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俺のルームメイトはスーパーヒーロー  作者: 夏城燎
第一章 新たな職場編
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第十一幕 「ヒーローオタク」



「先ほど捕まえた方々によると、爆弾の数は残り6個。そして彼らの様な爆弾設置班が、あと二班ですか……」


 拙者の背後でブルーメさんはそう結論を出してくれる。


「恐らく全ての爆弾設置は終わっていると思います。なので他の班の悪党ヴィランは既に逃げているか、残っているかのどっちかですね」

「爆弾の起爆時間から計算して、一斉爆発はおよそ11時半です。それまでに決着が付くか……」


 時間の余裕はない。

 それにこの先、もし他の爆弾設置班と遭遇したら。

 もう後が無くなってしまう。

 それにソウタ氏がまだ見つかっていない。

 大事な新人だから助けるしかないんだけど。


「――――」


 でもあくまで拙者が出来る事は爆弾の解除だ。


「二個目、解除しました」


 話しながら拙者は、二個目を解除した。


「さっきの彼らによると、この先はもうないそうです。先を急ぐため蔦で移動しましょう」

「分かりました。おねがいします」


 案外先ほどの奴らは口が軽かった。

 サングラス男だけは最後まで無言だったが。

 どうやらあのチンピラ達は雇われただけだったらしい。


「案外簡単に、爆弾の事をペラペラと喋るもんなんですね」

「ああいうのは金しか見てないですから、組織の結束力だとかないですよ」


 なるほど、そうなのか。

 ヒーローオタクとしてこういう話は心が躍るでやんすな。

 指示係と使い捨てがいると言う事か。

 スーツ姿の人が指示係で、あのチンピラみたいな人が使い捨て。

 如何にも悪党ヴィランっぽくて少し面白い。


「ここに足を掛けてください。そして、私の背中につかまってもらって」

「分かりました。失礼します」


 路地裏。

 そこは恐らくブルーメさんにとって有利な地形だ。

 ブルーメさんの能力、植物音楽プラント・ムジークは植物を操作する。

 蔦植物を自由自在に操る事ができる彼女は。

 実の所、土地によって動きを制限されるのだが。

 そういう面でここは絶好の場所だ。


 蔦に拙者の片足を乗せ。

 両手でブルーメさんの背中につかまる。

 するとグワンッと動き出し。

 トランポリンの様に蔦が宙へ浮くと。


「動きます」


 蔦が蛇の様にずるずると動き、

 高速で路地裏を移動し始めたのだ。

 風が気持ちい。

 いいや、それだけじゃない。

 この状況はヒーローオタクである僕的にも嬉しい状況だ。

 ヒーローの背中で移動なんて、贅沢すぎる。


「田口さん、やけに冷静ですよね」

「え? そう見えますかね?」


 そうなのかな?

