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第一幕 「俺の日常、俺の現実」


「はぁ……はっ、はあ」

「――――」


 暗闇にいた。

 暗くて赤い、暗闇にいた。

 深淵といっても間違えがないくらい。

 暗闇にいた。


 腹の底から湧き出るものの、名前が知りたかった。

 だが知りえなかった。

 でもとても、気持ちが良かったと思う。

 スッキリしたというか。気分が晴れたというか。

 形容しがたい何かがある気がした。


 ふと、手を見てみた。

 真っ赤な血が、べっとりと付着していた。

 俺はそれを見て。

 名前のない激情が這い上がってきた。

 ああ、こいつが正体かと理解が走るが。

 けれども、開いた口からは変な笑い声しか出なかった。

 ケタケタケタケタ。

 狂ったような笑い声で息が苦しくなった。

 そのくらい、大笑いした。










 俺はずっと、暗闇にいた。





 何の平坦な毎日を送る筈だった。


 普通に就職して普通に働き、

 会社の中で昇格し給料が上がり、

 そして愛人と出会い。

 ごく普通の『結婚』する筈だった。


 そんなありふれた日常を、普通の生活を、

 俺は心の奥底では望んでいた。


 でも、俺『竹内ソウタ』は。

 その瞬間、現実を悟った。




 この世に泥で塗れていない物はないと。




「おいそこのチビ。そのスマホカチ割るからこっちに投げな?」


 社会人なのに身長が小さいからかそう言われる始末。

 俺は悲しいよ。


 なんて悲しみを心で思いながら。

 俺は右手を小鹿の様に震わせ、男の方にスマホを投げた。

 ついでに、しぶしぶ出すような表情を作っておいた。

 よし、完璧だな。


「――――」


 その様子を見ていた俺の目の前にいる背丈が高いお兄さんは。

 しかめっ面をしながらその足を上げ。

 フッと勢いを付けながら強く地団太を踏んだ。


 バキッ!


「よし」


 よし。なんてどこかの現場なんちゃらみたいな確認を終え。

 男は俺の前からスタスタと離れていく。


「――――」


 足でスマホを割られた。

 ああ、つい最近買い替えたばかりなのに。って言う悲しみがじわじわと。

 おいおい。なんでスマホの命はこうも長続きしないんだ、俺の幸せみたいにさ。


「――――」


 それで。

 俺はやっとの思いで頭をあげる。

 すると見えてきた光景は。

 俺が嫌というほど見慣れた世界だった。


 ははっ、ひどい状況だな。


 一体誰が、入社初日に犯罪者が乗り込んでくると想像できるだろうか。


「………」


 こうなった理由を俺の主観だけで語るならば。


 どうやらここの社長がこの小悪党どもと関りがあったらしく。

 お金の貸し借りとかまあそういうのだろうか?

