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俺のルームメイトはスーパーヒーロー  作者: 夏城燎
第二章 赤と白い羽編
31/35

第二十九幕 「完璧すぎた作戦」





『速報です!! 現在、京都駅周辺にて大規模な戦闘が起こっている模様です。

 近隣の住民の避難も間に合っていない状況で、現場は緊迫とした空気の中――』


 黒煙が上がっていた。

 ビルが一棟、倒壊していた。

 所かまわず黒煙が伸びていて、ついにニュースでは。

 『死傷者』という単語が並び始めたときだった。


 京都駅を中心に勃発しているその戦闘は。

 誰しもが目を疑い、誰しもがその存在に、恐れおののく程に。


 果てしなく規格外な物であった。





 数分前。


 ※崖土ミノル視点。



「つい数時間前に警察に殺されかけたのに、もう信用したんやなぁ」


 眼前の男、天狗は籠った声でそう言う。


「そう、どのみち君と接触するには協力が必要だったからね」

「はっ、強がりを。また捨て駒になりに来たんか。よく信用できるな」

「信用なんてしてないよ。ただ、利用しているんだ」


 警察への信用はもうゼロに等しい。何せ機関銃を向けられたんだ。

 その事については正直怒っている。

 後々、然るべき対応をしたいところではあるが。

 今それについて怒っていても目的を達成できないと判断した。

 

