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俺のルームメイトはスーパーヒーロー  作者: 夏城燎
第二章 赤と白い羽編
22/35

第二十幕 「天狗か」



 ※中津なかつナリト視点



 警察って言うのは。

 面白いくらいに硬い連中が多い。

 もちろんアソコの硬さじゃないで?

 腹筋の硬さでもねぇ。

 お頭の硬さや。


 柔らかくねぇと何が起こるかと言うとな。

 冷静な判断ってのができなくなる。

 自分の都合を優先しちまうし、犯人の事をあんまり考えなくなる。

 つっても本人たちもそれは理解している。

 でもな、立場って言うのがあるんや。


 警察はヒーローが登場してから舐められとる。


 市民から舐められるとどうなるか。

 信用されなくなるとどうなるか。

 そら、若い世代の子が入って来なくなるんや。

 ってなるとどんどん、職場はむさくるしくなる。

 おっさん臭くて嫌やわ。


 とはいえ、それはそれとしてな。

 年齢層が偏ると、人間ってのはプライドが形成され始める。

 どんな職種の人間にもプライドは存在しとるやろうが。

 警察のプライドっていうのは割と頑固や。

 そりゃもちろん、犯罪を取り締まる仕事なんやから。

 取り締まれる態度や規律、職種的なストレスから、

 プライドが頑固になるのはある意味仕方ない。


 でも、今回の件はそれが前に出過ぎ取る。

 俺も分かっとる。

 ……しかし、そのプライドからの焦りはどこかで消費せないかん。


 今は志賀見の奴が、

 天狗やグラビトルのバッファーになってくれとる。

 ので。

 俺は警察の頭が硬い連中の。

 バッファーになれたらなと思う。


 天狗には強めに当たる事にはなるが。

 ま、こういう立ち回りも必要や。

 悪影響にならない程度にやろう。演技含め。



「俺は大人や、若い世代にはせめていい顔をしておきたい」


 一人でに、誰もいない部屋で俺は呟いた。

 誰もいない部屋。

 そう。

 俺はずっと、天狗の監視室におる。


「――――」


 天狗の部屋はコンクリートで囲まれておる。

 出入口は一つ。鍵付きのドアが二つ。


 外が少しだけ見える5cmほどの小窓が独房の中にはあり。

 独房の中には死角が無いように4個の監視カメラが見張っとる。

 マイクもあるので天狗の独り言は聞こえとる。

 もっとも、変な事は特に言ってないがな。

 なんか、曲? を口ずさんとったり、

 指を床に叩いてリズムをとっている程度で怪しい様子はない。


 『視覚』、『聴覚』で独房の中を監視しとる感じや。

 これが天狗の監視体制。

 少し物足りない感があるが。

 まあしゃーないやろう。


 ここで俺は今、3日ほど寝泊まりしながら監視しとる。

 たまに交代して変わってもらっとるが。

 基本俺が見とる。

 上視点ではどうやら俺は信用できるらしく。

 俺が書いた報告書を、食べる勢いで読んでいた。


 退屈ではあるが。

 自己犠牲は気持ちい物だ。

 と、自分を納得させている。


 この現状は少し異常や。

 警察の焦りもやし、天狗の振る舞いも含めてな。

 こういう時の対策は、正直。

 誰かがやせ我慢するしか、ないと思っとる。


 ま、こういう。

 人から見れば理解できないような生きざまが。

 俺や。


 悪くないで。

 俺が我慢して他人が笑うのを見るのは。

 警察はそういう仕事やと思っとるし。

 そういうタイプの俺が一番、役に立てる職業だと思っとる。


 なんて自己陶酔していると、背後の扉が開いた。


「中津さん。休憩しますか? あっちにお酒も買ってきてますけども」

「ん? 平内ひらないか。いいや、カップめんを頼む。それに俺は酒に弱いんや」

「弱いのは知ってますけど……たまには野菜とか食べなきゃ、また奥さんに怒られますよ?」


 なんて釘を刺されたが。

 俺は片手を振るジェスチャーを送った。


「何日帰ってないんですか?」

