第十三幕 「赤い花」
サユリ!!
知っている声がした。
恐らく母の声だろう。
「――――」
ご飯だよ!!
と続けて母は言った。
でも私は、そこから動かなかった。
いいや、動けなかったのだ。
だって。
ずっと夢中になっていたから。
「サユリ?」
母が部屋にやってきた。
でもそんな母を、私は知らんぷりして。
そんなものは眼中にないような仕草で。
でもその眼中は、宝石のように輝いていて。
テレビの向こうで勇敢に戦うその存在に。
私は釘付けだった。
幻想でも、まやかしでも、創作でも、ファンタジーでも。
それでも。でも、違った。
一層、その世界は違った。
自分が今立っている世界とは、決定的に違うその世界に。
私は目が釘付けになっていた。
どうして憧れと言う漢字に、目と言う文字が入っていないのだろうか。
『お前は敵だった。いい、敵だった』
そんな言葉が、そんな臭い言葉が。
どうしてもかっこよく見えてしまった。
――黒髪の私は、ヒーローが大好きだった。
私の名前は『町野サユリ』という。
貧乳で。
がり勉で。
眼鏡をしていて。
黒髪で。
地味で。
ヒーローを志す少女だ。
漫画などのヒーローに憧れていた。
アニメなどのヒーローに将来を見ていた。
私がまだ子供のころ、その話はまだフィクションだった。
将来の夢で、ヒーローになりたいと語ったら。
先生でも苦笑いする世界だった。
私は友達がいなかった。
いもっぽいだとか笑われて、クラスで孤立していた。
クラスの端っこで漫画を読んで。
一人でクスクスと笑っているような。
そんな惨めな人間だった。
そんなある日だった。
突然変異が起こったのは。
「えっ」
その日、
私の髪の毛は白くなった。
髪の毛だけじゃない。
それは、粉雪の様に。まるで質素が抜けたかのように。
私は真っ白になった。
「染めてきなさい」
今まで黒髪だったから。
外に出たら目立つのは、目に見えて分かっていた。
だから私は親の命令で。
髪を黒に染めて学校に行っていた。
そして不思議な事に。
変化は重なる物だった。
「こんにちは」
『おはよう、私のヒーロー!』
同時期に私は。
道端に生えている黄色い花と。
会話ができるようになっていた。
花の名前は『ポポ』。
内気な性格な彼女は、帰り道の石塀に生えている小さな花として存在していた。
私が彼女の声を聞き始めたのは最近で。
最初こそ『植物と会話ができる超能力』だと思ってた。
世間的にはまだ超能力なんてまだそこまで認知されてなかった。
だから私は、何となく。
植物と喋れることを黙って生活していた。
「今日は寒いね、ポポ」
『そうねぇ、でも、気持ちのいい風だわ』
私は道端の石塀に背中を付けて。
夕暮れのカラスの声を聞きながら耳を傾ける。
「あなたは寒くないの?」
『全然? 私花だし、全く寒くないよ』
「そうなんだ。でもそれなのに、気持ちい風だなんて……どうして思うの?」
この会話はバレてはいけない。
なので私は、植物と会話するときは。
小声で話した。
『それは……そうね。難しいけど、何となくかな』
「ふーん」
当時、友達がいなかった私からしたら。
話し相手がいるという事実が嬉しかった。
だから帰り道にこの場所によって、話を聞いてくれる彼女と会話をする。
それが私にとってルーティンだったし。
この日常の安らぎだった。
『気になっていたのだけど。どうしてサユリは私に構ってくれるの?』
「……どうしてって、話しかけてくれたからだけど」
言いながら、ポポは二度揺れる。
『話しかけているのはそうなんだけど、違うの。私、ここに通りかかったみんなに声をかけているんだけど』
「……あぁ、なるほどね。多分みんな、聞こえてないんだと思う」
『どうして? 私、声が小さいのかしら』
