第十八幕 「「いいや」
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【事情聴取記録】
事情聴取には『重力ヒーロー』グラビトル。
京都警察の志賀見刑事が請け負う。
『会話記録 - 9-23 - 3』
「白い羽の男の子とは自分の事?」
(無言)
「誰かの指示で捕まったのか? それとも自分から?」
「今は言えへんな」
「僕の事を誰から聞いた?」
「君の事をよく知っとる子から」
「それは誰?」
「……言えへんな」
「京都で薬を流しとるのはあんたか?」
(無言)
「ワフェングっていう能力増強剤を知ってるな? 出所が分かるなら教えてくれへんか?」
(無言)
「鬼族の構成員の名前を教えてくれない?」
「教えたらそいつらに怒られる。だから言いたくないわ」
【事情聴取終了】
有益な情報はなし。
――――。
――――。
【事情聴取記録】
事情聴取には『重力ヒーロー』グラビトル。
大阪警察の中津刑事が請け負う。
『会話記録 - 9-24 – 6』
「『鬼神』についてぇ、なんか知ってる事があるんちゃうか?」
(無言)
「そろそろなんか吐かなきゃ、お前拷問されるで」
「そんなことしたとしても、ボクは何も言わへんで、おじさん」
「ほな、『酒吞童子』って分かるか?」
「ああ、分かるで。あいつ名前出てたんやな。あのいけ好かない奴は忘れへん」
「今はどこにおるん? 答えなきゃどうなるか分かるな?」
「いまどうしてるかなんてわからへんよ。ボクに何求めてるんか知らんけど、その上からの態度はどうにかしてくれへんか」
「お前がなんか吐いたら考え直したるわ」
「『3年前のプロヒーロー殺害事件』についてぇ、なんか知ってる事はあるか?」
(無言)
「……白い羽の男の子について、ヒントをくれない? 単語だけでも調べるのに時間が掛かってるんだ」
「時間の問題やで。大丈夫、いずれ見つかる」
「突然だけど、とても個人的な質問をしてもいいかな?」
「ええで、君とならいくらでも話をしたる」
「じゃあ、好きな映画はなに?」
「難しいな……実写版ライジシリーズとか好きやったで、主演の演技が抜群で見応えがあった」
「あのシリーズはいいよね、BGMだけで盛り上がる。他にはある?」
「言うなら、あそこの作品はすきやで? ちょっと昔だけど、ミートピアだとか、アウトサイド・ヘッド」
「僕はあまり知らない作品だな。レイ・ストーリーなら知ってるんだけど、どう面白いの?」
「共感が凄いかなぁー。ボクは案外、ああいう系が好きなんや」
「好きな食べ物は?」
「きなこ餅」
「いいね。僕は野菜全般」
「野菜好きな人類存在したんか」
「ストレス発散はどうしてたの?」
「一人で空を飛んでたな」
「そっか、空飛べるんだよね」
「その気になれば飛行機と並走できるで」
「趣味は?」
「うーん。音楽とか好きやで? 洋楽とかハマっとる。あとはぁ、駄菓子屋のお菓子食べる事かな?」
「きなこ餅?」
「せや。部下に買いに行かせて食ってた感じやな」
「なるほどね~」
「……ごめん、驚かせた?」
「別に驚くわけないやろ、あのおじさんが顔キィーさせながら部屋出たくらいで。どちらかと言うとお笑い草やわ」
【事情聴取終了】
有益な情報なし。
私語が多いので慎むようグラビトルへ指示。
→否定。
確実に僕ならば話を聞いてくれている。ということで私語を正当化。
事実なので経過観察にすませておく。
――――。
※崖土ミノル視点。
僕は今、留置所近くの宿に泊まっている。
広めの二人部屋だけど。
使っているのは僕一人だけだ。
とりあえずある程度体を休めて、シャワーを軽く浴びた。
今日も今日とて進展は無かったが。
意味のある事情聴取を行えたと思う。
僕なら、何故か会話に応じる。
他の刑事の質問は無視する癖に、
僕の質問にはやたらと返してくれる。
何故だろうかと考えたけど。
原因の片鱗らしきものはこの2日間で見えて来た。
やはり警察側の強引な質問が、彼の気分を害している。
はっきりしたよ。
これでは話が何も進まない。
いいや、まぁ状況的に警察の対応は間違えていないだろう。
ドラマでもよく見る感じで、警察が被害者を詰める。
それ自体は特に問題がないし必然だ。
しかしこの件について、
新たに見えて来た事がある。
それは。
恐らく天狗は。
『聴取をされたいのではなく、雑談をしたい』と思っている事だ。
そう考えているのは肌で感じる事ができた。
甚だ図々しい限りではあるが。
あいつはあの場を留置所だと思っていない。
まるで自分の立場や、捕まっていると言う事を理解していない態度。
