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俺のルームメイトはスーパーヒーロー  作者: 夏城燎
第二章 赤と白い羽編
21/35

第十九幕 「それとも……」」


 【天使】。

 ワードは実にメルヘンだ。

 しかしそう呼ばれていた男の子が、確かに存在していたという。



 神社から郵便局へ向かったり、

 立ち並ぶ店へ顔を出し聞き込みを進めた。


 気が付くと夕暮れが浮かんできていたので。

 今日の調査は終了と言う事で。

 僕らは帰るために市原駅へ向かい電車を待っていた。


「――――」


 今日は少し疲れたな。

 まあそれもそうか

 慣れない土地で知らない人に話しかけていたんだ。

 気疲れと言うのか何というかね。

 でも得た物は大きい物ばかりであった。

 お疲れ様と自分に送っておこう。


「いやぁ~、お昼ごはん美味しかったなぁあれ、また行きたいわー」


 太刀風さんは喉を鳴らし、昼間の美食へ思いをはせる。


「あのステーキ美味しかったですよね」

「機会がありゃ、またあれ食べにいきたいなぁ~」


 確かにあれは絶品だったな。

 すっごく美味しかった。

 こういう田舎の店舗の食べ物はあんまり食べた事が無かったんだけど。

 いいね。こういうのも。

 都会にいつも住んでるから思った事はなかったけど。

 将来、こういう田舎でのんびり暮らすのも。

 いいのかもしれないね。


「ま、それはそれとしてな。さっきのおばさんがいっとったこと、なかなかに興味深かったな」

「ですね。一度まとめて考えてみますか」


 とにかく僕らは、聞いて手に入れた情報をまとめる必要があった。

 僕は常日頃持ち歩いている手帳を開き。

 ペンを上で滑らし。

 得た情報を書き出した。



 ・総称【天使】は今から4年から5年ほど前にこの街に現れた。


 ・天使は人懐っこい性格であり、人の手伝いが好きであった。


 ・彼は笑顔が絶えず人懐っこい性格も加味し、お年寄りからの人気があった。


 ・しかしとある時期から突然いなくなる。正確な時期は不明。


 ・住民には『山へ帰った』と言われている。




「その山に帰ったってのが、また訳の分からない事なんよなぁ」


 太刀風さんは項垂れるように口ずさむ。

 僕はそれに無言の肯定を送りつつ。

 考察してみることとした。


 山に帰った。

 その発言は最後に出会った老人二人から出た言葉であった。

 とある時期から天使の姿が無くなった。

 そういう会話の流れだった。


『多分山に帰ったんやろなぁ』

『山に?』

『時期が来たんやろね。元々山から下りて来た天使やったし、人間社会も満喫したから帰ったんやないかな』


 発言を振り返るに。

 この『山へ帰った』と言うのは。

 あの老人たちの解釈らしきものと思えた。

 なので本当は突然消えて、それっきりだったのだと予想できる。


 ならば『山から下りて来た』と言うのも。

 あの老人たちの解釈だったのだろうか?

 とはいえ引っかかる点はまだある。

 『人間社会を満喫した』と言うのはどういう意味なのだろうか?


