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第四幕 「『第59話 最終決戦!!』」



 人は、他人無しでは生きていけない。

 そう教えてくれたのは父だった。


 父は、『普通の会社員』だった。

 母は、『専業主婦』であり。

 僕は、『普通の学生』でもあった。


 うちは3人家族、親戚もいない。ごく普通な家族。

 それが表の姿。

 本当は、全く違った。


 父は、【ヒーロー】だった。

 母は、【ヒーロー】だった。


 僕は、『普通の学生』だった。


 考えてもみれば怪しいところはあったけど。

 僕ですら知らなかった。

 世間で脚光を浴びているヒーローが親だとは知らなかった。


『共依存だミノル。誰か信頼できる人を探せ。例えそいつに、将来裏切られるとしてもいい。大事なのは決して一人にならない事だ』


 会社員なのに。

 立派な事を言うと当時は思っていた。

 でも。

 今思えば。

 経験から来る『教訓』だったのかもしれないと。

 思うのだ。



 何だか懐かしくなる曇り空。

 少し肌寒くって、乾いた風が流れているその時。

 ビルの屋上で。

 僕はビルの端っこで立っていて。

 僕の目の前には。

 赤い鬼の仮面を付けた、スーツ姿の男がいた。






 僕の名前は崖土ミノル。


 僕の朝は早い。

 朝はいつものように6時に起き、そしてスーツを身に着け家を出る。

 もちろん、ルームメイトを起こすのも忘れてはいけない。

 早朝に飲み過ぎて酔いつぶれている彼の布団を叩こうと思ったが。

 別に昨日の件もあるし起こす必要はないかと部屋を後にする。


 なんでも。

 昨日の深夜でまた何かに巻き込まれたらしく。

 帰るのがやけに遅いなと思っていたら早朝に帰ってきた。

 何なら早朝からお酒を買ってきていた。

 多分あれはヤケ酒だ、どうせならと言うことで僕も一杯貰った。




 こうして僕の一日が始まる。


 ソウタが新しい仕事に就けるようになるまで。

 僕が稼ぎをしなきゃいけない訳で。

 あいや、考えてもみれば。

 今までも僕が稼いでいたような感じだけど。

 まぁそれはそれとして。

 親友が社会復帰するまで僕が支えてあげなきゃいけない。


「――――」


 レンガの壁を横目に、僕は家を出る。

 路地裏に存在するこの家は。

 家から出るとホームレスが目の前で数人座っていた。

 今はいい感じの時期だからいいだろうけど。

 そろそろ冬だから心配だな。


 そう思いながら。

 僕はホームレスを無視し歩道へ出た。


「………さて」


 僕が会社へ行くまでの間。

 少し親友の話をしようと思う。


 まず親友、竹内ソウタという男は。

 『悪運がとても強い人間』だ。


 別にソウタ自身は別に、社会不適合者というわけではない。

 会社行きたくないから引きこもっている訳でもないし。

 持病があり働きに出れない訳じゃない。

 ただ、致命的に運が悪いのだ。


 入社初日から出社の際、悪党に絡まれたり。

 ソウタがビルに入った瞬間ビルが倒壊したり。

