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俺のルームメイトはスーパーヒーロー  作者: 夏城燎
第二章 赤と白い羽編
32/35

第三十幕  「新宇宙」

 3年前。



 ※太刀風ミナミ視点



「……それで、俺に何の用や。インハルト」


 俺の目の前には大柄の男、ヒーローインハルトが立っており。

 眼前で真剣な顔をしながら近づいて来た。


 俺は東京へ休暇旅行をしに来ていた。

 ……と言うのはまあ建前でもあるが、まあ一応旅行のつもりだ。

 うちの嫁も東京に来たがっていたしな。

 コミケにどうしても行ってみたいらしい。


 ま、その先でまさか。

 こっちの事務所に顔を出すとは思わんかったけども。


「これは君にしか頼めない事なんだ。悪いがいいだろうか?」


 インハルトの野郎はいつもよりも深刻そうな顔色をしていた。

 何や? なんかあったんやろうか。

 出来れば旅行先で面倒ごとには関わりたくないんやけど。

 まあ俺もそれを了承してここまで来たんだ。

 話くらいは聞こうやないか。


「ふん。個人的なお願いだと言うからここまで来てやったんや。とりあえず話してみ」

「そうか。ならば話そう」


 そう呟くとインハルトは、こっほんと一息つき。

 俺に背を向け壁を見つめ始めた。


 そして重そうな口をゆっくりと動かした。


「私は君をとても評価している。君のその風を操る能力というのは実に強力であり、同時にその操作技術は卓越した物だ」

「褒めるために呼んだん?」


 と俺が言うと、インハルトは部屋の中を歩き始め。


「そうではない。ただ、君の能力を買っている。……そこで一つ、君に託したい物がある」

「託す? はっ、俺がそんな聡明に見えるんか?」

「ああ。―― 1人、弟子を取らんか」


 弟子?


「……そらまたなんでや?」


 また飛躍しとる。

 弟子ってあほか。俺は師範なんてごめんやで。


「これは君の能力を買っての頼み事であり、同時に交渉でもある」

「交渉? ははーん、続けろ?」

「今私が育てている子がいる。しかし彼の能力はあまりにも規格外であり、あまりにも激しいものであるのだが……その子に稽古をつけてやってはくれんか」


 稽古?

 別にそのくらいならいいが。


「……見返りは?」


 せやな、見返りは大事や。

 俺の大事な休暇旅行を潰せるほどの、

 大きな見返りは一体なんなんだろうか……。


「東京にある物なら、何でも一つ買ってやる」

「俺を子供かなんかやと?」

「大人のつもりで提案している」

「冷やかしの方がもっとましな条件を提示するで」

「そ、そうなのか? ならばどういうのが妥当だと思う?」


 う、うーん。

 元々インハルトがこういう性格である事は知っていたからいいとして。

 逆にどういうのがいいと言われると何とも言えないな。

 別に欲しい物とかあらへんし。


「まあうまい焼肉でええわ。それで俺に見てもらいたいっていうヒーローはなんていう?」

「あぁ……焼肉でいいのか。名前は『グラビトル』と言う。肩書は『重力ヒーロー』だ」


 重力ヒーロー?