図太いと言うのか。なんというのか。
あそこまで捕まっていて捕まっている自覚がないのはある意味凄い事だと思う。
なら、それが分かれば僕の行く先も決まってくる。
僕は焦らず、天狗の内側に踏みこむ。
じわじわと性格を理解し、天狗と言う人間を理解すれば。
何かが見えてくる気がするのだ。
僕と天狗。
精神的シンパシーなどは特にまだ感じてはいないけど。
こういう僕も僕で鬼族関連の情報は聞き出したい。
時間が掛かってもいいから、相手の好感度を上げようと思う。
けれども、
何だか相手の好感度とか考えているからか自分が気持ち悪いな。
……でもこれは仕事だ。
何なら大義すらある。
出来れば避けたい行動だったけど。
多少の正当化は必要になるか。
自分から感じるであろう人間特有のキモさについては。
今ここで正当化が必要だ。
「――――」
ちなみにだが。
まだ、『白い羽の男の子』についての情報は見つかっていない。
警察が総出で調べ上げているらしいけど。
そんな限定的な事を、この広い京都で見つける事が困難なんだろう。
それにしても時間が掛かっている気がするが。
それにも恐らく何か理由があるとみる。
とりあえず、僕ができる事は特にないので、
そこは警察に任せている感じだ。
何かが判明したら僕が出向く事になっている。
一応天狗は、僕にやってほしいみたいだからね。
「……ふぅ」
布団に腰を掛け、テレビを付けた。
せっかくの京都なのに、
いつものコンビニで買ってきた馴染のお弁当を食べつつ。
おもむろに夜景を見る。
ソウタは上手くやっているだろうか。
変な事件に巻き込まれている可能性はある。
一応、東京はヒーローが多いから。
命を落とす。なんて事は無いと思うけど。
まあそうなったら、インハルトさんから連絡が入ってるだろうから。
来ていないと言う事は大丈夫なのだろう。
確かソウタは。
新しい就職先へ行っているんだっけな。
大丈夫なのかな。
電話して聞いてみる?
新しいとこどう? 的なノリで。
………。
うーむ、余計なお世話か。
過度な心配も良くない気がしてきた。
そうだね。
そうだ。
僕は僕、ソウタはソウタだ。
ソウタを信じて行こうじゃないか。
僕も頑張っていこうじゃないか。
「ん。ごちそうさまでした」
お弁当を買ってきたコンビニ袋に入れ。
ゴミ箱に入れた。
それと同時に、僕のスマホが鳴った。
――――。
【事情聴取記録】
事情聴取には『重力ヒーロー』グラビトルが請け負う。
『会話記録 - 9-25 - 10』
「白い羽の男の子についての情報が出た。今からそこに僕が向かうよ」
「ほんまか!? いい知らせ待ってるで」
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9月25日 時刻12時20分ごろ。
僕と太刀風さんは私服に着替え、京阪電車に乗り込む。
電車に揺られ、出町柳駅へ到着。
そこから叡山電鉄へと乗り換えて目的地を目指す。
個性がある車体は。
東京とは違って興味深かった。
地域によって車体の見た目が異なる事は知っていたけど。
結構色がある物もあるんだなと。
好奇心をくすぶる。
そしてしばらく電車に揺られ。
僕らは目的地へ到着した。
列車を降りて。
少し肌寒いその空気を手で感じながら。
僕らは警察と言う仮の制服を着て。
わざわざ支給された偽名付の警察手帳を胸に。
階段を下りた。
「なるほど、すっごい田舎ですね」
「せやなぁ……ここらへんは来たことが無くって俺でも分からん」
右には自転車置き場。
しかしもう3歩進めば住人の家が立ち並ぶ住宅街。
ここ『京都府京都市左京区』に存在する。
『叡山電鉄 鞍馬線』の駅、【市原駅】だ。
京都の連なる街の丁度上部にあり。
小学校や保育園など施設はあるが、周りはほとんど山に囲まれている。
狭くもないが大きくも無い。
そんな場所である。
どうしてこんな場所へ来たかと言うと。
それはここで『白い羽の男の子』についての噂が確認されたからだ。
「とりあえず聞き込みですかね」
こうして僕らは歩き始めた。
警察の交番による聞き込みによって。
この場所は見つかったのだが。
僕らは今から、
ここの人へ再度聞き込みをし。
その『白い羽の男の子』の情報を集める事が仕事だ。
天狗からの頼みは『調べろ』であった。
つまり結論は出さなくてもいいと言う事。
僕らなりにその『白い羽の男の子』についてまとめ、天狗へ報告すればいいのだ。
まぁ、全くもってそれをする意味が分からないけど。
この天狗のお願いを遂行する役割として。