 ソウタが乗った電車が脱線して、その脱線した列車が隣の電車に激突し、その激突された電車がソウタの会社を破壊したり。

 最後のは耳を疑うと思うけど。僕は目を疑ったよ。


 まあとにかく。

 彼は、とんでもない悪運を持っている。

 信じられないかもしれないが。

 僕の仕事仲間にも彼を認知されるくらい。

 彼の巻き込まれ具合はとてつもないのだ。


「はぁ、どうしてソウタばかり」


 呟き、肩を落とす。


 ここはあえて僕の本音を言おう。

 親友は、良い人だ。


 お酒が大好きでコミュ力があり。

 どう形容すればいいのだろうか、難しいけど。

 ある意味、人を惚れさせる才能がある人物だ。

 親友は人の大事な枠に収まるのが上手いのだ。

 ノリは良いし冷静だし、何考えているのか分からない時もあるが。

 基本的に人情に溢れている。

 そんな親友を僕は誇りに思っている。


「………」


 そんな親友は。

 まるで神に嫌われているかのように。

 この世のありとあらゆる不幸を背負っている。

 なんて世界は残酷なのだろう。

 そんなことを毎日のように思う。


 僕は親友が好きだ。

 だから幸せになってほしいのに。


「おはようございます」


 ビルに僕は入り。

 広いエントランスで、メインの受付とは少し離れた場所に進み。

 『事務室直通連絡窓』と書かれた場所へ行き。

 そこで座っていた、明るい茶髪び受付嬢に声を掛けた。

 明るい茶髪と言ったが、その風貌は少し老けている。

 丸渕メガネをきだる気にかけ。

 仕事中なのに煙草をふかしながらぼうっとしている彼女。

 そんな彼女の視線が、僕に移った。


「あ、あーおはよう、崖土くん。ええっと、今日の仕事表はデスクに置いてあるよー」

「了解です。川口さん。いつもありがとうございます」

「む、その匂い。昨日お酒飲んだでしょ、崖土くぅん」

「えっ。匂いますかね?」


 あ、そう言えば。

 あぁ……やらかしたかも、そう言えばそうだった。

 シャワー浴びた後に一杯だけ飲んだから。

 匂いがついちゃったんだ。


「私の消臭スプレー使わせたげるよ。あ、あとそこの自動販売機にりんごジュースあるよー」

「あぁ、すみません。いいんですか?」

「いいって事よ、今日もお互い。苦難を乗り越えよー!」


 そう小さく腕を上げ、鼓舞するかのように言うが。

 当の本人の声にはそこまでのパワーはなく、空元気と言う言葉がピッタリであった。

 彼女のテンションはいつも通りのようだ。


 スプレーをかけてもらい、自動販売機で買ったりんごジュースを一気飲みした。

 紙パックはすぐ飲みやすいからいいね。


「ん。ごめん崖土くん。そう言えば」


 僕が仕事場に向かおうと彼女に背中を向けた瞬間。

 そんな言葉を慌てながら。

 言った。



――――。



 ここからはこのビルの地下へ向かう。


 実の所、このビルは普通の会社であり。

 僕ら『チーム』とは全くの無関係だ。

 ここで分かりやすく、ありのまま言うのなら。

 『隠れ蓑に使わせてもらっている会社だ』


 もちろん無断ではないよ?

