第十六幕 「ハリネズミだよ」」
※崖土ミノル視点
目的地 ―― 京都。
「……」
東京から新幹線で、
おおよそ二時間くらいで到着できるらしい。
なので僕は朝方に準備をし。
荷物をかき集め、
その足で事務所まで急いで歩いた。
とりあえずの待ち合わせ場所は事務所と言う事になっていたし。
色々と持って行かなくちゃ行けない荷物を軽くまとめた。
筆箱、コスチューム、
財布、押したらやばいボタン。
ある程度荷物をまとめ終わって、
僕は自室を出た。
「先輩!! マジで突然ですね……朝から大変だぁ……」
「あ、おはよう。わざわざごめんねサトリさん。本当に突然だよね、僕も少し混乱してるよ」
そう帽子のツバを弾きながら。
茶髪の彼女は話しかけて来た。
「――――」
僕の後輩である『読取ヒーロー』サトリは、
事務所で身支度をしている僕に近づいてくる。
ここは他のヒーローと
コミュニケーションが取れる解放オフィスだ。
僕の個室とは別に、こういう場所もあったりする。
「いえいえ!! 私の事は気にしないで欲しいっす!」
「一人で大丈夫?」
「この前みたいな異形系は怖いですけど……でも、先輩が空席だった分は私が……!」
「そこまで張り切らなくても大丈夫だよ。そんな長い事は行かないと思うし」
それは僕が、京都に招集された理由にあったが。
それを話す前に。
僕は荷物を纏め、コスチュームを詰め込んで。
「行ってくるよ。いない間はよろしくね。くれぐれも無理はしないで」
「あいあいさー! サトリ、了解です!!」
天真爛漫な彼女に見送られながら。
僕は事務所を急ぎ足で飛び出した。
――――。
何故ここまで僕が急いでいるかと言うと。
それには理由があった。
簡単な話、時間が迫っているからだ。
恐らくそろそろ時間になる。
どうやら遅刻だけはしなかったらしい。
危なかったと胸を撫でおろしておこう。
駅に入り、飲み物だけ購入。
ついでに食べられなかったご飯を賄おうかなと、
小さなサラダだけ購入した。
それを抱えて僕は。
待ち合わせの八重洲中央南口に向かう。
「ん、こっちこっち! 久しぶりやねぇ」
そこには見覚えのある人が立っていた。
「太刀風さん!? 私服始めて見ましたよ! お久しぶりです」
「そりゃね、ここでコスチューム来て登場!! は、注目を浴びるやろ?」
「あ、それもそうですね」
と、僕は自分の頭の裏をさすった。
「あほか。そこは、太刀風さんにそこまでの知名度はないのでだいじょーぶですよ!! といじりを入れるところやで」
「……相変わらず、自傷ネタを本気で面白いと思っているんですね」
「言っとけ!! いつか見返すさかい、覚えとき」
そう言う彼。彼の名前は『太刀風ミナミ』。
黒い革ジャンバーを着こなし、
少し古臭いサングラスをかけた彼は、少し強面だが僕の友人だ。
そしてまたの名を――。
『疾風ヒーロー』サイクロンと言う名前でもある。
「ほないこか」
言われ、僕は改札に入り。
そのまま時間通りの新幹線に乗り込んだ。
「……まずは、はるばるとお向かいに来てくれてありがとうございます」
体面に座った彼に僕は言葉をかける。
僭越ながら、社内で先ほど購入したサラダを頬張りながらだが。
別に遠慮がいらない人なのは知っているので勝手に開いて食べ始める。
「かまへんよ。久しぶりに会いたかったのもあるし、そこは気にせんとき」
彼は、『対超人犯罪鎮圧チーム』であるラインハルトの、
『大阪支部』に属するヒーローである。
うちの事務所であるラインハルトは。
本部から支部までで4か所が存在する。
リーダーであるインハルトさんが結構凄い人であり、
それについてくるヒーローの数が多いから事務所全体のヒーローの数が多い。
それほど、『インハルト』さんの知名度が高いと言う訳だ。
実際インハルトさんの人柄や功績に憧れてヒーローを志す若者は多いしね。
今朝のサトリさんもその一人だ。
現在存在するラインハルトの支部は『東京本部』を本拠点とし
『大阪支部』『愛知支部』。
そして『USA支部』。
その四つが。
今存在している事務所の全てだ。
最近では『北海道』にも事業を展開するなんて話も出ていた。
そのくらいうちは巨大な事務所なのだ。
そのおかげか、警察にも頼られている。
今や大御所さ。
そして今回の案件は、
その警察からの要請だ。
「手短に話そか。俺も弁当くいたいしな」
と、今回の警察からの使いである太刀風さんは。
自分の手荷物の中からお弁当を出し、その下に入っていた資料を取り出した。
「まずは、これを見てもらおうかな」
「ん、これは?」
「まず先に言っておくで、今回の件は『鬼族』案件や」
「……ほう?」
その言葉はまるで何かを釘刺すような。
そんな言い方だった。
「これは今、うちんとこで逮捕した鬼族の幹部の資料だ。組織内での名前は『天狗』、年齢不詳、本名すら教えてくれない」
と言いながら手渡されたのは数枚の紙だった。
一番初めの表紙には、『極秘事項』と大きく書かれており。
妙に重みがある書類の束であった。
恐る恐る、僕は捲ってみる。
するとそこには。
