第二十二幕 「「お前は」
【天狗関連とされる犯罪まとめ.txt】
・天狗
【厳重警戒対象】悪党組織 鬼族幹部。
主な活動は京都から大阪でみられる。
見た目はスーツ姿である事が多く、トレードマークであるハトの様な翼と、赤い天狗の仮面が特徴。
・推定能力
『風を操る』『飛行』『異形』。
自らの翼を用い突風を発生させ、その突風を操る。
―― 事件概要 ――
花絵堂爆破事件。『未解決』
2044年、大阪市内に店舗を構えていた花絵堂を爆破、その際初めて姿を現す。
倍原ドモリ殺害事件。『未解決』
2044年、大阪のインフルエンサーを殺害。鬼族の情報を流した為だと思われ、その際初めて『天狗』と名乗る。
大阪、京都へ流通し始めた薬物。『未解決』
2044年から広がり始めた『ワフェング』『グド』『ババセリア』などの違法薬物に関与しているとされている。
指名手配犯ガンテンバイン殺害事件。『未解決』
2044年、数年逮捕に至っていなかった強盗犯であるガンテンバインの死体が発見。現場に残された白い羽から天狗の犯行ではないかと浮上。
ドーマ資料展を襲撃。『未解決』
2045年、芸術家ドーマに関する資料展を襲撃、絵画を数枚焼き払い、残りは盗んだとされる。
辿理探偵を恐喝、殺害事件。『未解決』
2045年、依頼により天狗捜査に乗り出した辿理探偵の事務所を荒し本人を恐喝。その後殺害。
オレオレ詐欺関与疑惑。『未解決』
2044年から相次いでいた詐欺に鬼族関与の可能性、対象は大阪から京都内の為、天狗関与の可能性大。
府内20代男性、殺害事件。『未解決』
2045年、府内で男性が死亡。監視カメラの映像にて、たまたま天狗を目撃した男性を殺害する様子が見つかる。
繰内刑事殺害、パトカー破壊事件。『未解決』
2046年、現場へ向かっている繰内刑事が乗っていたパトカーを押しつぶし殺害。
以上、志賀見テルアキより。
――――。
※崖土ミノル視点
メッセージが来ていた。
僕らが目を覚ますと、どうやら志賀見が深夜のうちに送ってくれていたらしい。
中身は頼んでいたように、天狗についての事件が綴られている。
こんなに早いとは思っていなかった。
とてもありがたい。
そして。
ある程度目を通して分かったことをまとめようと思う。
・天狗が現れたのは2年前 → 天使の時期とは被らない
・鬼族幹部にしては表に出ることがおおい → 幹部の中では真面目
・殺害事件が多め、一般市民も殺している → 人殺しに躊躇いはなし
・大阪京都の薬物事件に関連している → そのあたりの担当
なるほど。
得た物はあった。
まず大きな一歩は、天使の出現時期と全く被っていない事だ。
よって天使と天狗の同一人物説の裏付けにもつながる。
そして天狗の性格だ。やはり天使と驚くほど真逆。
深読みかもしれないけど、やっぱりこれは怪しい気がする。
まだまだ『天使と天狗の関係性』について考えるべきだね。
とは言え謎は残っている。
「うーむ」
朝日を浴びながら考える。
市原駅周辺に居たと言う天使、彼はその後、花見小路へ降りて来た。
花見小路での滞在時間はおおよそ半年。
市原の方は分からないけど、
ある時から突然いなくなった。
と言う事は長い事市原では滞在していなかったのだろう。
もしあっちでも半年から一年過ごしていたのならば。
『突然いなくなった』なんて言わない筈だ。
どうしてかと言うと、仮に半年も過ごしていたならば住民はそれを覚えている筈だからだ。
この花見小路の人がそうだったように。
一ヶ月、二カ月、三か月、半年と言ったキリのいいタイミングは覚えやすい。
でも市原駅周辺ではおかしなことに、住民が時期を覚えていなかった。
と言う事から。
恐らく一週間から一ヶ月(存在すら覚えられてないかも)。
それか、二カ月から四カ月ほどで市原駅周辺から去っていると思う。
