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俺のルームメイトはスーパーヒーロー  作者: 夏城燎
第二章 赤と白い羽編
30/35

第二十八幕 「袋のハリネズミ」


 ※崖土ミノル視点。




 朝の光が足早に広がる時刻。

 僕が知らない風景はどれも新鮮で、何もかもが美しい物だった。

 寒さが残るその空気はひんやりと冷たく。

 そして何より、とても静かだった。


 この人が栄えた世で。

 静かな場所とは、そこまで存在しなかった。

 山の中でも鳥の囀りがして木が躍っているし。

 都会に行くと聞こえるのはクラクションや街頭演説で。

 街角に鎮座する巨大な液晶には、常に大音量で何かしらの広告が流れ続けている。


 真の静寂とはなにか。

 本物の安息とはなにか。

 考えた事は無かっただろうか。



「……静かだ」



 この空は。

 正しく、真の静寂であり、本物の安息と言えるのではないだろうか。

 朝のグラデーションには音がない。

 というか、空には何もないのだ。

 あるのは空気と雲。

 見えるのは美しい絶景。


 この世界だけはある意味。

 人間が生身では味わえない、本当の新鮮な世界だと。

 想う。


「――――」


 僕は自分の能力を自身の体にかけ、空を浮いていた。


 僕の能力名は『無重力ノーグラビティ』。

 この世の理である重力を拒絶し、その干渉をある程度操れる。


 何が出来るか。

 まず、移動だ。

 僕は腕に装着しているワイヤーを建物に刺し。

 一瞬重力の干渉を付ける。

 すると勢いよく落下し、その勢いを重力干渉を切ることで殺さず移動へ応用できる。

 コツはいるがそれさえできれば。都会などの移動が可能になっているのだ。


 それ以外で言うと、物体を持ち上げる事だ。

 僕は今、自分の体に能力を適用させている様に。

 他のものにも適用させることが出来る。

 瓦礫に僕の能力を使用し、それを浮かせたり。

 だから人命救助などで使えるかな。

 使いようではもちろん、戦闘でも使える。


 ま、まだまだあるけど。

 ここは一旦、この説明は置いておいて。


「………」


 やっと僕の目の前に、その男が現れた。


「来てくれて嬉しいわ。なぁ、グラビトル」


 赤く、長い鼻が特徴的な天狗の面。

 黒スーツに白いハトの様な翼。

 間違いない。待ち合わせの相手だ。


「約束通り待っていたんだね」

「ボクから持ち掛けた約束なんやで? そらそうやろ。約束守らん方が今の時代、非難される。それも過度にね」

「……それで、僕があそこで言った事を、覚えているかい」

「……」


 僕は天狗に伝えなければいけない言葉があった。

 この空で集まる数時間前にあったことだ。

 あの月に君が飛んでいたあの時。

 彼に僕は。

 言いたかった。


「七式婆から、お前に伝言が」

「いいや。やめとくわ」

「……え?」


 僕が胸に手を当て、一言一句思い出している時。

 天狗はまるで何も感じていないように、そうきっぱりと言った。


「やめとく。聞きとうないわ」

「……なら、どうして僕をここへ呼んだんだ?」

「そらまぁ、幻想を捨てさせるためや」

「幻想だと?」


 幻想。