公表されてない事がつらつらと書かれていた。
「………」
――――――――。
9月19日、京都府の清水寺にて無抵抗の状態で発見。
すぐさま当時の区画担当であったヒーローが発見し、捕縛に成功する。
対象を、ヴィラン組織鬼族、
幹部の『天狗』である事を現場のヒーローが目視で確認。
後に本人からの供述でも認められる。
性別 男性 年齢 不明 本名 不明
身長169cm。
罪状
暴行罪 刑法208条
器物損壊罪 刑法261条
恐喝罪 刑法249条1項
詐欺罪 刑法246条1項
威力業務妨害 刑法234条
薬物販売 容疑
拘束時、特に暴れる事はなく。
その際に捕まる代わりに好きな服を着させてほしいと言う条件が本人から出る。
警察本部はそれを承認。本来は一時的な仮の服を着せる事を原則としているが。
特例で許可が下り、黒いスーツの着用が認められている。
注意
あくまで警察で調査を行い、不審な物が無いかをチェックしたうえで衣服を提供しているので問題はないと思われる。
――――。
続けて資料を捲ると。
そこには一枚の写真が貼ってあった。
その写真はどうやら、あの天狗の顔写真らしい。
「………」
長い前髪が両目を隠し、「ヘ」の字を描いた口がよく映っていた。
小さい顔だちで、ほくろが多数顔にあり。
こういう顔は、端正な顔立ちと言うのだろう。
……そして何より一番目立ったのは。
「これが噂の白い羽ですか」
黒一色のスーツに包まれた彼だったが。
その正面写真でも、背中からはみ出るくらい。
『真っ白い羽』が写っていた。
『天狗』の能力は【風を操る能力】と言われている。
しかし実際の所それは曖昧な情報だ。
この『真っ白い羽根』の『異形』も、風を操るうえで必要かどうか。
そういう点からハッキリとしていない。
それに、多分この書類の感じから察するに。
警察は割と甘い姿勢を取っているみたいだ。
何でもいいから情報を捻りだそうとしているのだろうか。
ふと日付をみる。
どうやら始まりは一週間前らしいが。
この日と言えば。
「………」
僕ら視点の一週間前は丁度、あの人形爆弾騒ぎがあった時だ。
もしかして関連とか……?
いいや、断定は出来ないな。
地続きの出来事なのかもしれないが、まだ関係を示唆する証拠が何もない。
それは流石に深読みをしすぎているか。
「そいつが、19日に捕まった。ほんで事情聴取が始まったんだがぁ、これが中々難航しとる」
考えていると。
太刀風さんは渋い声で捕捉を入れてくれる。
「と言うと?」
「二枚目にいってみ」
そう催促されたので、僕は資料をもう一枚捲った。
――――。
【事情聴取記録】
事情聴取には大阪警察の中津刑事。
京都警察の志賀見刑事が請け負う。
『会話記録 - 9-20 - 1』
「どうしてあんな場所に居ったんや?」
(無言)
「服についての申し出がありましたが、それはなんでですか?」
「……ただの最低限、保証してほしい人権ってだけや。それ以上でも以下でもあらへん」
「ほんなら、鬼族について聞いてもええか?」
(無言)
「幹部はあなた以外に、誰がいますか?」
(無言)
「鬼族はなにが目的なのですか?」
(無言)
「……では、質問を変えましょう。あなたはどうしてわざと捕まったんですか?」
「今は言えへんな。……ただぁ、もしボクが話すとしたら」
――――。
「――――」
まるで僕の心境を表すかのように。
新幹線がその時、少しだけ揺れた。
外の風景が自然から、その瞬間、真っ暗い空間に入る。
トンネルに入ったようだ。
「……これって?」
目の前の人に視線を送る。
しかし、帰って来たのは無言の肯定だった。
次に口が開かれたのは、それから数秒後だった。
「全部あいつが言うた事や。事実だ事実。信じられへんやろが……」
「――――」
確かに信じられない。
僕は今まで、特に鬼族と接触を果たしてこなかった。
確かに僕の目標は。
その鬼族への復讐ではある。
……でも、まだ肝心な鬼族関係者。
その関連ヴィランには出会った事がない。
「どういう事……?」
「俺も分かれへん。ただ、今回のこの遠征の理由はみなその発言が原因や」
思わずの呟きに、太刀風さんの同情の声が上がる。
そう。
今の今まで。
まだ、僕はどうして京都から要請があったのか知らなかった。
でも『増援要請』にしては。
僕だけが向かうのはおかしかった。
それに本件に関しては。
例え同じ事務所のヒーローですら。
他言無用だとわざわざ通知まで来ていた。
だから、ずっと不思議だった。疑問だった。
でも今、全ての辻褄があったきがする。
「……」
僕はその発言を再確認する為に、もう一度資料に目を向けた。
――――。
「ボクは『重力ヒーロー』グラビトルになら、話をしてもいいと思っとる」
――――。
その文面は。
やはり何度見ても。
衝撃的だった。
まず、全く僕に、心当たりがない。
この天狗と言う男は捕まった事も公になっていない。
そのくらい警察も情報を隠している。
それは逆に言えば、天狗も外の事を知る事ができないと言う事だ。
……だがしかし、こんなにも距離が離れている僕を何故わざわざ指名したんだ?