……といっても少し深読み臭くはあるよね。
この推理が絶対とは言えない。
曖昧な情報を繋げるのは難しいな。
探偵小説とかの探偵ってどうやって事件を解決しているんだろうか。
あんまりそう言う系読まないからさ。
分からないや。
まあ結論を出せと言われている訳じゃないし。
僕の興味の範疇ではある。
そこまでヒリヒリしながら考える必要も無いか。
「よし、今日も頑張りましょうか。とりあえず朝食を……」
「ちとまていミノル」
「え? どうしました?」
僕は太刀風さんの静止に素直に振り返る。
するとそこには、中腰になって布団を引っ張っている太刀風さんがいた。
ぐいぐい。布団を引っ張る。
でもなぜか布団は動かない。
僕は何も考えずに、布団の根元に視線を移した。
「ばぁっ……あぁ、あ!?」
「あんま見てやんな。こいつ寝るとき下着付けない派なんや」
「はっ!? つけないッ? あっ、はぃ」
そこには、寝相が悪すぎて寝巻が剥がれ。
露になってはいけない部分が露になってしまった。
草鍋ナギサさんがいた。
「………」
「ぐがぁ、もうちょっとぉ」
「起きろゴリラ」
「いてッ」
不本意ながら。
草鍋ナギサさんの裸体を見てしまった。
本当にごめんなさい。
じょ、女性の胸ってあんなに零れるんだ……。
「あ」
ぐっ。
「ご、ごめんミノル!!」
僕の微かな煩悩に反応したように。
音速かと思われる枕が飛んできた。
「なぐりやがったぬぁぁああ!! 朝食ボイコットするぞぉ!!」
「飯作らねぇだろお前!!」
かなり強い衝撃だった。
軽く脳震盪が残るくらい。
そんな中でも、奥の方で夫婦喧嘩みたいなのが響いてた。
――――。
久しぶりに和気あいあいな物を見れたな。
ここ数日は天狗絡みで忙しかったからか。
少し朝の騒動は楽しかった気がする。
もちろん裸体を見てしまったことについて楽しかったと言っているわけじゃないよ?
そこは勘違いしないでもらいたいね。
あくまでも僕は貧乳派なんだ。
「さて、今日も手分けしますか」
「といってももう半分以下やろ? 夕方には帰りたいなぁ」
「ですね」
僕らは宿を出て、また花見小路の入口へ立っていた。
二日目ともなると少し気持ちの慣れが見える。
だけど、まだまだ気を抜いてちゃいけないね。
二日目も二日目で、気を張っていこう。
今日も服装の変わりはない。
予定では今日で全部聞き終わって帰る予定だ。
天狗との面会も多分帰ったらやるだろう。
「よし」
そういうわけで、僕らは二回目の花見小路へ繰り出した。
とは言っても昨日よりは忙しくないね。
大方のお店は昨日回ったし、特に得られるものはないかなって考えている。
けれども、なんども言っている通り。
天狗は結果を求めている訳じゃない。
調べてきてほしい。としか言っていないんだ。
調べるだけならば簡単なこと。
でもずっと疑問なのは、どうして僕なのかって事だよね。
僕が名指しで呼ばれたのには訳があるはず。
天狗の目的は何なんだ?
というか確かさ。二回目の事情聴取の時に言ってたよね。
――――――。
「僕の事を誰から聞いた?」
「君の事をよく知っとる子から」
「それは誰?」
「……言えへんな」
――――――。
僕の事をよく知ってる子?
誰だろうか。
ソウタ? でも天狗と関わりないだろうし。
まずまず話すメリットが分からない。
まずまずソウタの異能力そこまで戦力にならないだろうし。
何だっけ、人差し指から火を出せるだけだよね。
そんなソウタと鬼族がつるむのは変な話だ。
あいや、もちろんソウタを馬鹿にする意図はないけどさ。
ソウタが違うとなると誰なんだろう。
僕の事を知ってる人なんて、太刀風さんとインハルトさんくらいなんだけど。
うーん。
逆にさ。
僕は知らないけど、あっちは僕を知っている人とか?
