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俺のルームメイトはスーパーヒーロー  作者: 夏城燎
第一章 新たな職場編
12/35

第十二幕 「焔」



 ※田口アム視点



 爆発が起こった。

 今、拙者の後ろで爆発が起こった!?


「っ、どうして……?」


 ブルーメさんから離れ、全速力で走り出した瞬間だった。

 爆音が鳴り響き。

 地面が揺れた。

 思わず拙者は足並みを崩しかけるが、なんとか持ち直し。


「まだ時間はあるはず……なのに、どうして」


 爆弾が1個、爆発をした。


 あの爆音、この熱気、この胸騒ぎ。

 間違いない。

 きっと爆弾の一つが。

 たった今起爆してしまったんだ。


 考えられる可能性は……絞れない。

 どんな可能性もありうる。

 例えば、設置する際の手違いで爆発したとか。

 誰かがぬいぐるみを見つけて変に触ったのか。

 ……だめだ、不確定要素が多すぎる。


 それに、今拙者は自分の事で手一杯だ。

 制限時間も恐らく残り4分程。

 時間は限りなく少ない。

 その間に、あと3つの爆弾を解除できるのだろうか?


「……やるしかない」


 例え一つ爆発してしまったとしても。

 まだできる事はあるはずだ。

 被害を最小限にするために、爆弾を解除しよう。


 分かる。

 この身の震え、怖いんだ。

 拙者だって人間だ。

 死ぬのが嫌な訳じゃない。

 足が震える。

 心臓が痛い。

 でも、でもやらなきゃいけない。


 ヒーローにはなれない。

 だが、想う事はできる。


 足を止めるな。

 汗を気にするな。

 とにかく走れ。



 ――拙者にしかできないんだぞ。やるんだ。



――――。



 ※ブルーメ視点。



「全く、デッドヒートの野郎がしくじったのか」


 喉を鳴らしているような声で。

 男がそう言う。


 青い空が見える路地裏。

 人気のカケラもないその場所で。

 私の目の前に、大柄な体系の男が居た。

 服装はスーツ。

 つまり、チンピラをまとめていた指示係なのだろう。

 金髪、そしてサングラス。

 ぱっと見武器はない。

 でも油断はできない。


「あなた方は何者でしょうか」

「答える義理はねぇな。そんな事より、さっき逃がしたあの男、ヒーローじゃねぇな」

「……一般市民ですがなにか?」


 この場で私がするべきことは一つ。

 この男の注意を逸らす事だ。


 もしこの男が、田口さんのやろうとしている事を知ってしまうと。

 標的が田口さんになり。

 彼を巻き込んだ戦闘に発展する。

 今現在、彼がいなければ被害は減らない。

 彼が今、切り札なのだ。

 彼を守らなければならない――。


「――確かに。一般市民を守るのはヒーローの義務だ。しかし、明らかにおかしい点が一つある」

「………」

「こんな路地裏の奥に、どうしてその一般人を連れて来たかって事だ。どうしてだ? ブルーメ」


 まずい。

 悟られる。

 この男、想像より頭がいい。


「――歌え、植物反転プラント・マジック!!!」


 私は腕をクロスさせ、纏っている蔦を操る。

 四方へ蔦を伸ばし、男の動きを封じようと動く。


「ヒッ」


 だが次の瞬間、私に走った感覚は。

 男をがっちり捕まえた感覚ではなく。

 腹を強く殴られた衝撃だった。


「ぐっ!?」


 殴られた。

 いやでも眼前の男は動いていない。

 何が起こった?

 何をされた?