 まぁそこは想像で養うとして。

 その悪党とここの社長の密会の際、ちょっとした小競り合いが起きたのだろう。


 ……概ね、おみあげと称して渡した箱の底に。

 約束の額が入っていないかったのだろうが。


 結果、ここにガラの悪そうな『星型サングラス集団』が攻めてきて。

 「社長を出せ」と騒いでいる。って言うのが今だった。

 で、俺は運悪く。

 その日にこの会社に入社してきたわけだ。


「――――」


 さて、どうして入社初日の俺が。

 社長の知られたくない裏の事情。

 いわゆる『金銭的トラブル』について知っているのか。


 まぁ、できれば聞かないで欲しい。


 言いたくない理由をあえて言うならば。

 なかなかに面倒で。

 話しにくい経緯を得て。

 俺はこの件を耳に入れたからだ。


 それに、どうせ後々話すだろうし。

 ここは一旦スルーしておこう。


「……ふぅ」


 それで、まず一つ勘違いしてほしくないのが。

 もちろん俺はこいつら(悪党)側じゃない。


 俺は善良な一般市民であり。

 ただの会社員だ(会社潰れそうだけど)。

 そこだけはちゃんと理解していてもらいたいね。


 だから要するに。

 今日こうしてその小悪党共が攻め入るなんてのは。

 もちろん俺も初耳だって事でさ。


「はぁ」


 俺は……。

 どうしてこうまた不幸に絡まれるのかと、頭を抱える。

 不幸だーと叫びたい気分だよ。

 かと言って、不幸だーって叫んでも、別に状況が良くなるわけじゃない。

 文句を長々と、愚痴って形で吐き出したい気もするが。

 まあ実際、そんな余裕もない訳だし。

 面倒だが。


「……」


 左腕を伸ばし腰のベルトから。

 お尻にぶら下がっている子供が使う不審者用のブザーを手で触り、指でボタンを二回押した。

 ブザーがスマホのバイブの様に一度揺れる。

 うまくいった証拠だ。


 さて、ブザーは押した。

 あとは時間を稼ぐだけだ。

 それが一番の難関なんだが。


「……ど、どうして私らは捕まっているんだ? 何か説明してくれぇ!!」


 俺から見て右側。

 会社のビルの窓側に座っていたはずのハゲの上司がとても震えた声で小悪党に聞いた。

 確かあの上司、声がどこか高圧的だったから覚えていたんだが。

 怯えるとそんな声なのか。

 チワワみたいな声だな。

 馬鹿にはしてないぜ?


 俺は少し気になるので、ひょっこりと顔を出すと。

 その状況がみるみると見えて来た。


「はっ。あなた方の社長さんがねえ、うちから借りたお金を返してくれないの」


 星形のサングラスをかけた小悪党がオフィスの机に腰を下ろし。

 そのサングラス越しに。

 その上司を見下している絵面が見えてきた。


 なんて奇抜なファッションなのだろう。

 でもああいうメガネ、一回憧れるんだよな。

 ……だが俺でも分かる。こんな犯罪の現場には死ぬほど似合ってない。


 なんて酷評をしていると、目の前でまた会話の進展があった。


「ねえ分かる? それってつまり、約束を破っているってぇことなのよ」


 オネエ口調?

 あいや、どこか嘲笑っているような言い草だ。

 ってことは煽っているのか? 凄い三下ムーブ。


「そ、それが私らとなんの関係が――!!」


 負けず劣らずと、上司は自らの潔白を両手に胸にかざしながら主張する。


 今喋っている上司以外の社員は。

 サングラスの男含めた連中がその手に握ってる一丁の拳銃にビビり。

 頭を守るようにデスクの下までさげている。

 そんな様子が、机から覗いて確認できた。


 そう、そんな中だったのだ。

 ハゲの上司は意を決して頭をデスクから飛び出したのは。


 他の社員は隠れているのに対し、あの上司は勇敢にも、

 勢いよく背筋を伸ばし、身の潔白を晴らそうと対話を試みている。

 なんて勇敢なのだろう。

 なんてかっこいいんだろう。

 あんなに高圧的で嫌われてそうだったあの上司がだ。

 しかし。


「はぁ?」


 そんな勇敢な上司も。

 次の瞬間、腰を抜かした。


「関係しかないでしょおお!!?? あ・な・た・方・の・社・長・が!! うちらからお金を借りたの!! 分かるぅ??」


 星形サングラスが唾吐きながら拳銃を上司に向け、大声で詰め寄る。


 まるで猛犬の声の様に、

 星型サングラスはドンドンと足を鳴らし。

 威嚇するように拳銃を振り回した。

 拳銃が色んな方向へ向く度に、他の社員は恐怖から小さな嗚咽を漏らしている。


 そして再度、星形サングラスが上司に向かって拳銃を向け。


「つまりだな、てめぇに分かるようにちょー簡単に教えてやるよ!!

 おまえらの人件費やいつも飲んでるコーヒーには、俺らから借りた金が少なからず関与してるって事だよ!!」

「ひっひぃ!!」

「ばああああん!! ばんばんばん、ばあああああん!!!」

「やめてくれ、やめてくれぇ!」


 意を決して飛び出した上司に与えられたのは、

 勇気に対する称賛の声ではなく威圧的で理不尽で、雷のような暴言だった。

 たくさん唾を飛ばし。現場に震撼させる男に。

 いくら勇敢な上司でも、「ひっ」と腰を抜かした。



「そんな……言い掛かりな……っ!」


 だが腰を落としてもなお、上司は怪訝そうな顔でそう言った。


 案外強情な人なのかもしれない。

 それか単に自分が助かりたいか、それともこの状況を変えようと奮闘しているのか。

 だが、どんなに勇気を振り絞り立ち向かったとしても。


「借りた物は返すのが道理だろ、ハゲのおじいさん」

「――ぁ」


 ドスの効いた声がオフィスに響いて、

 同時に嗚咽が小さく鳴いた。

 俺が目を凝らし、奥の様子をさらに見えやすい位置へ移動すると。


 頭に血が上ったように。

 キスする3秒前くらいの距離まで、

 上司と小悪党の顔は近づいていたのだ。

 