 ビルの会社の社長がご厚意で貸してくれているのだ。

 無断でやったらそれはそれで問題だしね。

 でもこういう隠れ事務所は今のヒーロー社会では必要な訳で。

 他の所でも割と、こういう感じで事務所を構えている。

 ま、大御所だけだけどね。


 一応表向きには。

 『崖土ミノルはこの会社で働いている』と言う事になっている。

 そういう身分のカモフラージュにも使わせてもらっているという事だ。


 ロビーからエレベーターホールへ進み。

 そこで一番奥のエレベーターに乗り込んだ。

 もちろん他の社員も乗っている。

 このビルで働いている社員の中で、僕は少しの間揺られ。

 1階、2階、15階と進み。


 エレベーター内の最後の一人となった時。


「――――」


 エレベーターの操作盤に手をかざす。

 すると。

 機械音を鳴らしながら操作盤が揺れ。

 僕の手に付けたリストバンドが二度バイブを発したのを確認すると。


 エレベーター内部の電光掲示板に『入力』と文字が現れた。

 操作盤の本来1階2階と指定するボタンをぽちぽちと押し。

 最後まで打ち終わるとまたリストバンドが揺れた。

 パスワード入力だ。


 入力し終わると、電光掲示板に文字が現れ始める。

 ――ガタッ、とエレベーター内は暗闇に包まれ『赤い非常電灯』に切り替わる。

 その間に僕はスーツのベルトのカバーを開き。

 ボタンを押しておく。


 そして、


『ヒーロー事務所、ラインハルトへようこそ』


 そんな文字が電光掲示板映し出された所で。


 エレベーターは急降下を始めたのだった。



――――。



 僕は地下の廊下を進んでいた。


 こつこつと石系の床を歩く僕の姿は、既に仕事期であるコスチュームであった。

 真っ黒と赤いラインが入ったこのスーツは。

 僕の能力である『無重力ゼログラビティー』のイメージで作られたコスチュームだ。

 コスチューム会社のデザイナーによると、


「果敢に敵の懐に飛び敵を瞬殺する戦いに勇ましさを感じた。

 しかしその勇ましさは単なる正義感だけではなく、

 何か奥底の因縁染みた感情が垣間見えていた。

 なのでこの作品にはそういう因縁染みたものを再現し、書き出した」


 と言う事らしい。

 中々、僕にとってはよくわからない文だったけど。

 まぁ僕が選んだデザイナーの人なんだ。

 そういうなりゆきで、僕はこのコスチュームになった。


 今では割と気に入っている。


 そんなこんなで僕は、廊下の奥にあった扉に手を掛ける。

 その前に一度息を整えて。


「失礼します」


 と言い、扉を開いた。


 その部屋は天井が高く。

 パイプが壁を伝っている開けた部屋だった。

 そんな開放的でオシャレな空間に置かれた4つの観葉植物。

 そしてアカシアのフローリングを歩いていくと。


 その中心に置かれたデスクに座っている人物が、僕を見て口を開く。


「いきなり呼び出して悪いね。グラビトルくん」

「いえ、インハルトさんのお呼びならどこでも行きますよ」


 スーツ姿の大柄な彼はそう申し訳なさそうに言ってくれる。

 インハルトさんのお呼び出しなんだ。

 突然の呼び出しでも飛んでいきますよ。


 彼は。

 【対超人犯罪鎮圧チーム】

 チーム名『ラインハルト』のリーダー。

 ヒーロー名『インハルト』と言う。


「まずは仕事の話題を話そうか。この間話した指名手配犯だが、つい最近、千代田区のあたりで目撃情報があった」

「確か、『喧嘩屋』でしたっけ?」

「その通りだ。形として、こちらも協力するつもりだと伝えてある。しかし、まだ『ナイフメア』の事案もある。優先順位が悩ましい」

「その件についてはスナイプさんだけでも問題ないのでは?」

「私もそうは思うんだが、連続殺人鬼『ナイフメア』は実態が不透明だ。油断はできん」

「なるほど」

「だから、君の後輩の腕の見せ所と言う訳だが、どうかね?」

「了解しました。伝えときます」

「うむ」


 連続殺人鬼『ナイフメア』。性別不明、本名不明、能力不明。

 何人もの若者を殺している悪党ヴィランだ。

 確かに、まだ実態が分かっている『喧嘩屋』とは違い、こっちは対処がまだ定まっていない。

 インハルトさんの判断にも納得だ。


「あぁ……そう言えば、ソウタ君は最近どうなんだい? あまり話を聞けていないけど」

「また最近勤めていた会社に問題がありまして。僕が事態の解決へ向かいました」


