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龍神様はムべの香りがお好き   作者: 鈴音あき
3/23

3

ムベの木が一本でもあればずっとこの場所に居られると思った。


龍はムベの香りがしないかと、注意深く周囲を探してみることにした。


湖から顔を出してみた。


空に上がってみた。


しかし、空からは見つけられなかった。


地を這うようにしてゆっくり、ゆっくりと沢山の木々を一本ずつ確認していく。


湖の周りをぐるりと一周。

見つからない。


湖畔から少し離れて、また湖の周りをぐるりと一周。


何度も湖を中心に回ってみたが見つからなかった。


悲しくなった龍は少し、涙の雨を降らせた。


ここにはムベの木はないのだと、悲しんでいるうちに季節は変わって涼しくなった。


すると山の何処からか、龍が探し求めていた香りが微かに香ってきた。


悲しい雨を振らせていた龍は香りに気がつき、またムベの木を探し始めた。


どこから香りがやってくるのか分からない。


僅かな風に乗って龍に届いた香りは、すぐに消えてしまった。

早く見つけなければ。


湖の周りをぐるり、ぐるりと慎重に。


そして、見つけた。


ムベの木は山頂と麓の中間あたりの、日の光が届く場所に一本だけ、小さな赤い実をいくつか実らせていた。


こんなところにあった。


龍は見つからなかった間の寂しさを忘れてムベの木に寄り添い、うっとりとその実の香りを楽しんだ。


気分がとても良くなった。


龍の降らせる悲しい雨は、嬉し涙の甘露となる。


ムベの木は龍が降らせた雨に濡れてまた少し香りを強めた。


たったの一本だが、龍はそれでも良いと思えた。


気に入った美しい湖の近くに大好きなムベがある。


それだけでも良いと思えるようになった。



ムベが大好きな者は他にもいた。


甘い果実を求めて、どこからともなく生き物がやってくる。


鳥たちが器用に皮を啄み、食い散らかして実を落とした。


虫たちが落ちてきた実の蜜をなめていく。


小動物が蜜と一緒に皮や種を食べている。


ムベは無くなった。



龍はまた、少し悲しくなった。

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