「しばらく帰ってないな?」

「お子さんは?」

「大きくなっとるかなぁ?」


 そんな平内へ俺は視線を移すと。


「はぁ」


 俺のツラを見て、失礼にも平内は溜息をついた。


「そんなほうれん草みたいに、自分の子供を言わないでくださいよ」

「うちの事なんて、お前は気にしなくていいんやで」

「そう言われても気になりますよ。中津先輩は自分の事をあんまり分かってないんだから」

「アソコの硬さは把握しとるで」


 またそう変な事を。と困った顔をされた。

 渾身の冗談やったのにな。


「そんな事より、上の連中はどうや?」

「逃げられないかだけしつこく聞いてきますね」

「こんな体制いつ逃げられてもおかしくないってのにな」


 そう批判を口にするが。

 俺はすぐまた監視映像に視線を向けた。

 そうとう心配なんやろうな。

 なら用意周到にやれって話だが……。


「……なんや?」

「どうしました?」


 平内の声が背後から聞こえる。

 しかし俺はそれに振り返る事も、返答を返す事もできなかった。

 何故ならば。


「なにしとんのや、あいつ」


 監視映像に写っている天狗が。

 監視カメラに向かって。

 満面の笑みを浮かべていた。


『なんだ天狗、どーかしたか?』


 俺は監視映像から視線を外さないまま。

 片手で視界外のマイクを触り、onにした。

 このマイクで喋ると、それは独房の内部へ音声が伝わる。

 同時に俺はヘッドセットを頭につけた。

 内部の音を、聞くために。


『今すぐここにグラビトルを呼んでくれへんかな?』

『明日でもええか? 今日はもうおそ』

『ダメやな』


 俺の提案を天狗は一蹴した。


『今すぐ連れて来てもらいたい。ちと、話したい事があるんや』












『何か大事な事に、気づかれる前に』



――――。



 ※崖土ミノル視点。



「突然の呼び出しだね。何か話す気になった?」


 僕は市原からそのままこの場所へやって来た。

 疲れているのだから休みたい気持ちもあったけど。

 天狗の急な呼び出しだ。

 行かなければいけなかった。


「進捗を聞こうとおもてな? どうよ? なんか情報つかめた?」


 彼は壁際に背中を付け、地面に腰を下ろし。

 前髪で隠れた目元で僕を見ていた。


「分かったことはある。でも結論には至ってないよ」

「せやろなぁ」


 分かっていたように天狗は笑う。

 すると。それで? と天狗は矢継ぎ早に言ってきた。

 ので僕は今日判明したことをまとめて。

 口を開いた。


「白い羽の男の子。いいや、天使は」

「………」

「4、5年前に『静市市原町』で過ごした後、恐らくどこかへ移動する為にその場所を去ったと思われる」

「ほう。いい線いっとるな」

「どこへ去ったのか、何故去ったのかはまだ分かってないけど。でも、興味深い事案だったよ」

「興味深い?」

「そうだ」


 天狗は勘ぐるように言う。

 そんな言葉を、僕は肯定した。

 すると案外天狗はきょとんとした態度をとった。

 そんなのを尻目に、僕は続ける。


「君がもし天狗である前に天使であったのならば、どうしてあの町を離れる事となったのか知りたい」

「………」

「何を思って町から去ったんだい?」

「個人的な質問やな」

「疑問なんだ。晴らした方が気持ちがいいだろ?」

「いえとるな」


 笑みが口元に浮かぶ。

 少し彼の波長が分かって来た気がする。

 ……いいや、単純に関西に慣れただけなのか?

 まぁそんな事はどうでもいいよ。


 いける。

 何だかそんな確信が。

 僕にはあった。

 彼が天使である事が確定すれば、

 それは大きな一歩だ。


 もしそうならば彼の身元が分かる手掛かりになる。


 本名から出生、

 そしてゆくゆくは鬼族へ繋がってくれたら好都合だ。

 そこまで上手くいかないだろうが。

 とにもかくにも、これは大きすぎる。


 耳を傾けろ。

 天狗から、答えが来るのか?