 あ、でも確かに。

 変に一喜一憂しちゃったから。

 なんか解放されたような気分で。

 だから内心興奮してるんだけど。

 ブルーメさんからすると冷静に見えてるのかも。


 あ、でも別の理由もあるのかもな。

 あるとするなら。


「なんて言えば良いんでしょうね。こう、自分の技能をここまでちゃんと人の為に使った事がなくって」

「そうなんですか? 少し踏み入った質問で気が引けますが、こういうお仕事だとかはしてみないのですか?」


 機械系の仕事はしているけど。

 今話しているのはそういう事ではないのだろう。


 恐らくその機械の知識を人の為に使う仕事はしないのかと言う事だ。

 もちろん今のサポートアイテムの修理は人の為になっているけど。

 多分彼女が言いたいのは。

 もっと先の、第一線に行かないのかという事だ。


「少なくとも僕に大手は似合いませんよ。僕の性格ですかね……僕は、ただのオタクですから」

「……あー、なるほどです」


 そう言うと。

 納得したようにブルーメさんは口を閉じた。


「――――」


 気づくと分かりやすいんだな。自分って。

 そう、いま拙者は。

 初めてこんなに興奮している。


 それはもしかしたら。

 拙者の中の『承認欲求』とか言うのが満たされている。

 からかもしれないけど。

 そうだったら何だか嫌だけど。


 でも、何だか。

 やっと、自分が好きになれそうで。

 そういう嬉しいもある気がした。

 それに、切羽詰まった状況だからこそ、

 こういうどうでもいい会話は少し楽しく感じるんだよね。

 なんか和んでさ、いいよね。


「ブルーメさんの能力って歌で動かすんじゃないんですか?」


 ノリで、拙者は気になったことを投げかけて見た。

 今回依頼にあったサポートアイテム。

 それは『特殊なスピーカー』だった。

 ブルーメさんの歌声を遠隔で。

 それも高音質で届けることが出来るスピーカーであり。

 使い方次第で蔓の動かせる範囲を格段に伸ばせるサポテム。

 能力増強のサポートアイテム。

 僕らはこれをノクゾウ系と呼ぶ。

 でも、今回ブルーメさんが歌っている場面を見ていない。

 そこが少し気になったのだ。


「えっ、いやまぁ、歌って制御しますけど……」

「ん? でも、制御出来てるじゃないですか」


 現に今、僕らはその蔦で移動している。

 だからこそ、変な気がしたのだ。


「……正確に言うと。別になくても出来るんですよ。歌う動作は機械で言う所の起動ボタンです。操るのに歌は必要ありません。もちろん歌った方がもっと細かく蔓を操作できるのですが」

「……ですが?」


 拙者がそう言うと、ブルーメの髪の色がピンク色に変わった。


「はっ……恥ずかしいのです。私、恥ずかしがり屋なんです」

「えっ、あ、なるほど」


 しばらく言葉の意味が理解できなかった。

 ん? 恥ずかしがり屋。

 って確か、そのまま言葉通りで意味で。

 と言う事は……。


 拙者が黙ると、沈黙がその場を支配した。


「……」


 ……やらかした。

 踏み込み過ぎたと。

 流石に後悔する。

 まずい。

 どうしよう。

 どんどんブルーメさんのピンク色が濃くなっている気がする。

 調子に乗りすぎた。

 調子に乗っている場合じゃないけど。

 でも、ノリで聞いていい事ではなかった。


「ごめんなさい。デリカシーのない質問でした」

「い、いいのです。構いませんよ」


 拙者は、ヒーローオタクとして失格だと。

 落ち込んだ。



――――。



「あっ、そこのゴミの中にあります!!」

「了解です。下ろします!」


 降りる直前に、自前の腕時計を確認する。


 残り時間は約5分。

 そして、残りの爆弾の数は4個だ。


「解除しました!」

「分かりました! 背中へ」


 まだ3つしか解除できていない。

 やる度に解除するペースは上がっているけど。

 でも、このペースだともしかしたら。

 全部解除するのは間に合わないかもしれない。


 でも拙者がしている事は間違っていない。

 3つ分の爆弾を解除し、被害を防いでいるのだから。

 事態は確実に良くなっている。

 そう信じたいでやんすが。


「………」


 しかし、ソウタ氏がまだ見つからない。

 一体どこに行ったでやんすか。


「――あぶない!」


 その声は、ブルーメさんから出た言葉だった。

 突如走る衝撃。

 その時拙者は蔦から足を滑らした。

 ブルーメさんの発した言葉に驚いたからじゃない。

 確かに何か衝撃を感じた。

 強い衝撃。

 それはさっき殴られた時の感覚と似ていた?