 全く分からない。

 どうやってそんな攻撃を。

 ノーモーションで……。


 マズイ。――今隙がっ。


「ア゛ッ」

「女を殴るのは趣味じゃねぇが、仕事だから仕方がねぇ。道を開けなァ、女!」


 混乱する私に隙を見出した男は。

 一度の踏み込みで距離を詰め。

 今度は確かにその拳で私の顔面を殴った。


「――――」


 痛い。

 男の一撃は重かった。

 恐らく当たり所が悪ければ、この拳は骨すら砕くだろう。

 私の様な女の骨なんて赤子の手をひねるようだろうし。

 でも、男の方から懐に来てくれた。


 私は殴られ、倒れる中で、右腕を下に振った。


「あ?」


 捕縛の為に遠くへ伸ばしていた蔦を、鞭のようにしならせ。

 引き寄せると共に男へぶつけた。

 ダメージはなさそうだったが。

 一瞬だけ気を逸らす事に成功する。

 私のその隙に左腕を振り。

 左の蔦を自分の体に巻いて。


「おっとと。さては、上へ逃げる気か?」


 左手の蔦を使い、私は地面から離れ空中でぶら下がる。

 自分で機転が利いた方だと思うが。

 まだ相手の能力がさっぱり分からない。

 時間を稼ぐにも相手をしらな――。


「グッは!?」

「どうして上に逃げれば、俺の能力が届かないと思ったんだぁ? 余裕で射程圏内だぞ」


 直撃。再度私のお腹に打撃が加わる。

 力が抜け、私は地面へと落下した。

 落下による怪我はない。

 だが、打撃が相当効いている。


「………」


 今度ははっきりと見た、あの男は打撃時、動いていない。

 やはり【能力】を使っている。


「……能力を使おうとすればお前の髪色は虹色に変化するのに、使う植物は緑一色なのか。なんか拍子抜けだな」


 男はそう言い、溜息を吐く。


 衝撃、いいや、打撃を相手に喰らわせる能力。

 空中に任意のベクトルで決まった打撃を当てる能力。

 そうだ、どうして私は早く気づかなかったんだ。


 ……聞いたことがある。


 そんな能力を見た事がある。

 あれは確か、事務所で出回っていた指名手配犯の能力。

 その能力名は。


「――打撃ノックバック

「お? 知っているのか。なら、俺の名前も知っているな」


 ………。


 無法者ヴィラン

 喧嘩屋『バウンドクラッシュ』

 能力名【打撃ノックバック】。


 これまで『喧嘩会』と称された大会を日本各地で主催し、

 命知らずの参加者を殴り殺しにしている凶悪殺人鬼だ。

 『喧嘩会』を目撃した人間によると。

 その男はまるで人殺しを楽しんでいるように見えたという情報もあった。

 最近千代田で目撃情報があったと聞いていたが。

 こっちまで来ていたとは。

 つまりこの男は、紛れもない無法者ヴィランだ。


「あなた、組織には所属していなかった筈では?」


 地面の感覚が両手にある。

 私は自分の体を起こしながら、男を睨んだ。


「金で雇われたんだ。俺からしたらぁ、初めての喧嘩仕事と内心ワクワクしながら来たんだが。いざ来てみると、思っていた以上に地味で退屈していたんだよ」

「それに……なによ、その能力。聞いていた話と少し違う」


 そう、違う。

 私がすぐあの『バウンドクラッシュ』だと気づけなかったのは理由がある。

 指名手配犯として情報が回って来た時。

 能力の詳細にはこう書かれていた。


――――


 能力【打撃ノックバック


 発動条件

 腕を大きく振る動作。


 詳細

 任意の場所に打撃を発生させることが出来る。


――――


 発動条件。そこがおかしい。

 今のこの男は、明らかにノーモーションで能力を発動している。

 聞いていた情報と実際の能力条件が違う。

 どういう事だ?