「そうかな? 多分、クラスの私よりは小さくないから。大丈夫だよ」
ポポは私の話し相手だった。
いい友達だった。
私は変化を楽しんだ。
白い髪の毛も、花との会話も。
そして私は――。
「………」
白い髪がクラスメイトにバレた。
たまたまだった。
たまたま水が入ったバケツを滑らした男子がいて、私の頭に水がかかった。
元々、私の髪の毛は染めても、何故か結局白色に戻っていた。
髪質の影響かは知らないけど、
だから毎朝染めてから学校へ行っていた。
だから毎日、色が乾いていない髪の毛でクラスに行っていた。
頭に掛かった水は。
私の頭の一部を白色にした。
「うわー! きめぇ!」
と、男子は叫んだ。
廊下で滑ったまま。
私に水をかけた事を謝るよりも前に。
その男子は私の髪の毛を。
気持ちが悪いと叫んだ。
その時の私の心情は酷い物だった。
髪の毛を黒く染めていたのに、水のせいで白色になった。
でも、私の心は、【真っ黒】になっていた。
黒になる。
私は傷ついた。
酷くショックを受けた。
泣きながら家に帰った。
その日はポポと喋らなかった。
自分の布団の中で私は泣いた。
沢山泣いた。
そして考えた。
どうして私は『白』なんだろう。って。
どうして私は『変わった』んだろう。って。
そして私は。
その未来、『植物ヒーロー』として表舞台に立つことになった。
――――――。
――――。
――。
ブルーメ視点。
気が付くと私は。
座り込んで気絶していた。
「どうやらぁ、起爆は失敗したらしいな。なぁ、ブルーメさんよぉ」
朦朧としている視界の中で。
バウンドクラッシュの声が響いていた。
私に向けられたその言葉は確かに。
賞賛の言葉ではあった。
「お前さんの時間稼ぎは見事だった。流石、ヒーローだ。殴りがいがあったぜぇ」
でもそれと共に、私が敗北したことを暗示していた。
敗北した。
時間稼ぎには成功したのだろう。
田口さんが爆弾を解除してくれたのだろう。
でも私は結局、目の前の男に負けた。
殺される、のだろう。
この男はそういう男だ。
喧嘩会でも確か、参加者を皆殺しにしていた。
「――――」
これから私はこの男に殺される。
「………」
この感情はなんだろう。
負けたけど、悔しくない。
どちらかというと穏やかだ。
私は責務を全うした。
ヒーローとしての責務を
私は果たしきった。
戦国の侍の様な事を言うけれども。
ここで私が死んでも悔いはない。
負けたけど、勝った。
そういう事だ。
「――――……」
血が、流れてるのかな。
血なんていつぶりだろう。
顔が濡れていて変な感覚だ。
私の髪の毛も、赤に染まらないかな。ははっ。
「――――……」
結局私は、一度も自分の髪色を好きになれなかった。
白色ってある意味怖いから。
何にもないって怖いじゃん? 個性がないってさ。
私はどれだけ頑張っても、その個性がない人になっていた。
いつの時代も白は『空白』だし、白は真っ先に他の色に塗りつぶされる色だった。
何かに染まりたかった。でも結局、私の白は変わらなかった。
だからさ。傍から見て私の髪色は。
気持ちが悪いんだろうね。
「――――……」
でも私はさ。
こういう体になったことを、
ある意味今では。
祝福だと思うんだ。
「……ぽぽ、行くよ」
「あ?」
リミッター解除。
上 咲 狂 花
る き い ら
の 踊 咲 。
は る く
黒 の の
煙 は は
。 私 美
。 し
い
回
る
の
は
理
。
「おいおいおいおい!!」
あぁ神よ、私に力を。
バウンドクラッシュは三歩後ろに引き、楽しそうな笑みを浮かべ。
その拳をブルーメに向かって突き出した。
しかし、その拳は――『七色の美しい花に阻まれ』
遅れた打撃すらもその『花』に防がれた。
「な、に」
