表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のルームメイトはスーパーヒーロー  作者: 夏城燎
第二章 赤と白い羽編
27/35

第二十五幕 「堕天」




 月光が眩く。風が気持ちが良かった。

 気分が良かった。

 久しぶりに人を殺したからだ。

 気持ちが良かった。


 でも、ずっとボクの心は。

 なんか知らんけど、最悪やった。




 ※崖土ミノル視点。



 建物へ戻ると。

 既にもぬけの殻だった。

 受付にいた人もいなくて。

 施設の照明は何もついていなかった。

 僕と太刀風さんは、その中を進んだ。


 誰とも連絡が取れなかった訳じゃない。

 志賀見さんには既に連絡を入れた。

 だからこの建物の外には、既に何十人かの警察と、夜中に駆り出されたヒーローが待機していた。


「……人気がないな」


 全く持って人気が無かった。

 恐らくだが。

 もうここに居た人たちは、この世にいないのだろう。

 この施設内には常駐で誰かしらがいてくれているのだが。

 その誰とも、連絡が一切取れなかったんだ。


 それにさっきから感じる。

 この建物の雰囲気。

 まるで深夜の墓地だ。

 それほど物静かで、それほど暗くて。

 それほど死臭がした。


 僕らは一番上の階にやってきた。

 内部の事は、まだ何も分かっていない。

 こういう状況になった時、本当なら特殊部隊がこの役を担うのだが。


 天狗の要望はあくまで僕と会話をすることだ。

 だから僕が駆り出されている。

 だが、個人的にそれはありがたかった。


「――――」


 この数日で僕らは天狗について考え続けた。

 僕らは調べて、その足で向かって、現地で情報を集めた。

 それから得た物は。

 僕らに、少しばかりの同情を与えた。

 その同情には、ある確信があった。


 それは、僕のヒーローとしての信条を。

 突き通せるかもしれないということだった。


「ここからは一人でいきやグラビトル」


 そのドアの前で太刀風は話しかけて来た。


「分かりました。もしもの事があったら、構わずキルスイッチを」

「……押したくないが。そこは、お前の意志を尊重するとするわ」


 僕は太刀風に一瞥し、最後の会話でとある事を託し。

 その部屋へ入った。







 死体だ。


「………」


 部屋の椅子には死体があった。

 その部屋はとても悲惨なこととなっていた。

 血が、壁や床に飛び散っており。

 一人の死体が、そこで力尽きていた。




 その死体は、中津刑事だった。




 どうやら天狗は嘘をついていなかったらしい。




 僕が今できる事は、なかった。

 でも。

 開いたままのその目を。

 僕は閉じてあげた。



 僕はその部屋のドアノブに触れて。

 ゆっくり扉を開けた。


「来たか。グラビトル」


 その部屋は、前より明らかに風通しが良くなっていて。

 その男はいつも通りの場所に立っていた。


「……何のつもりだ?」


 僕と男の間にいつもあった大きな鉄格子には、

 一つの風穴があいていた。


 そしてもう一つ、コンクリートでできた外壁にも風穴があいていた。

 一体この場所で何があったか。

 僕には想像ができなかった。


 その男は。

 コンクリートの外壁に空いた風穴から。

 夜空を見ていた。

 白い羽を風に揺らし、黒いスーツを着こなし。

 そして男は振り返った。

 その赤い天狗の仮面を付けて。



「初めましてグラビトル。ボクは『鬼族』ろく番幹部の『天狗』や」



――――。



「何故、お前は今になってこんなことを起こした?」


 僕は天狗に、最初の問いを出す。

 すると天狗は少し浮ついた声で言葉を発した。


「意味のない殺戮なんかしないさ。お前をここへ呼び出すための口実が必要やった。その為に、異変を起こした」

「どうして中津刑事を殺した?」

「単純に邪魔やったからや。あいつの墓に刻んどき。『自己犠牲が報われるのはおとぎ話だけ』だとな。……所詮そうやろ? まあでも自己満で完結させれるだけ、あいつは幸せ者やろうな」

「何の話をしている?」

「ああ、これ君しらへんかったんか。まあいいよ。次の質問にいきなはれ」

「………」

「……」

「まずまずの話。どうしてお前は僕を京都に呼んだんだ。僕に何をさせたかったんだ??」


 そう。最初からずっと分からないことがある。

 それは『なぜ僕なのか』だ。

 面識もないこの男に名指しされ、僕はここまで足を運んだ。

 わざわざ僕の名前を言ったんだ。

 何かしらの訳がある筈だろ?

 でもそれが、一向に見えてこない。

 何がしたいのか。

 本当に分からないのだ。


「……ま。分からんよな。でも君は想像通りの働きをしてくれた。きっと宿儺様も満足なさる」


 その時の言葉が。

 僕の頭の中で響いた。


「……【鬼神】の指図なのか?」


 【鬼神】

 その存在自体は噂程度だが知っている。

 名を、両面宿儺。

 鬼族のトップと言われる人物の事だ。


 そんな人物が。僕を?