 ……そんな事を考えている暇はないみたい。


「さっきの爆発で、爆弾の存在は、外部にバレちまっただろうなぁ」


 男は先ほど爆発した方角を見つめながら呟く。


「……その口ぶりからするに、あの爆発はあなたからすると予想外な物だと?」

「深読みは良くないぜぇ姉ちゃん」


 と言い、男は右手の人差し指で自分の頭をトントンっと叩き。

 男は両手を自分の腰に当て、自信満々にドヤ顔をした。


「俺は割と頭が回る方だ。だって、脳みそまで筋肉が詰まっているからな」

「…………」

「その発言は、お前らヒーローにとってもあの爆発が予想外だと自白しているようなもんだ」


 言われて気が付いた。

 そうだった。

 ……私も、動揺しているのだろう。


「脳筋の癖に頭が回る。あなたは相当、嫌な敵ですね」

「ご親切に分かりやすくしてくれて助かるよ。無抵抗のやつを殴るのは趣味じゃなかったからな。これで、お前から戦意を感じられた」


 会話をしながら。

 私はやっとの思いでその場に立ち上がる。


「お前さんの目的も、さっきの男も何となくは理解した。……一応ぉ雇われている身だが、お前さんの様な強いヒーローに会うと、流石に血が疼くなぁ?」


 そう不敵な笑みを男は浮かべる。


「……あの快楽殺人鬼の喧嘩屋は、案外仕事ファーストな人間なのかしら?」

「いっとけ。初めての仕事だから、変な張り切り方をしているだけだ」

「ならっ、倒れている間に私を殴り殺せばいいものを」

「まだ力を隠しているお前さんをここで倒してしまったら。この戦いはとことんつまらないだろう? 存外興がそがれる」

「ははっ、流石ね、脳筋さん」


 流石と言うべきか。

 脳筋と言うべきか、喧嘩屋なんて愉快な名前通りおちゃらけた性格らしい。


「……」


 ……私と相性が悪すぎる。

 私の能力、植物音楽プラント・ムジークは複数人との戦闘時に強い一面がある。

 広範囲で繰り出す攻撃、それが私の取り柄だ。

 しかし、一体一のタイマンだと逆転する。

 端的に言うと不利なのだ。


「――――」


 広範囲が得意と言う事は、近距離戦が不得意と言う事。

 いくらこの路地裏で蔓を操れるとしても。

 いくら立体的に動けるからと言って。

 単体性能で言ったら他のヒーローの方が高い。

 運動も近接戦闘もそこまで得意ではないし。

 なにより私は即座に考えるのが苦手な人間だ。

 だから分が悪い。


「まぁいいや、奥の手を出さないヒーローに興味はない。そこをどきな、あの男を殺させてもらう」

「それは……できません」

「口だけだな」


 私が腕をクロスさせ。

 整っていない息で言葉を紡ぐと。


「口だけで、グズでどうしようもない。俺は見てられないなぁ。そういう奴が先に死ぬんだ」


 即座に、男はなんの曇りのない言葉で私を貶した。


「………」

「この世界がどういう世界か知らないのか? スーパーパワーがない頃と同じに考えているならお頭が足りてねぇぞ。今は『超人社会』だ。強い奴が食らい、弱い奴が死ぬ。弱肉強食なんだぜこの世界はァ!! ……どうしてそれを理解しない? どこまで平和ボケしているんだ!!」

「声がでかいわ」

「でかくしてんだよ!!」

「――――」

「分からねぇらしいから教えてやる。言葉でも分からねぇなら体に刻み込んでやる。この世界がどういう世界か、この俺がどういう存在か」


 男はどんどんと上がる声のまま。

 勢いよく右拳を地面に振り下ろし。

 地面に亀裂が入り、コンクリートが揺れ、男は私を見た。


 ――来る。


「――複雑打撃ニーア・ノックバック!!」

「グッっ!?」


 3、4発。

 4発の打撃が同時に体に走った!?