 だから僕はまだ協力体制を貫いている。


「さっきの部隊は何や?」

「秘密兵器だそうだよ。君を逮捕するか殺す事を条件に、実戦投入された」

「あの妙な『如月』とか言う男も、それに他の『永久リスポーン雑魚』も噂でしか聞いた事がない幻の兵士やったはずや」

「幻じゃなかった。簡単な話だろ。それに、今言っただろ? 逮捕するか、殺すことが条件だって」


 言いながら、僕は両手のシューターの調整を終え。

 再起動と共にベンチから立ち上がった。

 そして天狗へ歩み寄る。


「そんな0か100の条件をのんだんか? 案外浅はかな考えをしとるんやな」

「そうかな? とても意味のある投入だったと思うけど?」


 僕は天狗が右手で抑えている。

 腹の刺し傷を見つめながら言う。


 すると天狗は、僕の視線を察知すると。

 鼻で笑った。


「この程度のハンデがなんやって?」

「人間はゲームの様に傷がすぐ治らない。例え軽傷でも、ほっとけば重傷になる」

「まだ気づかんのか? ボクが全力の滑空を見せたら、例え飛行機でも追い付けへん」

「分かっているさ。だからこその、時間稼ぎなんだから」

「……は?」


 僕が言葉を発した瞬間。

 天狗の全身に浴びせられたのは、強い音波攻撃だった。


「っ!? 何もんやああ!!」


 天狗め、普通の人間があれを受けたら白目むいて気絶するのに。

 流石だな。


 天狗はふらふらとしながら、しっかりと攻撃されたと理解し。

 僕から見て左側へと振りかえる。

 その先、15メートル程離れた場所に立っていたのは。

 僕の予想通りの増援であった。


「なぁに、タダの女ヒィーローだ。だが、タダのヒィーローじゃあないぞ、天狗ゥ!」


 ドドン。

 太鼓の音が、駅に広がる。

 そこに立っていたのは、一人の女性ヒーロー。


「如何にも、大阪随一のスーパーヒィーロー!! 『けんだマン』とはぁ、私の事さァ!!」


 アイマスクを着用し、

 緑のエプロンの下に肌の大部分が露出している服を着ており。

 その長いポニーテールを振っているその人物は。

 大阪のヒーロー『けんだマン』であった。


「……ははっ、君がいるのは知っていたけど、まだ大阪に帰ってなかったんか」

「あ? あの有名人に認知されてたとは驚きだな! ま、私はあの『疾風ヒーロー』とか言う役立たずよりかは戦えるぜぇ?」

「そう言えば見ないと思っとったけど、あの『疾風ヒーロー』はどこにおるん?」

「サイクロンはお前との相性が悪すぎたんだ。ので、今は後方支援に回っているよ」


 と、僕が天狗の疑問に捕捉を入れる。

 すると天狗はそこまで興味無さそうな一瞥を送り。

 僕の方へ視線を戻した。

 何だ、太刀風さんが不憫だろ。


「ははっ……なら、ボクの敵は二人ってことやねぇ?」

「まあそうだね。それじゃあ、大人しくしてもらおうか」


 僕は言いながら、自分の体に無重力を適用させる。

 そして両腕に力を籠め、戦闘態勢へと入る。

 けんだマンも同時に手持ちのでんでん太鼓を振りながら。

 腰の小さなケースに手を突っ込んだ。


 始まるのは戦い。

 決別か、それとも変化か。


「………」

「――――」








「――巻鳥騒音超音波(ぴろぴろうるせー砲)!!!」




 空間を叩き、けんだマンが咥えた巻鳥がその音波を放つ。

 しかし二度目の音波攻撃に天狗は対応し、すぐさま羽で上空で飛び上がった。

 僕は羽を広げたタイミングを逃さない。


「おっ!? 今度は当ててきよったか!!」


 僕は自分のワイヤーを天狗の羽に吸着させた。

 僕のワイヤーの先は超強力な吸着パッドで出来ている。

 シューターから勢いよく発射され、

 何かと接触することで命中した物にくっつくのだ。


「ッ――」


 天狗は僕を吊るしながら空を飛び始めた。


 風、風が強い。

 いいや、強いけど、そこまでの風圧は掛かっていない。

 まだ耐えれる。


「一緒に空の旅を楽しむでぇ~!」


 グランと天狗は一回転し、

 ぶら下がっている僕で遊びながら、

 ビルの合間を物凄い勢いで滑空を始めた。


「目が……回る!!」


 空を泳いでいる気分だ。

 何も気持ちは良くないけど。


 でも問題ない。

 どちらかと言うと計画通りだし。

 実際、問題なのは天狗の方だ。


 僕は今、自分の体に無重力を適用させている。

 そしてその状態で天狗により、横方向へ加速するとする。

 ならその加速を維持したまま、無重力を切るとどうなるか。


 僕が今羽にぶら下がっていられるのは無重力であるからだ。

 何故かと言うと、無重力状態の僕は『体重』がないからである。

 本来天狗が一般男性一人分の体重を持ち上げれるなら別だが。

 少なくとも急激な重さの変化に、すぐ対応できるか?


 そう、僕らの計画はこうだ。




『天狗を空へ飛ばせない事』




 天狗にとって空は自分の庭、

 今このように僕が空で遊ばれているので、説明は要らないと思うけど。


 僕ら側は今、僕らの手札に天狗と同等の飛行能力を有したヒーローがいない。


 僕じゃなく『ムジーク』のウィッチ・ベラトリックスさんがいれば話も変わったんだが。

 ……まぁ、もしもの話は置いておいて。


 少なくとも今の僕らでは、空を自由に飛べる天狗に対抗策がない。

 ヘリや飛行機などの機体も警察からの候補にあったが。

 しかし、実際に天狗は自らヘリを落とし、『その気になれば飛行機と並走できる』とまで豪語している訳で。

 とどのつまり、そういう乗り物で戦闘における優位は取れないだろうと言う考えだ。

 だからやはり必要だったのは、

 本当に空を飛べる、『飛行能力』があるヒーローだったんだが。

 もちろん一筋縄ではいかない。


「――――」


 天狗はそれだけじゃない。

 あいつは空を飛べるが、それが奴の恐ろしい所ではないのだ。

 真に恐ろしいのは、『風』を操る事だ。


「――――ッ」

「もうそろそろきついんやないの~?? グラビトル――ッ!!」


 叫びながら天狗は空にその笑い声を響かせ。

 ぐるんと二度回りながらビルへ僕をぶつけようと体を傾けた。


「ッ!!」


 僕は足をビルの壁へ向け、

 自分のシューターについているスイッチを押し。


 ――『サポートアイテ』ハイパークッション!!