「くっ――」


 感じたのは、空中に投げ出される感覚。

 重力に逆らえず落下する。

 遅れて、落ちる恐怖が湧いて来た。

 でもそんなの関係なく、拙者は地面に衝突した。


「いっ……たぁ」


 地面に激突して全身に痛みが広がる。

 コンクリートの地面に手を付けて、重い体を持ち上げて。

 その先を見ると。


 奴はいた。


「ヒーローが湧いているなんて、どのゴロツキがしくじったのか!」


 そんな、悪党らしいセリフが路地裏に響き。

 顔をあげると。

 そこには。

 金髪のサングラス男が立っていた。


「田口さん!!」


 ブルーメさんが拙者とサングラス男の間に入る。


「『植物ヒーロー』ブルーメか。キンモクセイっとこのヒーローが、どうしてここに居やがる?」


 ひょうひょうとした口ぶり。

 しかし言葉から感じるのは悪党のそれだ。


「私を、知っているのですか?」

「勿論さ!! こちとら計画的に動いているんだぜ? そりゃ脅威になるヒーローくらいリストアップしているさ!」


 スーツ姿の金髪サングラス男。

 さっきの男と違い豪快な性格なのは見て取れる。

 身長はおよそ180はある巨体で、見てわかるパワー系。

 それも恐らくだけど。

 あいつは『超人』だ。


「田口さんはもう戦線離脱してください。ここからはヒーローの私が対処します」


 言いながら。

 両手をクロスさせ、蔦を集めるブルーメさん。

 虹色のグラデーションを髪に流し。

 いざ、戦おうとしている。

 そんな彼女に対して、拙者は考えるよりも先に言葉が出た。


「いいや、僕は爆弾の解除をします」

「えっ?」


 ここでこの男に時間を取られるのは惜しい。


 爆弾はまだ残っている。

 何とかしなきゃいけない。

 誰かが何とかしなきゃ、関係のない人が傷つく。

 ここまで足を突っ込んだんだ。

 拙者は度胸も勇気もない男だけど、でも。


「ですが、一人で行かせるわけには……あなたは私の友人でも、ましてやヒーローでもない!! ただの取引先なんですよ!?」


 ブルーメさんはそう言って。

 やっと現実を突き付けてくる。

 同時に拙者の。

 いいや、僕の中で何かが腑に落ちた。


「分かっています。普通に考えて僕……いいや、拙者は、ここまで協力する義理も使命もないでやんす」

「……やんす?」


 拙者は仕事人間でやんす。


 でもその前にガジェットオタクであり。

 そしてそのもっと前に『ヒーローオタク』でやんす。

 まあもちろん、ヒーローオタクだからと言って何かなるわけでもない。

 でも、ヒーローオタクに共通して言えることがある。

 それは。





「――ヒーロー以前に、救う救われると言う話に心が惹かれた!」





 拙者のその叫びは、恐らく歩道まで響いているのだろう。

 でも、そう知っていても、止まる事はなかった。


「誰かに救われたっていいじゃないか、逆に誰かを助けたっていいじゃないか!! そんな力が無くたって、そんな勇気がなくたって。そう想う事は、『勝手』なんでやんす!!」


 分かっている。

 拙者は力のないただの一般人だって。

 分かっている。

 本当に個人だけを救ってくれるヒーローなんて。

 現実にはいないんだって。

 この世界は孤独に溢れている。

 好きな事に前のめりになって、孤独なって、拙者の人生は……。


 人生は孤独そのものだ。

 でも、でも。そんな孤独の中でも。



 確かに。

 憧れは輝き続ける。



「――想うは力になる! 誰だってそうだ! いつだって想う事が始まりなんでやんす!!」

「――っ!」

「だから拙者は向かうでやんす。ヒーローオタクとして、ただの一般人として」


 そう暴論みたく我儘を口に出して。

 無理やり我を通して。

 拙者はブルーメさんに背中を向けた。


 そして思いっきり飛び出して。

 路地の奥へ走り出したのだった。





 拙者の名前は田口アム。

 ただの、ヒーローオタクでやんす。







 田口アムが路地裏の奥へ走り出してから20秒後。

 田口アム、ブルーメから30m程離れた場所で、火の粉が上がる。


 同時に、爆弾が起動し。

 ビル一軒に被害が発生する。









 時刻11時26分。

 残りの爆弾3つ。




 俺のルームメイトはスーパーヒーロー。


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