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龍神様はムべの香りがお好き   作者: 鈴音あき
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「このバカ! どこまで行っていた! 心配したんだぞ!」


ユヒが自分の住処に帰って家族にただいまを言うと、トト様がユヒの姿を見て怒鳴りつけた。


「ひッ!」


トト様が猛スピードでユヒの目の前に迫りくるので、ユヒはびっくりして後ずさる。


が、背後にいたカンノが優しく受け止めてくれた。


「大丈夫ですか?ユヒ」


カンノはユヒを落ち着かせるように腕を摩ってくれる。


「はい……。大丈夫です。トト様の大きな声にびっくりしただけ」


「ふふ、そうですね。さあ、中に入って」


そう言って、カンノはユヒの背中を優しく押して共に住処に入れてもらう。


「巫女様?」


「済みませんが、少し、お話をさせてくださいませんか?」


カンノはユヒを座らせて自分はトト様の正面に尻を落とした。


「どうぞ、カカ様も一緒に聞いてください」


ユヒのカカ様にも話の中に入るように促した。


「ユヒのこれからの事についてご相談があります」


「え……。巫女様、ユヒが何か粗相をしましたか!?」


ユヒが何か迷惑になることをしたと思ったカカ様が顔色を悪くした。


「いえ、そんなことはありません。逆です。よく気の利く、優しい子です。だからこそ、お願いしたいことがありまして……」


「はぁ……。お願い?」


「何をお望みですか?」


「実は、ユヒを私にお預けになってくださいませんか?」


「え?」


「ユヒを私が育てたいと思っています」


「何でまた……」


「はい。今、ユヒは私と共に過ごしている時が多いのはご存じでしょう。その間の龍神様は心穏やでいらっしゃるのです」


カンノの背後に龍はいる。


龍はカンノの言葉を静かに聞いていた。


龍がユヒを気にかけていることをトト様とカカ様に説明していく。


ユヒが龍に届けている花や果実を、龍の好みの香りを無意識に感じ取り、自然に学び、龍が喜んでくれるといいなと思いをこめていることを、龍もカンノも感じ取っている。


その力と気持ちを育てられないだろうか。


これからのユヒや、群れの者たち、この土地の生き物たちも、豊かに生きていけるのではないだろうかと。


ユヒが龍を好きでいてくれる限り、龍はユヒを見守り、群れや地域を守護される。


ユヒが龍のための香りの供物を、純粋な気持ちで捧げられるように、トト様たちにもユヒを見守っていてほしい、というのだ。


今ではカンノが選ぶ香りとユヒが選ぶ香りのお供えは龍のお気に入りで、龍が自分で選ぶ香りよりも2人の香りの方が好きだとカンノに伝えてくるほどだというのだ。


「巫女様……」


カカ様はカンノの話に途惑っている。


「龍神様?」


トト様はカンノの説明を聞いても何のことだか分からないようだ。


「トト様、龍神様はちゃんといるんだよ」


「ユヒ?」


トト様は怪訝な顔をした。


「トト様、前にも言った事があるよ。龍神様は見えないけど、ちゃんといて、私たちを見てくれている。カカ様、いつも龍神様が雨を降らせてくれているんだよ。カンノさまは、龍神様からこれから雨を降らせる合図を聞いて、皆に教えているんだよ。知ってるよね」


「巫女様のお言葉はいつも聞いているけどねぇ」


龍は嬉しくなった。


自分のことをカンノのほかにも信じて疑う事もない者がいる事に、力が湧いた。


これからもユヒが選ぶ香りが供物として自分に持って来てくれることを、龍は強く望んでいる。


すると、龍の気持ちが新たなる能力を生み出したのか、カンノの背後にいた龍がほんのりと姿を現した。


こんな力がある事に龍は驚いた。


「あ……」


龍の嬉しい気持ちがカンノにも伝わり微笑む。


ユヒのトト様とカカ様もまた、カンノの後ろに微かに龍の気配を感じ取ることができたようだ。


ユヒはしっかりと龍の姿を目にとらえることが出来て、心臓がドキドキと煩いほどに高鳴る。


「ユヒは龍神様のお姿が判りましたか?」


カンノはユヒの動揺を感じ取って確認してきた。


「はぁ。……は、はい!」


心臓の音でカンノの言葉が聞き取りにくいが、返事をした。


「そうですか。良かったですね」


「はいッ! ㇵッ! 龍神様! 初めましてユヒです! 会えて嬉しいです! よろしくお願いします!」


ユヒは頬を真っ赤にして龍に元気に挨拶をして頭を下げ、二カっと笑顔を見せた。


「え、龍神様!?」


カカ様は、ユヒの視線の先の小さな気配に向かって満面の笑みを見せているのを見て、本当に龍神様がここにいると確信した。


「本当に、いるのか」


トト様も、ユヒの言動に嘘はないと感じ始めている。


「ユヒ。トト様とカカ様には龍神様のお姿は見えていないけれど、ちゃんと気配は感じ取れています」


「本当!?」


「あぁ。巫女様の後ろに、誰かがいるのはわかる。ユヒを大事に思ってくれている優しい小さな光が儂にも見えた……」


「そうね、私にも見えたわ」


「しかし、ウチのユヒが……?」


「巫女様……」


うちの子が役に立つのかと、心配そうな顔をした両親はカンノに確認しようとするが、


「大丈夫だよ!」


と、ユヒに遮られた。


「ええ。大丈夫ですよ。そんなに不安にならなくとも、ユヒは立派に龍神様に務めるでしょう」


カンノもユヒの働きを認め、保証してくれている。


「何より、龍神様がユヒを気に入っているのですから」




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