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龍は花の咲く季節が好きだ。
湖から出てきて、色とりどりの花を眺めながら、花の咲いたムベの木にやってくる。
ムベの木に絡みつくようにしてムベの花の香りを楽しんでいた龍の目の前を、同じくムベの花の香りに誘われてひらひらとした虫が来て花の蜜を食べて行った。
龍の目は、虫の動きを追っていく。
龍は湖の魚以外の、生き物の動きに興味が湧いた。
ひらひらとした虫はムベの細い花弁に細い足でつかまり、白い小さな釣鐘状の花の中に頭を入れている。
一つ一つの花を飛び回り、蜜を食べているのをじっと見つめていた。
虫もムベの花が好きなのか。
龍は自分と同じ物が好きな生き物を見つけて嬉しくなった。
虫や獣を眺めるのも良いものだなと、長い時間見つめ続け、またいくつもの季節が過ぎていく。
その間にムベの実を食べた者たちが種を運ぶ。
そして湖の周りの山々の彼方此方からムベの木になりそうな、小さな芽が出て、苗となり、蔓が伸びて、やがて若木に育った。
龍が動植物を眺めては沢山の発見や驚きのぶんだけ降らせた雨が、ムベの発芽や育成に関わったおかげなのだが、龍は全く気づいていない。