第十四幕 「平和の訪れ」
※竹内ソウタ視点。
事態は終幕へと向かっていた。
爆弾の処理は俺と田中で終わらせ。
路地裏で爆弾を設置していた犯人は。
ブルーメによって捕らえられたと救急車の中で治療を受けながら聞いた。
俺らが色々と終えたあの歩道で、俺らはそのまま保護された。
警察に肩を借りながら一緒に歩く途中。
色んなヒーローが遅れて路地裏に入っていくのが見えた。
恐らくまだ爆弾が残っている可能性があるのと。
あと、爆発した爆弾の被害についても見に行っているのだろう。
「ん、この音は」
そんな事を思っていたら、消防車の音がした。
火事にでもなっているらしい。
俺と田口は多少の怪我はあったがほとんど無事だった。
爆弾7個のうち、1個は爆弾の不具合により爆発したが。
それ以外の6個は田口が解除した。
ビルに被害はあったものの。
限りなく被害がない終わり方をしたのだろう。
というシナリオをでっちあげる事に成功した。
「怪我が無くてよかったでやんすね」
救急車から出て来た田口に開口一番にそう言われた。
田口は右目の上に絆創膏を一枚張っていた。
恐らく、俺の不時着のせいだろう。
雑に放り投げたから怪我させてしまったんだろうな。
今度から気を付けよう。
「お前もそこまで、大怪我って言う怪我はしてないようでよかったよ」
ここはビル群の中にある有料駐車場だった。
今ここに爆弾処理班やらヒーローやら。
警察やらが勢ぞろいし、陣を引いているって感じだった。
その中で俺ら二人は。
怪我の治療を受け、救急車の横で座っていた。
「会社には俺から電話しておいた。後で大本社長が車で向かいに来てくれるらしい」
「あ、連絡ありがとうございます。……そうでやんすね。ブルーメさんがどうなったか、詳しく聞きたいところですが」
救急車の回るランプに照らされながら田口はそう呟いた。
何だか含みのある言葉だった。
俺はあのブルーメさんと、今回の一件で全く絡みが無かったので分からないが。
不安になるような別れ方をしたのだろうか?
まぁ、心配は心配だよな。
少なくとも、この駐車場にはいないようだし。
「………」
落ち着いている。
これはあれだろうか、戦いの後の静寂みたいな。
別に静かではないけど。
なんか凄い、体がゆったりとしている。
疲れたのかな。俺も。
「……現実味がないでやんすね」
俺がそう思っていると、横で田口は呟いた。
「そうか?」
「と言うか。逆にソウタ氏はなんか平然としているっていうか、凄い落ち着いていますね」
「……こういう時は一周回って落ち着くんだよ」
「やっぱり最初に出会った時から思ってやしたが、何だか面白いですよねソウタ氏って」
「そうなのか? 面白く振舞ってるつもりは無いんだが」
「なんていうのか分からないでやんすが。一緒に話してると安心するって言うか。どこか達観してる喋り方が、何だか癖になるというか」
「なるほどな。ま、俺からすると俺を面白いと思う奴の方が、十分面白いんだがな」
ま、そんな事は置いておいて。
確かに普通の人ならば。
こういう事が起こった後って。
まだ興奮が収まらなかったり。
起こった事をまだ信じられなかったりするんだろうな。
ただ……まぁこれは、慣れかな。
しばらくの間があった。
俺は少し黙って、田口も少し静かにしていた。
すると、目の前の救急隊員が担架を持って路地裏に入っていった。
そのタイミングでやっと、俺らの近くに人が居なくなった。
「田口」
「……どうしたでやんす?」
「これは頼みなんだが、いいか?」
俺が言葉を吐き終わると。
田口はゆっくりと振り返ってきた。
「なんでやんす?」
「多分だけどさ。……俺の能力を見ただろ?」
「そりゃ見ましたが。それがどしたんです?」
やっぱり、みられていたのか。
まぁ予想はしていたがな。
「その能力の事なんだが」
「警察やブルーメさん、そして他の奴らにも」
「俺が能力者である事を隠しておいてほしい」
俺がそうやって。
神妙な顔でいうと。
田口は意外そうな顔を浮かべた。
だろうなって感じの反応だ。
言っている事わけわかんねぇだろうな。
能力者であることを隠してくれだなんて。