 その意味が、僕には分からなかった。


「簡単な話。諦めさせようおもてな」

「……」

「お前、ボクを助ける気やろ」

「――――」

「それ、不可能や。もう手遅れやで。ボクの手はもう赤い血で濡れとる。もう無理なんや。もう全部、手遅れや」

「そんな事はない。お前が人を殺した事があるのは知っている。でも、でもそれは」

「お前に何が分かる」

「っ…………」


 突き放すような天狗の言葉を聞いて。

 僕は言葉が喉に詰まるような感覚に陥った。

 何も言えなくなったのだ。


「ボクの過去の何が、お前に分かるんや。別に知らんやろ。まあ教えてないのはボクだけども、少なくとも、知らぬのにボクを救おうなんて傲慢すぎる」

「――――」

「幻想は捨てるべきや。なにも、難しい事を言っているわけちゃうやろ。単に、俺を人間としてみるのをやめろと言っとるだけで」

「……だとしても」

「だとしても、お前は救われる事を望んでいる。か」

「…………」

「せやな。これはお前の悪い所やで。見栄えなく助けるのは、本物のヒーローじゃない。その善意は時に、悪意ともとれる」

「…………」

「お前だってわかっとるやろ。何をもってボクを、救うべき対象だと思っとる? もう手遅れやないか」

「…………」

「そうや。最初から、殺す気で来るべきやったな。警察共の対応が全部正しかったんや」


 すべて、正しい事を言っている様に聞こえた。

 彼の言う言葉は闇雲ではない。

 意味のある意見であり。

 彼なりの僕に対する否定なのだろう。


 ……でも、何かがおかしかった。


「まぁ分かるで。憧れるよな、漫画のヒーローに。分かるわ分かるわ。でもありえへんねん。そんな綺麗事」


「この世は漫画の世界じゃぁない。本物のヒーローと呼ばれたかの『エレクトロニカル』も、その起源は決して美しい物ではなかった」


「ははは。どうしてそんなちっぽけな正義心に順次できる? そこだけが分からんわ」


「今のこの世界でも、ヒーロー名乗ってるだけで税金貰ってる薄汚い奴がわんさかおる」


「なぁわかるか? たった一人の綺麗事には、もう価値が無いんや」


 天狗は僕の沈黙すら無視し。

 そう捲し上げるように、口を大きく開けて。

 とにかく必死に批判をした。


「……天狗?」

「なんや? 何も言えなさすぎて困り果てたか?」


 僕は戦慄した。

 僕は、驚愕した。

 その天狗の態度を見て、その天狗の『異変』を見て。

 言葉を失うしかなかった。


「……」


 でも、やっと、言葉を絞り出して。

 僕はそれを告げた。


「……お前、誰と会話しているんだ?」

「……は?」

「さっきから僕は何も言ってない。のにお前はやけに、おかしいくらいに批判している」

「…………」

「それは誰に対する批判だ? 僕かと最初思ったけど、何かが違う」


 そう。

 言っている事は確かに僕への批判。

 純度100パーセントの酷い誹謗中傷だ。


 でも何かがおかしい。

 彼のテンションだろうか、彼の口調だろうか。

 そういう部分に異変があると感じた。



「……まるでお前は、自分に言い聞かせているような。そんな感じだった」

「――――」


 そうだ。

 僕への批判の割には、自分に言い聞かせているような。

 そういう意図が透けていた。

 どういうことだ?


