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俺のルームメイトはスーパーヒーロー  作者: 夏城燎
第二章 赤と白い羽編
33/35

間話    「美徳」


 ※平内視点。



 少し寒気が増してきた頃、おおよそ10月の終わりごろだ。

 僕はたった一人で花屋に出向き、似合わない花を一つだけ購入した。


 黒い正装に身を包み。

 僕は今日、その石の道を歩き、そして一つの木の根元で止まり。


 ゆっくりと買ってきた花を、その墓石に置いた。


「――――」


 中津ナリトのお墓は、ほとんど僕が自腹で立てた。

 知らなかったが、中津さんの家族はもう、中津さんの事をそこまで好きではなかったらしい。

 ……それについてはあんまり話したくないな。

 財産は全部あの家に行ったのが、正直納得できないけども。

 僕はどうしようもできない話なんだから。


 僕はあの日、たまたま留置場には居なかった。

 子供の用事で仕事を休んでいたんだ。

 とても後悔しているけど。

 僕がいたところで、きっと中津さんは助けられなかったのだろう。

 だって、僕はヒーローでもない。

 ただの若造なんだから。


 でもさ。

 分かっていても、悔しいときってあるじゃないか。


「……あ」

「え?」


 突然、僕の横から人の声が聞こえた。

 僕が視線を向けると、そこには一人の人間が立っていた。

 フードを被り、顔も見えないその人間は驚いていた。

 もしかすると、僕の事が木に隠れていて見えていなかったのかもしれない。


「こんにちは? あなたも中津さんのお墓に?」

「……うん」


 僕の問いかけに、彼は静かに俯いて肯定した。

 その時気が付いたんだけど、彼の手にも一つの花が握られていた。


「ならどうぞ」

「はい。ありがとうございます」


 僕は一歩下がる。

 すると彼はそそくさと歩いてきて、花を添えて。

 すぐ僕に背を向けた。


「まって」


 僕は止めた。

 僕が覚えている限り。

 目の前にいるくらいの人と、中津さんには関係が無いと記憶していた。

 だから気になったのだ。

 この人と中津さんに、どんな関係があったのかと。

 あぁ、そうさ、好奇心ってやつだ。


「……」

「君、名前は? まだ成人してないようだし、こんな時間に何故?」


 時刻は昼の13時、なのに見るからに未成年がこんなところを歩いている。

 一応身分は警察なんだし、補導するべきかな?


「僕はっ……その、前に中津さんに助けられたことがあって」


 助けられた。

 という言葉から考えるに。

 この人は何らかの事件関連で中津さんと知り合ったのだろうか?