「いくぞぉ!!」

「させない!」


 クロスさせていた腕に蔦を巻き付け、私は背後に蔦で移動する。

 同時に別の場所に張った蔦で目の前の進路を覆う。

 これで先ほどみたいに、『一度の踏み込みで懐に入る』まではこれないはず。

 それに一度相手の視界から隠れる事もできる。

 位置を変えよう。

 上か奥か。


「………」


 あの男の能力。

 やはり明らかにおかしい。

 このケース、最近事務所で問題になっているあの件に、よく似ている。


 能力開発には二つの方法がある。


 まず、繰り返し使う『往復練習』。

 体に馴染ませ、自分の能力を知る事だ。

 私はこの段階で2年過ごした。


 この段階では、能力で出来る事を体に染みこませ、順応する事が目的だ。

 だから、人によっては月日が掛かる。

 しかしこの『往復練習』はヒーローになる為のスタート地点であり。

 言ってしまうと。

 この『往復練習』が完遂されない場合。

 ヒーローになる資格がないという事になる。


 そしてもう一つは『実戦練習』


 実戦ではあらゆる状況が想定される。

 その中で的確な行動をし、その中で新たな自分を発見する。

 いわゆる「戦いの中で成長する」というやつだ。

 私はこの『実戦練習』の中で三つの技と“リミッター”を発見した。


 だが、この世界にはこれら以外にも三つ目の方法が存在する。


 ――【違法薬物による能力強化】だ。



「『ワフェング』……可能性も視野に入れましょう」



――――。



 ※田口アム視点。



「よし、一個解除できた!!」


 走り出して数分。

 ゴミ箱の中にクマのぬいぐるみに隠された爆弾を発見。

 拙者はすぐさま解体し。

 もうそろそろ慣れた手つきで爆弾を解除する。


 起爆まで、残り時間は3分。

 そして残りの爆弾はあと2つだ。

 やっぱり時間がなさすぎる。


「あと二つは、きつい」


 拙者はまた走り始めた。


 走って走って、探さなければいけない。

 もうここまでくると勘で走っている。

 ここがどこらへんなのか。

 ここがどういう構造なのか。

 まるで分からない。

 でもやめるわけにはいかない。

 諦められないのだ。


 といっても、ギリギリなのは変わらない。

 どうすればいいんだろうか。

 拙者は、どうすれば!?


「はっ、はぁ」


 全身が重い。

 足が痛い。

 汗でびしょびしょだ。

 運動なんてそこまでしないから、息がずっとあがりっぱなし。

 胸が痛い。


「くっそぉ……どうすればぁ」


 ジリ貧にもほどがある。

 何か策はないのか?

 効率よく爆弾を見つける策。

 例えば、今までの爆弾の場所に共通点とか……。


 無理だ!! そんなの考えても拙者の体力がもう持たないし時間がない。

 どうすればいいんだ。

 拙者しかいないんだぞ!!


「はぁ、はぁあ、はああああ」


 拙者があまりの疲労感に一度その場で立ち止まった。


 息を整える。

 胸が痛い。

 全身が鉄の様に重い。

 足が動かない。

 顔が上がらない。


「運動してこなかった……ツケかな。ははっ」

「――田口?」

「えっ」


 声に驚き、拙者は顔をあげる。

 するとそこにいたのは。


「そっ、ソウタ氏……無事だったでやんすか?」


 黒い服、少し長い黒髪。

 特徴的なのは拙者と同じ様な身長の低さをしている男。

 うちの期待の新人の竹内ソウタ氏だ。


 そんな彼が。

 目の前の分かれ道から顔を出してきたのだ。

 そっ、そうだ。

 知らせなきゃ。

 爆弾の事も、悪党ヴィランの事も。


「えっ?」


 拙者はその時、やっと気が付いた。

 竹内ソウタ氏がその腕に抱えているものを見て。

 浮かんだUIを見て、思わず頭がこんがらがった。


「それ、それ!!」

「田口なら解除できるんじゃねぇか? この爆弾」


 拙者が驚きのあまり腰を抜かし、指をさす。

 その指の先には。

 先ほどから探し回っていた爆弾が腕に抱えられていたのだ。


「一旦落ち着け、田口」

「え。あうん」

「解除できるか? これ」

「でっ、出来るでやんすけど……どこで?」

「あーさっき見つけてさ」

「隠してあるのに?」

「見つけたって言うか、まぁ奪ったというか」

「え?」

「細かい事は気にするな。それで? 時間ないんだろう?」


 なんでか分からないけど。

 ソウタ氏は今起こっている事の重大さを理解しているらしい。

 それにその口ぶり。

 起爆時間も知っているのだろうか?

 どうやって知ったんだ?


「………」


 とにかく、落ち着こう。

 爆弾が1個見つかったんだ。これであと1つ。


「解除したでやんす」


 拙者は落ち着くのも兼ねて爆弾を解除した。

 落ち着くのに爆弾を解除って。

 何だか面白いけどね。


「うし、あと何個あるのやら」


 とソウタ氏が言うので。


「一応あと1個らしいです。でも隠し場所が全く分からなくって……」


 時間は相変わらずないけど。

 ソウタ氏と合流したおかげで。

 心なしか余裕ができた気がする。


「なるほど、時間は?」

「もうないです。あと1分半もあるかないか」

「ならまだ間に合うな」

「……」


 ソウタ氏はなんにも思っていないように。

 軽い口ぶりで言った。

 間に合う?

 何か手があるのかな?