 この言動から見て取れると思うが。

 インハルトさんは僕の親友、ソウタを知っている。

 何なら一度会ったことがあるくらいだ。

 もちろん、事件現場でだが。


 基本僕の仕事仲間の中では。

 『竹内ソウタ』と言う名前を知らない方が珍しいくらい。

 僕としては、喜ぶべきか止めるべきか。

 まあ流石に、電車の玉突きで自分の会社を潰した逸話は、その噂を加速させたな。

 でもあれは流石にソウタが悪い。

 電車を使うなとあれほど言ったのに。


「君も大変だろ。仮面をつけて隠し事をする生活なんて」

「……いえ、慣れましたよ」


 当たり前だが、僕は親友の竹内ソウタに。


 『――ヒーローである事を隠している』


 能力を持っていることは一応話しているが。

 別に普段から使うような能力でもないし、だからそこまで詳細には知られていない筈だ。

 能力の詳細なんて、知られてちゃまずいんだけどね。

 例え身内でも。


 ここで少し気になった人もいるだろう。


 どうしてここまで神経質になってまで、ヒーローであることを隠すのか。

 理由は、それがこのチームの方針なのだ。


 ヒーローの正体がバレる。

 それはヒーローとしての死を表す。

 別にバレる事が悪い訳じゃない。

 でも。

 バレた事により。

 悪党ヴィランの悪意は、僕らの『身近』へ牙をむく。

 昔のヒーロー映画でよくあった話だ。

 正体を明かすと言う事は、僕の周りの人に迷惑をかけると言う事。


 だからこそ、絶対に正体をばらしてはいけないのだ。


 そして、それはヒーロー同士の暗黙の了解でもある。

 今のヒーローがそこまで神経質になってまで。

 自分がヒーローである事を秘匿するようになったのには理由がある。


 ――3年前に起こった惨劇。

 『プロヒーロー殺害事件』のせいだ。


 最初のプロヒーローチーム『エレクトロニカル』。

 その偉大なチームが鬼族オニゾクと言う悪党ヴィラン組織に。

 無惨に殺害された事件。


 そのせいで僕らヒーローも。

 少し変化した。


 どこから自らがヒーローであるか漏れるかしれない。

 家族か、恋人か、友達か。

 その誰かから漏れたであろう情報は、巡りめぐってヒーローの首を絞める。

 だから、ヒーローである事を隠さなきゃいけない。

 能力も人にペラペラ喋ってはいけない。


 そんな固いルールが、そんな大事な了解が。

 今のヒーロー社会の根幹には存在している。


「………」

「さて、少し逸れたが話を戻そう。昨日の地下鉄の事件だが、犯人の事情聴取が終わったので報告書を渡させてもらうよ」


 昨日の地下鉄は酷い事件だった。


 無差別の発砲事件だった。

 幸い死亡者は居なかったが、負傷者の数は2桁に上っている。

 朝方、新聞の一面も飾っていた。

 そのくらい大きな事件だったのだ。


 たまたま現場の近くに僕が居たから制圧に時間は掛からなかったけど。

 もし、遅れていたら。

……大惨事になっていたかもしれない。


「――――」


 僕は資料を捲る。


 ああ、やっぱり犯人はただのホームレスだったのか。


 考えるに社会に恨みがある人間。

 その無差別発砲を起こしたのが地下鉄だから。

 朝に出勤する会社員を狙った犯行って事かな。

 僕が動きやすい地下鉄で事件を起こした事が唯一の不幸だった訳だ。


 資料を見ながら予め存在していた推理の答え合わせを行う。

 どうやら犯人のホームレスは今ではすっかり意気消沈し。

 ぽつぽつとやるに至った経緯を話しているらしい。

 ホームレスも本意じゃなかったのだろう。

 一度の激情に身を任せて過ちを犯すのは珍しくないことだし。


 そう思いながら資料を捲っていると。

 やはり、見慣れた名前が目に入ってきた。


「……また鬼族オニゾクですか」

「ああ。恐らく、鬼族が武器をホームレスに渡したのだろう」


 それなら、確かに納得できる。

 ホームレスの口から鬼族の言葉が出るのは多分時間の問題だろう。


 鬼族のこれまでの犯行と今回の事件は、類似点が多い。

 違法薬物の売買から、唐突に一般市民へ武器を渡したりと。

 未だ目的が見えない組織。

 それが、【厳重警戒対象】悪党ヴィラン組織 『鬼族オニゾク』だ。


「……そんな事をして、何がしたいのやら」


 思わず手に力が入る。