「……だが残念や。まだそこを話すときじゃない」

「……え?」

「悪い知らせや。まだ、お願い事がある」

「なに?」

「簡単な話や、【天使と言う単語を、花見小路はなみこうじで調べてきてほしい】だけで。もちろん君が現地に行ってもらう」

「……」


 何を言っているんだ。

 話が違うじゃないか。


「おいおいそんな睨むなよ? 怒らんといてや~」

「話が、違うじゃないか?」

「せやな。だから残念なんや」


 天狗は落ちたトーンでそう言う。


「ボクも出来れば教えてやりたいけども、まぁ、事情が変わったみたいや」

「事情? 何の事情があるんだ?」

「話せんな。まだヒミツや」


 どういうことだ。

 事情ってなんだ?

 やっぱり何か、目的があるのか?

 何をさせたいんだ。

 何を、僕に。


 読めない。

 まだ分からないことが多い。

 せめて、天狗と天使の関連性くらい明らかになれば。

 僕も少しは喜べたのに。


 何が目的なんだ、天狗。


「ま、新しいのはそこまで時間かからんと思うわ。ぱって行って情報を集めてくれると助かる」

「……そうだね。分かったよ」

「悪いなぁ振り回して。悪意はないんやで、これマジな。その証拠に、今度は嘘つかへん」

「というと?」

「次のお願い事でちゃんと話すっちゅうことや」


 天狗は強調するように言葉を零す。


 【天使と言う単語を、花見小路で調べてきてほしい】。

 確かに前のお願いよりかは難易度は低い。

 場所が明らかになっている分、マシともいえる。

 だから、前ほど時間はかからないだろう。


 けれども。

 信用してもいいのか?

 こいつの言い分を。

 次のお願い事をして、本当に話してくれるのだろうか?