でもすぐ、田口は飲み込むようにうなずいてから。
「別に隠すのは問題ないでやんすけど。代わりに、聞きたいことがあるでやんす」
「あぁ……まぁ、物によるが答えるよ」
「ソウタ氏は、元ヒーローだったりするのですか?」
「……ヒーローではないな。何だったかまでは言えない」
「なるほど」
問いに曖昧な返事を返す。
返しながら、その時の俺は、別の事を考えていた。
「………」
こうなったことを、俺は胸の内で少しだけ後悔していた。
でも、実際こういう状況になって、俺が能力を使う事を少しでもためらっていたら。
他の所に被害が出るのは誰でもわかる事だった。
別に人命救助とかあんまり興味は無かったのだが。
あの時、目の前の事が何だかめんどくさそうだったので。
ゴミ掃除をするつもりで行ったら、こういう事態になった。
それに。
田口が爆弾を探し回っているのを上空から見て、
何だか、手助けしたくなったんだ。
俺が田口や愛川に少し好感を持っているのは知っての通りだが。
それのせいだろうか。
「………」
俺が能力者という事は実の所。
あの『崖土ミノル』にすら話したことが無い。
隠すのはまぁ、色んな理由があるから省くが。
正直、知っていていい事なんてないからな。
俺の能力は呪いみたいなものだから。
「――ではソウタ氏は」
「………ん?」
俺は空を見ながら、片耳で田口の言葉を聞く。
色々と考える事が多くって、俺は空を仰いでいるのだが。
その時、田口の口から信じられない言葉が飛びだした。
「どうしてヒーローにならないんです?」
「………」
まだサイレンが鳴っている夕方、
事件の後処理を警察が行っていて騒がしいその場所で。
田口は、耳を疑いたくなるような質問をしてきた。
思わず俺は驚いた顔をして。
田口見ながら言葉を吐く。
「どうしてそう思う?」
「だってソウタ氏は。そういう力があるじゃないですか?」
平然な顔で言われた。
意外だな。
「人を助ける力。戦う力。そして、確固たる正義の心があると思いますよ」
「どうしてそう言い切れる?」
何だか田口の言葉は。
確信を得ているように自信があるように見受けられた。
だから俺は、どうしてと聞いた。
「だって、隠したい能力をわざわざ使ったんですよ? それってつまり……」
「ちょっと勘違いをしているな」
その言葉は軽い否定じゃなかった。
これは強い否定だ。
「確かに田口から見たら俺はヒーローになれる才能を持っているのかもしれない。でも、もうその段階は過ぎたんだ」
俺は。
俺が正義側の人間ではないのをよく知っている。
確かに、田口から見るとヒーローの様な力を持っているように見えただろう。
だがもう、俺の手は、既に黒い血で染まっている。
染まりきっている。
「――――」
ドロドロで黒く、生ぬるく、こびりついて離れない。
一生拭えない血で、俺の手はもう染まっている。
後戻りはできない。
普通の生活を望んだ瞬間もあったけど。
あの爆発事件から俺はそれを諦めた。
まだ俺はあの公園での黒煙を忘れていないのだから。
「――突然すいません。自分、トクノウ一課の者なんですが。ちょっと話、聞いてもいいですかね?」
そんな会話をしていると。
警察から田口に声が掛かった。
それに、どうやら田口だけを連れ行こうとしていた。
ふむ、どうやら俺は今回お呼びではないらしい。
都合がいいので俺はそのタイミングで立ち上がって。
「俺はもう行くよ」
「えっ。ソウタ氏の事情聴取は?」
「どうせ今回も来ている警察官が、俺の名前を聞いた時点で明日らへんに警察署の一室を開けるさ。だから、そこで話すよ」
ま、後で電話も来るだろうし。
今のところはいいだろ。
なんて事件現場上級者の俺が言って。
その場から去ろうとした時だった。
「……へぇ、あの噂の不幸体質はあなたでしたか」
俺が駐車場の出口へ歩き出した瞬間。
背中越しに。
田口に話を聞きに来た人から。
そう言われた。
知らない声の癖に生意気な口調だな。
「もしかして俺って、署の中で割と名前が広がっているんですか?」
嫌味っぽい言い方のせいで。
ちょいと強めに振り返ってしまった。
まぁどうせ俺の第一印象は最悪だったろうし気にすることでもないか?