 ……いいや、これはわかりきっている。

 僕はこの現象にある程度予想がついている。

 そう、最初からそうだった。

 僕の予想は、幻想は。

 間違っていなかったんだ。


「お前はやっぱり、悪党ヴィランになりきれてないよ」

「はぁ?」

「きっとお前は、お前の中には微かな善性がある。その善性が、今もお前の心の中で『葛藤』としてあるんじゃないのか?」

「……知った」

「知ったような口さ。でも、そうとしか思えない。お前は、悪になりきれてないんだ」

「何を言ってる? 何を、なんで? は?」


 取り乱している。

 関西弁が崩れるほどに。

 表情は仮面で伺えないが。

 やはり、天狗はまだ救える。まだ迷ってる。


 というか――『救われたい』と思っている。


「――――」


 なら、やっぱり。

 やる事は変わらない。


「僕はヒーロー」

「……ぁ?」

「そして、僕が目指すヒーローは」



 スーパーヒーローだ。



 僕は口を大きく開けた。

 七式婆から聞いた、伝言を言うために。

 でもその瞬間、天狗の体は宙で揺らいで。


「ははっ!!」


 真下の京都駅に向け、急速に落下を始めた。



――――。



「――――」


 まただ。


 僕は天狗の後を追うように能力を解除し、急降下する。

 まただ。あの男、露骨に聞こうとしていない。

 逃げている。

 七式婆から、過去から逃げている。


 逃がすものか。

 例えそれがあいつにとって、

 聞きたくない過去だとしても。

 例えそれがあいつにとって、

 嫌で仕方がないトラウマだとしても。


 逃がさない。

 絶対に。

 あいつは間違えているから。

 間違った事を、正すんだ。

 正しく生きれないなら、生きれるまで一緒に居る。

 待てよ天狗。

 待てよ天使。


 お前を助ける。

 絶対に、僕は助けるんだ。


「おいおいええんか!? 電車が来てるやないの!! 流石に駅は止められなかったんやなぁ!? 被害が増えるぞォ!!」

「逃げるな!! こっちへ来い!!」

「いややな! はっ、せいぜいヒーローらしく」


 天狗は落下しながら羽を広げ。

 その羽の元で渦巻を生成し、京都駅に右手を向け。


「街の被害を考えて戦いな!! ――乱風らんふうッ!!」


 その風の斬撃が重力のまま落下し、

 僕らよりもそれは早く、建物へ接触した。


「――――」


 ――爆発音が京都駅で響く。

 黒い煙が空に上がり始め、ついに街への攻撃が始まった。


「あっははは!!」


 天狗は高笑いを披露しながら空で二回転し喜ぶ。

 しかしその隙に、僕は腕のワイヤーを天狗へ向け。


「――ッ!!」

「おっ!?」


 発射したが。

 流石に命中はしなかった。

 まずまず空中だ、いつもより死ぬほど制御が難しい。

 いくらこのワイヤーに無重力を適用させても、

 この落下している最中の的を狙うのは至難の業。


「外したな!! はは。流石に当てられへんな!!」

「くっ、行かせるものか」


 僕は腰に装備しているブースターを起動。

 空に向けジェット機の要領で更に加速する。


「はあああ!!」


 やっとの思いで天狗と同じ高さまでやってきた。

 僕はまた右手を突き出し、ワイヤーを発射した。


「!?」


 当たらなかった。

 次は渦巻を直前で作られた。

 それを使っていままで弾丸を防いでいたのか?