 シューターから打ち出されたカートリッジは。

 瞬時に巨大なクッションへと変化し、僕の全身を包んだ。


 このハイパークッションはいつも、スピードを出し過ぎた時に使うサポテムだ。

 それも僕の為の特注の品であり。

 中身は僕も知らないけど。

 聞くところによると。

 高い技術が使われているらしい。


 そのおかげか、ビルへの衝突にさほど被害はなかった。

 でも流石に全身が痛い。

 クッションへ突撃したからとはいえ、衝撃自体はあった。

 だがそのままその場で止まっているのは危険だ。

 まだ天狗の羽に僕のワイヤーは付いている。

 だから早い段階で、ビルの側面へ移動しよう。


 僕はビルの側面へ両足を付け、天狗の滑空と共にその側面を走った。


「おやぁ!? 生きとったんかグラビトルゥ!」

「まだまだ現役だ!! 殺さないでもらいたいね」


 翼を羽ばたかせながら天狗は空から僕を見て、そう笑った。

 残念だったね。僕はまだ生きてるよ。


「――――」


 だがやられた。

 勢いを付けた状態で無重力を解除する手はずだったが。

 一度自分の身を守る為に勢いを殺した。

 それにハイパークッションは一度っきり、もう残弾は残ってはいない。

 次にビルへの衝突を狙われたら、一巻の終わりだ。


 でも今のスピードではまだ決着をつけれない。

 まだなんだ、まだまだ。


 もっと天狗にはスピードを出してもらう必要がある。


「おらっ!」


 僕は駆けていたビルから全身を投げ出し、

 再度天狗に引っ張られる形となった。


「……そろそろ空の旅は終わりなんじゃないかい?」

「何言ってんのや~! 声小さくてなんっも聞こえへんで!!」

「聞こえるように伝えてないからね」

「ははっ、じゃあ独り言かァ?」

「残念、それも違う」


 そう、僕はただ、ヘルメットに仕込まれた無線に向かって話しているんだから。


「――――」


 来た。


 ドンドン。

 太鼓の音が遠くから聞こえている。

 だがその音はどんどんと大きくなっていき、

 気が付くとその音は。


「はは!!」


 僕らの目の前のビルの屋上で、仁王立ちをしていた。


「なんやあの女、ボクらのスピードについて来とんのか?」


 天狗が彼女を見て、そう疑問を口にする。

 いいや、彼女、『けんだマン』自身にそんな力はないよ。

 だが彼女の能力にはあったんだ。





 『でんでん太鼓』

 使用効果、叩けば叩くほど身体能力が向上する。





「不思議な能力やな、まるで予想ができん。まあだから異能上達者ハイレベルなんやろうけど」


 天狗は一度静止し、けんだマンと会話を始めた。


「もしかして私の話をしてるのか!! それはとても光栄であり喜々とすべきだなぁ!! とはいえ、悪党ヴィランに私の事を話されてもそこまで嬉しくないが」

「そんなぁ、悲しいな。嫌われるようなこと、したっけな?」

「お前の存在自体が邪悪だ!! この悪魔が!!」

「ははっ、酷い言われようやわ。まあええ、分かり合えるとは最初から思ってへんし――風式、斬風!!」


 技名だろうか。

 それを天狗が口に出した瞬間、目に見える形で風が動き。

 それはおおよそ、車並みの速さでけんだマンへと向かった。

 ……お、おかしいな。

 如月さんの無線の報告によると、『斬風』という技の弾速は遅い。

 と言う話だったんだけど。

 変だな……あの人の遅いの感覚が変なのか?


「――『あずきシールド!!』」


 斬風がけんだマンに到達する直前。

 腰のケースに手を突っ込み、取り出したのは。

 ――アイス棒だった。

 それもあの『あずきバー』だ。


 名前、『あずきシールド』と唱えたその刹那。

 殆ど一瞬で、その小さなアイス棒は巨大化し。

 けんだマンの姿を隠すと共に、斬風をその身で防いだ。


「なんやそれ!! おもろいなぁ!!」


 天狗は空中で、大爆笑する。

 あずきバーがそういうアイテムなのは確かに面白いけど。

 そこまで笑う?


「ははは!! お前にだけは思われたくない!! 私と同じ感性しているのが不快だ!」

「そんな偉くハッキリと言わんといてや。男なんだから、冷たくされると悲しくなる――で!!」


 天狗はそう言いつつ、また同じような風を同時に4っつ生成した。


「もうそれ意味ないだろ! それか、それしか技がないんか!?」

「な訳ないやろボケビッチ――ボクが言っとったこと、思い出してみ」


 天狗が繰り出した4っつの風は、その瞬間。

 けんだマンの至近距離まで近づいて。


「な!?」


 曲がるように、気流が変わるように。

 その4っつの風は宙を舞い、彼女すら無視して。

 次の瞬間、その風の舞は。

 周囲にあったビルへと、それぞれが激突した。


「――天狗ッ! お前え!!」


 思わず腹から声を荒げた。

 でもそんな天狗は、半笑いになりながら僕を見下ろし。


「まだ避難は十分やない。そんなこと、下の慌てようをみれば一目瞭然やねぇ?」


 実際、この空中から地上を見下ろせば。

 下には回る赤色のライトと共に、人々が逃げているのが見て取れる。

 ――避難誘導。

 警察と自衛隊、そして付近のヒーローが行っている。

 だが天狗がこのまま空を飛び続ける限り。

 被害範囲と言うのは拡大する。


 くそ、先を越された。

 いいや、時間を掛け過ぎたんだ。

 もっと効率的に考えろ。

 どうすれば天狗にスピードを出させることが出来る?

 ……どれだけ考えても僕ができる事はない。


 ああもう、無力さが嫌になる。


「――――」


 いい。仕方がない。

 割り切ろう。

 今はそういう、『邪念』に心を奪われている暇はない。

 専念しよう。僕の作戦に。


「けんだマン!! 羽を狙え!」

「了解さぁ!」


 僕の大声と共に、けんだマンは腰からまた新たな玩具を取り出す。

 それは一つの――けん玉だった。


「はっ、ボケビッチの技は見てみたい好奇心がある。でも、まあそんな好奇心は捨てるべきやな」


 天狗は言いながら、また羽で移動を始めた。


「ぐっ」


 グラッ。

 また引っ張られると共に、空を自由に泳ぎ始める。


 くっ。けんだマンの攻撃はまだ始まっていない。

 だが彼女しか頼れる人が居ない。

 僕だって本当は天狗を追い詰めたいけど、

 こいつが地に足を付けてくれなければ、僕は何も出来ない。

 ……それか、もう『死ぬ気』になるか?

 いいや、それをしたとき、周りの被害を考えると頭が痛くなる。

 それは最悪の場合に使う最終手段だ。


 ポン。


「ん?」


 ポンポン。


 音が聞こえる。

 小太鼓の音? でも僕は空を飛んでいる。

 何だ? どういう音だ?