「明日くらいに、山のほうを探してみるか?」

「いいや、その必要は恐らくないかと」

「そうなん?」

「はい。恐らくですが、これは僕の解釈と言うか、考察というか……」

「推理か?」

「……ええ、そうです」


 推理か。

 そうだね。それがぴったりだ。

 だけども、僕のこれは少しだけ妄想が混じっているし。

 確実ではないと思う。

 でも、それでも、今の出そろっている情報を違和感なく解釈できるのは。

 恐らくこの推理だ。


「お、丁度電車が来たな」


 僕がそう思考をまとめていると。

 奥の方から下りの電車がやって来た。


「来ましたか。続きは車内で説明します。今は帰路につきましょうか」

「うし」


 僕らは電車に乗り込み、

 人が居ない車内へ腰を下ろし。

 夕暮れを尻目に、街を後にした。



――――。



「まず、今回聞いて回った情報には違和感があります」

「違和感? そんなんあったかな?」


 夕日で橙色の電車に揺られながら。

 僕は言葉を紡ぐ。


「一つ目は時期の話です。4から5年前と曖昧であり、正確な情報はありません」

「せやったな。まぁ、4,5年前の話だし、所々忘れちゃうのは仕方がないんやないか?」

「僕もそうだと思います。それも一因かと」

「一因?」


 僕の言葉に太刀風さんは頭を傾げた。


「まず、【天使】を知っている人たちはどういう年齢層が多かったですか?」

「ご高齢が多かったイメージやな。あんまり若めの人から聞けなかったし」

「時間的に若い人は職場にいるからですかね」

「なるほど、確かにせやな」


 今日、聞き込みを始めたのは朝の7時頃。

 そして今は昼の7時過ぎだ。

 だからギリギリ若めの人。

 概ね20~30代の人とはあんまり出会わなかった。


 とはいえ2,3人程度なら若い人と話した。

 郵便局とステーキ屋さんに居た人達だ。


 けれども。

 少なくともその場で出会った若い世代の人は【天使】を知らないと言っていた。

 だからこれは少し妄想も含んでいるけど、


 【天使】の認知には、偏りがあるんじゃないかって。


 もしそう考えるのならば。

 お年寄りから人気であったと言う話と関連性がある。


「なるほどな。でもそれって、それが何って話やない?」

「ですね。だからこれは一因です」

「なるほど、聞かせてくれ」


 もし高齢者に偏って【天使】が認知されているとすれば。

 一つの可能性が見えてくる。

 これはちょっとこじつけくさいし。

 ある意味偏見が入った推理なのかもしれないけど。

 この推理は割と筋が通っている様に見えるのだ。

 だから可能性として、僕はこの説を押す。


 それは『天使を人間だと思っていなかった説』だ。


「ほう?」

「この説の根拠は、最後に話を聞いた老人の証言です」


『時期が来たんやろね。元々山から下りて来た天使やったし、人間社会も満喫したから帰ったんやないかな』


 高齢者。

 恐らく見た目から、50~60歳の人達だ。

 すると『超能力』と言う物に。

 あんまり寛容ではない年齢と言われている。


 今の若い世代は既に『超能力』と言う物は当たり前だし。

 ヒーローという分かりやすい『超能力』対象がテレビで放送されていた。


 今の世の中、若い子なら誰しもアニメやドラマを楽しんでいる。

 そういう物を見ていくうえで必ず『超能力』に触れる。

 だから『超能力』への認識は新しい物だし。

 身近な物でもある。


 しかし老人となると、どうだろうか。

 歳を取るにつれて新しい物についていけなくなるように。

 最近出た面白いと言われるアニメに、

 見てもいないのに否定的な意見を出すように。


 生きる上で、

 変化が無い人生への慣れは。

 時に変化を受け付けない人間を作り出す。

 そういうのは長生きするほど進行していく。


 今の老人に本物ヒーローの映像を見せても「凄い技術だね」と笑うように。


 老人が『超能力』で生まれた摩訶不思議な『白い翼』を見て。

 それを持っているその子を、同じ人間と思うのだろうか?


 もし。

 【お化けや妖怪】、

 そういう類の物だと思っていたとしたら。


「なるほどな! だから山へ帰ったとかよくわからない事を言っとったんか!」


 太刀風さんは大声で笑いながら。

 片手を自分の太ももに叩きつけ言った。


「そう仮定すると、やっぱり辻褄が合う。と言っても、少し高齢の方を悪く言う推理なので、気が引けますね」

「でも実際、お年寄りの頭は凝り固まっている事もあるんやから。あながちその推理には信憑性があるで」

「……そう言ってもらえてよかったです」


 推理について自信はあまりなかった。

 まぁ初めての推理だからっていうのもあるけど。

 この推理には妄想を含んでいたし。

 そこまで物事の考察をあまりしてこなかった人生だったからさ。

 だから自信が無かったんだけど。


 どうやら案外、他人が聞いても筋が通っていそうな推理らしい。


「となると、山へ帰ったなどの証言は一旦考えない方がいいかもですね」

「やな。つう事は突然消えたっていうのは」

「移動しただけでしょう」


 ただこれにも少し考える余地がある。

 それは『どうして移動したのか』と言う事だ。


 考えられる可能性は、何だろうか。

 普通に元々移動する予定だったとか?

 それとも、『天使』と言う扱いにうんざりしたのだろうか?

 人間として見られていないのは。

 恐らくここで過ごしていればひしひしと感じるだろうし。

 だから移動したっていうのはまぁ有力だな。


 でもこればかりは確定できる情報がない。


「とはいえ。何だかやるせない話ですね」

「ん?」


 夕暮れが見えて来て、住宅街を電車が進む。

 そんな中、いいや、そういう雰囲気だから思うのかもしれない。


「――――」


 もし自分が人間扱いされていないと。

 気づいてしまったら。

 それはどれほどの絶望なのか。

 親しくしていた人たちが。

 自分を、自分として見ていなかったら。

 【天使】というおとぎ話の存在として自分を見ていたら。


 もしこの天使が、天狗の過去だとしたら。


 ……天狗が、天狗になった理由が。

 この件を通して見えてくるのだろうか。

 それはきっと、悪党ヴィラン悪党ヴィランになる理由を知るということ。

 きっと、生半可な気持ちで見てはいけないんだろう。


 人の絶望。

 他人だとしても、ましては悪党ヴィランだとしても。

 どんな絶望でも辛いんだから。


 もしあの気さくな天狗の過去が。

 とても苦しく、辛いバックボーンなら。

 ……僕は同情してしまうな。


 夕暮れに照らされ。

 人が居ないその車内は。

 とても心地が良く。

 同時にとても寂しい気がした。



――――。



 突然電話がかかって来た。

 出ると、大阪警察の中津なかつ刑事からであり。

 今は帰路で、時間も遅いので明日報告しますと伝えたけど。

 そんな事は知るかと一蹴された。


 そして、乱暴な口調でその報告はされた。




『天狗がお前をお呼びだ、今すぐ』




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