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龍神様はムべの香りがお好き   作者: 鈴音あき
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カンノから龍の存在を教えてもらってからは、ユヒは真剣に龍に捧げるムベの実を選ぶようになった。


ユヒは龍が何故この場所に留まっているのかもカンノから教えてもらう。


ユヒは思う。


恵みの雨を降らせてくれている龍にずっといてほしい。


この場所を豊かにしてほしい、と。


それからはムベの木を龍のために探し、また、龍が好きかもしれないと思いながら色々な果実や花をカンノの住処に届ける。


ユヒは自分のしていることが良いことなのか分からないが、それがカンノや龍の役に立つことであれば嬉しいなと思った。


カンノと龍は、ユヒが役に立ちたいと自ら行動していることが判っている。


少し遠いところまで出かけては木の実を採ったり、危ない崖の縁にある花を摘んだり、次第に行動範囲が広くなっていくことに、カンノは心配した。


それでも頑張って誰かのためになることをユヒがしているのを、カンノは黙って見守っていた。


龍も、カンノの心配する気持ちと似た感情を持ち始めている。


新しく、見守るという気持ちを覚えたらしい龍は、子供が成長しようとする喜びと失敗しないかと不安になる気持ちが混ざって、自分の気持ちが不思議な感覚になるのに戸惑う。


ユヒはいつもカンノの住処にやって来ては、龍が気に入っている香りのする物を笑顔で抱えてくるのだ。


その笑顔も龍は気に入って見ていた。


「カンノ様! ただいま! ヤマモモ見つけました! 龍神様はヤマモモの香りが好きですか?」


カンノの住処に入ってきたユヒは明るい声で今日採ってきた果実を差し出した。


しかし、カンノは暗い顔でユヒの前で立ち尽くしている。


「……ユヒ。群れの皆が心配しています。今すぐに、カカ様たちの所に戻り、安心させてあげなさい」


「え……」


「私は龍神様が教えて下さるので、ユヒがどこで何をしてきたのか知っています。が、それをあなたのカカ様に説明しても分かってはもらえませんし、理解したとしても親であるカカ様や群れの者たちはやはりなかなか帰ってこないユヒが心配なのです。……暗くなってしまっては、足元も良く見えず難儀しているのではないかと、獣に襲われているのでは、怪我をして帰れないのでは、と、良くないことを考えてしまうのです。私も心配したのですよ。いくら龍神様がついていてくださっていたとしても、やはり、あなたの声を聴くまでは……」


カンノは淡々を言葉を紡いでいるが、つい感情が零れてしまった。


「あ…あの、……ごめんなさい」


ユヒは心配されていたなんて考えつくこともなかったのだが、カンノからの言葉で素直に反省した。


その気持ちをカンノはきちんと受け取った。


「はい。反省したのなら、その謝罪の言葉を受け取ります。私の所よりも、家族や皆さんに謝りにいきましょう。無事に戻ってきたことを報告して、どこまで行ってきたのかを話してみましょう。私も一緒に行きます」


「カンノ様?」


「きっとカカ様は心配し過ぎて怒っているでしょうね。怪我もなく元気に帰ってくることは伝えてありますから、一緒にカカ様に謝りましょう」


「カンノ様は悪くない!」


「いいえ。私はあなたが龍神様への供物を用意してくれていることを黙認しています。その説明もカカ様たちにせねばなりません。あなたがこれからも供物の用意をしたいというのなら、きちんとカカ様たちに仕事として認めてもらいましょう? そして、龍神様に気持ち良くこの群れに留まっていて下さるように居心地の良い場所になるように努力しましょう」


「はい」


いつも龍神様に捧げる供物台にユヒが取ってきたヤマモモを載せて、カンノは龍にヤマモモの香りを差し出した。


「龍神様。ユヒを見守ってくださってありがとうございます。これからユヒの家族にあってお話をしてみます。どうか見守ってください」

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