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群が増えてからは洞穴に入れない者は、雨に濡れないように木の陰や岩の隙間に入っていた。
更に時が過ぎていくと、自由に物を持つことができる手と腕で工夫して道具を作っていた。
その道具で木を切り倒して長さや太さを揃えて柱にして、並べたり組み合わせたり、長い蔓で括り付けるのを繰り返し、雨風を凌げる住処を作り上げた。
何度も何度も失敗しては試行錯誤を繰り返すこの生き物を龍は見守り続けた。
どんどんいろんな道具を作り出していくので、見ているだけで目まぐるしく新しいものが増えていく。
面白いのだ。
ムベの花を頭につけた者の香りに誘われて、その者の後をついて回った。
そして、初めてその生き物たちの出す音に意味があるのだと気がついた。
きっかけは、音に長さの違いがあった。
音の長さに種類があって使い分けられ、それが合図になり意思を交わしている。
また別の者の後をついて行くと、ムベの実を配り歩いている。
小さい者が木の実を食べている所へムベの実を置いた。
すると置いてくれた者は嬉しそうな顔になった。
その顔を間近で見た龍もその香りを楽しんだ。
そうして龍は、不思議な生き物の中に自然と紛れ込むことになった。
龍の姿はこの生き物たちにも見えていないので、どんなに近づいても気づかれることはない。
偶に生まれたばかりの小さい者が龍を見ることがあったが、その者が成長し何かを伝えようと身振りをする頃には龍の姿をみることはできなくなっていくのだった。
龍は生まれたばかりの小さい者と時々目が合うのだが、その時はどうしたら良いのか分からなかった。
笑う者があれば泣く者もいる。
じっと見つめ返す者や手を伸ばしてくる者もいた。
笑う者ならば龍も気分がよい。
が、泣く者であるならば、泣き始めたらすぐに離れるようにした。
離れたら泣き止むのだ。
小さい者が大きくなり、そしてまた大きくなった者が小さい者を増やす。
繰り返される生き物たちの生命の営みを、龍は見続けていく。