 そしてサングラスの男はハゲ上司の太い首を片手で強く掴んだ。

 握る音的に喉がしわくちゃになるくらい首を絞めているのが分かった。


「俺な、おまえを出来るだけ苦しませながら殺すことも出来るんだわぁ」

「……はっ、か」


 俺がもう少し移動し、入口が近いデスクまで来た時。

 初めて座り込んでいるハゲの上司の姿を視認できた。

 その上司の胸には、

 脅す様に付きつけられた銃口がねじ込まれていた。


 「ひっひっ」と体をだけ揺らす上司は死を覚悟するように瞳を瞑る。

 冷や汗とも取れる液体が上司の頭を伝った時。


「――ッ!!」


 次の瞬間、上司はサングラスに頭突きされ、

 ぐらつきながら机に背中を強く打った。


「まだ分かんねぇのか、おまえら社員は“人質”だ」


 ひっくり返ったカメの様になった男を見下しながら、

 サングラス野郎は拳銃を自身の肩に叩き軽口を吐きつけた。


 上司は首を触りながらしばらくは苦しそうに咳き込んだ。

 どうやら命までは刈り取られなかったらしい。

 勇敢な行動が功を奏したのだろうか。

 良かった。

 と安堵してもいいならしておこう。


「――――」


 だがこの事態を収めるには少なくとも。

 この会社の社長がここに出てくる必要がある。

 全ての元凶、諸悪の根源である社長だが。

 俺は知っている。

 いいや、知ってしまっている。

 もうここには来ないと。


 まさか入社初日に。

 裏口から急ぎ足で逃げる社長をこの目にするとは本気で思わなかったよ。


「ちっ、時間があまりねぇな。田中社長は出てこないようだな」

「奴らが来る前に証拠だけは消すか?」


 そんな会話が響くと同時に。

 ギロリと悪党の視線がこちらに向けられる。

 同時に他の社員の苦しい震え声がオフィスに響いた。


 これはまずい事になったな。

 俺の予測では、あの社長が懐に抱えていたあの袋の中に全ての金が入っており。

 それを持ち出して逃げたのだろう。


 なんて銭泥棒だ。社長なのに情けない。恥を知れ恥を。

 ……と言う事は、この小悪党共もとんだ無駄足を踏んでいる。

 そうと知ったら彼らは逆上し。

 文字通りこのオフィスを血の池地獄にしてしまうかもしれない。

 ああ、恐ろしい。


「………」


 奴らは俺たち社員を簡単に殺すことが出来る。

 だが、今の俺に出来る最大限の行動は、時間を稼ぐことしかない。

 言っても、さほど時間を稼げないのは承知の上だ。


 どうするべきか。

 どうしてやるべきか。

 どう考えるべきか。


 何か策はないか。

 何も策はないのか。

 何もないのか。


 時間稼ぎをする為にはどうすればいいか。

 あんなふざけた格好してる小悪党どもに殺されてしまったら。

 それこそ、今生の恥だ……。

 あいにく、こんなところで俺は死にたくない。

 少しばかりは、普通な人生とやらを生きたいのだ。


「…………よし」


 その瞬間、俺は持っていたブザーを握り。

 スイッチ操作でモードを変更する。

 悪党はその間、他の仲間と話ながらどうやら社員を殺すという決断に至っていた。

 カチャカチャと銃を弄る音と、恐怖に震える他の職員が絶望している嗚咽が聞こえるが。


 その間俺は、モードを5秒後にブザーが鳴り響くように設定し。


「――――ッ」


 オフィスの廊下。

 小悪党共からちょうど死角になる場所へ。

 ブザーを静かに投げ込んだ。


 俺の位置が一番出入り口から近くて良かった。