「田口、お前の魔眼は遠くにある爆弾を見つけられるのか?」

「……いけます。けど、この路地裏でそれは難しいのでは?」


 確かに拙者は、どれだけ遠くてもUIさえ出ていれば見つけることができる。

 何ならUIのサイズを大きく設定することも出来るから。

 視界内に対処の機械が入っていれば遠くからでも分かる。

 でも、ここは路地裏だ。

 入り組んでいるし…………。


「俺の背中に乗れ」


 唐突にソウタ氏はしゃがんで。

 背中をこちらに向けてくる。

 そんな突拍子もない行動に拙者は思わず。


「え?」

「いいから乗れ、早くしなきゃいけないんだろ?」

「………」


 意図が全く組めない。

 でも、ソウタ氏が自信満々にそう言っている。

 ……良いんだろうか、信用しても。

 いいや、信用するべきだ。

 新人だろ。仕事仲間だろ。……友達だろ。

 ええい、ままよ!!


「失礼するでやんす」

「おう」


 拙者は全身を彼に預け、息を整えた。

 そして魔眼を起動し、目を開けると――――。


「火傷だけは、気を付けてくれ」


 その言葉を皮切りに。

 大きな重低音が路地裏に響いた。


「――っ!」


 重力。凄まじい圧を感じる。

 これは、勢いよく”上昇”しているような……?


「――――――」


 そして止まった。

 体に伸し掛かっていたGが緩やかなものになり。

 拙者はゆっくりと目を開けた。


「……え?」


 空に飛んでいたソウタ氏の背中から見えた光景からするに。

 今拙者らは【この港区を一望できる程の高度まで飛び上がっていた】


「………」


 青空が見える。

 風が靡いている。

 そして街が見える。

 黒い煙がこっちにあがって、さっきいた路地裏も小さく見えて。

 飛んでいる。

 空に飛んでいる。


「ぶっ、どううぅ!?」

「慣れるまで口は開かない方がいいぜ、噛むから」


 何が起こったのだろうか?

 どうして空に、飛んでいる?

 いいやこの感じは、落ちてるのか……?


「案外、田口も冷静だな」

「……いやっ、怖いですよ? 怖いですけど、もうさっきから何度か死にかけてるので」


 上空で喋るのは癖があったが。

 ソウタ氏の背中に顔を向ければ可能だった。

 ソウタ氏はどうやって喋っているんだ?


「ならよかった。見つけられるか?」


 その冷静すぎる言葉で。

 やっと拙者は自らが爆弾を探していたことを思い出した。


「……思ったより高すぎる……かも?」

「了解した。降りるからつかまっておけ」


 というので拙者はもう一度腕に力を入れる。


「――――」


 同時に考えていたことがあった。


 思えば確かに。

 ソウタ氏は自分を『無能力』だと言っては無かった。


 恐らくソウタ氏は見せびらかすような性格じゃない。

 だから知らなかったし。

 さらさら考えもしなかったけど。

 そっか、この人も【能力】を持っているんだ。

 ソウタ氏も能力者。


「………」

「飛ぶぞ、つかまれ」


 刹那、勢いよく拙者の背景が移り変わる。

 どういうことかというと、急加速したような状態で地上へ向かい始めたのだ。

 重力が掛かった。

 風が吹いた。

 すぐに目を開けられなくなった。


 ……足が熱い?

 空中を飛ぶ能力だと思っていたけど、違う?


「田口! 目、開けれるぞ!」

「はっはい!!」


 目を開けると、路地裏を見下ろして良く見える程の高度を飛んでいた。

 先ほどより風は強くない。

 これなら。


 路地裏。

 内部に居るときは迷路の様だと思っていたけど。

 こうみると案外単純な道のりだった。

 一つ二つ分かりにくい道があって。

 それのせいで迷路になっていたのだ。


 そして、同時に見えたのは、路地裏の先にある住宅街だった。

 そう、だから、もし爆弾が爆発していたら。

 あの住宅街も……大変な事に。


「……みつける」


 拙者は出来る限り目を凝らした。

 下を凝視した。

 視力はいい方ではないけど、でも、見つけるんだ。

 みつける。

 みつける。

 みつける。

 あ。


「――ソウタ氏!! あそこでやんす!!」


 見つけた。

 路地裏の入口のゴミ箱、あそこにUIが見える。

 最後の一つは、一番人が通る歩道の近く。




「降りるぞ、掴まれ」




 その瞬間、また重低音がなった。

 そしてはっきりと、拙者はソウタ氏の能力を見た。


「……火?」


 火、というか。

 【炎】だ。


 ソウタ氏は足に、炎を纏っている。

 それが能力なのか?