ストーカーみたいな話になるけども。
そう言う事なら「君の事をよく知っとる子」って言葉にもある意味説得力がある。
いや出来ればそんな事はないでほしいけどね。
ストーカーとか怖いし。
例えストーカーだとしても、
僕の事をそんな簡単に監視できるなんてありえないよ。
尾行については常に探っているし。
ほんと、ストーカー出来るとしたら。
家の前によくいるホームレスくらいだよ。
「………」
あれ。
「――きゃあああああ!!」
突然、背後で響いた金切り声に、僕は反射的に振り向く。
するとそこには倒れた女性が叫んでおり。
――僕らに背中を向けた黒づくめの男が、倒れた女性から逃げようと走っていた。
泥棒か。
「泥棒です!! 誰かあの人をとめてぇ!!」
まずい。
僕は今ヒーローのコスチュームじゃない。
だけどあの泥棒を捕まえない選択肢はない。
でもコスチュームを着ないで異能用い、犯罪に対処するのは罰金対象だ。
くそっ、コスチュームはあるけど。
着替えなきゃいけない。
服の下にいつもは着ているんだけど、
今日は少し油断していた。
後で事情聴取するときに着るから着てなかったんだ。
一日中服の下にコスチューム着るのは好きじゃないんだ。
動きにくいし。
「誰かぁ!!」
ちっ。
罰金覚悟で行くか。
僕は右手を突き出し、地面を強く蹴ろうとした。
けどその次の瞬間。
「祭りの匂いがするぜ」
僕の真横を物凄い速さで飛んだ人が、そんな事を呟いて。
「――巻鳥騒音超音波!!!」
「はっ!? ぐがああああああああ」
突如空間を揺らし、前方に放たれたのは音波のようなものだった。
空間が歪んでいる様に見え。
音もうるさい。
でもその音波は泥棒の背中を確かに捉え。
泥棒は白目になりながら倒れた。
その後ろ姿には見覚えがあった。
主にそのポニーテールだけど、昨日見た姿と、とても似ていた。
そう、彼女は。
「……な、ナギサさん?」
「おい馬鹿、今は仕事中だ。本名は、遠慮ぉ願うぜミノルくん」
いいつつ。
彼女は笑顔で振り返る。
彼女は目元だけ穴が空いた緑のアイマスクを着用し。
緑のエプロンを露出の高い服、腰には小さな革製のケースを装備し。
ポニーテールには緑の髪留めを使い、そして。
その決め台詞を吐いた。
「如何にも。あの『けんだマン』とはぁ、私の事よ」
――――。
『ラインハルト』大阪支部
所属ヒ 『娯楽ヒーロー』けんだマン
能力名 『駄菓子玩具』
自分が“楽しい”と思った物に特有の特殊効果を付与できる。
あずきバーなら盾にしたり、
風車なら強風を起こしたり。
けん玉なら――。
物理攻撃特化のモーニングスターへ変化させることが出来る。
彼女は大阪支部唯一の『異能上達者』である。
――――。
「ど、どうして京都の方に?」
「いやぁー呼ばれたからさ! 明日には帰るって轟の爺さんには伝えといてくれ!」
何だか警察に詰められているようだ。
どうやら聞いた話によると彼女は太刀風さんと同じ、
『ラインハルト』の大阪支部のヒーローらしい。
恥ずかしながら、僕は彼女の事を全く知らなかったけど。
どうやら結構凄い人の様だった。
「がっはは!! ごめんね突然横切っちゃって、朝の枕の事もあるしさぁ! ほんと申し訳ないって思ってるよ!!」
警察に連行される泥棒を横目に。
僕はけんだマンこと、草鍋ナギサさんと話し始めた。
少し彼女の見え方が変わった気がする。
ギャップというのだろうか。
昨日の深夜、ほんとは彼女の事を調べたかったんだけど。
考え事していたから、忘れていたんだ。
「いや、助かりました。自分今日コスチューム着てなかったので」
「あらそう? ならよかったな! はは!! じゃ、私はあの泥棒の後片付けをしとくからさ」
「はい。すみませんがよろしくお願いします。こっちの事は太刀風さんと済ませておくので」
「おうおう。またなんかあったら太刀風にいいな! 私、瞬間移動するからさ!」
瞬間移動?