 ポンポンポン。ポンポンポン。


 この音は。

 どこかで聞いた事がある。

 どこか、遠い昔。小さな時に聞いた事がある。

 ――いいや。違う。


 さっき聞いたんだ。



「なァ天狗!!」


 その瞬間だった。

 天狗の頭上、登って来た太陽に覆いかぶさるように高く飛んだ人影が。

 そう勇ましい声色で天狗の名を呼んだのだ。


「追って来よったか」

「小太鼓って鳴らせば鳴らすほど、楽しくならねぇか!?」


 その声の主はそう言い。

 影はどんどん飛んでいる天狗へ近づいていく。

 そして何の前触れもなく。

 衝撃はやってきた。


「グッ!?」


 巨大な赤い球体が、突然視界に現れ、上から落ちて来た。

 その赤い球体に天狗は進路を大きくずらされ、

 空中でよろつきながら目の前のビルの屋上へ両足を付けた。


 僕も同じくビルの屋上へ全身を叩きつけた。

 体に衝撃が走った。

 主に背中で受け身と取ったので、背中が変に痛かった。

 でもやっとの思いで視線を上に向けたとき。


 天狗がお腹の傷口を抑えながら、空に向かって呟いた。


「……はっは、流石は異能上達者ハイレベル。一味も、二味も癖があって、そのくせ」


 その視線の先には、知っている影が空で立っていた。

 そう――『空に地面があるかのように、直立していたのだ』。

 彼女はその手に、小さなけん玉を握り。

 もう片方の手には巻鳥を握って。


 そしてその顔には、『大昔、テレビ番組で放送されていた「覆面ライダー」』の仮面を付けていた。


「……そのくせ、手強いのぉ」


 お祭りで発売されているようなお面。

 それを被った彼女――けんだマンは、持っていたけん玉を僕らへ向け。



「さあ楽しめよ。もっと玩具で遊ぼうぜ?」



――――。



 けんだマンの猛攻は激しさを増していた。


 今現在。

 けんだマンは『でんでん太鼓』で強化した身体能力と。

 あの『「覆面ライダー」の仮面』による相乗効果により、

 ビル間を足だけで跳躍し移動する。

 超人的な離れ業を披露している。


「くそっ」

「――――」


 僕は天狗に繋がれたままであり、

 こいつとずっと一緒にビルの間を飛行しながら逃げている。

 そう、逃げている。

 要するに、逃げなければいけないような状況なのだ。


 けんだマン。

 彼女の底力は早めに想像を絶していた。

 確かに多少なりとも被害を無視し、僕が天狗にぶら下がっていても、手加減をしないで欲しいと伝えていたが。

 ……ここまでとは。


「どこへ行くんだい天狗くん。逃げても逃げても速さは互角なのに」

「お前おかしいやろ!! なんで脚力だけでボクについてこれんのや!」

「楽しんでいるからさ。お前もでんでん太鼓の楽しさを思い出せば、分かる!」

「分かるかぁ!」


 ビルを破壊しながら繰り出される『けんだモーニングスター』は。

 恐ろしいスピードで天狗の進路に伸ばされる。

 流石の天狗も被害ガン無視の彼女の猛攻に、慌てふためいていた。

 建物の被害で脅していた天狗だが。

 今は立場が逆になっていた。


 それにけんだマンは更にパワーアップしていた。

 あの仮面のおかげだろう。


 彼女の能力は『自身が楽しいと思った物に特有の特殊能力を付与する』のだが。

 その対象は多種多様であり。

 あの仮面もその一つなのだろう。


 昔の覆面ライダーの仮面なんだ。

 きっと彼女は今、昔のあのテレビ番組を思い浮かべている。

 それが彼女にとっての『楽しい』記憶。

 本当、面白い能力だ。


「――っ」

「グラビトルもそろそろ離れてくれへんか!? ちょっとお前のせいで飛びにくいんやって」

「お生憎、僕はまだ、この空の旅を降りるつもりはないよ」

「強情な奴め」


 このまま天狗が逃げ続ければ、速度を稼げる。

 現に今の速度でも大分いい感じだ。


 しかし、やはり決定打が足りない。

 彼女の追い上げは凄まじい物だ。

 けんだマンは今、持てる力をフル活用し天狗にスピードを出させるために死力を尽くしている。

 だがやはり足りないのだ。

 思っていた通りではあるが、そろそろ僕の体力も危なくなってきた。


「次で決めます」


 僕は小声で、そう無線に伝えた。


「了解だァ!」

「分かった」


 次で決める。

 もう一押し、けんだモーニングスターの攻撃と共に。

 僕らの作戦はついに実行へと移る。


「――――」


 来る。


 赤く大きな球体が、僕の顔面に影として通過し。

 その球体は空を飛んでいる天狗へと近づき。

 天狗はまた体を大きく揺らしながら。


 その巨大な球体を。

 急降下することでよけ。

 ビルの間を直進する。


 第一フェイズ。

 天狗を急降下させる。


 出来るだけ地面に近い方が成功する確率は高い。

 それにこの作戦は一つでもミスれば、成功する確率がぐんと下がる。

 それほど緻密で難しい作戦だ。


 第二フェイズ。

 少し広い場所への誘導。


 誘導については概ね成功していると言える。


 広い場所であればどこでもいいので、

 そこはほぼ現地民の太刀風さんに誘導してもらった。

 だが、まさか今から通過する広いエリアが――この京都駅だとはね。

 いつの間にか空の旅は『始まりの地』へ舞い戻っていたらしい。


 さて、今太刀風さんの名前が出たと言う事は。


 第三フェイズ。


「ッ!?」


 天狗が驚きの声を上げ。

 喉が絞められたかのような嗚咽をあげた。

 やっと大通りへ出て、丁度八条通を飛行していた時。


 右側の小さな小道から、

 標識が吹っ飛ぶほどの何かが向かってきた。


 ――風。

 いいや、突風?