 なるほどね……。


「少し喫茶店とかで話をしない?」


 僕は背中を向けている彼にそう告げると。

 彼は僕へ振り返って、こういった。


「いいんですか?」



――――。



 ファミレスに入って、僕はメニュー表を粗方確認し。

 まだ取っていなかった昼食をここで取ろうと決心した。

 ハンバーグ定食と店員に伝えると、少年は遠慮したのかフライドポテトだけと言ったので。

 僕は遠慮をしなくていいと伝えると。

 少し迷いながらも、同じハンバーグ定食を頼んでいた。


 ハンバーグ定食が来るまでの間、僕は少年に話しかけた。


「中津さんに助けられたって事は、過去の事件とかなの?」

「……ええ、そういう感じですね」

「………」

「………」

「助けられたって言うのは?」

「それは、えっと。命を救われたと言うか。なんというか」


 いまいち釈然としない言い方。

 何か言えないような事情があるんだろうな。

 幸い、ここはファミレスであり、僕も公務中ではない。

 だが一つでもピースが違えば。

 僕は警察という立場を利用し聞き出そうとしていたのには変わりなかった。


「そうだったんだね。君は中津さんに助けられた」

「――――」


 ほんと、惜しい人を亡くした。

 僕自身、別に復讐だとかあんまり考えない。

 ある意味からっとした性格なんだけど。

 と言うか、僕は死んだ先輩の墓参りなんてまるで興味が無かった人間なんだ。

 でも中津さんだけは違う。


 案外僕は、少しばかり人間らしい部分があったらしい。

 この好奇心が何よりの照明だ。


「君からみた中津さんって、どういう人だった?」


 これは僕の、好奇心を凝縮した質問である。

 先述したように僕はある意味ドライな人間であった。

 でも中津さんに出会ってから、それは変わったのだ。

 それは、何故なのか。


 中津さんと言う人物を表すなら『頑固』であり、そして『客観』ができる人であった。


 『頑固』と言う部分は単純で、自分が決めた事を絶対に揺るがさない部分であり。

 『客観』とは要するに。自分の置かれている状況やら、他人が置かれている状況を俯瞰し、冷静な対応ができる事を指す。

 客観に関する能力は僕でも凄いと感じる場面が、今までにも多々あった。


 でも、いくら考えても。

 僕があの人を注目する意味が、自分でも全く分からないのだ。

 だからこその質問だ。


「……中津さんは、とても自己中心的な人なんだと思っています」

「ほう?」


 自己中心的か。

 それは思いつかなかったな。

 でも言われてみれば、思い当たるふしはある。


「あんまり他人の事を考えていないのかなって、前会った時にはおもって、でも他人に冷たい人ではないんですよね」

「どういう感じだったの?」

「具体的な事は、少し言いづらいです……」

「……分かった」

「あ、でも。僕が感じたのは。他人の気持ちを考えずに、自分さえ我慢していれば全部が良くなるって。思っている所だったんです」

「――――」

「……それって、身勝手だと思うんです」

「確かにね」


 確かにそうだったな。

 あの人は不思議な人だった。

 そういう自分で全部抱え込んでいる部分が、頑固だと思っていたんだけど。

 そっか、身勝手とも言えるんだな。やっぱり他人の意見は違うな。

 客観的とは言えないが、見方の違いによる意見の違いは興味深いな。


「……なるほどね。なら、僕も少し納得した事があるんだ」

「納得?」


 そう切り出すと、少年はふと視線を向け僕の瞳を見つめて来た。


「彼は。中津さんは、家族に愛されてなかったんだ」

「……? そうだったんです?」

「これは僕も知らなかった事。そして、中津さんが死んでしまってから知った事だ」

「それが、その身勝手にどんな関係があるんです?」

「関係しかなかったんだ。きっと」


 僕の言葉に少年は首を傾げるが。

 そのまま僕は、続ける言葉を思い描きながら。

 過去の出来事を思い描いた。



――――。



 僕はいつも通りのスーツを着つつ、いつもより重苦しい心境で。

 とある一軒家のインターホンを押した。

 鳴らすと、家の中からドタドタと足音が聞こえ。

 そして次の瞬間、インターホンから音声が飛び出す。


『どちら様?』

「あっ、中津さんのお宅で間違いないですよね?」


 僕は一応そう聞いておくと。

 インターホン先の女性は少し項垂れながらも。


『そうですよ。あの人関係でですか、そちらまで向かいますのでお待ちください』

「開けてもらえれば玄関先まで」

『いいや結構です。私から出向くので、絶対に家の敷地をまたがないでください』


 やけに強い口調だったが。

 まあ気持ちは少しだけ分かったので、その時は変に考えもしなかった。

 でも本番はこれからで、僕の目の前に、やけに美人でやけに服装が豪華な女性がやってきた時だった。


「それで? 用事とは」

「はい。僕の名前は平内と言いまして、中津さんにはお世話になったんです」

「前置きはいいわ」

「はい?」

「いいから用件だけ言ってちょうだい。あんまり余裕がないのよ」

「……わ、かりました。一応中津さんにはお世話になっていたのでご挨拶と、支部の方にあった中津さんの手荷物を持ってきました」

「ふん。なるほどね。じゃあご挨拶だけ受け取っておくわ。手荷物はいらない」


 女性はやけに冷たい態度でそう告げる。

 この時点でやっと、嫌な予感って奴を感じ始めた。


 僕は中津さんから息子の可愛さについて熱弁されたことがある。

 その様子から。

 家庭環境はとても微笑ましい物だと。

 僕は勘違いをしていたんだ。


 だから実際、そうではなかったと今実感して、

 僕の中にあった中津さんの人物像が揺らいだ気がした。


 ……認めたくなかった。

 僕は、ほんと、少なくとも、息子を愛している中津さんと言うのを。

 まだ信じたかったんだ。


「息子さんはお元気ですか? よく中津さんからお話を聞いていて」

「は?」

「……え?」


 僕の希望は、その一文字に粉砕された。


「はぁ……まあいいわ。

 教えてあげるわ。中津ナリトは家族想いじゃなかったのよ。

 あの人はお酒が大好きでね、私は半年前に、酔ったあいつに暴力を振るわれた事すらあるのよ!?

 だからっ、言ってしまえば、あの人は最低なゴミだったのよ!」

「…………お酒がすき?」

「ええそうよ。酷かったんだから。

 あなたの所ももしかしたら苦労したんじゃない?