「鬼族関連の情報はまだ公には出来ない。君を今回私の部屋に呼び出したのはそういう事だ」


 確かに世間でも、まだ鬼族関連のニュースに敏感だ。

 それもこれも全ては、3年前の事件のせいなのだけど。


「チーム内でもその話を隠すのですか?」

「鬼族は今やどこに潜んでいるのか分からないんだ。……君も正直、私を信頼できないだろ?」

「………」


 信用できない。

 言ってしまえばその通りだ。

 実態がつかめない組織と言うのは怖い。

 それも過去の事件があるし。

 ヒーロー界隈もどこまで腐っているのか分かったもんじゃない。


 鬼族。


 鬼族。

 鬼族。

 鬼族。

 あいつらを僕は。



――――――――――。

――――――。

――――。



 これは昔の話だ。

 僕のあんまり話したくない過去こと。


 僕はその日。

 テレビの前でいつものヒーロー物のアニメが始まると目を光らせていた。

 先週の展開がラスボス戦。

 ヒーロー 対 悪党の、最後の戦いの開戦まで描かれていたのを覚えている。

 だから今週はその続きが放送される。

 良いところで終わったお話の続きが、やっと見られる。

 なので期待を膨らませ、その時を待っていた。


「――――」


『18歳の僕はテレビに張り付きながらその時間を待っていた』


 アニメは日本の文化であり。

 それは年々進化していた。

 いつしかアニメは僕の大好きなものとなり。

 当時オタクと呼ばれていたそれに、僕はなっていた。


 18歳にもなってアニメに熱中しているのは。

 周囲にあまりいい印象を与えなかった。

 でもいいじゃないか。

 そういう人も、推しがいるし、好きなアイドルがいるんだ。

 その感情を僕はアニメに向けているだけ。

 だから、大丈夫だ。


 まずまずああいう人たちがおかしいんだ。

 新しい物をとにかく否定する姿勢は見ていて好きじゃない。

 古い時代を生きたから偉いのは分かる。

 僕より長生きしているのも分かる。

 でも、自分の時代になかったからと若い世代の文化に触れようともしない。

 別にいいさ? 触れないのは自由にしてもらって。

 でもさ、知らない世界だからって。

 いい目でみないっていうのは変な話だ。

 馬鹿な大人は困る。


 さて、時間だ。

 アニメが始まる。


 そう思いテレビをつけた瞬間。


『――――えー、こんばんはテレビを見ている皆さん』


 ふと、聞いたことがない声が耳に入った。


 それはどこか音質が悪かった。

 アニメではあってはならない。ノイズが入っている音質。

 演出ならまだしも。

 先週の展開からしてそれは無いと何となく心で思った。

 テレビには何も映っていなかった。

 真っ暗な場面で。

 ヒーローの戦うシーンすら、無かった。


 まだ僕は違和感を抱いてはいなかった。

 でも、徐々に。


『初めまして、我々の名前は『鬼族オニゾク』です。今宵、この世を腐らせている諸悪の根源を断罪させていただきます』


 画面が荒れ始める。

 黒一色の映像から荒いノイズが流れ。

 まるで僕の心の不安を煽るような演出に。

 どこか、目が釘付けになった。


 その語りにはどこか引き込まれた。

 セリフだけで分かる悪に、どこか僕は興奮してしまった。

 何故だが、分からない。

 でもまだその時は、恐らく、ヒーローアニメの一環。

 エンタメの延長線だと思っていたのかもしれない。


『えー、一応警告です。心臓の弱い方や持病を持っている方は、この先の視聴を自己責任でよろしくお願いします』


 明らかにアニメでは言わないセリフだった。

 そこでやっと、僕、崖土ミノルは完全に不安に染まった。


「――――」


 それは言い例えるなら。

 昔あったホラー映画のCMの様だった。


 警告と赤い背景に黒文字で映し出し『心臓の弱い方は~』と警告文を一瞬だけ出す。

 それだけで背筋が凍る程の衝撃を受けるのに。

 チャンネルを変えようとリモコンに手を伸ばそうとするのを待たずに。

 まるで警告の意味をなしていないように、

 本編の映像が始まる。


 始まってしまい。


 そこでは例えば、女の人が暗い画面の中で息切れしている映像だとする。

 そこまでくるともう目が動かない。

 動かせない。

 リモコンまで手が届かないし、

 変えようと思えない。

 見てしまったから。

 その時点で無意識の中に『好奇心』が生まれてしまうのだ。