でも何だか嫌な奴みたいであれだったな。
「そりゃもう有名ですよ、不幸体質の竹内ソウタは」
俺がそんな自己嫌悪に陥っているのを知らずに。
振り返った先に居た少年は言葉を繋いだ。
見るに。
身長が俺と同じくらいで黒いスーツに身を包んでいる。
それにその頭部には特徴的な学生帽を被った。
少年がいた。
「なんてまぁ、嬉しくない話ですね」
確か『トクノウ一課』って言ってたか?
何だ? トクノウって、どういう漢字で書くんだろうか?
少なくとも、俺も知らない名前だな。
それになんで学生帽を被っている?
「あいや、誤解しないでほしいのが。あなたの事はそんな嫌な伝わり方はしていませんよ。まぁどのみち、いつかあなたとは話す機会がありそうですし、僕の自己紹介だけさせてくださいよ」
「……はぁ、お好きに」
お好きにとは言ったが。
どうせ明日には忘れてそうだ。
こんなガキが警察の一味なのか?
知らないうちに警察も変わったんだな。
いい方向の変化だといいな。
こういうガキが働かなくなる日本を目指してくれ。
「特殊能力対策課、略して『特能課』の一課に所属しております。最多ハジメって言います」
その少年は学生帽を脱ぎ。
赤黒い髪の毛が揺れ。
左目の下に三つの小さなほくろが浮かんだ。
とても整った顔を見せつけてくると同時に。
その少年は胸に手を入れ、取り出した手帳を開いて見せてくれた。
【特殊能力対策課所属 最多ハジメ - saita hazime】という文字が書かれた手帳だった。
「以後、お見知りおきを。竹内ソウタさん」
といい、その最多ハジメと言う少年は。
田口共に駐車場へと歩いて行った。
――――。
俺は駐車場を離れ、歩道を歩きながら思う。
変な男だったな。
だがまぁ、そこまで脅威ではないだろうし、出来れば今後とも無干渉で行きたい。
はい。今の一件は終わり終わり。
警察なんてもんに絡んでいて怖い事はない。
俺はまだ隠しているが、元悪党だし。
もしバレてしまったら大変な事だ。
この日常が終わってしまう。
それだけは避けなければ。
「あっ、そう言えば電話しなきゃ」
もちろん大本には今回の事件を伝えている。
そしてその大本は田口を迎えに、先ほどの駐車場へ向かっているのだろう。
でも俺はそれについていなかない。
何故なら、行く場所があるからだ。
「えぇっと、確か番号は」
ミーミーナ。だっけか。
変な覚え方だよな、やっぱこれ。
俺は電話に番号を入力し。
横断歩道の信号機で足を止める。
その横には、帰りの小学生がたむろしており。
世間話をしながら信号が青になるのを待っていた。
『――――ッ』
「ん。もしもし? うさぎであってるか?」
電話がつながった。
と同時に、信号が青色になったので歩きながら電話を続ける。
『私にこの番号で電話してきたってことは、あなたは私の友達か酒呑童子ね』
「お前その究極の二択をこの番号教えた友達にもやってるのか」
『安心して、この番号を教えられるくらい親しいのはあなたくらいだから』
「じゃあなんで二択だったんだよ。俺だけでいいだろ」
『希望的観測よ』
懐かしい声だ。
相変わらずの憎まれ口で安心するよ。
「悲しくなるからやめろ。仕事だ仕事、小遣い稼ぎしないか?」
『小遣い稼ぎ? コンビニのバイトならもうしてるけど』
「ばーか、敵陣突撃だ」
『あぁ、なるほど。なら問題ないわよ、どこで集合?』
「悪いが港区まで来れるか?」
『学生にこの時間からそんな遠出を?』
「そのただの学生が、こんな裏バイトしているのは驚きだよな」
『いいでしょ~!』
「別にカッコいいって言った訳じゃないぞ?」
こいつ、相変わらずふざけた野郎だ。
ま、金を払うと言えばどこまでもついてくる子だし。
こいつの力ならばいろいろと事足りるだろう。