 仕事で疲れて、きっと部下にも当たり散らかしてるに違いない」

「――――」


 その瞬間、やっと僕は理解した。

 ずっと溜まっていた違和感と言う違和感が、一気に繋がった感覚がした。


 僕を過剰なまで避けようとする姿勢。

 この女の言い分。

 そして……この家のプレートが『中津』ではなかった事も。

 全てが繋がった。


 僕は固まった。

 僕は両手に抱えていたダンボールの箱を持ちながら。

 顔面蒼白になって、ふと視線を家に向けると――。



「……っ」



 家の窓から見えたのは、小さな男の子がテレビゲームをしている姿で。

 その男の子の横には、知らない若い男が座っていたのだ。



――――。



「同時に僕は気が付いた事があった」


 僕の話を静かに聞き、届いたハンバーグ定食に手を付けない少年は。

 固唾を飲み込んで次の言葉を聞いた。


「中津さんと僕が出会ったのは3年前だ。その時から、あの人はお酒が嫌いだった」

「…………」

「あの人が無理にお酒を飲んだ姿を僕は見た事がある。

 その時はすぐに吐いちゃって大分気分が悪そうだったんだ」

「なら……」

「そうだよ。中津さんの奥さんは、中津さんをお酒が好きじゃないのに、お酒が好きだと周りの人に言いまくったんだ」

「どうして、そんな事を?」

「決まっているよ。奥さんは中津さんが嫌いなんだ。

 と言うか、多分元々好きじゃなかった。

 もしかすると、警察と言う職種の収入目当てかなんかかもしれない。なんにせよ酷い話さ」

「――――――」


 話を聞いた少年は押し黙っていた。

 それもそうだろう。

 やるせない話だからね。


「そして中津さんの息子は、

 母親の洗脳によって新しい父親が好きになるように仕向けられてた。

 これは僕が独自に調べた事実なんだけど。

 中津さんの息子さんは、新しいお父さんを受け入れているどころか、

 最悪の場合もう中津さんの事すら覚えていないのかもしれない」

「そんなっ……」


 僕の話に、少年は唇を噛むような仕草を見せた。

 苦い話だよな。分かっている。

 でもこれが、これこそが……。


「他人の気持ちを考えずに、自分さえ我慢していれば全部が良くなる」

「……じゃああの人が、あんなに身勝手だったのは」

「そうさ。……人って言うのは酷く流動的だ。一貫性がなく、故に奥深い。中津さんは頑なに家には帰ろうとしなかった」

「……そんな」

「悲しいね。でも、これが現実だったんだ。そして中津さんは、誇り高く殺された」

「っ」


 中津ナリト。

 彼は自分を殺して、そして最後には、天狗に殺された。

 何も報われないように見える彼だが。


「でも僕は、悲しいけど、これも正解だったのかもしれないと思うんだ」


 なんて僕が言うと、少年は蒼白な顔で僕を見つめ。


「……というと?」


 と聞いて来た。

 だから僕は、少年に言う事ではない。

 まだこんな小さい子には早いかもしれない話を。

 告げた。


「自己犠牲を美化する日本の文化は正直好きではない」

「…………」

「だがそれを突き通せる人間は、きっとそうしなきゃ何かを保てなかった可哀想な人なんだ。

 僕ら他人はその最中にはいない。だから自己犠牲を笑いものに出来る。

 でもっ、その最中ならば、どう考えたか。

 ……自己犠牲は確かに愚かなのかもしれない。

 でも同時に、やはり美徳でなければならないんだ」


 自己犠牲。

 それは傍から見れば酷く愚かな行為だ。

 とてもばかばかしく、ただ問題から逃げて、自分が我慢すればいいと本気で思い込んでいるさまは。

 まるで『思い上がり』を見せられているかのようで。

 まるで、『つけあがってる』ようにしか見えなくて。

 僕は好きではなかった。


 でも考えてみると、その犠牲はある意味『想い』である。


 中津さんが自己犠牲をしてまで守りたかったもの。

 そんな事、分かり切っていた。


 ――息子のためを想ったんだ。


 妻からは嫌われている。

 そしてその妻は子に、あの男は父親ではないと洗脳している。

 その状況を見て中津さんは、反論もできただろう。何なら性格からするに、本当ならしたのだろう。

 でもそれをしなかった。それは恐らく――息子を幸せにするためだ。


「だからね。自己犠牲を貫いて、潔く死んだ中津さんは」

「――――」

「ある意味、戦って勝ったんだ」


 僕は確かな確信が走った。

 そしてその言葉を、作り出していた。

