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俺のルームメイトはスーパーヒーロー  作者: 夏城燎
第二章 赤と白い羽編
28/35

第二十六幕 「しあわせになる - 前編 -」



 今日の授業。

 将来について。



 と、大きくこくばんに書かれていて。

 その授業が始まってから。

 はや20分がけいかしていた。


 クラスメイトは大多数が、自分の夢をプリントに書きおえており。

 並んでいたのは、『消妨士』や『けいさつ官』などなどのメジャーな物。

 まだその時、ヒーローなんてそこまでしんとうしていなかったから。

 まだヒーローは無かった。

 僕らせだいはまだまだ知らない年れいだったんだ。

 まあ、一年もしたらみんなヒーローに夢中になってたけどね。


 それにまだ世間も混らんしていて、

 さいきんのニュースで言うなら。

 アメリカっていう所の悪党ヴィランそしきが逮捕だとか。

 渋谷かいほうから1年。つめあとが残る。だとか。

 まあ、そこまでキョウミがない物が多かった。


 クラスが盛り上がっている中。

 僕もいを決して、自分の将来の目漂を、プリントに書いた。






『辛せになる』と。





 僕の名前は『■■■■』という。

 普通の一般家庭、っていうのかな。

 でもお金はあったな。家政婦もいたし。

 兄弟もいた。


 僕はその家で、普通の小学生として暮らしていた。

 その時の僕はまだ何も知らなかった。

 知らなかったのレベルで言うならば、

 『何も考えていない』のレベルだ。


 訳が分からないだろうけど。

 これから分かるよ。


 僕は家の中で遊んでいた。

 ひとりで駆けっこをしていたんだ。

 次はふすまに穴を開けて遊んだ。

 楽しかった。

 次はクラスで、同級生が椅子に座る時に、椅子をどかすと言うイタズラをした。

 楽しかった。


 でもなんでか分からないけど。

 僕に友達は出来なかった。


 今思えば避けられていたのだろう。

 いつから避けられていたか。

 覚えちゃいないけどね。


「■■。お前はもっと落ち着くべきだ」


 父さんにそう言われた。

 落ち着くって何だろうって思いながら。

 特にその言葉を考えもせず。

 またいってらぁ、の気分で無視した。


 家を走り回り。

 ご飯は嫌いな物を残し。

 庭の花を抜いて。

 池の魚を解剖して遊んだ。

 あれは二度とやらないよ。

 流石にグロテスクだった。



 でもある日のことだった。

 兄に呼ばれた。

 部屋にだ。

 僕は部屋にいった。

 そして兄は僕の顔を見ず、いった。


「前に貸した漫画はどこだ」

「………」


 ああ、そう言えばそうだったと。

 兄に謝って、僕は部屋へ漫画を取りに戻り。

 返した。

 悪いなと思って、ごめんなさいと言った。


「ん。……なあ■■。これは忠告というか、正直な話をするぞ」

「んー? どうしたのお兄ちゃん」

「お前、自分がいつもどういう風に人から見られているか考えた事はあるか?」

「……ない?」

「そうか。なら、いいか?」


 そこで僕は初めて知った。

 というか、まぁ、全ては僕が考えていなかったのが。

 悪いんだけどね。

 そこで僕は、僭越ながら、初めて。


「お前はもう少し他人の迷惑を考えて行動してみろ。いいか? もっと自分を客観視して生きていけ。じゃなきゃ多分、友達は永遠にできないぞ」


 その忠告は。

 その言葉は。

 僕にとってとても衝撃的で、意外で、

 酷く納得ができるほどの、正論だった。



――――。



 人に言われなければ気が付かない自分の一面は。

 誰しも持っていると思う。

 僕の場合それは、『自己中心的な態度』と『他人の迷惑を考えない浅はかさ』だった。


 僕は兄に言われて初めて気が付いた。

 とても遅れながらも、気が付いたのだ。


 納得してしまった。

 その正論に。

 一度納得してしまったら、もう逃げられない。


「………」


 自分がとんでもない奴だと気が付いた。

 僕はとても最低な人間だと、初めてしった。

 僕は今までの僕を、激しく嫌いになった。


 自分の部屋の布団を濡らしながら。