「もう地面やでグラビトル」

「――――」


 地面。

 下を見ると、もう20秒も落ちてれば地面へ激突する距離。


「はっは!! そうだ! まずは駅を破壊しよう。破壊は気持ちがええからのぉ!!」

「待てぇ! 天狗……!!」

「流石に無重力と翼で比べたら空のアドバンテージはこっちにあるやろ!! お先にな!!」


 哄笑を宙に残しながら、天狗は軌道から外れた。

 僕はそんな中無重力を起動するわけにもいかない。

 変な勢いがついてしまったからだ。


 態勢を変え。

 ジェット機を下に向け噴射。

 同時に近くのビルへワイヤーを括り付け。

 衝撃に備える。

 ワイヤーが耐えてくれればいいが。


「――ぐっ!」


 地上から15メートル上の方で、

 僕は威力を最低限減らしながらワイヤー移動へ移行。

 すかさず僕はヘルメットに内蔵の無線のスイッチを入れ。


「天狗、京都駅に侵入しました!!」


 警察に向け、そう報告した。



――――。



 ※天狗視点。



 京都駅に降り立って、ボクはすぐさま全方位に『散風さんふう』を放つ。

 すると波のように刻みながら、朝の駅の照明が全部消えて行った。

 ボクは羽に渦巻を伝わせ。


「はっ!!」


 ホームに穴を開ける。

 下の照明が見えるまで、『削り風』でドリルした。

 本来ならコンクリート相手にそんな事は出来ないが、

 先ほどの『乱風』で破壊した鉄筋を風に織り交ぜれば摩擦で削れる。


 しばらくすると地面が見えて来たので、

 ボクはそこへ飛び込んだ。

 飛び込んで気が付いた。

 何かおかしいと。


「………」


 ああ、おかしかった。

 確かに、上から見たとき人気はあった。

 電車も動いていたし、照明もついていた。

 実際、ホームに電車は止まっていた。


 というかもう朝の7時だ。

 人気が無いのはおかしいと思うんやけど。


「京都駅ってこんなんやっけ?」


 静寂。

 見合わない静寂が、そこにあった。

 証明は付いている。

 目に見える店にも照明が灯っている。

 そう、あくまで『雰囲気』には人気が存在する。


 でも視界には、誰の姿も写ってなかった。


「……やらかしたな。こんな日に九尾のカラスと通信切っとるのはあかんかった」


 おおよそ、人気が無いのは理由がある。

 恐らくこの感覚は――『罠』だ。


「………はは」


 そう自覚した瞬間、目の前に転がって来た物体があった。

 ボクがそれを見つけて、2秒くらいでそれが何が気が付いた。

 簡単な話。グレネードだ。


「――ッ」


 それも煙幕か。

 視界がどんどん煙に包まれて行く。

 何も見えない。

 でもこの程度、どうって事はない。

 ボクが羽ばたけばこの程度。


「――――ッ!!」


 刹那、ボクの背後に打ち込まれたのは銃弾だった。


 あっぶないわ。

 渦巻は常に作っておくべきやな。


「なんや? 一発だけ――」

「全員掃射!!!!」


 その掛け声とともに。

 とてつもない弾幕がボクの周りに飛び散って来た。

 面白いと思い、煙幕をどけると。

 煙幕で視界が悪い中、ボクの周りには10人程度の重装備を来た人間がいた。

 こいつらは多分、本物の自衛隊だ。


「なるほどなぁ。そらそうやったわ。あの時、機関銃乗せたヘリまで来てたんや。自衛隊くらい当たり前か」


 特殊部隊かと思ったが、自衛隊だとすると理解できる。

 こいつらが派遣されているこの異能犯罪の場、これこそこいつらの新たな戦場なのだろう。

 変わったな。世界情勢らしく。


 とはいえ、都市の中心部である駅に大胆な罠を張っているとは驚きや。

 まあグラビトルを巻き込んでまでもボクを殺そうとしとった連中や。

 それほどボクは脅威として見られとるってことで。

 結構警察というか、政府は本気なんやろうな。


 異能保護なんてうつつを抜かしてると思っとったが。

 度胸だけはあるらしい。


「ま、その図太い精神だけは評価もんやな。もちろん、勝てるかどうかは別問題として――」

「ぐっ!?」


 ボクは風を使い、瓦礫を持ち上げ。

 その瓦礫を2人の頭に命中させた。

 返り血が飛んどった。

 死んだやろうな。


 悪いけども、ボクの周りをどれだけ掃射しても、全く持って意味がない。

 渦巻の防御範囲は既に360度。

 勿論、岩頭にいきなり襲われてもガードできるように鍛えた。

 銃弾なんて赤子の手をひねるようやわ。


「残念」

「なに!? があああああ」


 足で一人の兵士に接近、兵士が持っていた銃を蹴り上げ。

 そいつの首を腕で掴み上げた。


「命が無駄や。可哀想やな」


 首を片手で折った。

 苦しそうな顔のまま逝ったわい。


 続いて適当な瓦礫を背中方面に投げつつ。

 ボクの背後から銃を打っていた兵士に接近した。

 そして、岩頭を防げるくらいの渦巻の最中に入れてやった。

 後は多分やけど、ミキサーされた。

 グロイからみとうないし。

 断末魔がうるさすぎた。


 もう一人の兵士を目で捉えた。

 特に苦労もしず、瓦礫を投げつけ排除。

 血飛沫が飛び上がる。


 何の手間もない。

 味気ないわ。


「ん?」

「はああああ!!」


 背後、またボクの背中から弾丸や。

 なんや、まだおったんか。


「――打て打て!!」

「この野郎が!!」

「うおおおおおお」


 あ?