「それは言えへんな。でも、お前は少なくとも、こちらの思惑通りに事を運んでくれた」

「……なんだと?」

「あいや、もちろん悪い意味じゃないで? 言い方が悪かったな」

「……どういうことか説明してほしい。なぜ僕を?」

「話したいのはやまやまやけど。話してしまったら、きっと、意味がなくなってまうだろうから。だから、ごめんな」

「――――」


 話してしまったら。

 意味が無くなる?

 それは一体、どういうことなんだ。

 言葉の真意が分からない。

 言葉の意味が分からない。

 結局僕に何をさせたかったんだと聞いているのに。

 まるで答えが、違うじゃないか。


「………」


 まあいい。

 この会話で『聞いてもまともな返答が帰って来ない』というのが分かった。

 少し落ち着こう。


「天使について、花見小路で調べて来た」

「お、どうやった?」


 僕が切り替えて話題を出すと。

 天狗はその場に座り込んで。

 話を聞こうと態勢を崩した。


 だから僕も、倒れていたいつものイスを立てて。

 そこへ腰を下ろした。


「七式婆にあったよ」

「……誰ぇ? 分からんなぁ」


 白々しい。


「とぼける必要はないよ。君が天使だった裏付けは出来てる」

「…………」

「――――」

「……やっぱバレてたか。ま、そのくらい想定内や」


 と、すんなりと天狗が自分が天使であった事を認めた。


「せやで。ボクが『天使』や」

「…………まず、聞きたいことが二つある」

「おん」

「一つ目は、なぜ情報を真逆で伝えたかだ。僕の考えでは時間稼ぎだと思ってるけど、あれはなぜ?」


 真逆の情報。

 そう、時系列の話だ。

 今はそこまで必要な真相でもないが。

 ここはワンクッション挟もうと思ってね。

 あと自分が落ち着くための質問でもある。


「まぁ概ねあってるで。時間稼ぎ。でも強いてなんで真逆で伝えたかいうなら~、ボクの悪い癖やな」


 空を仰ぎ片手を振りながら、最後にそう締めくくった。


「癖?」

「そうそう。捻くれてんの。あれよあれ、昔のアニメにあった武器の、逆〇」

「要は深い意図はないって事?」

「まああると言えばあるし、無かったと言えばなかったな」

「………」


 まぁ無かったとも取れるのか。

 心情的なあれなのかな。

 なら次の質問に繋がるな。


「じゃあ次、どうして君が天狗になったのか」

「それ聞く? ノンデリやないの」

「それもう死言だよ」

「マジで?」

「大マジ」

「ショックやわ」


 僕らの予想では、花見小路 → 市原 → 鞍馬山だと最後は考えていた 

 けれどもそれは予測の範疇を出ていない。

 結局僕らは、『どうして天狗になったのか』が分からないのだ。

 とどのつまり。

 彼の心情を、知らないんだ。


「うーん。説明すると長いから話したくない」

「ダメだよ。ちゃんと話して。僕にここまで自分の事を調べさせたんだ。答え合わせくらいしてくれない?」

「むずいんやってそれが……他人が聞いて面白い話でもないし、それに黒歴史やし」

「……黒歴史なんだ」

「あだ名が天使やで、黒歴史でしかないやろ」

「確かに」

「納得すんな」


 凄く渋るな。

 そんなに話しにくい事なのか。


 いやまぁそうか。

 悪党ヴィラン悪党ヴィランになる理由だ。

 そんな軽々しく聞いたのが間違いかもしれない。


「……まあ簡単に言うとな」

「うん」


 なんて考えてると、天狗は重い口を開いた。


「毎日が辛かったねん。がむしゃらに生きるのが、ボクにとって苦痛やった。だからぁ、がむしゃらに生きるのをやめた」


 がむしゃらに生きる。

 その言葉には含みがあるように見えた。

 その天狗の言う『がむしゃらに生きる』は、

 どういう物なんだろうか。


「……じゃあ、七式婆から離れたのはなぜ?」

「そんなんいいとうないわ。恥ずかしい」

「天使の時点でもう恥ずかしいでしょ」

「うるさいわい。それに、そんな話をしてる暇は、もうないみたいやで」

「どういうこと?」

「タイムリミットが来たってことや」


 え。

 うるさっ!?



 ――刹那、天狗の背後のコンクリートに空いた穴から。

 眩い光圧が入り込み。

 突然響き出したのは、

 ヘリのうるさい羽ばたき音だった。


「……誰?」

「警察やろ。痺れを切らしたな」

「警察だと……」


 僕はすぐさま。

 腰にぶら下げていた無線のスイッチを入れた。


「どういう事ですか志賀見さん!! 何故ヘリが――」


 ――――っ。


 ………。


「あっぶないなぁ。こんな町中、こんな夜中に機関銃かいな。ははっ、えらく派手やなぁ? 大蛇オロチが好きそうなくらい」

「っ……なにがっ、おこっ」

「守ってやってんねん」


 聞こえるのはとてつもない銃声。

 きっと直で聞いたら、鼓膜が破れるほどの爆音。

 天狗の言葉が本当なら、あのヘリには機関銃が乗っているらしい。

 なら自衛隊のヘリか……?