 0時を回る時まで、初めて寝付けなかった。

 でもその時間まで起きていたから。

 ある程度は考えることが出来た。


「――――」


 出来るだけいい人になろうと、僕はその日から努力を始めた。




 他人の事を考えようと思った。

 常に笑顔でいて、優しい人になろうと思った。


 最初は上手くいかなかった。

 元から出来てなかった事なんだ。

 なかなかできる筈がなかった。

 でも1年間かけて、多分出来るだろうなってレベルまで登った。


 その頃になると、クラス内には既に陣営なる物が生まれていた。

 誰誰のグループ。

 そう言われていた数人の組織だ。

 当然僕は今までの狼藉により、

 どこの陣営にも所属していなかったが。


 少なくとも、今の僕は昔の自分と違う。

 『変わった』と思っていた。


 僕はとある陣営に混ざった。

 別にコミュニケーション能力がない訳でもなかったから。

 馴染むのは早かった。

 初めて友達と言える友達ができて、嬉しかった。

 初めて遊んだ。

 初めてゲームをした。

 初めて鬼ごっこをした。


 でもとある時、気が付いた。


 ……あの時のあの発言は、最低だったのでは?


 ノリで言った言葉だった。

 少なくとも周りは笑っている様に見えた。

 でも思い返すと、僕は少し酷い事を言っていたと思う。

 だから後悔した。

 もしこれで、笑ってくれていたけど、

 不快に思った子がいたら。

 どうしようかと。

 僕は一人で、酷く傷ついた。


 でもまだ諦める時ではなかった。

 次からはそんな事をしないと心に誓って。

 僕は眠りについた。





「……最低」


 それから数か月が経った。

 僕はその時、クラスの女の子といい感じになって。

 付き合っていた。

 でも、どうやら、僕は、まだ最低だったらしい。


「毎日毎日電話もしつこいし、宿題で追い詰められているなんて自業自得だし、もう我慢ならない」


 教室のど真ん中で、ビンタされた。


「…………――――」


 その子の言葉は、全て正論に聞こえた。

 何の言い訳の余地もない。

 何の弁明もできない。

 ただの事実であった。


 僕は自分がマシになったと考えていた。

 でも違った。

 何も変わっちゃいなかった。

 僕はきっと、どうあがいても、

 根元の部分が最低な男なのだろうと思った。




 いまこの独白を読んでる人も。

 僕のこの愚行を見て。


 電話の限度を考えろとか、宿題はやればいいのに。

 と思うだろう。


 僕もそう思う。

 全く持ってその通りだ。

 酷くて現実的な、正論だ。




 だから僕は、僕が嫌いになった。

 分かっている。

 どうすればいいか。

 だから直そうとしている。

 でも、どれだけ努力しても。

 後々自分が気づいていない部分が、嫌と言う程浮き彫りになった。


 まるでいたちごっこだ。

 自分と自分の、いたちごっこだ。

 嫌になるよね?

 僕はそうだった。


 とことん自分が嫌いになった。


 でも不思議な事に。


 自分の根本はどうしようもないクズであり。

 僕は最低だと。

 僕は常に自分を傷つけていれば。

 何故か、僕のそういう『最低』な部分は。

 浮き彫りにならなくなった。

 不思議だね。

 きっと自分を下げに下げて。

 したてに行こうと思ったからだ。


 案外うまくいった。

 僕が最低と思う事で、二度と思い上がる事を失くすことで。

 僕は最適な僕になった。

 やっと普通になれたと思った。


 友達ができた。

 家族とも仲良くなれた。

 やっと落ち着いたなという父の言葉も。

 素直に受け取って嬉しくなった。


 でも、それは精神的にはあんまりよくなかった。

 恥ずかしい話だから。

 あんまり言いたくないけど。

 僕はまだ子供だった。

 実際、中学生だったし。

 ……まあ要するに。

 承認欲求だとかが不安定だったんだ。

 常に満たされてなかった。


 でも僕は自分を出そうとはしない。

 自分を出したらどうなるか、身をもって知っていたからだ。


 しかしそれだと、僕はどんどん満たされて行かなくて。

 心だけがすさんでいった。

 でもその自分には満足した。

 おかしな話でしょ?