 なんかゾロゾロ出てきたで。

 思ってたより数がおるな。

 まあええわ。


「沢山銃を打ってくれたなぁ? 銃弾がそろそろ溜まって来たわ」

「――――はっ」

「ほんなら返すわ。この銃弾」


 360度展開していた渦巻。

 その内部に溜め込んでいた、今までの弾幕の銃弾を。

 ボクはそのまま、360度パノラマに打ち返してやった。

 ちと溜まりすぎてたみたいやな。

 駅の壁が大体抉れた。


 静かになったな。

 返した銃弾でどれだけ殺せたか。

 ま、確認する必要もないか。


「おらああああ!!」

「死ね!! 天狗!!」


 なんて一息ついていると。

 まるでお前に一息ついている暇なんてないと言いたげな。

 そんな野郎がまた目の前に現れた。


「……お前ら、どれだけおんねん。死に急ぎするのもええ加減にしな。楽に殺す加減を忘れる」

「ぐあああ!!」

「はっ……なっ」


 なんやこいつら。

 気色悪いな。

 キッショ。

 は? なんでこんな命知らずなん?

 日本の兵士はいつからこんなんになったんや?






「――――」


 まぁ流石に飽きて来たな。

 どうしようか。

 京都駅を出るか?

 いや、わりと殺しながら移動したし。

 建物の奥へ来てしまった。

 ここからなら正面から出るのが先決か?


「対象発見!」

「うるさい」

「ぐっあ」


 それにさっきから変や。

 何や? この違和感は。

 この自衛隊の兵士から感じるこの違和感。

 何やろうか。


「はっは! 隙あり!!」

「お前がな」


 風で軽く風殺。

 また一人、人を殺した。


 ……待て。


 途端に嫌な予感がしたので、急いで振り返った。

 そして、来た道を戻っていく。


「――――」


 何か変やった。

 ずっと気持ちが悪かった。

 あいつらの命知らずすぎる言動、

 まるで計画性がないような増援の到着。

 そうや、人間だから少しくらい考えを講じる。

 でも変なのはそこや。

 命が掛かっとるのになんで無策で飛び込んでくる?


「……ここでさっき、殺したよな?」


 滴る赤い鮮血が、その場に水たまりとして陣を引く。

 しかし、その鮮血流れる身体は、何故か忽然と姿が無くなっていた。


「――――」


 ここでボクは1人殺した。

 それに確かに血がある。

 出血量からして死んでいるのは確かやけど。

 なんか変や。

 なんで死体がないん?

 移動した痕跡もないのに。


「………」


 おいおい。

 まさかこいつら。

 噂に聞くあいつらか?


 血だまりを見ながら天狗が考えを巡らせている。

 したら、その血だまりに反射した天狗の思考を、まるで読んだかのように。


「――そうだ」


 その男は肯定の言葉を送った。

 知らない男の声が、人のいない駅内に響いた。


「……誰や?」


 振り返る。

 すると、そこに立っていたのは。

 1人の兵士やった。

 でもその立ち姿は、

 先ほどの死に急ぎ兵士とは何かが違った。


「俺か? 俺の名は『如月きさらぎ』という」

「へぇ、自己紹介してくれるんか」


 男は何の躊躇いのない口調。

 そしてはっきりとした態度で言葉を紡ぐ。

 見た目は長身。

 軍服と軍帽の上からの軽装。

 防弾チョッキすら来てないんやないか?

 でも、銃武装はしっかりとしたカービン銃を装備しとる。

 そんな装備で戦う気なんか?