『でもさ、悪党は引退したんじゃなかったの?』
「あぁ、引退したよ」
『じゃあなんで私に連絡を?』
「はっ、簡単な事さ」
『……?』
復讐だよ。
――――。
爆弾の事件から、5日が経過した。
「おはよう」
「おはよう~」
「おはようでやんす」
俺のおはようという言葉に。
二人は背中で返してくる。
「――――」
俺らの日常は元通りだ。
朝、大本サポテム修理工房に出勤し俺はいつも通りタイムカードをさす。
そして指をパキパキと鳴らしながら書類の山へ向かった。
相変わらずこの山を崩すのは一苦労だ。
確実に減ってはいるが、元の量が多い。
まだまだ時間が掛かるな。
まぁしかし、少しだけこの空気に慣れて来た。
そこまで時間は経過していない。
まだ入社して一週間くらいだが、経過は順調だ。
書類仕事はだんだんと慣れて来た。
やっぱり、最初の頃より手際が良くなった気がする。
書類捌きはお手の物、みたいな二つ名でも考えようか。と思っていた時。
丁度昼飯の時間がやってきた。
「ひっひ、今日もご馳走でやんす~」
田口はチャーハン、愛川はペペロンチーノ。
そして俺は野菜のサンドウィッチと唐辛子らーめんだ。
「よくそんな辛いの食べれやすよね」
「逆に田口は食べないのか?」
「辛いの苦手で」
「うそー、アムくん辛いの苦手なんだ」
「ミキ殿は得意なんですか?」
「私はわさび好きだよ」
他愛ない会話。
なんの生産性も無いが、有意義な会話だ。
そんな会話の最中、おにぎりを食べていたカナメがリモコンを握り。
テレビを付けた。
『5日前、港区で起こった爆発事件と火災について、同一犯の犯行として見ており。警察とヒーローは引き続き犯人特定を進めているとのことです』
「犯人、まだ見つかってないでやんすね」
「……そうだな。ま、いずれ捕まるだろ」
あの事件から五日が経った。
俺らは無傷だったから、平然と次の日から仕事に復帰していたが。
あれから何度か警察に呼ばれ、何度か警察署に出向いている。
しかし、どうやらまだ犯人の手がかりをつかんでいないらしい。
それか。
判明しているけど、わざと公開してないだけか。
俺は後者の線で見ている。
それに、今のニュース的に、そうやって公表するんだな。
やはり動いている。
「そう言えばなんだが、あの爆弾ってそんな簡単に作れるのか?」
これは俺の言葉だ。
「簡単には作れないでやんすよ。でも、『そういう能力』なら簡単でやんす」
「なるほどな」
能力。
この世界の超能力はわりと自由で、今までの常識を無視するようなものも存在する。
融通が利くというのか分からないが。
自由に振りかざせる力だからこそ、犯罪が起こる。
『爆弾を作る能力』
厄介な物だ。
今後も爆弾テロは起こるのかもしれない。
続かないことを祈るが、どうだかな。
「――――」
鬼族が起こした事件である可能性もまだある。
まずまず俺が今この件を探っている理由は。
あの公園で子供を目の前で殺されたからだ。
つくづく、俺と言う人間が芯の通っていない半端物であるのを自覚するばかりだが。
案外俺は情に流されるし理性的じゃない。
復讐なんて生産性も無く。
なんの成果も得られない物をやろうしている時点で。
俺はどうしようもなく愚か者なのだ。
でも俺はそういう人間だ。
どうしようもなく情に流される愚か者だ。
どうしようもなく突き進む闘牛だ。
どうしようもなく、手遅れなくらい、愚か者だ。
「………」
そういう芯なら、俺に通っているのかもしれないな。
「お疲れ様です」
「はーい、お疲れ様だよ、ソウタくん」
仕事終わり、俺は愛川と別れ建物の外に出た。
すると見えてきたのは。
「うぉ~、今日は綺麗な時間に終われたな」
この仕事に慣れて来たと思っているが。