 そら何とも宇宙的な肩書やな。

 どういう能力なのかあんまり伝わってこん。

 まあ重力関連なのは理解したが。


「そいつのどういう所が凄いんや? 名前だとかからは特に凄味を感じないんやけど」

「ふむ、説明しよう。彼の能力は未知数であり、また、彼の素質も未知数である」

「そら噛み砕くと、俺らが予想だにしていない伸びしろがあると?」

「如何にも」

「……なるほどな」


 まあ、興味は出た。

 インハルトは少し抜けている性格をしているが。

 そういうヒーローに対する価値観はずば抜けている。

 なので、彼がここまで大袈裟に表現する人物に対し。

 何の感情も湧かないなんてありえへん。



「まあええやろ。その取引、受けたるわ」



 その時の俺は、まだ知らへんかった。


 その選択がどういう結果をもたらすのか。

 『重力ヒーロー』とやらがどんな力を有しているか。

 そして。


 彼が一体どういう感情で、ヒーローと言う物に憧れを抱いたのか。


 それを知った俺は確かに。

 こいつは世界を変えるほどの……いいや。





 世界の法則を変えるほどの。

 本物の『規格外オーバースキル』を持っているのかもしれないと。

 己の結論と、目を疑った。





 ※崖土ミノル視点。



 荒れ狂う風、倒壊するビル。

 それらすべての災害が目の前で起こっていた。


 耳鳴りが鳴り響き。

 地面が揺れていて。

 全身が固まる程の殺意を感じている。


「………」


 僕は落ち着いて、その現実を飲み込むように。

 固唾を飲み込んだ。


「――――天狗っ」


 黒く巨大な怪鳥が、京都駅上空で羽ばたくと。

 軽くビルの頭頂部が、波の如く崩壊していく。


 リミッター解除。

 まさかその術を天狗が習得しているとは思ってもみなかった。

 情報は無かった。

 だから予想できなかった……は言い訳だ。

 予想するべきだったのだ。


 僕は最初から、彼の力を見誤っていた。


「……考えろ」


 考えるしかない。

 僕の取り柄はそこだけなんだ。

 考えろ。

 あいつをどう止める?

 このまま野放しにしてしまったら京都が危ない。

 もともと必要最低限の被害は考慮していたが。

 こうなるとつべこべ言えなくなってきた。


 あいつの体は風で包まれている。

 恐らく天狗本体はあの風の集合体の中にいるのだろう。

 が、風の中にも黒い瓦礫が混じっていて。

 容易に風の中へ侵入は出来なさそうだ。


『――おい! グラビトル』


 僕が考えていると、そう激しい剣幕の無線が入った。


「っ! どうしました、サイクロン!?」

『早くこの場から逃げるで! ここはもう、――危ない!!』


 言われてやっと気が付いた。

 目の前の道路に亀裂が走り、その破片は空へ飛び上がり。

 全てが破壊されようとしている事に。



――――。




 ※■■視点。



 世界の終わりを彷彿とさせる悲鳴。

 それがその街では鳴り響いていた。


 人が泣く声、人が叫ぶ声、人が狂う声。

 全てが飲み込まれ、全てが破壊され、その破滅の限りを尽くすのは。

 空を移動し始めた巨大な生物だった。


 僕だ。


「――――――」


 空が気持ちい。


 朝の光が広がり、小鳥の囀りが耳を霞む時刻。

 僕が知らない風景はどれも新鮮で、何もかもが煌びやかで、綺麗だった。

 つんとした寒さが体を包んで、空気は少し暖かくて。

 そして何より、とても静かだった。


 この人が栄えた世で。

 これほどまで静寂に支配された場所は、もう存在しないだろう。

 木々が躍り、小鳥がワルツを奏で、空気がおいしい森林。

 車が行き交い、うるさい広告が道中を劈き、クラクションが鳴る都会。


 ああ、真の静寂とはなんだろうか。

 本物の安息とは何なんだろうか。

 ずっと考えて来た。



 この空はまさしく、僕にとっての楽園だ。



 人の世で生きるのは辛い。

 誰かの目を気にして、誰かの為になろうとするのも報われない。

 優しさは時に無意味な物へとなり、その奉仕は確実に自身を蝕む。

 ……いいや、考えてもみれば、見返りを求めている優しさは。

 優しさと言えるのだろうか。

 ならばこの常識は。この自分の品行は。

 優しさとは言わないんじゃないか。


 ……もうそんな事はどうでもいい。

 この世は無情な物。

 誰も助けてくれない、なんて被害妄想はしない。

 誰も助けてくれない訳ではなく。

 ただ単に、誰も僕を理解できないのだ。


 他人を理解するのは、沢山賞を取っている天才でも、難しい事だろう。


 それこそが正しく無情というもの。

 他人を根本的に理解できないように人を設計した時点で。

 この世は無情だったんだ。



 僕が悪いのか?

