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第二幕 「超世」




 病院に行ってから警察に事情聴取された。



 と言っても。

 そこまで説明することもなかった。

 何でも。

 グラビトルが事件の詳細を事細かく警察に話してくれたらしく。

 それにより、俺がいつもより詳しくは聞かれたりしなかったという事らしい。


 まあでも一応と言う事で、俺は病院で事情聴取を受ける。


 事のいきさつを簡潔に喋り終えた所で。

 既に顔馴染みになりつつある刑事に、「どうしてそう偶然にも社長の逃亡を目撃できたんだぁ?」

 と言われたが、俺が聞きたいよってなった。


 終わり際にその刑事から。

 お疲れのコンポタージュを手渡される。

 それでそこまで喜べないのは俺だけなのだろうか?

 なんて考えながら。

 その刑事と周りの警察官に別れを告げ、病院を出た。


 刑事が顔馴染みって言うのもおかしな話だ。

 あの刑事に限らず、警察関係者と話すと。

 いろいろと消耗する。

 だから出来るだけ避けたい。

 ……んだけどねぇ。


「はぁ」


 今日はまた一段と帰るのが遅くなってしまったなとため息をこぼす。


 そんなこんなで、家に戻るために足を進めた。




 街を歩くと見えてくるのは、

 今日も仕事を終えて帰宅する人々だ。


 その中で俺は、“今日無職になった”俺は。

 とぼとぼと足を進める。

 悲しきかな。


 もう会社を継ぐ人間はいないだろう。

 何だか刑事の話によると、

 社長だけではなく上層部まるまるがずぶずぶだったらしく。

 真っ黒クロスケも驚く不祥事の多さだったらしい。

 どうやら俺の不幸は。

 あの会社に面接へ行こうと決心したときから始まっていたらしい。

 いいや。

 ここまでくると、俺の見る目がないのか?


 ま、とにもかくにも。

 色々とカオスな事になっているであろうあの会社はもう続かないだろう。

 という事で。

 わざわざ封印したつもりになっていた退職届を速やかに庭から掘り起こし。

 明日には提出しようと思う。


 なんて考えていると、

 人混みの中、今日の一件でスマホもないので何となく目のやり場に困っていると、

 駅前の巨大スクリーンに映し出された。

 ヒーロー事務所のcmに目を奪われた。


「――――」


 今から17年前の和暦『令和11年』西暦『2029年』。

 『超人・能力者』と呼ばれる存在が初めて世界で確認された。


 それは“突然変異”だった。


 特殊能力や超能力とも言われている力を持ち始めた人間が現れ、

 たちまちその存在は『超人や能力者』と呼ばれた。

 17年前に唐突に増え始めたその変異は、

 人々の間で瞬く間に広まった。


 原因はまだ分かっていない。


 ゲノムを作り変えるウイルスが~ とか。

 人体改造によって虫の能力を~  とか。

 人間の脳のリミッターが外れた~ とか。

 今でもいろんな陰謀論が飛び交っているくらいだ。

 腕から氷を出したり、

 髪の毛をどこまでも伸ばせたり。

 超人たちは科学では解明できていないその能力に戸惑った。


 そしてそれに便乗するように、

 悪党達がその超能力に目を付け始めた。


 『超人犯罪』が起こり始めたのだ。


 世間の混乱に乗じ、影を潜めていた悪党が、密かに力を持ち始めた。

 それから、悪の時代へと移り変わる。




 2030年から2039年の9年間は。

 『最悪な時代』と言われている。


 超人を使った強盗殺人。

 超人を使ったテロが各地で勃発。

 世界の治安は地の果ての果て、蟻地獄の先にまで落ちてしまった。

 ある種の世紀末。

 警察もお手上げ状態になり、まさに地獄絵図であった。


 だがそんな混沌の時代でも、正義は存在した。


 悪の時代の中盤になると。

 急増する超人犯罪に対抗するため。

 政府と自警団の合体により組織された。

 