「これでも、特殊部隊『Q』の隊長をやらせてもらっている」

「……ははん。特殊部隊ねぇ?」

「そうだ」


 言いながら、その如月と言う男はカービン銃を構え。

 無言のまま一発撃った。


「……」

「ふむ、隙がないな」


 意味のない一発や。

 渦巻で軽く相殺してやった。


「ではこうしよう。銃での戦闘が無意味だとするならば、ナイフならどうだ」


 言いながら、男は足に装備していたサバイバルナイフを回しながら取り出す。


「ほう、流石隊長様や、度胸ある。でもええんか? 銃弾の威力を相殺できる風に勝てるんかぁ?」

「それについては問題ない。少なくとも、お前の『隙』については見出した」

「……啖呵を切るな?」

「ここは切らせてもらうさ」


 男、如月と名乗るその男は。

 やけに自信があるようだった。

 その男の態度は、天狗にとって気にくわないものであったが。

 その気にくわなさを、風に変えた。


「――風式、斬風」

「ふむ」


 巨大な渦巻を作成し、

 周りの小さな瓦礫を周囲に漂わせる。

 その瓦礫から零れ落ちる小さな砂程度の欠片を一つの風に凝縮させ。

 天狗は風を刃にする。


「――――」


 右手の動きと共に、その斬風は如月に向かう。

 しかしその斬風を右へ走り出す事で避ける如月。

 『斬風』の弱点『移動の遅さ』を理解しているような動き。


 如月は素早い脚力を使い、天狗へと距離を詰める。

 瓦礫や駅の壁を蹴り、どんどんと自身のスピードを速め。

 いざ。というタイミングで天狗に突進を仕掛けた。


 その様子を観察していた天狗は。

 その手にまだ余っていた銃弾を男の方へ打ち込んだ。

 ――しかし、その銃弾は男に当たらなかった。

 まるで銃弾が来ることを読んでいたかのように男は咄嗟に突進をやめ、

 その足でまた天狗の周りを回転し始めた。


「…………」


 天狗に走る違和感。

 先ほどの兵士とはまた違う気持ち悪さ。

 だが、その正体はまだ掴めない。


「――風式、早風」


 天狗の技、風式は三種の風を操る天狗の殺陣である。

 この三種の技は洗練されており、

 それぞれが違う役割を持っている故に汎用性が高い。

 だからこそ、戦闘時は多用する。


 『斬風ざんふう』、瓦礫で刃を生成し攻撃する技。

 『早風そうふう』、自身の体に風を纏わせ、移動速度を向上させる技。


 そして三つ目の『散風さんふう』は、

 360度に風または風に纏わせた何かを分散させる範囲攻撃。


「――散風」

「っ!」


 周りを回転しながら様子を伺っている如月。

 しびれを切らした天狗は彼に対し、『散風』を使用。

 広範囲攻撃には流石の如月もモロで食らう。

 その隙に天狗『早風』で強化した移動速度で彼へ猛進し。


「――斬風!!」

「――!?」


 至近距離の斬風。

 だがその一撃は、運のいい事に如月には当たらなかった。

 体を捻られ避けられたのだ。


 その攻撃の隙を、如月は見逃すわけがなく。

 ナイフを逆さに持ち直し、

 天狗の右脇腹に向かって体をかがめ潜りこんだ。

 そしてナイフを脇腹へ振りかざすが。


「馬鹿め」


 二つ目の斬風が脇腹に生成された。

 生成時間はおよそ0.5秒。

 恐らく天狗はカウンターを考慮し、

 背中にも『斬風』を作れる分の小さな瓦礫を隠し浮かせていたのだ。


 そのまま如月がナイフを振り下ろせば、

 間違いなく如月の腕は『斬風』の餌食。

 ――――しかし、如月はなぜか突然で、攻撃をやめた。

 天狗との微妙な距離まで後退した如月は。

 苦しそうな表情を浮かべながら。

 持っていたサバイバルナイフを天狗へ投げつける。


「ッ」


 実の所、天狗の防御で使用している渦巻には弱点が存在する。

 銃弾の威力さえも相殺できる渦巻だが。

 相殺できない。跳ね返せない物が存在するのだ。


「――――」


 ついに投げてきよったか、ナイフを。

 それを手放してくれればもう少しは接近戦がしやすくなる。

 これでこの忌々しい男を葬り去る!


 ――斬風!!


 放ちながら、ボクはナイフを()()()()()

 ボクが撃ち込んだ斬風も、

 やはり移動の遅さが仇となり距離があればすぐには命中しない。

 でもそんな事今はどうでもええんや。

 狙いはそこじゃあない。


 ナイフがボクの横を通過したとき、

 やっと風でナイフを掴むことが出来た。

 とはいえ、『()()()()()()()()()()』は風で操りにくい。

 でもここで捨てるよりかは、風で掴んだ今は理想的だ。

 恐らくあの男は『斬風』が遅い事を知っている。

 でもその『斬風』の中から、このナイフを投げ返してやればどうやろうか?

