑顔で走り寄ってくる。
「どうした!?」
「さっきね!!」
【―― 時刻 11時59分41秒 ――】
子供は走りながら必死に叫び。
何かを伝えようとする。
咄嗟に俺は、そんな走りながら喋っていると足元を取られると思い。
「あんま走るな!! 転ぶぞ!!」
「さっきね!! かえろうとしたら!! 赤色でにほんツノをはやした、かっこいいお面をした人に!!」
……は?
【―― 時刻 11時59分53秒 ――】
「ソウタ?」
「……まずい」
俺は出来るだけ全力で走り出した。
公園には他の子供は居なかった。
静まり返っていたと思う。
静寂は、昼の公園に似合わない。
もっと、ほんとうなら。
「おまえ!!」
【―― 時刻 11時59分56秒 ――】
子供の走る勢いは止まらなかった。
でも、俺が走り出してもなお、俺とあの子の距離は縮まっている様に感じなかった。
そして同時に、何故だか分からないけど。
俺が子供向けて走れば走るほど、近づくほど、子供に違和感を感じた。
どうして両手を後ろで隠している?
どうしてそんなワクワクしたような顔をしている。
どうして、
「――この人形をもらったんだ!!」
【―― 時刻 11時59分58秒 ――】
「ねえ、見てみて!!」
満面の笑みで、きっと、俺の喜ぶ顔を想像していたのだろう。
子供らしいとため息を零したくなる。
静寂がおかしいと気づけなかった俺はアホだ。
使えないアホ、大バカだ。
【―― 時刻 11時59分59秒 ――】
「あっ――」
「その人形を捨てろ――ッ!!」
腹から叫んだけど。
もう遅かった。
子供はやはり走る勢いに耐え切れず。
ふわっと体を浮かせ。
勢いよく顔を地面に激突させる軌道に入った所で。
――赤、あか、アカ。
一色。
「――――ッ!!」
駆け上がる激痛に苛まれ。
俺は衝撃波に抗えず。
後方に吹っ飛ばされた。
【―― 時刻 12時00分13秒 ――】
轟音が都心で鳴り響き。
地震のような揺れが観測され。
公園の中心でドス黒い煙が木々を転々としていた。
登る黒煙が目に入ってきて。
五感が全て奪われたような感覚が全身にあり。
徐々に戻っていく五感と共に気が付いたのは、
どこか、耳が嫌な痛さを放っている事だった。
――――。
【東京都 公園無差別爆破事件】
浅草 2件 死傷者9。
丸の内 1件 死傷者1。
渋谷 3件 死傷者14。
新宿 2件 死傷者4。
お台場 1件 死傷者0。
池袋 2件 死傷者5。
以降、確認次第、追記。
爆発物については今後も調査。
人形に偽装された危険物に対する警戒を高める。
負傷者や目撃者のケアなどは医療組織へ引継ぎ。
市民へ公園などに放置された。
子供が触りそうなおもちゃなどの危険性を発信。
犯人グループは未だ不明。
現場の多さと爆弾の技術、そして目撃情報から。
組織的犯行であると思われる。
周辺の聞き込みや監視カメラの映像から。
鬼の様な仮面を被った人物を複数確認。
そのため現時点では、悪党組織『鬼族』が犯人として一番有力とされている。
いまだ情報が少ない為、断定は不可能。
以上。
――――。
改めて思うのは、俺は、人間じゃないと言う事だ。
考えてもみれば分かる。
抜けたからと言って俺は無実の無色で、純粋無垢な白色にはなれない。
決して落とせないシミに生涯永遠に苦しめられるのだ。
あの日、登る黒煙を見ながら、絶望したあの日。
あの日、拾われて、暗すぎる闇に踏み入れたあの日。
その色濃い黒い物は。シミとなって俺の服を汚す。
人間は服だ。
白い服に色んな柄が加わり。色んな色が加わり。こうして人間は生まれる。
でもその服を黒く染めてしまう人が居る。
もちろん黒が悪い訳じゃない。
でも。問題は、
その黒は他人を自分色で染め上げる事だ。
悪が悪な理由は意外と簡単で、正義がいるから。
正義が正義な理由は意外と簡単で、悪がいるから。
簡単な名前を付け選別されているが。
本質はただの思想の押し付け合い。
“押し付ける善意”と言う奴だ。
改めて思うのは、俺は、もう人間じゃないと言う事だ。
“酒吞童子”の俺は。
もう染まりきった。真っ黒く塗りつぶされた。
――怪物だ。
――――。
※崖土ミノル視点。
「ソウタくんは大丈夫そうかい、グラビトル」
「……何とも言えません」
ヒーロー事務所ラインハルトで、僕はインハルトさんに深刻そうに聞かれた。
わざわざ僕のデスクに来てくれるなんて。
それにやはりインハルトさんの情報は早いなと感心しつつ。
僕はカレンダーを見つめる。
今日、9月21日より3日前。
ここ東京にて、最悪な事件が起こった。
無差別に放置された爆弾は。
人を殺したり火災を起こす程の威力があり。