 違う、

 もっと強く。

 体がよろめく程の。

 強風。



 ――疾風だ。




 第三フェイズ。

 『疾風ヒーロー』サイクロンの強襲。



「お前!?」


 天狗は小道から現れた『疾風ヒーロー』を見て驚きの声を上げる。

 そんな『疾風ヒーロー』は、


「敵の言う事を信じるとは、経験不足が目立つでぇ? 天狗の坊や」


 そう決めセリフを堂々と吐きつけた。


「――――」


 僕の推理では、天狗は飛行時、『風』を利用している。


 それは昨夜。

 あの場で。

 壁の穴から落下した天狗から感じ取ったことだ。


 あの時天狗は、わざわざ一度ビルから落下し、その後に飛び上がっていた。

 その時僕は、その行動に意味があると感じた。


 何故飛べるのに。

 最初落ちたのか。

 簡単な話、『飛ぶために準備が必要だったから』だ。

 恐らく奴は、羽だけだと滑空することは出来ない。

 ならばどうやってあいつは飛んでいるのか。

 ――答えは『風』だ。


 風を掴む為にあいつは最初、外で『風を掴む』必要があった。

 その際に便利なのがあの羽であり、

 あれは動かすだけで風を生み出すことが出来る。


 まとめると、

 天狗は『風で飛行を可能に』しており、

 その風も『掴むのに時間がいる』と言う事。


 ではその推理の上で考えてみよう。

 天狗の弱点とは何か。



「――風を掴めなくなったその瞬間、それがお前が一番隙を見せるタイミングだ」

「まさか、貴様ッ」



 操っていた風が、突然吹き始めた疾風によって飛ばされる。

 風は流れるもの。

 だからこそ、突然気流が生まれたのならば、それに流される。

 海と同じなのだ。


 だから自ずと。

 突然の疾風が起こった時、

 天狗を飛行させていた風は。


 コントロールを失う。


 今だ。


 僕は自分の無重力を解除した。


 グン。


「ぐあ」


 人ひとりの自重が、天狗に伸し掛かる。

 突然の重さに天狗は、

 勢いを付けて落下した。


 それに周りには自分を浮かせられる程の風もない。

 風も掴めない。

 もう後は、落ちるだけ。


 僕は天狗と共に地面へ衝突する前に、

 自分の体にもう一度無重力を適用させ。

 天狗に付着していた吸着パッドを外した。



 天狗は地面へと落ちた。

 道路のど真ん中へ落下し、天狗は全身を強打した。

 彼も少し可哀想だ。

 お腹から出血をしていると言うのに。


 完璧で逃げようのないこの作戦で。

 しぬほどボコボコにされたのだから。

 不憫でしかない。


 だから、最初から僕らともう一度接触しようとしたのが間違いだったんだ。


「――――」


 僕も自分で驚いているよ。

 『誰かを貶めると言う事に関して』。

 僕の知略はとても有効であると言う事に。



「ふッ、ざけんなあああああ!!」


 地面に落下した天狗は、自分の白い羽を大きく広げ大きく叫んだ。

 まだ起き上がれたんだ。

 まあ予想通りだった。


 予想通りだから、もう手は打ってあった。


「おらっ!」


 太刀風さんは、銀色に光り輝く小さなものを天狗に向かって投げた。

 その小さな銀色の物は、太陽の光を反射しながら。

 時折見せる水色の光から。


 その銀色の正体が『ダイヤモンドが付いた結婚指輪』だと分かった瞬間。


「――――」

「……は?」


 結婚指輪をキャッチするように『瞬間移動』してきた『草鍋ナギサ』が。

 右手で指輪を握り。

 その口を開いた。


「――結婚指輪瞬間移動(ラブリングテレポート)!!」

「「はぁ!?」」


 まさかの技に僕と天狗は声を荒げた。

 結婚指輪を使った移動……。初耳だ。

 しかしその刹那。


 ――けんだマンはその手に握った『おもちゃのレーザー銃』を。

 天狗へ向けてニヤリと笑った。


「安心しな天狗、殺さない程度に調整しているさ!」

「――――」








 その眩く閃光が、早朝の京都駅に向かって発射された。



騒音輝超激光線銃(寿命短く銃口が動く銃)――ッ!!!!」



 轟音と共に激しい地鳴り。

 そしてその場に響いたのは、決して派手ではなく、とても陳腐な。

 光線銃の「どごーん」と言う音だった。



――――。



「………」


 荒廃したその場所は。

 元はと言えば栄えた土地であった。

 人で溢れ、富を築き、誰かの、何かを支えていた。

 そんな土地であった。

 そんな場所であった。

 建物であった。


 ほとんど半壊してしまった京都駅の前で。


 僕は天狗をやっと発見した。


「おまえ……後でお偉いさんに怒られるやろ」


 瓦礫の上で空を仰いでいるボロボロな天狗が、そう呟いた。

 光線銃の衝撃のせいだろうが。

 あの特徴的な天狗の面がどこかへ飛んで行っていた。

 そして、今まで目を隠していた前髪がぐちゃってなっていて。始めて見る片目がその隙間から覗いていた。


「もちろんそうだよ。ここまで被害を出したんだ。怒られる程度じゃすまないだろうね」

「……はは。職を失ってまでも、ボクが嫌いやったんか?」

「嫌い? そんな訳ないよ。ただ僕らは、お前を助けたかったんだ」

「…………理解できんな」


 天狗は細々とした声で言いながら、

 重そうな片手を自身の両目に当てる。