 いいや、悪いのはこんな世界だ。

 そうに決まっている。


 そういう『怒り』が溢れてくる。


 こんな感覚なのか。

 鬼神様。



 はは。









 こわれちゃえ

















 ――誰だ? そこに座っている男は。



 男が座っている気がした。

 僕が一人、暗い部屋に閉じこもっている時。

 ふと、部屋の端っこに月光が指してきて、そして。


 その人が僕の事をじっと見ていて。

 そして見えない口元で、男は喉を鳴らした。



「……俺は大人や。若い世代には、せめていい顔をしておきたい」





――――。



 ※崖土ミノル視点。



 事態は最悪を極めていた。


「――――」


 僕らはとあるビルの屋上に立ち、

 いずれこの上空を通るあの怪物に視線をロックオンし。

 詰まる様な空気感で茫然としていた。


「何か策はあるか?」


 聞いて来たのはサイクロンであった。

 そんな彼に僕は、背中を向けたまま。


「今の所、手はあるにはあるのですが。それには相応のリスクが伴うかと。それに何より、決定打がない」

「決定打?」

「まだ可能性の話なんです。もしかしたらあれを止められるかもしれない。その程度で」

「なるほどな。つまり万策尽きたって奴か」


 あの巨体に対する対抗策。

 それは……まるっきり浮かばない。

 あの風の体の弱点が分かればまだやり様はあったが。

 現段階で、天狗を止める手段はほとんどないと言える。


「どうにかならねぇのか?」

「……」


 僕の背後で。

 サイクロンと並んでいたけんだマンはそう震えながら呟いた。


「私が、あいつにけん玉を……」

「不可能です。あの風にはビルの瓦礫も含まれています、そして同時に、あれは竜巻の様な物。もしけん玉の先が風に飲まれてしまったら、最悪の場合あなたも巻き込まれてしまう」

「なら……この銃で」

「試してみる価値はあると思いますが、それだけで倒せるかどうかは望み薄です」

「…………」

「…………」

「じゃあ、私たちは」

「――――」

「このまま町が破壊されるのを、ただ見ているだけなのかよ……?」


 ……確かに、そうなっている。

 僕らはあの天狗に対してなんの対抗策もない。

 リミッター解除の恩恵については個人差が大きく、天狗の場合ゆうにあの『規格外オーバースキル』へ届いているだろう。風を纏い巨体を有するなど、もう人間の領域を超えている。