 新入社員だから入口だけはよく知っていて良かった。

 そんな度重なる奇跡に感謝をしながら、

 その瞬間は訪れた。


「――――ッ!?」

「ッッ!? よせ!!」


 投げ入れたブザーが空気を強く揺らし、爆音のブザー音が室内に響いた。

 現場に衝撃が走るのを肌で感じたその瞬間。

 悪党共の一人がそれに驚き。


「う、うわあああ――!!」


 社員を殺そうと用意していた銃を壁に向け乱射し始めたのだ。


 ドドドと耳が壊れそうな爆音が現場に轟き。

 他の社員は頭を押さえながら必死に悲鳴を抑える。


 星型サングラスの男は慌てたように『やめろ!』と言ったものの。

 実際に乱射が収まるまで要した時間は11秒程だった。


「はっ……はひっ?」


 さすがにここまで派手にしてしまった彼らは、

 焦りながら現状に手遅れの寒気を走らせる。

 壁に穴が開き、壁が崩壊し、文字通りの弾幕で会社の壁に空洞が生まれた。


「銃は基本撃つなと言っただろ!!」


 やっと止まった爆音の後、

 この世の終わりのような空気感の中を突っ切ったのは星型サングラスの男だった。


「だって、人がいると、思って……」


 乱射した本人もそう両手を震わせながら言う。

 彼も不安になったのだろう。

 愚かにも。


「くっそ、これじゃ警察が来るのも時間の問題じゃねぇか!!」


 サングラスの男は怒りを机に向け思いっきり蹴り上げた。

 もしかしたらあの男が、このオフィスの社員を皆殺しにし。

 その後どう逃げるかの完璧なプランが存在したのかもしれない。


 そう考えると、俺のこの行動にどこか負い目を感じてしまうのは仕方がない事だとして。

 これで俺の目的が達成された。


「時間稼ぎの成功だ」


 俺は確定した未来を目にし、

 そう誰にも聞こえないくらいの声量で呟いた。


「――――アぁ!?」


 刹那、ビルの窓全面が一斉に割れ。


 黒コスチュームに赤いカラーを入れた男が窓から乱入した。


 全身ア〇コミのような服装の男は乱入してすぐ、

 直線を描きながら悪党の一人をノックアウトする。


 男の見た目はよく見るとダサかった。

 全身黒色で赤いカラーなんて、どこのヒーローアニメだと鼻で笑いたくなるのだろう。

 だがこの世界ではそうはならない。

 なぜならこの世界は。


「おまえはっ!?」


 星形サングラスをした男が焦りながら言うと乱入して来た男は地面に着地し。

 格好つけながら拳を振り下ろした。


「――ヒーローの登場だ。悪党ヴィラン共」


 “まだ宙に舞っていた”窓のカケラが外の太陽光を反射し、

 オフィスの天井に奇麗ではないが万華鏡のような模様が浮かんだ。


 その渦中、拳を振り落とし。

 どこか見た事があるような決めポーズを演じる男は。


「ひいいいいろおおおおぉぉぉぉがあああ――!!」

無重力移動ゼロ・グラビティー!!」


 一撃。

 黒コスチュームの彼は、

 鬼の様な形相をしたサングラスの男に向け、

 信じられないくらいの速度で、勇ましく伸ばした右腕で男の頭を強く殴る。

 そのままサングラスの男は目を回し倒れた。


 あのサングラスが一撃でノックアウトされたのだ。

 他の悪党はその様子を見て分かりやすく戦慄した。


「ッ!!」


 呆気に取られていた、サングラス野郎の隣に立っていた奴が。

 焦ったように銃を取り出すが。

 黒コスチュームのヒーローはすぐさまオフィスの机を蹴り。

 