 知らない。

 そんな能力。

 水や電気の能力者は知っているけど。

 炎の能力者なんてヒーローにはいない。

 何者なんだ?

 竹内ソウタと言う男は。





「着陸するぞ! 時間がないから走れ!!」

「……分かりました!!」


 バランスを崩す様に空中で足から火を噴くソウタ氏。

 そのまま転げ落ちるように路地裏の地面に着地した。


「ウッ!?」


 コンクリートにぶつかった。 

 着地と言うより不時着だ。

 体に走る強い痛みに、拙者は意識をもうろうとさせるけど。


「走れ!! もう20秒は切ってる筈だ!!」


 背後からソウタ氏の声が聞こえる。

 その言葉に拙者は突き動かされ、四つん這いで前に進み始める。


「ふっ、くっ」


 足の感覚が戻った。

 足で立つことが出来た。


「はっ……はぁ!」


 手の感覚が戻った。

 両手を不格好に振って、路地の入口へダッシュする。


 拙者は滑りこむ様にゴミ箱を蹴った。

 中のゴミがその場に散乱する。

 ゴミ袋、空き缶、そして――ぬいぐるみ。


「あった!!」


 すぐさま腰のベルトに挟んであったハサミでぬいぐるみを切り裂く。

 同時に中から、片手で掴めるサイズの機械が出てきた。


 カチッ、カチッ、カチッ。

 タイマーが動く音がする。

 同時に、UIに制限時間が表示された。










――――――――#


 機械名 人形型爆弾ドール・ボム

 詳細  製作者・製造会社不明

     爆発物、取扱注意、残り時間 9秒


――――――――#



 【残り時間9秒】




 ――僕は数字を確認してからすぐ、装置を手で回し始めた。




「………」




 ――僕は機械の仕組みを理解し、タイマーと火薬を繋ぐケーブルを発見する。




「………」




 ――即座にハサミを取り出して、そして。







「……」












――――――――#


 機械名 人形型爆弾ドール・ボム

 詳細  製作者・製造会社不明

     爆発物、取扱注意、残り時間 1秒


――――――――#















――――――――#


 機械名 人形型爆弾ドール・ボム

 詳細  製作者・製造会社不明

     爆発物、取扱注意、残『■時間 ▽秒


――――――――#















――――――――#


 機械名 人形型爆弾ドール・ボム

 詳細  製作者・製造会社不明

     爆発物、取扱注意、起爆装置の破損


――――――――#






「UIの変化も……確認しました」

「解除、できたのか?」

「――はい」


 解除した。

 7個のうち、6個解除した。

 爆弾を解除した。

 助けた。

 死にかけた。

 そして。


「やったぁ……」

「………」


 胸から勢いよく湧き上がってくるものだと思っていた。


 飛び上がるバネの様な感覚だと思っていた。

 でも実際は全然違うくて。

 じわじわと、胸に染み込むように、かみしめるように。

 安堵が広がって。

 力が抜けて。

 そして、

 そして。


「僕らぁ……勝ったんだ」


 ふつふつと湧き上がってくるこの感情は。

 純粋な『歓喜』だった。


 生き残ったより、助かったより、――『嬉しい』だった。









 俺のルームメイトはスーパーヒーロー。


 ※ブルーメ視点。



「どうやらぁ、起爆は失敗したらしいな。なぁ、ブルーメさんよぉ」


 バウンドクラッシュの目の前には。

 コンクリートの壁にめり込んだヒーロー。

 『ブルーメ』が、頭から血を流して気を失っていた。


「お前さんの時間稼ぎは見事だった。流石、ヒーローだ。殴りがいがあったぜぇ」


 ブルーメの瞳には。

 もう何も写っていなかった。

 灯っていなかった。






 ――でも、まだブルーメは諦めていなかった。


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