 ああ、分かっているよ。

 何か手は打つべきだ。打つべきだし、もうとっくに手遅れになりかけている。

 街の被害は秒で広がり、既に人死にだって……でているだろう。


 でも決定打がない。

 もしこの場で僕が『死ぬ気』になったとしても。

 その確実な決定打が無ければ不発に終わってしまう。

 だからもう、普通の手段では止められない。


「……腹をくくるべきかもしれません」


 僕はぽつりとそう呟いた。


「……やる気なんか? 本当に?」


 僕の真意を読み取ったのか知らないが。

 サイクロンは確認するように、声を震わせた。


「『何も手がないから何もしない』は負け犬のすることです。そう言ったのはあなたですよね、サイクロンさん」

「っ……ああ、俺は確かにお前にそう教えた。例え負けるかもしれねぇと思っても、魂を思い出して戦えと」

「なら」

「でもお前のそれは、死にに行く決意だろ?」

「……」

「お前のその犠牲は正しいんか? それはリスクも伴うし、何よりお前はまだ、やり残したことがあるんやろ?」

「太刀風? 何の話をしている?」


 僕と太刀風さんの会話についていけていないだろう草鍋ナギサさんはそう割り込んできた。


「ナギサ。お前は一旦、知らんくてもええ」

「……死にに行くって何だ?」

「言えない」

「は? なんで?」

「これは決意なんや。それを無下には出来へん」

「…………」


 ナギサさんはしつこく聞こうとするが。

 それでも太刀風さんは口を閉ざし、僕の答えをじっと待った。


「……僕はやりますよ」

「そうか。分かった。いくでナギサ、離れるんや」


 僕の言葉を聞いた太刀風さんは。

 納得出来て無さそうなナギサさんを無理やり連れて行き。

 猛スピードで疾風に乗り、僕から離れて行った。



――――。



 ※太刀風ミナミ視点。



「なあ!! なんだよ、どういう事だ!!」


 俺の右手を齧りながら、こいつはギャーギャーと説明を求める。

 流石に嫌気がさしてきたのもあって。

 俺は風に乗りながら勢いよく振り返った。


「落ち着け、離れてから説明したるから!」

「いいや説明してもらうね! じゃなきゃ、この手を噛みちぎる」


 実際やりかねない人だからやめてほしい。


「あぁーもうええわ!! あいつは今からちょっと無理をするんや!!」

「無理って何だよ! 無理をするくらいならっ、なんで私らが――!」

「あいつが無理して、危険になるのは俺らなんや!! だから急いで逃げとるねん!!」


 俺は言いながら、少し力んで風の力を強める。

 だがそんな俺になんてしらずに。

 彼女は怒髪天をつくように。


「はァ!? 訳ッ分からん! グラビトルの無理をするって、なに!? 私らが危険になるって何だよ!!」

「……説明しにくいんやって」


 説明しにくい。

 その言葉が全てを語っていたのだが、彼女は案の定納得なんてせず。

 食いつくような勢いで。


「じゃあ止まれよ!」

「止まれと言われても……」


 ……説明すると、こいつの性格的に。

 俺を本気で半殺しにして、グラビトルを助けに行く。

 分かっている。

 分かっているから、俺は。


「いいから言う事を聞いてくれ!!」


 強引に連れて行くことしか出来ないのだ。


 はっきり言って辛い。

 俺だって辛いんだ。

 あいつを、ミノルを失いたくない。

 あいつはまだやるべきことがあるんだ。

 でも、でも――どうすることも出来へんのや。

 あぁ、くっそ、苦しい。


 インハルトめ、とんだ役目を俺に託しやがって。



『――報告』


 突然、俺の装備に備え付けの無線からそんな声が聞こえた。

 俺とナギサはその報告に驚き、空の上で目を見開いた。


『――俺は『特別異能犯罪対策隊』隊長の如月という。

 先ほど天狗と戦った軍人の一人だ。その際、天狗の弱点について、

 遅れながらも気が付いた部分があるので報告する』


 確か、自衛隊から来た異能対策のスペシャリストだったか?

 まだ公な部隊でもない彼らが、どうした今更……。

 まて、弱点だと?