僕は指名されたんだろう。
利用されている感は否めないが仕方がない。
「この制服を僕らが着る行為って、法律的に良いんでしたっけ?」
「アウトなきぃするな。まぁでも調査の為には制服の方が都合がええのは一目瞭然やし」
また超法規的措置って奴か。
「それはそれとして、警察の制服にサングラスは少し昭和臭いのではないですか?」
「うるさいわい。子供の頃見てたドラマに憧れて何が悪いんや」
この人も大概楽しんでるな。
ま。
実際僕も、少しだけ楽しんでいるのは事実だ。
警察の制服なんて着る機会はないし。
ハロウィンなどで着飾られるニセモノとは違い。
本業監修、正真正銘のホンモノ制服だ。
別にコスプレの趣味は無いけど、
警察と言う物は一度はカッコイイと感じる物だし。
だから何だか楽しい。
「さて、とりあえず人に会いますか」
「せやな」
そうして街を歩き始めた。
ちらりとスマホのマップを開くと、
近くに神社があるらしいのでそこへ向かおうとなった。
道へ出て左へ曲がり、真っすぐ進んだ。
田舎だが日本特有の風情がある狭い歩道を進み。
見えてきたのは鳥居だった。
神社だ。
すごい近い場所にあった。
そしてその神社には。
今から学校へ登校する小学生がたむろしていた。
都合がいいと判断し。
僕らは警察手帳を出しながら。
出来るだけ怪しくないように接触。
『白い羽の男の子』について聞き出そうとした。
「なにそれ?」
「ぼく知らなーい!」
「お兄さんたち警察なの!?」
「ここらへんじゃ見ない顔だね!」
と言った声が上がった。
どうやら小学生たちに『白い羽の男の子』は伝わらないらしい。
けれども、聞いたのが低学年の子達にも見えたので。
僕らはそのまま神社で待つことにした。
「お兄さん達なんで警察になんかになったんー?」
「……昔憧れてたからだよ」
「ヒーローにはならんかったのー?」
「そうそう!! ヒーローのほうがカッコイイじゃん!」
「わたしもそう思う! 警察ってもう時代遅れだよね」
「「ねー」」
「……のっ、能力は持ってないんだ。だから警察になって、人の為に」
「お兄さん、言ってる事が臭いよ~」
「……」
「おじさん警察どのくらいやってるの?」
「……6年とかやな」
「にしては制服新品やけど?」
「……最近、新しいのに、したんや」
「ふへぇ。そうなんだー。前のやぶいたりしたん?」
「お。おう。たっ、戦いで」
「警察って戦うん?」
「……強盗とね。戦ったんや。そこで、そこでー、制服を切られてな?」
「へぇ……汚されたなら現実味あるんやけどなー!」
「それもそうか……………………え? えっ、え??」
とりあえず。
学校へ向かった小学生たちを尻目に。
最近の小学生は怖いと言う結論になった。
――――。
その後僕らはその神社で待ち。
目の前を老人が通ったので声を掛けた。
すると、思っていた通りの答えが返って来た。
「白い羽の子? あーいたね!」
「ほ、本当ですか!? 是非教えてほしいのですが」
どうやらこの白髪の女性はその存在を知っているようだ。
僕らは胸を撫でおろしつつ。
話を聞いた。
「確かありゃ、4年か5年前の話になるんやけどね。自分の事を『白い羽の男の子』って呼んでほしいっていう子がおったんよ」
「なるほど。見た目とか覚えていたりしませんかね?」
「見た目は白色の服が多かったかな。あとあれね! 白くて大きな、ハトみたいな翼! あれが凄く印象的やったなぁ」
白い翼。
4年から5年前の話。
やはり時期はわりと昔だな、詳しい時期はまだ曖昧と。
それにやっぱり白い羽は……『天狗』と似ている。
本人は確か、肯定も否定もしていなかった。
なのでやはり。
この『白い羽の男の子』は『天狗』である可能性も視野に入れるべきかもしれないな。
「言動についてはどうでしたかね?」
「普通の子やったなぁ……白い翼のせいで目立っとったけど、悪さをしたり人を傷つける事はなかったと思うわ」
「なるほど……」
どうやらその子は俗にいう『いい子』であったらしい。
天狗と同一人物と考えていたが。
少し分からなくなってきた。
今のあいつは悪党だ。
鬼族という組織へ入っており、その悪名は有名だ。
でも、そんな奴の過去が『いい子』と言うのは。
あり得ない話ではないが、今の所は何とも言えないな。
「あ、そうそう思い出したわ! その当たり障りない性格と神々しい見た目から『総称』みたいのがあったんや!」
「そうなんですか!?」
「ええ! 確かね……」
その総称とやらは。
僕らが求めていた答えへの、確かなる一歩だった。
「――確かその子は【天使】って呼ばれとったわ」