 僕も変な感覚だった。





 ある日、僕は気が付いた。

 そのこじれた承認欲求が、僕の言動からにじみ出ていたことに。


 無自覚な事で大変驚いたが。

 その事を自分で気が付けたのは素直に成長だった。

 成長ではあったけど。

 同時に失敗でもあった。


 僕の逃げ場が無くなったのだ。


 承認欲求が出ている僕を、僕は許せなかった。

 また嫌いになった。

 でも自分を落としても、もう意味がない事を知ってしまった。

 とは言え、今更自分を肯定してやる気にもなれなかった。

 というか出来なかった。

 そこまで僕は僕を落とし過ぎたのだ。


 苦しくなった。

 おおよそ中学一年生。

 何もかも嫌になって、楽になりたいと考え始めたのは夏だった。

 死にたいとは思わなかったが。

 生きたいとも思わなかった。

 自殺。という手段もあったけど。

 それは迷惑がかかると知っていた。

 だから当時、限界化した僕はこうさえ思っていた。


『目立たないように生きて、人と関わりも出来るだけもたず、家族からも友達からも忘れ去られるのを待ってから、死のう』


 でも、その時だった。

 転機が訪れたのは。






「えっ……? なに、これ」


 朝起きると、知らない感触が背中を触った。

 同時に何故か。

 部屋の中の空気の流れを。

 何となく読めるようになっていた。

 僕は違和感を抱えたまま、

 自室にあった全身鏡の前に立つと。



 白い羽が背中から生えていた。



――――。



「おまえさんガキやろ。どないしてこんなとこにおるん」


 新聞紙のぬくもりに癒されながら。

 冬の朝を迎える。

 僕は目を擦り瞳を開くと。

 そこには僕と同じような風貌をしたお爺さんが立っていた。


「……おはようございます」

「家出か?」

「……まあ、そんなとこです」

「どこからや」

「……東京、ですね」

「うっせやろ」


 そのお爺さんはお酒臭かった。

 でも寝起きには丁度良く、程よく眠気が飛んだ。


 するとお爺さんは、僕の横に座り込んで。

 自分の新聞紙を広げて包まった。


「何があったかしらねぇが、ガキがこんなとこに居たらいずれヤクザか何かに殺されるで」

「お構いなく。僕は別に、自衛だけは出来るので」

「ガキの癖に強がるんか。まあ嫌いじゃない。ほれ、酒飲むか」

「いただきます」


 貰った紙コップにお酒を入れて。

 僕は一杯貰った。


 お酒は最近、初めて飲んだ。

 ま、手に入ること自体がレアだったし。

 でも美味しかった。

 酔うってのは、あんなに気持ちがいい事なんだと。

 初めて知った。


「うめぇか?」

「おいしいです」

「そうかそうか。よかったわ」

「………」

「っぶはぁ。あ゛ぁ゛ーー……んで。いつ頃、この花見小路へ来たんや?」

「少し前です」

「どうやって来たんや?」

「それは秘密です」

「そうかぁ、今時一人でここまで来れるんやな。すっごいな」

「………」

「……」

「お爺さんはどうしてこんなところでお酒飲んでるんですか?」

「お爺さんか。別に20代後半何だが、髭のせいかな。まあ不衛生な見た目だ、別にいいよ。まぁー簡単に言うと、5年暮らした嫁に浮気された挙句、子供にも裏切られて慰謝料とられとる」