『天狗の風には致命的な欠陥がある。

 およそ『とても重く、同時に鋭い物体』に対し、

 即座に対応できないと言う弱点があると見られた。

 少なくともこれは俺の直感も含まれているが、

 今の奴の体をも貫通できる程、『規模の大きい』物があるならば、

 現時点での天狗にとって、一番有効な決定打になると予想する』


『もちろんこの情報共有が無為な物にはなるまい。

 実戦による結果をもとに話しているからだ。

 それに俺らも、必要とあらば命を捨てる気だ。

 そっちの指揮官であるグラビトルさんも、もし何か俺らが必要となれば』


『いらないよ。大丈夫』


 俺が新たに無線に流された情報について考えていると。

 そうグラビトルが、か細い声で割り込んできて、続けた。


『その情報、真偽は確かだよね?』

『ええ、勿論』

『……分かった。ありがとう。――太刀風さん、そのあたりまで離れれば大丈夫です』


 グラビトルは如月との会話を終えた瞬間、突然俺を名指しをした。

 その言葉を聞いた途端、俺は疾風を弱め空中で止まる。


「本当か?」

『はい。お気遣い感謝しています。では、キルスイッチの準備をお願いします』

「……あぁ分かっている。出来れば押させないでほしいがな?」

『そうならないように全力を尽くします』


 俺は自分の本意ではなかったが。

 グラビトルの言葉をそのまま行動に移すように。

 ゆっくりと懐に入れていたその小さなスイッチを取り出し。

 考えなしに電源をonにした。


「……準備完了だ」


 やけにその声は震えていた。

 俺だって、やりたくないんや。

 どうすればいいか、今だってずっと考えている。

 でも、でも。


「ああ、いいやろう」

『……では、――リミッター解除』


 その言葉は紛れもなく、グラビトルこと、崖土ミノルから発せられた。

 そこから俺の視界内では数秒の静寂があったが。

 ゴゴゴとなり始めた地鳴りと共に、ソレは始まった。


 あれは何か。

 俺は知っていた。














 神 創 唸 

 格 生 る

 な の 戦

 る 美 歴

 碧 し に

 碧 き 列

 の 三 な

 相 千 る

 が 世 空

 世 界 間

 の 、 。

 全

 て

 、

   そ

   う

   か

   、

   こ

   れ

   が

   宇

   宙

   か

   。








 リミッター解除、【新宇宙法則】。







 重力。

 それはまさしく宇宙の理だ。

 それを司る人間、いいや、それを操っていた超能力者は確認できる中では。

 彼しかいなかった。


 崖土ミノル。

 彼はたった3年でプロのヒーローとして名を売り。

 たった2年で大手事務所に認められ。

 たった1年でヒーローの資格を取得し。


 たった1日でリミッター解除を習得した神童である。


 たった1日、と言ったものの。

 その能力スペックに関しては目を疑う程であったし。

 またその過程もある意味予想外を極めていた。


 リミッター解除までの鍛錬は過酷であるが、彼はその工程を全て一日で済ませた訳ではない。

 あれを例えるなら、覚醒だ。

 唐突に彼の能力に異変が起こり、それを俺らは『リミッター解除』と定義した。

 だがもしかすると、あれは『無重力ノーグラビティ』の進化形態なのかもしれないが。

 あの効果を考えると、あれこそリミッター解除と定義しなければ、到底処理できない事象であった。


 それは重力を操る彼の真骨頂ともいえるし、

 あるいは、世界の超能力者の歴史に、新たな記述を残す程の事件とも言えた。

 それこそがあの、【新宇宙法則】だ。




 『能力』―― 自由に重力を発生させる事ができる




 酷く単純に見えるが、

 単純であるからこそとてつもない。

 発動後、同時に、彼の体に見合わぬ超能力であるが故に、彼は意識を失う。


 だがもし意識を失い。

 ミノルが【新宇宙法則】を制御できなくなった場合。

 彼を『停止』する為に作られ、いまその心臓に埋め込まれている専用小型爆弾を作動させ。

 ミノルの死をもってその事象を止める処置がされる。


 その爆弾の起動スイッチは『キルスイッチ』と言い、

 俺とインハルトが所持している。



「――――ッ」


 風が強くなった。

 俺の疾風とは無関係だ。

 前方、グラビトルが立っていたビルの上からだ。


「始まりやがった」


 俺は胸が痛くなった。

 だが次の瞬間、この世の出来事とは思えないほどの光景がその目に浮かんだ。


 音、酷い音だ。

 ビルが崩れるような、いいや、引き絞られるような。

 あれは――。


 巨大な影がそのビルを覆い尽くし肌で感じたのは鳥肌だった。


 グラビトルの背後に伸びてきたのは、赤と白の塗装が施され。

 131m程の長さを兼ね備えた、『とても重く、同時に鋭い物体』である。


 京都タワーだった。


「なっ!? 浮いてる?」


 ナギサの言葉通り、京都タワーは空へ浮いていた。

 そしてその刹那。


 ガッ――。


 と言う音を皮切りに、京都タワーは勝手に捻じり始めたのだった。


「……何が、起こってるの?」


 音をたてながらタワーは果物の様にねじれていく。

 ぐぐぐ、ががが。その表面は果肉を零すかのように破損するが。

 決してその破損したタワーの一部は、タワーから離れる事はしなかった。


 あのタワーをあんな凄惨な目に合わせているのは、ミノルだ。


 重力を自由に発生させ操ることが出来るとは。

 この地球上の地形を変えたり、物を変形させることが可能だと言う事。

 知っていた。俺はこうなることを予想していた。

 その産物こそが俺の手に握られているスイッチだが。

 それでも、それでも。

 現実離れしすぎだ。


 いずれ空に出来あがったのは、『とても重く、同時に鋭い物体』を体現した様な。

 131メートルの、鋭い三角形の物体であった。


「撃ち込め」




 思わずそう呟いた瞬間。

 三角形の物体は急速に移動し始め、途端に姿を消し。

 ひとたび瞬きをして怪鳥を見ようと、視線を動かすと。




 既に怪鳥なんてものは浮遊しておらず。

 あったのは、爆発する瓦礫が、京都の都心に落下する様であった。









――――。



【京都駅 天狗関連の大規模戦闘についての報告書】


 死者12名。

 重傷者28名。

 軽傷者231名。


 内密に捕らえられていた天狗により起こった戦闘であり、戦闘には『重力ヒーロー』グラビトル『疾風ヒーロー』サイクロン『娯楽ヒーロー』けんだマン『■■■■■■■■■(機密事項)』も戦闘に参加し、結果、天狗のリミッター解除へ繋がる。リミッター解除での被害規模は3km先までに及んでおり。復興については政府から支援金などが既に手配済み。全ての被害に置いて妥当な対応が行われています。天狗は『■■■■■■■■■■■■■(機密事項)』により撃沈。その身柄は公安にて捕縛され、10月4日に国際超人刑務所『ハルベリドルバ』へ輸送予定。







 追記。


 10月4日、天狗輸送作業中に襲撃が発生。

 確認されたのは『八岐大蛇やまたのおろち』と鬼族傘下とみられる『信堂組』であり。既に天狗、八岐大蛇やまたのおろち含む数名は消息を絶った。この事態に政府は公安へ難色を示し、今一度輸送中の警備について見直すと表明した。結果的に、戦いによって天狗は拘束されたが。その後、天狗は八岐大蛇やまたのおろち一派により逃走したとみられる。天狗から得た情報は僅かではあるが、3年前の未解決事件、プロヒーロー殺害事件についての証言があった事が見られている。この件は捜査本部へ送られ、今後も再度検証が行われるであろう。




 以上。



――――。


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