 避けるのは相当むずいやろ??


「――はあああ!!」


 ボクは斬風の中を突き抜けるように。

 サバイバルナイフを風に乗せ、腕で投げるよりも何倍か強くなるように投げた。


 ナイフの軌道は如月の心臓を捕らえた。

 避ける事すらままならない速度のナイフ。

 さあ死ね、如月ィ!!


「……なに?」

「あぶない」


 如月に向けられたナイフは、

 確かに胸に向かって突き進んだ。

 しかし飛ばされ命を奪おうとしていたそのナイフは。

 ――如月の胸に当たる数センチの位置で、如月の右手により持ち手を掴まれた。


「どんな身体能力しとんのや!?」

「ふむ……」


 返したナイフがそのままキャッチされた。

 その予想外の事実に、流石の天狗も混乱するしかない。


 だが、

 そんな混乱を見て仕掛けないほど、

 如月と言う男は生ぬるくはない。


「――――ッ」


 神速。

 如月は自分の出来る限りのスピードを瞬時に出し。

 天狗へ急接近した。

 天狗は反応はできていたが、ことごとく自らの手を潰されている今。

 そして、混乱の最中であったことから取り乱していた。

 なので、次の手は必然的に、考えなしの『斬風』であった。


 避けられる。

 そんな事を、天狗は技を放ってから気が付いた。

 だから次の瞬間、『斬風』が場に出ているのにも関わらず。


「――散風ゥ!!」


 京都駅全駅に衝撃波が走る程の、強い風が室内で放たれた。

 証明が全て消え失せ、暗闇に包まれる。

 見えるのは、目の前の窓から流れる日の出の光と。

 ――それに照らされながら、シルエットを浮かばせている如月であった。


「随分、消耗したな」

「ッ……何もんやお前」

「何者? なにを、ご冗談を。ただの正義の味方さ」

「なんかの能力者か? 普通にありえへんやろ、ナイフを掴む動きは」

「何とも言えないな。手札をバラす『デュエリスト』がいると思うか?」

「………くっ」


 天狗にはとある確信があった。

 恐らくこの如月と言う男は、何らかの能力者であると言う。

 そんな曖昧な確信だ。


 でもそうとしか考えられなかった。

 明らかに人間の動きではない素早さ、そして判断の即決さ。

 まるで『天狗の次の手が見えている』かのような対応力。


 戦うべき相手ではない。

 そんな思考が、天狗の脳裏によぎった。

 何もグラビトルとの戦いの途中だ、

 こんな自衛隊の相手をしていては消耗してしまう。と。


「……ははっ」


 そこでやっと天狗は気が付いた。

 先ほどの如月の言葉、『随分、消耗したな』の意味に。


「お前、ボクを消耗させるための捨て駒か?」

「………ふむ」


 無言の肯定と共に、飛んできたのはハンドガンの銃声と弾丸だった。

 どうやら如月は戦いをまだ続ける気らしい。

 だが、天狗は違った。


「――――」


 この戦いを終わらせよう。

 少なくとも、こいつにボクは分がない。

 『散風』であいつが近づけないようにするか?