「……それは酷い話ですね」

「まぁ、嘘やけど」

「……はぁ」

「自分を自衛しちまう嘘って、どうしてこんなにも軽いんやろうな。俺も大概、自己中なんやろうか」

「どこまでが本当で、どこまでが嘘なんですか」

「前半はガチ。後半は嘘。子供なんておらへん」

「なるほど、じゃあ可哀想な自分に酔いたかったと」

「……ああ、せや、それそれ。的確やなぁ、さっすが、若い子やわ」

「でも、奥さんが浮気したのは本当なんですよね」

「せやで~」


 男は言いながら、お酒をぐびっと飲んで。

 また大きな「ぷはぁー」と言う言葉を吐いた。


「それで、こんなところで現実逃避と」

「ま、まとめるとそういうことやな。惨めやろ」

「別に。同情しますよ」

「ガキに同情される大人になっちまったか、はは」

「………」

「………」

「……まぁ、だめか」

「ええ。丸わかりです。きっと僕とあなたは似てますよ」


 何だか不思議と、僕とこの人は似ている気がした。

 だから嘘が分かったんだと思う。


「すぅー。はぁ」

「それで、今のどこが嘘なんですか」

「現実逃避ってとこやな」

「……ほう」

「もう俺は、いいかなって思っとる。もちろん俺は嫁がまだ好きや、愛しとる。……でぇも、あいつはどうやらぁ、俺の事をそこまで好きじゃなかったらしい」

「だから自分から離れようとしてるんですね」

「そういう事やな。2、3日後には京都を発って、知らない土地に行こうかな思っとる」

「……大変だね。お爺さんも」

「大変やで。変に俺が優しいばっかりに、結局の所、自己犠牲に止まっとる」

「自己犠牲を美徳とするのは気持ち悪いですけどね」

「そんなん分かっとるわ。でもな、時には美徳となる瞬間も、俺はあると思うで」

「そうなんですね。僕にはまだ分からないです」

「まあ分からなくていいんや。分からない方が幸せになれるしな。……優しくない方が、この世は幸せになれるっちゅうこと」


 しあわせ、か。


「ああ、言えてますね。僕もたまに思うんです。僕が最初から優しささえ持ち合わせてなければ、嫌な事に気が付かないで生きて行けたのにって」

「おまえさんも自分の優しさに振り回されたんか?」

「……まあ、そうですね。理想と性根は乖離する。僕の理想は、僕の性根が嫌いなんですよ」

「その歳で大きな物を背負ってるんやな。あいや、ちゃうか。……とても嫌な事に気が付いたんやね」

「そうですね……気が付くべきだったけど、気が付いたらついたで、信じられない地獄だった」

「はは。そう言うもんや。神様は人間を平等には作ってくれなかったんだから、しゃーないやろ。酒、飲むか」

「うん」

「ほい」


 ごくごくと、喉に明らかに合っていない劇薬を呑む。

 ふらふらしてきたな。

 寝起きからお酒か。

 はは、将来は酒豪かな。


 居心地がいい。

 なんていうのは誰でも感じてきた当たり前の感覚だ。


 僕は誰に対しても、一定の好感度を持ってしまう。

 そういう所がコミュ力ある所以なのかもしれないけど。

 それが仇になる事が僕の場合多い。

 だから出来るだけ、人との接触を断ちたかったんだけど。

 まあ、孤独は好きじゃない。

 それはこの半年で学んだ、怖い真実だ。


「おいお前ら、なんでそこで寝てんねん」

「あ? いいだろ別に、減るもんじゃ」


 打撃音。

 鈍い音が響いた。

 僕が瞳を閉じかけたその瞬間。

 横のお爺さんが、知らない男どもに殴られたのだ。


「ッ、何すんだてめぇら!!」

「この辺りは俺らのシマになった。変なゴミ虫が寄ってるのは顧客に失礼やろ?」


 その場に居たのは。

 黒いスーツを来た、ガラの悪そうな二人組だった。

 そのうちのサングラスをしている一人は。

 凄い剣幕で、僕にお酒を分けてくれたお爺さんを罵った。


「ふざけるな! まだ俺らがもたれ掛かってた店の店員から怒られるなら納得できるが、お前ら誰なんだよ!!」

「俺らは信堂組だ。このあたりでヤクを取り締まってる」

「なんだなんだぁ? 変にうるせぇじゃないのこのジジイ」

「……ちっ」

「お前、自分が舌打ちできる階級なのを理解してんのか低俗――ッ!!」

「ぐぅッ!? ……ケホっ、暴言我慢して舌打ちで済ませてやったのに、お前蹴ったな! ッ!?」


 お爺さんは僕の横の階段から崩れ落ちて。

 落下した先で口から血を出していた。

 そんなお爺さんに、その男はもう一度蹴りを入れて。

 お爺さんの背中にその汚い足を乗せる。


「うるせぞ。こいつ。連れ帰ってバラすか?」

「ええんやないの~」

「ほなやるか、とりまボコして無力感をたっぷ――――――」



















「なんで僕を無視したのか知らないけど」

「…………………………は?」


 弾丸が、静かな弾丸が横切ったかのような音がした。

 僕が移動した音だ。


 僕は新聞紙から飛び出し。

 お爺さんの背中に足をのせていたこの男を。

 風圧で吹き飛ばした。

 男は目にも止まらぬ速さで石垣に背中をぶつけ、吐血する。

 ま、死んではないだろう。

 死ぬ気でやらなかったからね。


 そして僕は。

 白い羽を使用して。