 僕は中津さんが死んだとき、きっと満足していた事を夢見るよ。


 少年は話を聞いて、ふと自分のハンバーグ定食を一口食べた。

 一かけらをゆっくり食べた、だがふとフォークを置いて間を置いてから、次に少年は口を開いた。


「……平内さん。平内さんにとって、幸せってなんですか?」

「幸せ? ……どうしてそんな事を?」


 幸せ。

 そんな言葉、久しぶりに聞いたな。


「……僕は、ずっと幸せになりたいと願っていたんです。

 無意識に、僕は小さな時からそう思っていた。

 でも、年を重ねる度に、

 どんどん幸せが分からなくなっていたんです。

 それが僕の大きな悩みだった」


「うん」


「でもある日、中津さんに出会ったんです。

 最初は何も思っていなかった。

 何なら、身勝手な人だと思っていた。

 だけどその日から、なぜか頭の中で彼の言葉がふと現れたりするんです。

 ……何故だか分かりませんでした。

 だから僕は、中津さんを知ろうとしたんです」


「なるほど……それでお墓に来ていたんだ?」


「そうですね……でも、本当に自分勝手なのは僕なんですよ。

 それは僕が一番理解しているんです。

 だけども、それでも、何か答えを持っている気がしたんです。中津さんが」


「そっか……でも、中津さんはもうこの世にはいない」


「本当に申し訳ないです」


「……? とにかく、だから僕に聞いたんでしょ?

 僕で代わりになるか分からないけど、僕にとっての幸せを教えてあげるよ」


 こんな人生舐め腐ったような男からの助言を、

 この少年は気に入ってくれるだろうか。

 僕だって幸せについて考えた事がある。あるけども、きっとそれは。

 誰も分からない不可解な物なんだ。


「幸せなんて存在しない。でも、不幸でいない事は大切だ。幸せなんて荒唐無稽なものに縋るのは結構だけど、僕は、その先に未来はあっても希望があるようには思えない。だから僕は思うんだ。『幸せの探求』よりも、『不幸でいない自分』を求めた方が、人生って奴は幾分か楽しみやすいとね」


「……未来があっても、希望がないって、面白い事を言うんですね」

「だってそうだろう? 終わらない幸せを感じた試しある?」

「ないですね」


 僕の言葉を気に入ったのか、少年は言いながら笑みをこぼし。

 やっとのこと自分のフードを外して。その幼さが残る顔を見せて、


「そっか」


 と一言だけ零して、少年は強張った笑顔のまま、涙を流したのだった。







 少年とは解散した。

 お互い、話したかったことを話したので、もう話題なんてなく。

 ハンバーグ定食を食べ終えたのを皮切りに、まさかの割り勘でお店を出た。

 未成年に奢られるのは何だか釈然としなかったが。

 少年が何故か万札をサイフの中に入れていたと言う事実は驚くしかなかった。


 いっそのこと警察に通報でもして、この少年のお金の出所を調べてもらおうかなんて考えたが。

 そう言えば自分が警察だったことを思い出し。

 まあええかと見逃す事にした。


 それにしてもやっぱり、あの子はどこかで見た事がある気がするな。

 でもあんなにさっぱりとした美少年、見たことあるなら覚えているだろうしなぁ。


 僕はファミレスの入口で青空を見上げながら。

 その足で自分の家に帰った。



――――。



 ※■■視点。



 得た収穫はあった。

 もうこの地に思い残した事はない。


 でも、やっぱり僕は、償わなければならないらしい。

 中津刑事にはやっぱり。

 酷い事をしてしまったから。


 考えよう。

 償い方を考えて、僕は生きて行こう。

 ああ、そうだね。

 僕がこれまで殺してしまった人達の事も考えるべきだ。


 僕はそういう性格だからさ。

 出来るだけこうしようって思った事は守りたい。


 そうだな。うん。

 何だか少しだけ気が楽になった気がするよ。

 誰かに自分を見せた事は人生で一度もなかった。

 それは自分が怖かったからに他ならない。


 でも、


 幸せになんてならなくてもいい。


 不幸でさえいなければ、

 僕はいいのかもしれない。





「……確かに、案外悪くないのかもな」


 足取りが軽い少年は、路地に入った。


 路地の中で少年はパーカーを脱ぎ、その背中に生やした白い翼を広げ。

 逃げる為に羽を使うのではなく。

 初めて前進する為に、羽を使った。

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