あ、そう言えばそんなので昨日来たんだっけ。
「じゃあな!! また会えたらよろしくー!!」
「はーい」
彼女はパトカーに乗り込み、警察と共に去って行った。
太刀風さんより“風”みたいな人だったな……。
「――――」
自分が“楽しい”と思った物に特有の特殊効果を付与できるか……。
彼女の能力って割と融通利きそうだよね。
昨日の瞬間移動もそういう類なのかな?
ああいう『例外的異能力系』って何だか憧れるな。
僕の能力は『空間干渉系』だからさ。
それに比べると、『例外異能』は個性があるからいいよね。
ま、能力者当人でも分からないことが多いのが『例外異能』と言われているし。
持っているから凄いってわけでもないんだけどさ。
「泥棒に巻き込まれたせいで少し時間が食われたな」
ま、昨日が平和だったのは単に運が良かっただけなんだろう。
気を抜いていた僕が悪いな。
もし彼女がいなかったらどうなっていたか。
少なくとも、僕は後悔しただろう。
……やっぱり路地の方に入って、
コスチューム着てこようかな。
「おいお前さん」
「え?」
突然、話しかけられた。
やけに渋い声が聞こえた気がする。
僕は背後へ振り返る。
「ん?」
振り向いたけど、そこには誰もいなかった。
おかしいな。と思った矢先。
「こっちだよおバカさん」
今度は店側から声が聞こえた。
振り向くと。
そこにはお店の空いたガラス戸の中で、
小さなおばあさんが畳で正座していた。
「……あ、僕です?」
「お前さん以外に誰がおるん?」
そ、そうなんですね。
「……えっと、どうされましたか?」
「お前さんだろう」
「?」
「昨日から天使について調べとる怪しい警察っちゅうのは」
どうやらこのおばあさんは、
僕らの事を知っている様だった。
「そうですよ」
「……なら、都合がいいわい。あがりな」
言いながら、小さな老婆は畳で立ち上がり。
奥へと進んでいった。
「え? どうしてです?」
僕は戸惑った。
なんの説明もなしに、トントンと話が進んでいく。
だから説明を求めた。
するとおばあさんは僕に背中を向けたまま止まった。
そして顔だけ振り返ってきて。
その鋭い眼光を覗かせて、つぎの瞬間に口を開いた。
「天使を知りたいんだろう? 教えてやるさ、この七式婆がねぇ」
「……天使を知っているんですか?」
「……あぁ? 知っているもなにも」
「あいつは半年、ここで暮らしていたんだから。逆に知らない事の方が少ないさ」
――――。
家に上がらせてもらった。
上がってから気が付いたけど。
どうやらここはお茶屋さんらしい。
家の中は畳の部屋と言った感じで、とても古風だった。
一階の表向きな部分がお店で、その奥が普通に家と言う感じだった。
そんな場所へ通され。
座れ。と言われ素直に座って待っていると。
奥からおばあさんがお茶を持ってきた。
「あ、ありがとうございます」
「いいってこと」
そそくさとお盆を持ってまた奥へ帰っていく。
その間、僕はお茶を貰った。
しばらくすると目の前の襖があいて、おばあさんが出て来た。
「つかぬことをお伺いしますが、お名前の方を聞いても?」
「なにいってんのさ。さっき名乗ったじゃないか」
さっきか。確か……。
「……七式婆さんですか?」
「さんはいらないよ。七式婆でいい。年老りを労わる精神は間に合っとる」
「……わ、わかりました。では七式婆、天使について聞いても?」
「もちろんさ」
いいつつ、七式婆もお茶を一口飲んだ。
「はて、どこから話そうか」
「まずですが、半年ここで暮らしていたと言うのは本当の事ですかね?」
「あぁそうさ。ま、あたしは写真も撮らないから、物的証拠ってやつはないがね」
「なるほど……では、そうなった経緯とか」
「ふむ。ま、いいさ。時間はあるだろう?」
「もちろんです」
僕はそう言うと、七式婆はゆっくりと息を整えるように。
深呼吸をした。
「ならまぁ、0から話すかねぇ。長くなるから録音でもしなさい」
そんな七式婆から語られた事は、
ある意味、天使と天狗の真相に近づくものであった。