 その後の映像でどれだけの“トラウマ”を植え付けられるとしても。

 関係なしに、そこまで思考を回す前に。

 ――映像は急展開を迎える。


「え」


 おかシい。


 それが最初に思い浮かんだ言葉だった。

 本来ならそこで。

 ヒーロー 対 悪党の最終決戦が始まる筈だったのに。

 映像に映っているのは。

 ……赤だった。

 血を頭から被って、両手を頭の上で縛られ脱力している。

 あまりにもリアルな。

 違う。アニメじゃない。

 と気が付いた。


 被ったようにしか見えなかった血が。

 その人物から出ている血だと気が付いたのは、もう少し後だった。


「ひっ……」

『エレクトロニカルのリーダーさんで~す』

「………え、あ? あ」


 冷や汗が頬を伝い。

 いつの間にか僕の息が荒くなっていた。


 そして、そこで、気が付いた。


 もう手遅れなのに目が離せないのに。

 そこで初めて気が付いてしまった。

 目を逸らす事さえできない、魅力的で狂気的で残虐的で鬱屈とした映像に。

 逸らすことが出来なかった。


「――おかあさん? おとうさん……?」


 だから見てしまった。

 その映像を。

 トラウマになると分かった頃にはもう遅かった。

 遅すぎた。


 どうあがいてもその真実を、見てしまう運命だった。


「………」


 ヒーロー 対 悪党の最終決戦は既に終わっていた。

 最悪のバッドエンド。

 『ヒーロー側の敗北として』



『共依存だミノル。誰か信頼できる人を探せ。例えそいつに、未来裏切られるとしてもいい。大事なのは決して一人にならない事だ』


 そうどこか格好つけながら言っていた父は。

 子供にすら隠していた仮面を血で濡らし。

 最悪の形で真実と別れを告げた。



――――。



「――――」


 風を受けながらビルの屋上で空を見上げる。

 黒いコスチュームと共に。

 赤と黒の仮面を付け。

 僕は朧げに空を見ていた。


 僕がヒーローを目指した理由。

 簡単に言えば。


【親の敵討ち】だった。


 そのことを親友にすら決して教えたことはなかったけど。

 重力ヒーロー『グラビトル』である僕は、

 鬼族に復讐する為、今もこの街を飛んでいる。


 【復讐】の為に、【親友】の為に。


 親友、竹内ソウタはいい友達だ。

 彼に危険が及ぶのは親友として許せない。

 それを守る。

 それが、僕の役目でもあるんだ。

 アニメで見て来ただろ。

 ヒーローは綺麗事に本気で向き合う仕事だ。

 苦労しているのは僕だけじゃない。


 『~強盗事件発生』


 僕が最終決戦を見られなかったアニメの中で。

 “ヒーローの定義”と言う物があった。


――――――


 『その1』

 弱き者は必ず助ける!!!!!!


――――――


 手首からワイヤーを飛ばし。

 能力を使用しながらビルを駆け下る。

 風が気持ちよかった。

 でも気分はいつも最悪だった。

 でも、始まりの感情がそれだとしても。

 中間は変わるのだ。


――――――


 『その2』

 仮面を忘れず!!!!!!


――――――


 重力を操作して空を飛ぶのは楽しかった。


 ビルの間を自由に走り。飛び。駆け巡るのは最高だ。

 時にはビルの屋上を走りながら。

 屋上で昼飯を食べている会社員と出合い頭に挨拶しながら。


――――――


 『その3』

 そのマントを掲げて、正義を執行しよう!!!!!!


――――――


 背中にある黒いマントがあるおかげで空を走っている感があり。

 楽しかった。


「………」


 楽しい。

 愉しい。

 心地よい。


 ヒーローでありヒーローに憧れヒーローにトラウマを抱えた僕が。

 今感じているのは、確かな幸福感であった。


 だってまだ中間だから。


 終わりへ向かっている。夢へ向かっている所なんだから。

 誰しも夢は、思い描いている時が一番楽しいんだから。



 楽しい。

 楽しい。

 楽しい。

 そしてその感情が行きつく先が、








 どうか復讐と、親友の幸せでありますように。








 僕のルームメイトはスーパーアンラッキーで。

 僕は仮面を被った、スーパーヒーローだ。


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