 もしそうなら偉く用意周到だ。

 何故直前まで音がしなかった?

 誰かの能力か?


「――――」


 あ。守られてるってそういうこと?


 僕は爆音で周りを見れていなかったけど。

 やっとの思いで正面を向いた時。

 僕はその様子に驚いた。


 僕の目の前には天狗が立っていた。

 でも、その白い羽が、さっきの倍大きくなっていて。

 大きなコンクリートの穴を塞いでいた。

 それも恐らくあれは、


 今まさに、広げた羽で銃弾を弾いている。


「どうやらあいつら、何が何でもボクを殺す気みたいやな」

「そんな……」


 警察が痺れを切らした。

 もしかして僕と話して油断してる今が、天狗を殺すチャンスだと思ったのか?

 それにさっきから無線の応答がない。

 まさか、無線のチャンネルに誰もいないのか?


 ……いいや違う。

 僕が教えられたチャンネルが嘘なんだ。

 最初からこれをやるために。

 僕は餌にされていた。


「ふん……」

「……」


 とにかく状況が悪い。

 どうすればいい?

 僕は、僕は天狗と話して。

 そして。


 出来れば。

 改心させたかったのに。


 彼の過去に同情してしまった。

 彼のバックボーンに哀れみを感じてしまった。

 もちろんそれだけではない。

 僕のヒーローの信条がそうだ。

 どんな悪でも、どんな極悪非道でも、僕は助けられるなら助ける。

 救えるなら救いたい。

 それが僕のヒーローの信条。


 手を指し伸ばしたい。

 のに。

 届かない。


「……?」


 僕が伸ばす手を見て。

 壁に張り付いている天狗は疑問符を浮かべる。


「――――」


 手を伸ばしているのに。

 天狗はまだ遠い。

 まだ心が近くないと言う事なのか。

 まだ足りないというのか。


「………」


 僕は無力なのか?














 そうだ、僕は無力さ。













 だから有力に変える。




「天狗!! 七式婆から、お前に伝言を預かっている!!」

「――――」


 言葉を聞いた天狗の態度が急変した。


 弾丸を羽で防ぎながら、天狗は僕に釘付けになるように。

 視線を移したのだ。

 仮面のせいで天狗の表情が全く見えない。

 でも、確実に、僕を見ている。


「――」


 僕は言葉を言おうと息を吸った。

 でも、その瞬間。

 天狗の体が揺れて、


 壁穴から天狗が堕ちた。


「――!? 待て!!」


 僕は咄嗟に穴へ駆けた。

 ヘリの銃撃は落下した天狗に向け銃口が下っていく。

 僕は空いた穴から体を乗り出し。

 手を下へ伸ばした。


 でももう、下には天狗が居なかった。

 いいや、居た。いたけど。

 もう届かなかった。


「っ!?」


 刹那。

 下から強い風圧がきて僕の顔に衝突した。

 僕は思わず穴から飛ばされ、咄嗟に両手で顔を守る。


 そしてすぐ。

 とある轟音が鳴り響いた。

 爆発音だ。


 ヘリは踊りながら墜落した。


「……うそだろ」


 下の方では火事が起こっていた。

 空中で爆発したヘリは。

 どうやら民家に墜落したらしい。

 上からでもその惨状は見て取れた。


 僕は空を見上げた。

 先ほどの天狗の様に。

 風が気持ちいこの場所で、あの男が立っていたこの場所で。


 そして夜空に、月を背景に、一人の男が翼を広げ飛んでいた。


「グラビトル」


 男は僕の名を口ずさんだ。


「明日の早朝、駅の上空でもう一度話を聞いてやる。だから次は」


 男はそこで言葉を切った。


 月光に包まれ、白い羽を広げ、黒い服に身を包み。

 赤い天狗の面を顔につけた男は。

 とっくの昔にその表情が見えなくなっていた。

 いつからだろうか。

 いいや、最初からだ。


 もし彼が仮面をしている事に意味があるとするならば。

 それはきっと、表情を隠すためだ。


 天狗は僕を見下ろしながら。

 続けた言葉を、

 こう締めくくった。














「ボクと戦うつもりで来るんやな」

「――――」








 ただの1人の少年が。


 1人だったその少年が。


 何者にも変えられない才能を持ち。


 誰から見ても目立つ容姿をしたその少年は。


 見ているのも辛く、聞くにもたえない。


 非道で冷淡で、残虐で躊躇いもない。


 白い羽の鬼へと。


 堕天していたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