「理解されなくてもいいよ。っていうか、他人ってそういうもんだろ?」

「そうなんか。へぇ、知らんかったわ」

「……やっと、七式婆からの伝言を伝えれるよ」

「もう好きにしろよ。そこまでボクを助けたいなら勝手にしてくれ。もう、もういいよ」


 天狗はやけに落ち込んだような声色で。

 自暴自棄になったかのような言葉を吐いた。

 まあ申し訳ないなとは思っているよ。

 大分一方的な戦況で、本当にボコボコにしてしまったんだ。


 最初に京都駅へ強襲さえしなければ。

 ここまで酷く天狗は追い詰められなかった。

 そこで受けた腹の怪我のせいで、地上で戦えなくなった。

 怪我をしているから近距離戦での負ける可能性が高かった。

 それを天狗は理解し、合理的に空へ逃げた。


 そこが僕の狙いだった。

 僕らの作戦は。

 空中で行う事が前提だった。


「――――」


 自暴自棄になっている彼を見ながら。

 僕は、七式婆の少し長い伝言を思い出した。

 そして彼に伝えようと。

 小さく息を吸いこんで。


 まずは、告げなければならない事を告げた。


「まず言っておくけど、七式婆は気がついていたよ」

「……何がや」

「君が天使だってこと」

「……へ? なんでや?」


 僕の言葉に天狗は信じられなさそうな声を出す。

 もしかして、気づかれていないと思っていたのだろうか。

 まあ改名していたし。

 実際、七式婆以外の人は。

 『天使の今』について、真実に気づいている人は居なかった。



 でも七式婆は違った。

 そう、あの日。



――――。



「なぁお前さん、まさかとは思うがぁ。今悪名を轟かせとる天狗って、あいつなのか?」

「………」


 天使の過去の話を聞かされた後だった。

 僕がお礼を言い、お茶屋を立ち去ろうと立ち上がったその瞬間。

 七式婆は震えた声でそう聞いて来た。


「もしお前さんが天狗について聞いとるなら、あいつと関連があるって事なんだろ?」

「………」


 僕は何も言えなかった。

 彼女は、七式婆は後悔していた。

 天使を放っておいた事を、今まさに後悔していると。

 今まさに彼を救えなかったと。

 そう嘆いたのだ。


 だから迷った。

 真実を伝えるべきか。


 でもやはり、老人は凄い。

 僕が迷っていると、

 僕のその無言を、肯定と捉えた。


「……そうかい」

「えっ、大丈夫ですか!?」


 七式婆はそう認識すると。

 ガクッと足を崩し、畳に座った。


「いいや、薄々気がついていたことさ。あたしはあいつの闇の部分をみとった。その闇の部分と、あの天狗は、似てたのさ」

「そんな……そんなこと」

「分かるさ。分かる。いいかい? 言わせてもらうけどね。あいつと天狗はきっと同一人物さ」

「……!?」

「あたしがそういっているんだ。あいつを知っている、あたしがそう言っている。信じるだけの価値はあるとは思わんか?」


 そう訴える七式婆の目には、大粒の涙が溜まっていた。


 どう、形容すればいいのだろうか。

 分からない。

 分からないけど。

 胸が引き裂かれそうな思いが、僕の胸に残った。


「いいさ、いい。分かっていた。分かったいたさ。なあお前さん」


 ぐっと、僕の服を両手で引っ張って来た。

 まるで子供の様に必死な瞳を見せ。

 ぐっと堪えて苦しそうな顔を覗かせながら。


「あいつを、助けてやってくれ」

「――――」


 シワくちゃな手で。

 シワくちゃな顔で。

 心底そうして欲しいような、懇願な瞳を浮かべて。

 七式婆は似合わない涙を流して。


「お前さんに、言伝をたのめんか?」



――――。




「……ははっ、そうかよ」


 僕は託された。

 あの人が叶えられなかった。

 救いたいと言う気持ちを。

 助けたいと言う懇願を。


 また一緒に居たいと言う願いを。


 願い。

 願いだ。


 僕は自分の胸で握り拳を作りながら。

 震えた口で叫んだ。





「――自己完結しすぎだ。どら息子が!」

「……ッ!?」





 天狗は僕の言葉を聞いて、はっとした。


「いいかい? 人は他人に頼ってこそなんだ。それを教えてくれたのはお前だろ!」

「……はっ? は? なにいってん」

「生きる事で大事なのは、一人になって思い悩むことじゃぁない」

「………」

「ほんっとうに大事なのは、『他人を傷つける覚悟』をすることさ!」

「――――」

「お前は、優しすぎる。……でも馬鹿さ、大馬鹿ものだよ。他人をこれっぽっちも信用してない」

「――――」

「いいかい? 自分が嫌いなのか知らんけど、よくお聞き。『お前がお前を嫌いでも、あたしら花見小路のみんなはお前が大好きだった』!」

「――――――ッ」

「……お前の事が大好きで、信頼していた。お前が、どれだけ臆病で孤独だと、自分を卑下しとっても」

「っ―――ッぅ―――!」

「お前の味方は、ここにいる!!」


 だから――。


「『他人を傷つける覚悟』をしろ! でなければお前が、楽に生きられる事は一生ない!」


 僕は感情を籠めて。

 拳を震わせながら、心拍数を高めながら。

 涙を流しながら。

 伝えた。

 心よ動け。届け。

 願いよ届け。


 戻って来い。天狗。


「っ……!!」


 お前はこんなにも愛されているんだ!

