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龍神様はムべの香りがお好き   作者: 鈴音あき
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トト様とカカ様からカンノの指導を受ける許可を得て、ユヒは龍への供物を探す日々を送っている。


そして、そのうちに種を取り、身近に植えて育てるようになった。


出来た畑の作物は龍に捧げ、そのお下がりの果実や花をカンノとユヒは群れの者たちに渡した。


群れの者たちはユヒが何をしているのか最初は不振に思っていたが、トト様の説明を聞いて理解してくれた。


龍の好む香りはやはりムベだ。


ムベの花が咲けば龍はムベの木にいる。


その季節は龍は山のあちこちにあるムベの木で香りを楽しんだ。


ユヒはムベの生息地を把握していて龍がいる場所も把握することにも成功していた。


あの時の出来事のおかげで、龍の気配を感じ取れるようになったユヒは、カンノの代わりに龍からの雨の合図も分かるようになっている。


龍とユヒは少しずつ互いの事を知り、分かり合い縁を深めていった。




それから更に時が過ぎてゆく……。


龍にとってはヒトが身につけているものが徐々に変わり、いつの間にか衣と呼ばれる衣服を纏い、群れは村や国へと大きくなり、便利になっていく多数の道具が作られていった、くらいの認識だが。


時の流れが退屈にも感じることがあった。


それでもなお、変わらないことがある事に、龍は喜びを感じる。


その国は龍が住まう場所として何世代もの間、口伝が残されている。


盲目の巫女が龍神と出会い、この国を繁栄へと導いた初代女王。


彼女はヒトを引き付ける力があり、龍の加護を受け、弟子を育てた。


代々引き継がれていったその、純粋に龍神の存在を信じることで龍からの天候に関する予知の言葉を仲間たちに伝える。




いつしか類稀な能力を生まれつき持つ者がいた。


その者はカンノの生まれ変わりだろうかと思うほどに魂がよく似ていると龍は思う。


龍はその者が気になってその者を観察する。


その者はカンノに似ているがカンノではない事を理解した。


カンノは目が見えていなかったが、その者は見えている。


それが嬉しかった。


龍が動くのを目で追っている。


目が見えないと不便であることを龍は学んでいた。


視力がないからこそ、カンノとは意思疎通が初めてできたのだが、やはり危なっかしいと気になっていた。


その心配をしなくても良いことが嬉しいのだ。


その者はまだ生まれたばかりで親と共に暮らしているのだが、そのうち龍に自ら話しかけてくるだろうと確信している。


ほかにも色んな事をヒトの生活から学習して、弟子たちの巫女の修行をしている会話からでも、人々の会話からも、学べるものはなんでも吸収した。


今はまだ赤子である者ためにも。


ヒトに出会った初めの頃よりは言葉が増えたのを龍は面白く感じていた。


弟子たちとも気持ちが通じ合える喜びに龍は温かい気持ちになれた。




また少し時が経ち、カンノに似た子は成長し、ある時龍に視線をしっかりと合わせて話しかけてきた。


「こんにちわ、りゅうじんさま。わたし、ずっとりゅうじんさまにみまもられていたの、しってるよ。ありがと」


そう言ってにっこりと笑ってくれた。


龍は頷いた。


話しかけてくれたのが嬉しくて、何かが溢れてくる。


何度も頷く度に、それは零れた。


「りゅうじんさま、なみだ? かなしい?」


小さく首をかしげて、心配そうに龍の顔を覗き込む。


龍は小さく首を左右に振る。


違うのだと。


「よかった。わたし、りゅうじんさまとおはなし、したい。わたし、ひみこ。よろしくね?」



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