 いいや、それだとだめや。平行線や。

 ……何をすればええか分かっとる。

 選択肢はたったの二択や。


 『散風と斬風を混ぜた範囲斬撃であいつと継戦して終わらせるか』

 『散風を放って早風を自分に使い、逃げるか』


 無難なのは後者や。

 でも逃げた先で、きっと外ではヒーローが待っている。

 まずまずこの建物内と言う戦いの舞台が、こいつらに分があったんや。

 誘われていた。というかこれも見越しとったんやろ。

 警察も自衛隊も侮っとったわ。

 あんな短時間でボクを貶める計画を練っていたとは。


 ま、この作戦の隙の無さ、

 ボクが知っとるメンバーでは。

 『グラビトル』ぐらいしか思いつかないやろうがな。

 あいつの洞察力と計画性は目を見張るものがある。

 天使について調べさせとる時も、

 思っていたより真実へと近づきやがったし。

 無理やりボクが呼び出したりしなくちゃいけんくなってた。


 ……いいや、やはりどちらもじり貧だ。

 こいつと継戦しても消耗するのはこちら側。

 ならば、より消耗しない選択を取るしかない。

 後者や。


「――――」


 それに殺したところでまだ終わりじゃない。

 もしこいつら『Q』の部隊が、

 噂通り『セーブポインター』ならば。

 本格的に戦うのはダメだ。


 ならばやはり。

 逃げに徹するのが吉。


「――散風!!」


 ボクは片手を突き出しながら。

 風を収縮し、全方位へ放った――――。


「――ッ!!」


 カッ。と如月がボクを見た。

 そしてその瞬間、持っていたハンドガンを地面に捨て。

 ――先ほどのサバイバルナイフを僕へ投げた。






「……」


 やられた。

 そうだ、そうだった。

 こいつは異常だ。

 ボクの『斬風』を見切ったかのような動き。

 弱点を知っていたかのような動きをしていた。

 なんで分からんかった?

 なんで気が付かんかったんや。


 こいつがなんで、『斬風』以外の弱点を知らんと思っとったんや???



「……くっ、はっ」



 吐血。

 ボクの腹には、一つのサバイバルナイフが刺さっていた。


「お、おぉぉおおおまああああぇええええ――ッ!!」

「…………」


 悔しさ、怒りがその怒号を生んでいた。

 喉に遅れた痛みが走る。

 そのくらいボクは、大きく口を開けて叫んでいた。


 気づかれていた。

 いいや、冷静さを欠いていたのはボクの方や。

 『散風は発動時、動けなくなる』と言う弱点を見切られていた。

 その可能性を、持つにすら至っていなかった。

 くそっ。

 くそが!


「なんで気が付いたんや!! お前何もんやねん!!」

「酷く取り乱しているな。なぁに、簡単な話だ」




「――範囲攻撃の使用時『攻撃の起点となる本体は動けないのではないか』という【可能性】に賭けただけの事」




 ゾッ。

 鳥肌が全身をかけた。

 そう。つまりこいつは確信があったわけじゃない。

 言葉通りに受け取るなら……『全部、たまたまに賭けた』という事。


 それに『散風』を見切られていたと言う事は。

 さっきボクが考えた二択のどちらとも、この結果になっとったということ。

 ……くそう。


「クソがああ!!」


 腹に刺さったナイフを抜く。

 これから空を飛ぶに伴って、こいつは邪魔になる。

 だからどのみち抜かなかんかった。

 でも分かっている。更に出血してしまう事を。


「やっぱりナイフは抜くしかないよな」

「ッ……!?」

「お前の言動は手に取るように分かる。俺の天啓が教えてくれる」

「ナ゛……何を?」

「意味なんて分からなくていいさ。『分からない』が武器である能力が、この世にはごまんとあるんだから」


 ボクはもうダメだと思った。

 とにかく自分の全力を使って、羽を使いながら来た道を逆走した。

 追ってくるかと思ったが。

 来なかった。



――――。



 血を流しながら、入ってきた場所から京都駅を脱出した。

 ここまで用意周到な罠があるとは計算外やったけど。

 でもやっぱり、ボクを追い詰めるとなるとこのくらいはやるか。


「またあったなぁ? グラビトル」

「……やっと出て来たんだね。天狗」


 京都駅の13番ホームにあるベンチに座っている。

 ヒーローがそう話しかけて来た。


「ははっ……今んとこ、君の手の上で踊っとるなぁ?」

「まぁそうだね。さ、ここからだよ天狗」


 ボクが腹を抑えながら、グラビトルに話しかけると。

 グラビトルはベンチから立ち上がり。

 その真っすぐすぎる視線を、ボクへ向けた。




「お前を助けるよ、天狗」




 そんな手遅れな言葉を送ってきて。

 ボクは虫唾が走った。





 空中決戦と行こうやないの。


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