路地裏に香るのは花の匂い。
その場に広がるのは七色の花。
「――花園」
路地裏に広がった花園が、ブルーメの背中から溢れて来て。
蔦に花が咲き狂い。
少し地面が揺れ。
「少々気が引きますが言わせてください。あなたは先ほど言いましたね。使う植物が一色なのはつまらないと」
言うと同時に、彼女の髪色が虹色のグラデーションを描いた。
私はヒーロー。
悪党と戦うのが仕事。
この男を逮捕するまでが、私の仕事だ。
「これがお前の真の姿……『植物ヒーロー』ブルーメの真骨頂か!!」
【正式名所 能力制限解除】
簡単に説明すると。
『能力の全容を把握し、これを最大限使用した上で【能力の解釈を変える】ことを指す』
私はこの『植物を操る能力』の解釈を変え。
『七色の花を発生させ操る』という物に変えることができる。
解釈を変える、それは簡単ではない。
例えば、ただ自分の能力が『植物を操る』ではなく、
『物を操る』能力と解釈することは出来ないからだ。
解釈を変えると言ってもそれだけではない。
自分の能力を全て理解し、どういう特性を持っており、どういう事が出来るか。
全部理解する必要がある。
全てを掌握し、そのうえで新たにできることを考える。
解釈を変えるとはそう言う事だ。
しかし、デメリットももちろん存在している。
全力を出すうえで限界と言う殻を破るような事をしているので。
下手したら能力が壊れたり。
最悪の場合は使用者が死に至る。
「ふっは!」
バウンドクラッシュは私の変化を見て、興奮したように頬を赤く染め。
腕に力を籠め。
「認めよう!! お前は素晴らしき、俺の“敵”だァ!!」
言いながら、バウンドクラッシュは右足で飛び上がり。
ブルーメ目掛け迫った。
拳がブルーメの顔面に届きそうな次の瞬間。
瞳を七色に灯したブルーメが、右手をバウンドクラッシュに向け。
「――――」
次の瞬間。
息を吐くような音色が響いた。
ブルーメは口を開いて、歌い出したのだ。
その歌声は聞いている者を天にも昇るような気分にさせた。
まるで花が舞うように、暖かな風が通るように。
そしてブルーメの髪色は青と黄色のグラデーションへと変色し――。
「グッゥゥ!!!」
青色の花と黄色の花は鞭のようにうねり、バウンドクラッシュに攻撃をした。
しかしバウンドクラッシュは両手でその花を鷲掴みし、振り回し。
「こんなに長いと動きづらそうだなぁ、ブルーメ!!」
そう叫びながらバウンドクラッシュは――青色の花と黄色の花を引きちぎった。
「数が増えたからなんだァ!? 良く伸びるようになったから何だというのだ!! 花は踏めばいい、地面の様になァ!!」
「品性の無い方ですね。まぁ、最初から知っていましたが」
「ほざけ、ヒーローォ!!」
バウンドクラッシュは歓喜の表情を浮かべ、握り拳を作り。
地面に向かって両手を叩きつけた。
「――複雑打撃ゥゥ!!!」
「ウっ」
私はすぐさま水色の花と緑色の花を前方に配置する。
――二度、三度の打撃が二つの花に命中した。
しかしそれだけじゃ飽き足らず、四度目の打撃が私のみぞおちに走る。
痛い。
でも、まだだ。
「赤花の雫」
私は右手を突き出し。
その手に赤い花を纏わりつかせ。
先ほど出した二つの花の中からバウンドクラッシュへ手を突き出し。
「漆黒の赤薔薇」
花の衝撃波はバウンドクラッシュを捕らえ。
その顔面に赤い花びらが舞い落ちた。
バウンドクラッシュは踏ん張りながら地面に一度拳を叩きつけ、打撃を私の頬にぶつけながら路地裏の先へ飛ばされる。
「ぐっ、ぐははっ!! まだだぞ!!」
男は壁にへばりついていた蔦を引きはがし、体に巻き付け迫ってくる。
私の蔦を鎧にするつもりらしい。
花を動かしている間、蔦は動かせないことを見抜いたか。
