番外編 「いずれ来たる、梅雨の時」
何だか懐かしくなる曇り空。
少し肌寒くって、乾いた風が流れているその時。
ビルの屋上で。
僕はビルの端っこで立っていて。
僕の目の前には。
赤い鬼の仮面を付けた、スーツ姿の男がいた。
僕はとにかく、一つ言わなければならないことがあった。
「呼びかけに応じてくれて嬉しいよ」
「……そうかよ」
僕の言葉に、仮面で籠って聞き取りづらい低い声で。
彼はつまらなそうな返答をする。
――ポツリ。
空の涙が一滴、ビルの屋上へ落ちた。
それを皮切りに、その涙は雨となった。
雨は大雨となり。
大雨は豪雨となった。
「一つ質問だ。グラビトル」
「なに?」
「お前にとって、ヒーローってなんだ?」
「他人を助ける存在だ。他人を思いやり、ピンチな時は他人を救う」
「求められてない救いでもか?」
「………」
彼の言葉に僕は少し考えるけども。
伝えたいことは事は特に変わらなかった。
「助ける助けないの選択は僕にもある。でも、死んでしまったら何も残らないから、どんな人でも僕は助けるさ」
「例え救われたとしても、そいつが救われた事を苦しく感じたら? 後悔したらどうするんだ」
「後悔するだけ、出来るだけ。その人が生きている証だ。例え「お前のせいだ」と言われても、その人がどんな人間であろうと、後悔を抱える人も偉いと思う。だから出来るだけ、僕もその人に寄り添うさ」
「……傲慢で酷い理想家だな。綺麗事過ぎて呆れるぜ。いいか?人間はそう簡単じゃ」
「――簡単だよ」
「…………」
「人間は簡単で単純なんだ。だから簡単な事に絶望して、単純な事で救われる。そうじゃないっていう奴は、きっと、救われようとしてないだけだ」
「知った口を」
「知っているからね」
「………」
それからは静寂だった。
でも、意味のある静寂だった。
僕は腕にあるサポテムを起動させ。
彼に向けた。
彼も自分の右手を、意味ありげに見て。
そして僕へ視線を移した。
「――――」
「――――」
どれだけの激情を、僕は彼に向けて来たのだろう。
どれだけの想いを、彼に向けただろう。
僕にはもう分からなかった。
あの日。
父と母がテレビの中で殺された日。
僕はもうとっくに、どうかなっていたんだ。
とっくに何かおかしくなっていた。
今なら、先生の言葉の意味が分かる気がする。
これから始まるのは。
決別だ。
僕と彼。
復讐鬼と復讐鬼の。
決別の戦いが。
―― 今、始まった。