 そう、【最初のヒーローチーム】が誕生したのだ。


 メンバーの人数はたったの5人。

 そのたった5人のスーパーヒーローが、

 この日本にとっての『最悪の時代』を終わらせた。


 チーム名は『エレクトロニカル』。


 今まで漫画やアニメの世界の話だったヒーローは、

 人々を守る為にこの現実に爆誕した。

 その活躍は全世界で名をはせた。

 そこからどんどんと、世界各国で空前のヒーローチーム設立ブームが起こり。


 今日本では。

 『ラインハルト』

 『ハイドアンドシーク』

 『ムジーク』と大手事務所が政府と連携を取り活躍している。


 しかし、それに対しもちろん超人犯罪者たちも力を伸ばした。

 こうして、増えて行くヒーローによってもたらされた新時代――。


 ――悪党ヴィラン正義(ヒーロー)が存在する新しい秩序。


 その先に生まれた結果は。

 最悪な時代を体感した人からしたら。

 思いもよらぬ方向へ行った。


 その対立はいつの日か。


 ――世界中の人々を楽しませる『エンターテインメント』となったのだ。


 ヒーローは過去のアイドルの様な立ち位置となり。

 グッツやら変身アイテムやらアニメやらとばんばんお金にうるさくなり。

 悪党ヴィランは悲しい事に。

 そのヒーロービジネスの為の。

 『屍』となり下がった。


「………」


 と、そんな酷い時代も昔はあったが。

 今はそんな呑気な時代ではなくなった。


 何故ならば、世の中を震撼させる事件が、

 3年前の和暦『超世2年』

 西暦『2043年』に起こってしまったからだ。


 悪党『鬼族オニゾク』と呼ばれる連中が現れてから。

 その状況は急変した。


 大衆のエンターテインメントは現実へと早変わりし。

 テロや薬物を流通させる鬼族オニゾクは。

 この世界で身近なものとなった。

 テレビの向こうで起こっていたヒーローショーは突然現実の物となり。

 鬼族オニゾクと言う脅威はそこら中に現れ。

 大衆を苦しめる身近な物になった。

 今やヒーローショーをむやみに楽しむことが。

 みんな出来なくなってしまった。


 そのくらい大きな事件を『鬼族オニゾク』はやったのだ。


 3年前に『鬼族オニゾク』が起こした。

 世界を震撼させた大トラウマ事件が。

 今もまだみんなの心に、大きな傷を残している。



 3年前の悲劇『プロヒーロー惨殺事件』



 最初のヒーローチームとして有名だった。

 『エレクトロニカル』の5人は。

 悪党『鬼族オニゾク』によって残酷に殺されたのだ。


 その様子はジャックされたテレビによってアニメが放送される時間帯に生中継され。

 子供達や大人に凄惨な様子を数分放映すると言う、

 前代未聞の大事件を起こしたのが、その『鬼族』だった。


 その日からヒーローは脚光を浴びにくくなった。


 当たり前だ。


 その事件の被害者の数は数万を超えるらしいし。

 事件を掘り起こされるだけでPTSDを起こす人もいるだろうから。

 その配慮で。

 あんまりエンタメとして出せなくなったらしい。

 今思うと、とても申し訳ない気持ちになるな。

 はは。


 まあ、被害者たちのトラウマを呼び起こしてしまうと言う事で。

 今やヒーローの活躍などに関する報道も規制がされ、

 鬼族オニゾクはある意味。

 ヒーロー社会に大打撃を与えた組織として悪名を広げた。


 とはいっても。

 もちろん超人犯罪が無くなる訳じゃない。

 今もまだヒーローとして活動している人間は確かに存在する。


「ふぅ……」


 この世界の未来はまだまだ分からないけど。

 いい方に向かってくれると俺はむやみに信じている。

 根拠のない希望だけど。正義が実際に存在する世界なんだ。

 奇跡じゃなく希望を抱けるのは、幸福な事だろ?


 そう想いに老け、俺は夜道を歩いたのだった。




 既に日が落ちた空の下、俺は扉の前に立っていた。


 路地裏に家があるなんて日本人からしたら少しおかしな感じかもしれないけど。

 俺は扉を開け、家に足を踏み入れる。


「ただいま」

「お帰りソウタ。今日は帰りが遅かったね」


 家に入ると先に帰っていた人物がいた。

 ボサボサな茶髪に黒いピアスを右耳にしている半裸の青年は。

 ダボダボの服を揺らしながら俺に視線を向け話しかけてくる。


「そらな、また警察署に行ったから」

「またぁ?」


 思えば彼と出会ってからもう3年になるのか。

 長いような短いような気もするけど、

 彼と出会ってからいろいろと知ることが出来たのも事実だ。

 彼には感謝している。


「おまえこそ今日の筋肉はどうだ?」


 彼は汗を流しながら筋トレをしている。

 俺にそういう趣味はないが。

 彼は自慢の筋肉を虐めるのが大好きだと言っていた。

 本当ならどんな変態なんだと息を吐いてしまうのだろうが。

 彼だからこそ、そんな事は言えなかった。


「おう、コンディション最高だぜブラザー」


 そう彼は片腕を曲げ、ボディービルダーが良くしてるポーズを披露する。


「すまん、今日は疲れているからデリバリーでもどう?」

「おっ、いいね! 僕はカイダンピザを推すよ~!」


 俺の提案にルームメイトは笑顔で承諾する。

 何ならメシの希望を言ってきた。

 なんていう事だ。

 俺の好きな物の気が合うじゃないか。


「――――」


 俺のルームメイト、彼の名前は崖土がけつちミノルと言う。


 同じ歳であり。

 一緒に住んでいる大親友だ。

 出会いは3年前。

 それからずっと、一緒に暮らしている。

 理由は、まあ二人だと家賃が安いからだな。

 変に広い家だが家賃はそのおかげで安く抑えられている。


「――――」


 スマホを壊されたので家の電話を取り。

 家電話の上に張り付けてあるカイダンピザのチラシを探す。

 クーポンとかこういうのは付いているもんだからな。

 そういうチェックも大事だ。


「今日は疲れたなぁ」


 背中越しにミノルは溜息をついた。


「おまえ毎日疲れてないか?」


 俺がそう返すと、「はっ」と鼻で笑われた。


「まあね。……でも今日は、特に疲れたんだよ」

「それまたなんでだよ?」

「秘密だよ」

「はぁ、秘密の多い男は嫌われるぜ?」


 俺はそう冗談らしくいうと、後ろでミノルはテレビを付けた。


 ――【秘密】。

 崖土ミノルの【秘密】。

 【秘密】と言えば、今日の会社の社長も持っていた。

 『バレると危なくなる、やましい秘密』という奴だ。


 言い換えるならそう、『ブラックボックス』だ。


 人の秘密はあまり土足で入り込むべきではないのは知っているつもりだ。

 しかし。

 どうしてか俺はこの不幸体質のせいで。

 彼のやましい秘密を、

 彼のブラックボックスの中身を、

 俺は知ってしまっている。


 俺の不幸は、彼のブラックボックスを透視するまで酷いらしい。


「――――」


 ミノルは隠しているつもりだが俺は知っている。


 崖土ミノルにはもう一つの顔がある。




 彼、崖土ミノルは。


 別名。

 重力ヒーロー『グラビトル』。


 そう。

 要するに。





 俺のルームメイトはスーパーヒーローなのだ。











挿絵(By みてみん)

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