なら――。
「ポポ、使うよ」
『遅い呼び出しだな。ヒーロー』
頭に声が聞こえてくる。
久しぶりに聞く声、ポポだ。
でも再会を喜ぶ前に、私はやることがあった。
「――――」
両手を前に突き出す。
するとその両手には青色の花と黄色の花が巻き付いてきて。
私は肩に力を入れ呟いた。
「――同化」
青と黄色、黄色と青。
混ざるように彩り。
回るように誘った。
青と黄色の花は、綺麗なグラデーション。
ベストマッチだ。
「――青緑弾電磁砲」
花の蕾が光り出し、その場を白い閃光が包んだ時。
弾けるように蕾が発射され、バウンドクラッシュ目掛け光が走る。
「……甘いな」
「――?」
その瞬間。
瞬きをすると、信じられない光景がその場にあった。
『……ほう、初めての感覚だ』
「鷲掴みですか……蕾を」
「生憎、俺は花の扱いが得意じゃねぇんだ。散々好き勝手遊んでくれたな、でも、こっからは俺のターンだぜ」
私が放った青緑弾電磁砲を右手で掴んで止めた。
本来あの弾を止められるなんてことはあり得ない筈だけど。
やはり名前が歩いている指名手配だ。
手強い。
「複雑打撃」
バウンドクラッシュはそう呟き、右拳を動かず、すぐ横の壁に振り下ろした。
まずい、来る。
「――――」
三度、四度の打撃はまた蔦で防御できたけど、
「ぐっ、ハッ!? ぶっ」
『いかん。防御が間に合わない』
今バウンドクラッシュが放ったこの技は。
先ほどと比べると、全く違った。
五度、六度、七度、八度、九度、十度、十一度、十二度――――。
そうか……手加減していたんだ。
ずっと私をこのレベルまで本気にさせるために、あいつは力を隠していた。
これが本当の複雑打撃。
「――――ぐっ」
――一向に打撃が止まる気配がない。
このままではマズイ。
隙が生まれる。
いいや、下手したらもう隙が生まれている。
近づかれたら終わりだ。
彼の一撃をもろにくらう訳にはいかない。
とにかく、私は蔦を振り回し防御の姿勢を取ろうとした。
「やっぱ殴られてると感覚は鈍るよな」
「っ!?」
声が聞こえた――私の頭上から。
「こんな長い髪の毛でヒーローしてんのかぁ?」
「イッ!?」
いつの間にか頭上に居たバウンドクラッシュに、私の虹色の髪の毛が掴まれた。
そして強く引っ張ってきて。
「最近のヒーローってのはどこかおちゃらけてて好かねぇんだよ!! 何がコスチュームだ、何がサポートアイテムだ、舐めるのもいい加減にしろよ!!」
「痛い!! やめっ」
「いいややめねぇぜ、俺は本物の悪党だからなぁ!!!」
「ウ゛ぅ!?」
激痛。
髪の毛が抜けそうなくらい、強い力で、髪を引き抜こうとして来る。
痛い。いたいいたいいたいいたいいたい――――。
「い゛、い゛だい゛……うぅ」
「アァ? 泣いてるのかブルーメ」
「ダッて゛ぇ゛……いだいっ、がら」
泣きべそをかく。
恥をかく。
あぁ、私は泣いていた。
気が付いたら泣いていた。
そうだった。
私って人間は、そこまで強くない人間だったんだ。
忘れていた。
「惨めだな、お前。……所詮お前は、“ヒーロー気取り”だったって事か」
「………」
その言葉は、
「――――」
やけに、私の心に刺さらなかった。
おかしい。
どうして私は何も思わないんだろう。
「――――」
今の言葉って、普通のヒーローなら、凄くプライドを傷つけられる言葉なのに。
どうしてだろ……。
どうして私はヒーロー気取りと言う悪口を、否定できないんだろう。
「……」
そっか、私って。
そこまで本気になってなかったんだ。
「――――うぅ」
「…………」
「――ぅ――ぁ」
「…………」
「――ぽ――ぽっ……」
『その言葉を待っていた』
「――グッ!」
――刹那、ちぎれたはずの七色の花が全て同化し。