今だにこの夕日の色には見惚れてしまう。
仕事場は建物の中だったし。
機材の音がするからうるさかったが。
外に出るとここは凄く静かで。
仕事場の奥に流れている多摩川のせせらぎが心地よかった。
何となく川に近づいて。
俺は地面に座り込んだ。
「あ」
「え? 田口?」
河川敷の下を覗き込むと。
なんと川の近くで田口アムが座っていた。
「ここで何してる?」
「こっちセリフでやんすよ。なんでこっちに?」
「いや、何となくぼうっとしたくって」
「あぁ、ソウタ氏もですか」
も。ということは同じ用事なんだろう。
分かるぞ、この夕日だ。
黄昏たくもなる。
「……」
「………」
まるで落ち葉が地面に落ちる様のように。
ゆったりとした空気が流れた。
時間なんて流れていない様だった。
周りには人が居ない感覚だった。
「平和だな」
そう形容しても問題ないくらい、穏やかな気持ちだった。
「ですねぇ。あんなに死にかけたのに、今はこんなにも静かだ」
「そう言えば。あの時の事なんだが、話を戻してもいいか?」
「というと?」
「俺がなんでヒーローにならないかだ」
「あぁ。あれで話終わりだと思ってましたよ」
「色々考えたから聞いてくれ」
「………」
「俺は昔、取り返しのつかない罪を犯したことがある」
昔、俺は鬼族に居た。
鬼族に拾われた俺は、最初こそそこで野犬の様な扱いを受けていた。
その時はさほど俺も強くなかった。
能力も育っていなかったし、他のメンバーからの白い目で見られていた。
でも俺は、たった一つの感情を最後まで持ち続けた。
したら、いつの間にか組織の『幹部』へとなっていた。
それが【復讐心】だ。
「この力は確かに強い。人を救ったり、守ったりできるんだろう。
でも、この能力がこの能力である理由は、正直口が裂けても努力とは言えない。
ドロドロの怨念と目をそむきたくなる深淵。そして醜い激情が、俺の能力を形作った」
「………」
「ヒーローにはなれない。ヒーローとは違う。これは超能力じゃない。これは【呪い】だ」
呪い。
俺が俺であるかぎり、
この呪いは決して消えない。
俺が幸せになったとしても、俺が普通の生活をすごしたとしても。
変わらない。
変えられない。
呪いだからだ。
「だから俺はヒーローにはなれない。なる“資格”がないんだ」
「……」
こんなことを話されても困るだろう。
でもあの時、ああやって言われて、俺なりに考えていたんだ。
最初こそ聞き流そうとしていたが。
俺のこの豹変っぷりに自分でも驚くばかりだ。
やっぱり、俺は意外と、田口や愛川、そして他のメンツの事が好きなのかもしれない。
まぁそれは置いておいて。
俺はもう後戻りできない場所に立っている。
それを知ってほしかったのだ。
「………」
「僕からしたら、ソウタがどんな思いで自分の超能力を伸ばしてきたか分かりません」
俺が喋り終わると、
田口はなぜか「僕」と言う一人称で語り出した。
「でも、ソウタの力は、凄い物です。それがどういう経緯で生まれたのかなんて関係ない」
「関係ないって……」
「ないんですよ。現実にヴィランから足を洗ってヒーローになった人もいます。いるんです」
「………」
「覚えておいてください。確かに、あなたの能力に助けられた人がいるんです」
「――――――」
何も知らないからそんなことが言えるんだろうな。
まぁそのナニを語ってないのは俺なんだが。
少し無責任な言葉だな。
でも、別に悪い気分ではない。
そう言われて俺は、“少しでも自分にそういう心があったという事を再確認できた”
嬉しい事だ。素直に受け取ろう。
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