「――――」


 やっぱり苦手だ。この感覚が。

 天狗を捕まえているのは警察であり。

 あくまで身柄を拘束しているのはこちら側なのに。


 でも、本当に、全ての主導権は今、この天狗にある。


 邪悪。

 白い羽が黒く見えてくる。

 ここまで居心地の悪い状況はないだろう。

 腹の底が全く見えないのも中々だ。

 ミステリアスな男性がタイプな女性だったら。

 こいつはイチコロだろう。


 そのくらい謎が多い。

 そして謎をどこまでも隠す。

 全く見えてこない。

 鬼族が、天狗が。

 見えてくるのは――【天使】だけ。


「明日には花見小路へ向かうよ。だから、今日は休憩だ」

「あいよ。わざわざ遠出ご苦労様やで、グラビトル」


 僕は椅子から立ち上がり。

 出入口へ向かった。

 背後でかけられたその言葉には。


 少しばかりの嬉々と、少しばかりの労りが含まれていた。



――――。



「何の成果もまだないわけか」


 部屋を出てすぐ、

 今後の方針を刑事二人と相談することとなった。

 その場には僕、中津なかつ刑事、志賀見しがみ刑事が集まっていた。

 僕らは3つの椅子に座り。

 それぞれの姿勢で話をする。


 ちなみにだけど、

 太刀風さんは一回事務所へ帰っているのでこの場には居ない。

 事務所へ中間報告と言う事で、

 今の状態を伝えに出向いてくれている。


 なので今この場にいるのは僕含め三人だ。


「天狗が今後、何か話すように見えんのは俺も同じや、でも今は、しょうみどうしようもないな」


 ふてぶてしい態度の中津なかつ刑事は、

 背もたれに全身を預けながらそう言う。


「ですかね。ただ、こちらもこちらで出来ることがあるかもしれません」

「と言うと?」

「白い羽の男の子についてです」


 白い羽の男の子。

 その存在の実在は確認した。

 これは望み薄の作戦ではあるが。

 それについて今後も引き続き調べてもらおうと言う事だ。


「警察側の手は割と空いとる。それについてはこっちで駆け寄ってみるわ」

「お願いします。あ、あと、天使についても調べてもらえると」

「分かった。伝えておくわ」


 よし。

 どういう結果になるか分からないけど。

 これで少しは近づけるかもしれない。


「あと志賀見さんには頼みたいことが」

「ほいほい。何なりとです。車の手配ですか?」

「それは太刀風さんの車で行きます。志賀見さんには別の事を」


 とりあえず。

 志賀見さんには。

 【鬼族の天狗】について調べてもらうようにお願いした。


「手持ちの資料に書いてあったのでは?」

「書いてはありましたけど、もっと具体的なデータが欲しいんです。彼が起こした事件や、彼の性格やら」


 と言うと志賀見さんはなるほど、了解です。と言い。

 少し離席します。と一瞬席を離れスマホを握った。


「ちゅうか、どうせうちも調べ事をするんやから、それもうちに頼めばええのに」


 志賀見さんが電話している最中。

 中津刑事は疑問そうにつぶやく。


「流石に3件も調べ事は悪いかなと思いまして」

「いやまぁ、負担分担ならありがたい限りではあるがな」


 一時の疑問だったのだろう。

 すぐに中津刑事は納得する仕草を見せた。


「……」


 調べる理由はいっちゃ悪いけど。

 割と個人的な物に近い。

 天使と天狗の関連性を調べたいんだ。


 僕はまだ、天使と天狗には関連性があると思っている。


 お互いのトレードマークである。

 白い羽の共通点が大きな理由ではあるけど。

 それ以外にも、僕の勘がそうなんじゃないかと思っている。

 勘もなんか気持ち悪いな。

 心当たりがあるけど、

 それをまだ言語化出来てないって感じだ。


 でも何だか似てる気がするんだ。

 これは深読みにもなるけど、

 天使と天狗って。


 それに意味もある。


 天狗は少なくとも、その天使に何かしらの感情を持っている。

 それは僕らが振り回されている。

 『天狗のお願い』で明白である。

 お願いの時点である意味。


 『天狗は天使とつながりがある』。

 と言うのを自ら話しているようなものだし


 だから、僕の深読み以外にも関連性があるのだ。


「分かりました。出来るだけ、はようまとめておきますわ」


 スマホでの電話を終え、

 志賀見さんは笑顔でそう言ってくれた。


「あ、出来たらスマホで送ってくれると助かるかもしれません。その場で考えたいので」

「了解です」

「ほな、そんな感じで行こうか。明日グラビトルさんは花見小路へ、俺と志賀見は署に戻って調べもの」

「ですね」

「じゃ、解散や」



 と言う感じでその場は解散となった。

 僕はその足で宿に戻り、

 その日は明日に備えて早めに寝た。



――――。











 ※天狗視点。



 暗い独房。

 一点の月光が、ボクの目の前に差し込んどった。

 空気はあんまりよくないな。

 雰囲気も最悪や。

 孤独やし、なにより暇。

 そして聞こえてきやがる。


 目障りな浮かれ声が。



『調子はどうだい? 天狗くんや。肯定・相槌1、否定2でぇ』



「…………」


(トントン)


『あらまぁ、そら大変だね。君も君で苦労人だから、無理しないでね』


(トントントン)


『はいはい。要件ね。時期の調整は済んだようだから、予定通りよろしく』


(トン)


『あ、前言ってた件だけど、小指が合図で決定したからね。大丈夫、ワシがちゃんと見とくから』


(トン)


『それにしても、会話出来ないのは不便だねぇ。いやさ、ワシもわりと今忙しいから。気持ち、分かるんだけどさぁ』


(トントントントン)


『本当は、三回も四回は意図が読めないんだけどねぇ。ま、いいさ、とりあえず予定通りに頼んだよ!』


(トン)


『じゃ、また会おう!! 天下の奇術師、九尾様でしたー、ぱーちぱちぱちぱち!』



「…………」


 何が天下の奇術師だ。あのクソ詐欺師。


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