生まれた衝撃波は、その場の両者をどちらも吹っ飛ばした。
バウンドクラッシュは反対側の壁に背中をぶつけ。
ブルーメはゴミ箱を吹っ飛ばしながら、
たまたまそこにあった瓶系がまとめられた袋にぶつかり、
破片が飛び散った。
「……いってぇじゃねぇか」
「………」
私とバウンドクラッシュはお互いに向き合いながら。
お互いに息を上げ、疲れた口を開く。
「お前も吹っ飛ばされてるじゃねぇか」
「……う。うるさいわね。ポポが私を助けてくれたのよ」
「助けてもらったか。はっ、ヒーロー気取りらしい言葉だな」
「うるさいわねぇ、ヒーロー気取りで、何が悪いのよ」
「……認めんのかよ。てめぇ」
言いながら、バウンドクラッシュは金髪をかきあげ、空を仰ぐ。
「ははっ、幻滅したかしら?」
「いいや。正直な奴は好きだ」
「そう……でも、ありがとう」
「あ?」
「最後に気づかせてくれて」
「……はは。なんか、目が変わったな」
目が変わったと言われた。
そうなのかな?
確かに少しだけ、心境の変化があった気がする。
なんでだろう。
なんか、気持ちが軽い?
仕事なのに、集中しなきゃいけないのに。
なんでだろう。
あぁ、そうだ。
『――『ヒーロー以前に、救う救われると言う話に心が惹かれた!』
誰かに救われたっていいじゃないか、逆に誰かを助けたっていいじゃないか。
そんな力が無くたって、そんな勇気がなくたって』
『そう想う事は、勝手なんでやんす!!』
想う。
感じる。
考える。
憧れは、止まらない。
そっか、それなんだ。
私に足りなかったのは。
「……何をしている?」
バウンドクラッシュは私の行動を見て。
驚いたように言う。
もうきっと、他の応援が到着するだろう。
私が手を下さなくても。
バウンドクラッシュは捕らえられるだろう。
でも、それじゃダメなんだ。
『……なるほどな』
と、ポポが語り掛けてくる。
「ごめんね、ぽぽ。ずっと守ってくれて」
『いいんだ。ヒーロー。俺は、ただ――話しかけられて、嬉しかったんだ』
「……そうね」
ポポは私がクラスの男子の言葉に傷ついて帰った日、
車に押しつぶされていた。
次の日、その有様を発見した私は。
ポポに何度も話しかけた。
……でも、応答が無かった。
悲しい出来事に追い打ちをかけるように、ポポはいなくなった。
でも。
その日から。
私の頭の中にポポが来た。
「――――」
そう、だからさ。
「――――」
君は、私なんだよね。
もう本物のポポは。
この世界にはいない。
『………』
実はね、
話しかけられて嬉しかったのは、
私の方だったんだ。ポポ。
私は君より、
ずっと熱い、コンクリートに生えてる雑草みたいな人生だった。
声なんてとても出せなくて。
たまに人に踏まれる人生で。
……でもそんな私に。
道草を食わせたのは。
クラスの雑草だった私に、
存在意義を与えてくれたのは。
「………っ」
あなただった。
ありがとうね。
そして、さようなら。
私は。
さっきの衝撃で割れた背中の瓶の。
破片をおもむろに握った。
破片を下手に持ち上げ。
その小さい手を切りながら。
上に持って行って。
「は?」
その長くて白い髪の毛を。
ばっさりと切った。
私は立ち上がった。
ボロボロな全身だったけど、
重い体だったけど、
でも私は。
ヒーローだから。
「お待たせバウンドクラッシュ。さぁ、続きをしましょ?」
「小声でなんか言ってると思ったら、もう立ち直りやがったか。おもしれぇ」
右手を前に突き出し。
路地裏の影の中に光が指し込んだ。
風が流れて、地面を感じて、血が流れて。
あぁ、そうだ。
「私の名前は『ブルーメ』。プロのヒーローよ」
やっと、繭から出れた気がした。
「ははっ、ははははは!! 最高だなァ、なァブルーメェェェエ!!!