「あ、それ分かってない顔だ」
「え?」
「でもいいですよ。いずれ、分かる時がくれば、嬉しいかな」
「………」
田口からは想像ができないくらい。
面白そうなものを見る顔で言われた。
でも。
面白そうな顔で言われたにしては言葉に重みがあった。
「――――」
多分だけど、まだ俺が受け取れる言葉じゃないんだろうな。
その言葉を受け取るだけのレベルじゃない。
俺はまだ愚か者だ。
愚か者である限り、バケモノである限り。
そんな言葉を心に仕舞える無垢じゃない。
「資格って言いますけど、それって最初に現れたヒーローにあったんですか?」
「……?」
突然言い出したかと思ったら、何を言っているのか分からなかった。
俺はそのまま押し黙る。
「ヒーローになる為には確かに資格が必要です。能力を強化して、往復練習を繰り返して。でもそれは今この時代だからだ」
「………」
「最初に戦ったヒーロー『エレクトロニカル』に。ほんとにその資格があったと思いますか?」
「…………どういう意味だ?」
「今でこそヒーローである事に責任が伴っています。今でこそビジネスとして、エンターテインメントとしてヒーローは存在しています。……でも、【本物のヒーロー】って、どういうのか分かりますか?」
「……………」
「他人を助ける。他人を気に掛ける。他人を見ている。……これは社会に出てから、僕が感じた事ですが」
「………………」
「【本物のヒーロー】は身近にしかいないんですよ」
【本物のヒーロー】は身近にしかいない。
その言葉に俺は、妙に納得してしまった。
「――――」
俺にとってのヒーローは誰だろうと考えた。
ミノルだった。
俺にとって代えがたい存在、守りたい物はなにかと考えた。
ミノルだった。
親友だった。
俺のルームメイトはスーパーヒーロー、だ。
人を助けて、そしてあの日、こんな俺を助けてくれた。
あの日、俺が鬼族をやめた日。
全部終わらせて。
生きる目的を失くしたとき。
救ってくれたのは、あのスーパーヒーローだった。
「………」
せせらぎが頬を掠めた。
風が鼓膜をつついた。
終わりかけの秋の匂いが、川と共に流れて鼻を通った。
秋の様な夕暮れが、分断された世界の様な黄昏が。
飛び込んできて。
「…………ありがとう。これは本心だ、田口。おかげで知れた」
俺はやっと、田口の方を見て自信満々に言った。
「そうですか。なら良かったです」
今度の田口は、まだ言いたいことがありそうだったけど。
言う直前で、言葉をゆっくり飲み込んだ。
「では、そろそろ拙者は帰りますね!」
田口はおもむろにそう言って立ち上がった。
「お。おう! ありがとな」
「いえいえ。話し相手が欲しかったんですよ、丁度」
そう言って。
田口は河川敷を登って行った。
すると唐突に。
現実に戻されたかのような感覚が広がった。
「………」
まぁそうか。
こんな話続けても……。
「あ、そう言えばソウタ氏」
俺も河川敷から立ち去ろうとしたとき。
目の前に田口が戻ってきて。
「――あの『特能』のハジメって人、ソウタ氏を知りたがっていました。拙者の方では濁しましたが、注意した方がいいでやんすよ」
「……忠告か? それに濁したって、お前」
「拙者はね、友達は守る主義なんでやんすよ」
それだけ告げて行って「また明日」と田口は去った。
……明日か。
「――――」
そうだな。そうだよな。
俺にも明日がある。
日常がある。
労働をしている。
友達ができた。
大きな不幸が起きかけたが、まだ誰も欠けていない。
【本物のヒーロー】は身近にしかいない、か。
いい言葉だな。
「5日前に聞きたかったなぁ」
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