出来たんだ?
そして“僕なら”話してもいい。
その言葉の。
その真意が読み取れない。
「――――」
鬼族の『天狗』は有名な悪党だ。
主に大阪、京都で活動している鬼族の筆頭であり。
名前だけならばいくらか認知されている。
主にそのビジュアルから名前が広がった珍しい悪党であり。
天狗が持っている唯一無二の白い羽と黒いスーツはカッコよく、若い子からそのビジュアルが支持されている。
犯罪者がイケメンでファンができると言う話自体、今はもう珍しくない。
昔からそういう事例は何度かあったし、驚く事でもない。
それで、そう言った事から悪党ながら。
その存在感はヒーローと同じくらいであった。
確か仮面は、長い鼻をした赤い天狗の仮面だ。
この顔写真ではその仮面がないけど。
いつもはその天狗の面を常備し、その猛威を奮っていた。
そんな奴が。
どうして僕にだけ話をする気になっているのか。
少し理解が追いつかない。
僕の名前が挙がる事も理解ができないし。
わざわざ無抵抗で捕まる相手の目的も全く見えてこない。
捕まえているのはこっちなのに、
何だか物事の主導権は天狗が握っているようだ。
実際報告書だけでもそれは伝わってくる。
理解は追い付かない。
納得も出来ない。
でも、
「その疑問を晴らすために、僕が呼ばれたんですね」
「そうやな」
太刀風さんは相槌を打った。
「鬼族がここまではっきりとした尻尾を出したのはこれが初めての出来事や。この機会を逃すわけには行かへんと、上の連中は躍起になってやがる」
それは報告書からも感じる事だね。
「でしょうね。3年前の屈辱は、僕らヒーローにとって忘れられない事だし。警察上層部も恨みを持っている人がいるはず」
――3年前の屈辱。
ヒーローにとっての大失敗。
市民にとっての最悪なトラウマ。
「………」
プロヒーロー殺害事件はの慟哭は、まだ響いている。
しかし僕にとっては。
少し違う意味を孕んでいた。
両親の敵だ。
僕の両親があの『エレクトロニカル』であったと言う事実は。
今の所誰にも話していない。
僕の目的を話していないので。
僕の素性は隠すべきだと判断した。
僕はこの業界では新人だ。
それはまぁ、3年前まではヒーローでもなんでもなかったし。
この数年でここまでくるヒーローは異例だと笑われた。
……ただ僕は、常に敵を討つために上を目指し。
ここまで短期間で這い上がった。
色んな人脈を使って。
色んな方法を使って、この大御所事務所へ入った。
そう。
僕の悲願が叶うかもしれないんだ。
僕の敵討ちが。
まだまだ時間が掛かると思っていたけど。
思っていたより。
僕は近づいているのかもしれない。
「ま、事の重要さは理解してもうたと思うんやけど。一応確認や、お前は行けるか?」
「もちろんです」
「やけに即答やな。危険が伴うかもしれへんのやぞ?」
危険?
そんなもの、承知の上だよ。
「問題ありません。僕はヒーローとして、その任務を受けます」
僕はヒーローとして。
僕は【英雄】の息子として。
僕は鬼族を絶対に許さない。
――――。
話し終わった時、目の前で太刀風さんが焼肉弁当を食べていた。
すっごい羨ましくなった。
――――。
と言う事で到着した。
京都駅だ。
「おお!! あれが京都タワーって奴ですか!?」
白く長細い特徴的なタワーを見つけ。
その途端。
僕はついに、その舞台へ来たと自覚した。