 辛いんだろ!

 苦しいんだろ!


「――――」


 どうしようもできない絶望が。

 お前にあったとする。

 でも、お前は、愛されている。

 誰かにこんなに思ってもらえている。


 なぁ天狗、なぁ天使、――なあお前!


「――悔しくねぇのかお前ぇ!」


 僕は片手で天狗の胸倉を掴んだ。

 そして僕は、自分の唇を噛みながら。

 天狗の顔面を直視して。


「なあ天狗。お前にどうしようもできない絶望があったとする。それを一人で抱えるのは確かに辛い。苦しいさ。そんな事僕でも分かる。だからお前は偉いよ。……でもさぁ、お前は愛されているんだ。お前は本当にお前が嫌いなのかもしれない。お前はお前が大っ嫌いなのかもしれない。 ――でも! でもお前は、確かに愛されてるんだよ! 人間なんだ、誰しも完璧じゃない。人に寄りかかってもいいんだよ。人に頼ってもいいんだよ」


「ひッ……ぐっ、ウッ!」


 僕は自分が何をしているか。

 分かっていなかった。


 でも、胸に溢れるこの激情が。

 きっとあの時、七式婆から託されたこの激情が。

 僕の体を突き動かした。


 体裁なんていい。


「不格好でいいんだよ!」


 愚かでいい。


「迷惑かけてもいいんだよ!」


 誰かを傷つけてもいい。


「謝ればいいんだ!」


 何でもいい。


「お前は分かってなさすぎるんだ。何もお前は、お前は悪い奴じゃない。なんでそんなに」

「――――」


 ふと、勢い余って、彼の顔を隠していた前髪が動いた。

 その時初めて。

 僕は天狗の今まで晒してこなかった素顔を。

 初めて直視した。


 ……なんで今。

 そんなに苦しそうな顔してんだよ。

 なんでそんなに死にたそうな顔してんだよ。

 なあ天狗。


「――――」


 お前は人間なんだから、

 人間なんだから。


「お前は生きていいんだよ!」

「――――」


 僕の言葉には深い意味なんてない。

 ただのド直球な単語だった。

 でも、それを聞いた天狗は。

 その両目に、大粒の涙を溜めていた。


 人間なんだから、生きてていいんだ。


 色んな人が居る。

 色んな物がある。


 始めようよ、また、知って行こうよ。






 お前も【救われたい】って思ってもいいんだよ。








――――。



 僕が籠った熱を冷ましたころ。

 やっと警察が現場に到着したらしく、サイレン音が聞こえて来た。

 まだそこまで時間は経っていない。

 僕らはその静かな場所で、朝日を見ていた。


「グラビトル。話したいことがある」


 そんな時、僕の背後で一人の男が口を開いた。


「どうしたの?」


 僕は振り返り、素顔が完全に明らかになった天狗を見つめる。

 すると天狗は点を仰いだまま、口を動かしていた。

 もう彼はボロボロだ。

 腹からずっと出血しているし、光線銃の威力もとてつもなかった。

 瀕死といえよう。

 でも殺すつもりはない。あくまで僕らの目的は捕らえることだ。

 なので僕は軽い手当を施していた。


 そんな中だった。

 天狗が僕を呼んで。

 そう言ったのは。




「3年前の、プロヒーロー殺害事件に関して。話したる」




「は?」


 何を言っているか一瞬分からなかった。


 彼は。

 天狗は。

 僕に何という言葉を投げかけたのか。

 早々とつかめなかった。

 例えるなら、右耳から入って左耳から出るかのように。

 そのあり得ない言葉は。

 あり得なさすぎて。

 僕の頭を通過した。


 でも、意味はなぜか理解していた。


「……突然どうした? なんでいきなり、僕にそれを」

「これは必要な事なんや」

「……はぁ?」

「必要な事で、やらなければならない事。ボクにとってこの使命は、大事な生きがいなんや」


 何を言っているのか分からない。

 それはだけはずっと一貫していた。


「グラビトル。よく聞けよ。これが今回、お前を呼んだ理由だ」

「――――」


 でも嫌と言う程、天狗の言葉の意味が、あり得ない程。

 すらすらと頭に刻まれたのだ。

 それはまるで、本能のように――。







「3年前のプロヒーロー殺害事件の実行者の名は【酒呑童子】と言う幹部や」








 声が聞こえた。

 ああ、聞こえた。

 言葉も読み解けた。

 今度はきちんと、耳から抜けることなく。

 頭の中で言葉が反射し。脳みその中に浸透した。


「………」



 つまり、僕の敵はその【酒吞童子】ということ?