 もう一人の男に急接近。

 身長が少し足りなかったから、近くにあった台座に足をのせて。

 男の首根っこを掴んだ。


「どうやって……うごいた?」

「話す必要ある? あ、後ろ振り向かないでね。振り向いたらその首、二度とくっつかなくなるから」


 言いながら、首に風を纏わせる。

 すると男の体はビクッと揺れた。


「ッ……な、何者だ」

「名無しだよ。僕にはもう名前がない。捨てたからね」

「じゃあ、どういうつもりや? わざわざ、子供だから逃がしてやったのに」

「いらない優しさだね。……あぁ、優しさと言うより油断かな? こんなものを優しさと語っちゃ、お爺さんが可哀想だ」

「くッ……何をするきや」


 ん、男の右手。

 怪しい動きだな。

 警戒しておくか。


「お爺さんに謝る。そして僕らに手を出さず、そこで血を吐いて骨が折れた仲間を連れて去ってくれ」

「……わかった」


 その瞬間。

 僕がわざと手を緩めると。

 男はやはり右手を動かした。


「――――っ!」


 その俊敏な右腕を、胸ポケットに滑り込ませ。

 男が取り出したのは。

 一丁の拳銃だった。

 即座に、僕へ振り返って。

 僕の様子を確認せず、

 男は銃を連射した。


「……………な、に?」


 疑問符が浮かんだのは少し時間が経ってからだった。

 きっと男は慌てていたのだろう。

 僕を殺そうと、躍起になっていたのだろう。

 なんて、可哀想に。


「僕の羽を見たな? 残念だ。ここで口を縫うか、口以外も動かない体になるか。僕は油断をしないからね。でも譲歩として、選択権をあげるよ」


 僕はその翼を背中に戻して、

 弾切れになった拳銃を右翼で起こした風で弾いて。

 左翼で起こした小さな渦巻をその男に向け。




「さ、選んでよ。無力感を与えてあげるからさ」




――――。



「……お、おまえさん。とんでもないな」


 男は殺した。

 なんか殴りかかって来たから、仕方がない。


 それに銃を撃たれたんだ。

 あのままだと、銃声のせいで面倒ごとに巻き込まれると思ってね。

 だから早めに対処したよ。


 僕の羽を打った弾丸を、風で男の胸に何発か打ち込んでおいた。

 あぁあと、もう一人の吐血した人も殺した。

 それに弾丸を送り返した男が落とした弾切れの拳銃を、

 壁で苦しんでた男へ止めを刺すのと一緒に置いておいた。

 足滑らして階段から落ちたって感じにした。


 にしては、壁に穴空いてるけど、そんなもんいくらでも警察は深読みして『能力者』の犯行だって思ってくれるさ。もちろんその能力者は僕が弾丸を送り返した男に被せたけどね。

 何かしらの能力を使ったような痕跡をあの男にした。

 だからまあ大丈夫だろう。少しこじつけ感があるかな?

 もちろん指紋は残ってないよ。

 風を使って物は運んだからね。


 これで警察があの現場を見つけても、

 僕らの存在を察知できない。

 身内の喧嘩だと思い込むだろう。

 まあ知らないけど。


 それで僕らはお爺さんを抱えながら空を飛んで。

 結構離れた場所まで来た。

 ここなら警察どころか、

 さっきの銃声も下手したら鳴り響いてない。


「そう? お爺さんの方が怪我が酷いよ。大丈夫?」

「あぁ、俺は大丈夫だ。そんな事より、その羽は何や?」

「これは今流行りの病だよ。超能力っていうんだってさ」

「はぁ……始めて見たな」

「驚くよね。僕も初めては驚いた」


 言いながら僕は。

 お爺さんに、持ち合わせであった最後の絆創膏を。

 口に張ってあげた。


「これで大丈夫だね。お爺さん、一応言っておくけど、僕の事は他言無用でね」

「分かっとるよ。俺も殺されたくはない」

「だね。物分かりが良くて助かる」

「にしてもその羽……まるで『天使』やな」

「天使? ……そうなの?」


 確かに天使っぽく見えるか。

 でも頭のわっかとか無いし、似ているのは白い羽だけだね。


「さて、これでよし。僕は場所を移すよ。お爺さんもそろそろここから居なくなった方がいい。もうここで解散だ。すっかり酔いも醒めちゃったしね」

「……せやな。俺も移動するとするわ」

「でも意外だな、僕が人を殺してもやけに落ち着いているんだね」

「俺だって驚いとるで?。でもよぉ、驚きよりも、スカッ感の方が強くて……」

「……ぷっ、ははは。やっぱりお爺さんは、僕と似ているね」


 僕は久しぶりに少し楽しかった。

 やっぱり、そのスカッ感が最高だったんだろうね。


 僕は大通りに向けて視線を向けた。

 お爺さんはどうやら逆を行くようだ。


「……気を付けてね。お爺さん」

「……気を付けるのはお前の方や。長生きしろよ。俺みたいに、悲しい人生を歩むな」

「うん。頑張る。じゃあね」


 僕はお爺さんとそこで解散した。

 そしてそのすぐ、大通りに出た瞬間に。

 今年初めての雪が降り始めた。









「……幸せになれよ。天使みたいな少年」



 その呟きは、もう彼の耳には届いていなかった。


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