悪質なのは、それぞれ人畜無害そうな見た目に細工されていたことだ。
人々から警戒心をほぼ無くすことに特化した最悪の兵器が。
この東京でばら撒かれたのだ。
時刻12時に合わせ爆発する様に設定されていた爆弾は各地で時間通り爆破、
多数の火災、大勢の死傷者を出した。
呼称「人形型爆弾」は、3日前の休日。
僕らの目の前の子供の命を奪った。
ヒーローとしてやるせなさは、もちろんある。
だがここで僕は自分の曖昧さを許してほしいと思う。
僕は率直に言うと。
親友が心配だ。
「考えうる限り最悪な手段で事を始めたね」
「………」
インハルトさんは苦しそうに呟く。
一応、一般的には犯人は未だ不明と言う事になっているが。
正直僕は時間の問題だと思っている。
「無差別テロはこれまで何度もやってきていましたが、初めてじゃないですか、ここまで大規模なのも」
「鬼族の中で一体何が起こっているのか、気になる所だね」
僕の背もたれにインハルトさんは触れながら。
問題しかないこの先の未来に溜息を吐く。
鬼族は、親の仇だ。
もちろん僕は鬼族を潰したい、復讐したいと思っている。
……思っていた。
が正解かもしれない。
だって、あんな親友の姿を見てしまったんだ。
復讐を一瞬でも忘れてしまうくらいの衝撃を受けた。
子供が黒い煙に巻かれた時。
親友、竹内ソウタは、絶叫しなかった。
『――――』
僕の中のイメージでは、ソウタは泣き叫んでしまうと勝手に思っていた。
だが現実は違った。
とても冷めた顔をしていたと思う。
もちろんそれはソウタが子供の死に何も感じていない訳ではないと思うけど。
あの時のソウタの態度は、どこか僕の中で消化不良として残っている。
「この件は今、警察が追っているんですよね」
「そうだね。調査は警察、人命救助が我々だからね。だから、まあ、この件に私らの立場から何かすることは出来ないんだ」
「……そうですよね。……悔しいです」
ヒーローは一般的に事件に介入できない。
あくまでヒーローの仕事は人命救助であり。
既に起こった事件の犯人捜しをすることは出来ない。
だから僕が今できる事は何もないのだ。
無念ではあるけど。
こうなった以上、どうすることも出来ないのだ。
元々鬼族への復讐はヒーロー活動を通し行うつもりだった。
暴走しヒーローを捨て。
ただの復讐鬼になり。
同じ闇に身を包む気なんて僕には毛頭ない。
何故ならそれは、僕の親を否定することになるからだ。
親はヒーローだった。
ヒーローのファンだった僕だから知っている。
どんなに悪が暴れていても。
どれだけ敵が強大でも。
親は正義のヒーローだった。
親の仇だからと言って、自分の親を否定したくなかった。
僕は親の行動をどこか認めていた。
最後こそは鬼族による死だったけど。
その生き方は、素直に凄いと思っている。
だから僕は今、こう言う事しか出来ないのだ。
「警察の働きを。今は願うしかありませんね……」
「そうだね。直々に要請がうちに来るのを願おうよ。その時までに、体を壊さないようにね」
インハルトさんは僕の背中を軽く叩いた。
「分かっています。自分の健康管理は自分の管轄ですから」
話し終わると、インハルトさんは部屋から満足したように出て行った。
僕のメンタルでも気にしていたのだろうか。
同時に静寂が流れる。
このデスクは丸ごと僕の部屋になっている。
観葉植物があったり。
テレビがあったり。
ヒーローコスチュームを仕舞うクローゼットがあったり。
そんな部屋の中で、僕はふと瞳を瞑った。
僕は今迷っている。
――『ヒーロー』 グラビトルとしてこの件から一度離れるか。
――『 人間 』 崖土ミノルとしてこの件を調べるか。
鬼族がどういう組織かは知っているつもりだ。
どれだけ強大な組織か、どれだけ恐ろしい連中か、どれだけ不透明な人物か。
未だそのトップも分かっていない。
幹部の名前も数名しか明らかになっていない。
だが僕は許せないのだ、親友を傷つけたあいつらが。
不幸を齎すあいつらが。
僕は許せない。
『僕は鬼族を絶対に許さない』
――――。
『俺は鬼族を絶対に野放しにはしない』
※竹内ソウタ視点。
煙草を吸いながら俺は路地裏で決意する。
考えうる限り最悪な寝起きだった。
俺は起きてすぐ家を出て、歩き、新しい職場へと憂鬱に足を進める。
俺は元鬼族の幹部だ。
だからこそ、因縁だ。
俺は俺の手で鬼族に復讐する。
もう無暗に優しい人はやめだ。
怒らせたな、この俺を。
怒らせたな、酒吞童子様を。
復讐鬼は止められないぞ。
覚悟しろ。
『鬼神』両面宿儺。
俺って男は、多分だけど。
普通の人生ってのは歩めない性らしい。
僕のルームメイトはスーパーヒーロー。
俺のルームメイトはスーパーヒーロー。