 空中で――回った。


 ――重力ヒーロー『グラビトル』は、

 ――重力を自由に操作することが出来るヒーローだ。


「――――」


 現在の日本は大の超人社会である。


 昔、超人犯罪が増え続け悪が世界を埋めつくそうとした時代に、人知れず立ち上がった集団がいた。


 その時代にとっての超人は悪だった。

 人生を狂わし、能力を持っていない一般人は能力者に怯え。


 ……だがそんな中、超人でありながら人を救い。

 悪を根絶する事を目標としている集団が現れ。

 その日から決定的に、その集団によって世界の形が変わったのだ。



 その名を、『ヒーロー』と呼ぶ。



 数年前から現れた存在ヒーロー達は。

 日夜超能力を悪用する悪党ヴィランと戦っているのだ。


「ふう……」


 最初に行った。

 ブザーによる“偽通報”が役に立ったと胸を撫でおろした。


 ヒーローグラビトルは銃弾を避け、

 そのまま次の悪党を、デスクに括り付けられていた電話のコードで拘束する。

 今時コードがついた電話を使っている会社でよかった。

 だからこそ、その捕縛はとても手際がよかった。

 ヒーローなのだから、悪党ヴィラン無力化は心得ているのだろう。



 いつの間にか、残るはあと一人。

 子供なら『がんばれ!! グラビトル!!』と応援の言葉を掛けているだろうが。

 あいにくここに居るのは皆社会人、自分の事で必死だ。

 グラビトルの参戦により拘束されていた上司含め。

 他の社員は一斉にオフィスからあの社長と似たような尻尾を巻き逃げ出した。

 自分の貴重品を持って逃げるとこ。

 大人って感じで俺は好きだぜ。


 他の社員が逃げる中、

 もちろん俺は隠れてこの状況をのぞいているがな。


「こんな事をして、何が目的だ悪党ヴィラン


 最後の一人にそう問い詰めるグラビトル。

 目的はまあうちの社長なんだけど。


「おまえに話すことは何もねぇ!! 死に晒せ、グラビトル――ッ!!」

「銃弾くらい避けられるんだ!!」


 銃撃。

 再度鳴る爆音。

 今度はビビる演技を忘れてしまったが、

 周りに人が居ないのでいいだろう。


 グラビトルはオフィス内を縦横無尽と飛び回り。

 天井を蹴り、地面を蹴り壁を蹴りと思うがままだった。

 ここはグラビトルが一番戦いやすい建物内。

 彼も本領を発揮できるのだろう。


「――はあああああ!!」


 悪党の一人が口を大きく開けて叫ぶ。そして鳴り響いたのは。


 カチンッ、と耳障りな金属音が鳴った。

 俺は耳がいいから分かる。

 この音は。


 グレネードか。


「グレネード……!?」

 

 俺と同調するようにグラビトルが驚きの声を上げる。


 ごろごろと金属が転がる音がオフィスに響き。


「あっ、まっず……!」


 その瞬間、俺の足元の地面が傾いた。


 ――飛び出すような爆発とともに、大きな音を立てながら床が倒壊した。


 音を立てながら床は瓦礫と化し、俺がいた地面は崩れ落ちて行った。

 爆風は俺の髪の毛を逆立たせ爆音は俺の耳の中で跳ね変えり。


「くっ」


 さっきの他の社員が貴重品を持ち出したの。

 あれ正解だったな。


 俺は足を踏み外し、下の階へ落下した。



――――。



「いってて……」


 ……いやぁ、グレネードが俺の近くに来るなんて流石に思わなかった。

 ここでも俺の体質が影響するのか。参ったな。


「さ、観念してね」


 なんて声が聞こえる。

 ちと体が痛むが、俺も声の方向を見ると。


「まぁそうだよな」


 最後の攻撃、にしては相手を考えて無さ過ぎたな。

 グラビトルからしたら空中を飛べるので。

 爆発の衝撃波さえ避けてしまえばさほど問題ないのだろう。


 ちなみに小悪党は落ちた下の階で、どうやら着地に失敗したらしく。

 間抜けなざまを見せている。

 笑えるぜ。

 顔は笑ってないけどな。


 ん。

 何か久しぶりの感覚がする。

 これは……。


「……血か?」


 俺は着地に失敗しなかったが、珍しい事に怪我だけはしたようだ。

 グレネードの破片が足をかすったらしい。

 しかしこれは好都合だった。

 軽傷だが簡単なカモフラージュに使える。


「え、あ。大丈夫ですか?!」


 このタイミングでやっと俺はヒーローに見つかった。


 ヒーローは腰に付けたポーチから包帯を取り出しながら。

 俺の元へ来てくれる。

 そして俺の顔を確認して。


「またあなたですか……どれだけ巻き込まれれば気がすむんですか」

「……ははは」


 グラビトルは苦笑いをしながらそんな事を言った。

 俺はその言葉に、流石に乾いた笑いで返す事しかできなかった。


 ……さて。

 『また』と言う言葉から察するように。

 俺は結構な頻度でこういう出来事に巻き込まれる。

 “不幸体質”とでも言えばいいのだろうか。

 だから、と安易に言葉を紡ぎたくないが。

 だから、このヒーローグラビトルとも既に面識があるのだ。


「あなたの顔を見すぎて、落ちたとき『あの人だから大丈夫だろうな』って心の中で勝手に安心してしまいましたよ」

「そうだったんですか? 自分ではもう懲り懲りなんですけどね」

「あなた大体無傷だから、今回は珍しいですね」

「違いますよ。毎回珍しいだけです。これが正常なだけで」


 謙遜をしておく。

 しかし、油断は良くない。

 反省だな。

 次に活かそう。

 そんな次は出来れば来てほしくないがな。


「はぁ……あなたが怪我しない世界を作りたいものです」


 グラビトルは包帯を巻きながら小さく呟いた。

 面白い事を言うな。


「無理ですよきっと。この超人社会では」




 超人社会になってから17年。

 俺、竹内たけうちソウタはずっと。



 この泥で汚れた現実を見ていた。


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