 そいつが、3年前、僕の親を殺した。

 あんな無残な、あんな残酷な、あんな非道な。

 希望だったヒーローを。

 光だった英雄を。

 全世界に中継しながら、ぶっ殺した最低は。


 その、酒吞童子という幹部ということ。




「――――――――」




 どうやら未来、

 会う人が増えたようだ。




「おい!!」


 僕がひとりでに頬を緩めていると。

 天狗が突然、叫んだ。

 そして必死な声で。


「小指上げとるやないか!! 目ぇついてないんかクソカラス!!」


 カラス。

 その言葉を聞いた僕は、途端に嫌な予感が全身を走った。

 すぐさま僕は周りを見まわす。

 瓦礫、瓦礫、瓦礫。

 だがその途端、視界に映った黒い影が。

 形を作って。


「――なんでこんな所にカラスが?」

『――あらまぁ』

「ッ?!」


 声。

 声が、知らない女性の声が頭に響く。


『その声はグラビトルじゃないか。奇遇だね。どうやら聞いていたよりも直感がいいらしい』


 そう、そのカラスを視界に収めた瞬間。

 見知らぬ声が『脳内に言葉を送ってくるのだ』


 僕は反射的に手元にあった小さなコンクリート壁に無重力を適用させ。

 それを思いっきりカラスに向かって投げつけた。

 しかし――コンクリート壁がカラスに命中する寸前で、カラスは黒い霧へと変化した。


「能力? カラスを操る能力者か?」

『カラスを操る? な訳ないさ』


 まだ声が響く。

 僕はまだカラスがいるのかもしれないと判断し見回すが。

 既に近くにはカラスがいなかった。


『ワシのカラスを直感だけで、これは凄いねぇ? ワシの手品なんかすぐ見破ってしまうんだろうか? まあそのあたりはもし未来、出会うなら試してみるとしてさ』

「何者だ! 名を名乗れ!!」


 カラスを操り脳内で会話をする。

 まるでテレパシー、だがそんな悪党ヴィランしらない。

 まさか、手配されていないまだ未発見の悪党ヴィランということか?

 いいや分からない。

 ただとにかく、天狗の安全を確保して――――。


「天狗っ!!」

「ぐああああああああああああああああ!!」

「………は?」


 天狗は、発狂していた。

 地面に寝転がりながら。全身を激しく痙攣させて。

 苦しむように、喉を焦がすように。

 まるで何かとんでもない事が起こったような。

 違法薬物でも使ったかのような様子。

 明らかに異常だ。


「大丈夫か!!」


 僕は近づいた。

 カラス探しなんてやめて急いで近づく。


 そして暴れている天狗に。

 触れようとしたその瞬間。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! ああああああああああああああ――ッ!!」


 突風が。

 全身を突き飛ばせるほどの突風が起こった。


「ぐっ!」


 飛ばされて転がって、

 視界がぼんやりとし始めた。

 全身が痛い。強い衝撃だったんだろう。

 周りのサイレン音も酷くうるさく聞こえて来た。


 だが力を振り絞って、

 天狗の方向へ視線を向けると。





 もうそこに居たのは、天狗なんてものじゃなかった。














 大 轟 自 ジ

 地 く 然 レ

 揺 雷 を ン

 る 鳴 壊 マ

 が 運 す の

 す ん   天

 龍 で   狐

 を 来   。

 呼 る 

 ぶ よ 

 よ 。

 。


    い

    ざ

    来

    た

    れ

    よ

    風

    神

    風

    刺

    。




 波打つ荒波の如く、風が瓦礫を包みその神体へと運ぶ。

 雷鳴の如く鳴る崩壊音は地面を抉り。空気を飲み込む、ブラックホールの様に。

 その異様な空間に。

 その天変地異を目に収めて。

 苦しく儚く、何もかもが崩壊する前兆から。

 ――破壊神。

 その名がぴったりの様な光景が浮かんでいた。

 いいや、実写だった。

 その通りの景色が目の前で起こっていた。

 竜巻が上るように、雲が吸い込まれるように、建物が破壊されるように。


「――――ッ」


 グラビトルはその光景を見てすぐさま理解した。

 これは能力制限解除リリースリミッターだと。








「――ご■■な■ラ■トル。僕■ま■、捕まる■には■かな■んだ」


 声が竜巻の中から響くが。

 その激しい風音の影響で言葉はぶつ切りだった。




「なんじゃこら……」


 そう呟いた太刀風さんは、自分のアイマスクをとって。

 その光景に絶句した。





 京都駅上空に顕現したのは、瓦礫を身に宿し、風で形作られた。

 大きく壮大で真っ黒な化鳥だったのだ。


















『【暴風龍、死鳥風魔】。彼のリミッター解除の姿さ。ビルを飲み込む程の恐ろしい風を我が身とし、ひとたび飛ぶだけで暴風を齎す最悪が獣。あれを人間と形容するのはもう遅いかね。文字通りのモンスター。止められぬ災害。そういう類と何ら変わらない。これが鬼神様により齎された【禁忌】、人間が、人間ではなくなる術。美しいとも鬱くしいとも言える幻想的で破滅的な光景は、時に災い以外ももたらすというが。これ如何に』



『鬼が出るか蛇が出るか。見せてもらおうかな。神童グラビトルくん』



 その九尾きゅうびの独白は、既にもう誰の脳にも響いていなかった。


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