叫びながら、バウンドクラッシュは両足でやっと立ち上がり。
一度の踏み込みでブルーメに急接近する。
だから私は花園を展開し、防御に出た。
蔦を私の目の前で壁の様に張り。
私からバウンドクラッシュを覆い隠すようにした。
「避けれないことは知っている筈なのに、愚かなァ!!」
しかし声は聞こえた。
バウンドクラッシュは叫びながら拳を地面に振り下ろした轟音がする。
その音を聞き取った私は、すぐさま。
「オラァ!!!」
蔦を破り、打撃が走り。
私の背後の壁が崩れる。
そう、“背後の壁が崩れた”のだ。
「なに?」
「何となく理解していました。あなたは視界に捉えてる人しかロックオンできない」
「っ!? 上か!!」
私は蔦に隠れながら、蔦で上空に移動していた。
そして私は右手に蔦を巻き付け、花を生成した――【黒い花】だ。
花園は七色の花しか生成できないはずだ。
でもその時、なんでか分からないけど。
その八色目の花が手から現れた。
リミッター解除とは『解釈を変える』事と同時に、
『能力の限界値』を引き出す事なのだから。
私でも、何が起こるか、分からない。
「――――」
――尖る。
腕に巻き付けた蔦が音を立てながら“黒花の槍に変化した”。
「なんだそりゃ」
「――黒薔薇」
――槍が、地面に向かって高速で落下する。
地面に衝撃が走る。
「……あっぶねぇ」
あいにくといってもいいのだろうか、
槍はバウンドクラッシュには命中しなかった。
突き刺さった黒い槍が地面を抉る。
「――――」
だが、別のそれはそこまで問題じゃなかった。
私の目的は――
「赤花の雫」
「あァ? またその技――」
「――漆黒の赤薔薇」
赤い衝撃波が地面に向かって走る。
――槍を避けた行動を取ったバウンドクラッシュは、その瞬間、“隙”を作っていたのだ。
「グぅぅぅ!!」
地鳴りと共に衝撃波がバウンドクラッシュに直撃する。
避けられない攻撃を作った。
確かさっき。
あの男は漆黒の赤薔薇を避けられていなかった。
その一撃に希望を託したんだけど、正解だったらしい。
バウンドクラッシュはその場に座り込み、頭を抱える。
――次なる“隙”が生まれた。
私はそのまま。
バウンドクラッシュの横へ着地。
そして地面に刺さった黒花の槍を引き抜き。
その瞬間、私の腕に巻き付いたままの赤色の花を。
「――同化」
握った黒花の槍と赤色の花を。
同化させた。
生まれたのは――【赤黒い色合いをしたハンマーだった】。
「くっ――!!」
「あなたはちっとも気が引けないわ。終わりよ、バウンドクラッシュ」
「――黒赤花の薔薇」
私はハンマーを振りかざし。
確実にバウンドクラッシュを捕らえ。
両手で振り下ろした。
鈍い音が鳴り響いた。
背中を狙ったが、
やっぱり直撃した。
「――――」
ドサッと何かが倒れる音がした
音のなった方、私から下を見てみると、
そこにはバウンドクラッシュが倒れていた。
「……………………勝った?」
彼の息はある。
気絶しているだけだ。
って事は、
そうか。
「……勝てたんだ。私」
私もボロボロだった。
体が思うように動かなかった。
息が全然、落ち着かなかった。
そんな中、私は、勝った。
この男に勝てた。
ははっ。そっか。
「ぅ……」
足の力が抜けた。
地面は相変わらず冷たかった。
爆弾が止まってから、どのくらい経ったんだろう。
分からないなぁ。
でも、疲れたなぁ。
「………………いい、敵だったな」
私、『植物ヒーロー』ブルーメは。
バウンドクラッシュに勝利したのだった。
俺のルームメイトはスーパーヒーロー。




