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ミラクルジョッキー  作者: 秋山如雪
第16章 ホースマンの夢
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第66話 強力なライバル

 2050年早々に、若駒ステークスを圧勝したことで、もはや「敵なし」と言われ、その年のクラシック戦線の最有力候補となっていたミラクルウィンド。


 次は、皐月賞トライアルの弥生賞ディープインパクト記念に出走予定だった。


 だが、そこにライバルが立ち塞がる。


 前年のサウジアラビアロイヤルカップ(GⅢ)と、朝日杯フューチュリティステークス(GⅠ)で1着になっていたパープルヘイズ(牡・3歳)。鞍上は山ノ内昇太騎手。


 しかも、このパープルヘイズは、ミラクルウィンドと同じくデビューから一度も負けていない。互いに「無敗」を誇る者同士の、初の戦いとなった。


 まさに私の同期がライバルとして立ち塞がる。


 2050年3月6日(日)、中山競馬場、11R(レース)、芝2000メートル、弥生賞ディープインパクト記念(GⅡ)。


 天候は、曇り。馬場状態は「良」。


 かつて、ミラクルフライトで挑み、ハイウェイスターに負けたことが思い出される。

 事実、それ以降で私は一度もこのレースに勝っていなかった上、日本ダービーにも負け続けていた。


 あの時も私が騎乗していたミラクルフライトは、単勝2.1倍の1番人気だった。


 だが、今年は違う。

 ミラクルウィンドは、単勝1.6倍のダントツの1番人気だった。7枠8番の出走。


 単勝3.6倍の2番人気に、パープルヘイズ。鞍上は山ノ内昇太騎手。8枠9番の出走。

 

 すでに何度も走ったこの中山競馬場の芝2000メートル。

 ある意味では、ここのコースに私は「慣れて」いた。


 スタートすると、ミラクルウィンドは5番目くらいをキープ。一方で、先頭争いを演じていたのは、山ノ内昇太騎手が乗るパープルヘイズだった。これが、大逃げを打った5番人気の馬に続く2番手を追走。


 1000メートル通過が1分05秒くらいの縦長の展開となる。


 3、4コーナー中間の、残り600メートル地点で、私は彼を少し前に出すが、それでも4番手。


 残り400メートルを切って、最終コーナーに入ると、逃げ馬を捉えたパープルヘイズが進出し、それをミラクルウィンドが追う形となる。


 しかし直線は、パープルヘイズの優勢が揺るがず、途中で手を緩めるほどの独走状態となり、ミラクルウィンドは、大逃げの馬を捉えるのが精一杯の2着。優勝したパープルヘイズに1馬身半差をつけられ、初めての敗北となった。

 それでも、負けはしたが、上がり3ハロンは、メンバー最速の33秒6という数字を叩き出していた。


 レース後。


 いつものように、マスコミのインタビューを終え、後検量も追えて、ジョッキールームに行くと、同期のあの男が待ち構えていた。


「惜しかったな」

 勝ち誇ったように胸を張るのが、どうにも憎たらしく思えてしまう。もちろん山ノ内昇太くんだ。


「まあ、勝てなかったのはもちろん悔しいけど、これで終わる馬じゃないよ」


「まあ、せいぜい気ぃ抜かんことだな」

 相変わらず、けなしているのか、励ましているのか、よくわからない態度を取る彼。彼もまた凱くんが言うようにツンデレなのかもしれないが。


「川本や凱も、クラシックに合わせてくるやろうからな」

 彼がそう言ったのが、気にかかった。


 つまり、川本海ちゃんも、大林凱くんも、同期であり、この山ノ内昇太くん同様に、強力な3歳馬に乗って、戦いを挑んでくるだろう、ということだ。


 これまで圧倒的な勝利を重ねてきて、もはや「三冠は確実」とまで期待されてきたこのミラクルウィンドだが、早くも不安要素が出てきていた。


 互いに内心では牽制するような言葉を交わし、私たちは別れる。

 互いの意地と、誇りと、運命をかけた、3歳だけの、競走馬にとって1度きりのクラシック戦線がいよいよ始まる。


 圧倒的な速さだと思っていた、ミラクルウィンドは、このレースで負けたことで、にわかに「かげり」が見えてきたように、私の目には見えていた。

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