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龍神様はムべの香りがお好き   作者: 鈴音あき
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「私達は安息の地を求めていました。この土地に住まわせて下さい。お願いします」


カンノは深々と小さな頭を下げた。


(お前たちが何をしようと我は構わぬ。勝手にすればよい。我はムベがあればそれで良い)


初めて人と交流ができた。


「ありがとうございます」


カンノは下げた頭を上げ、少し笑みを見せた。


龍は機嫌が良くなった。


(今から雨を降らせる。濡れたくなければ帰れ)


天高く舞い昇り雨を降らせる。


いきなり降らせたりはしない。下にいるカンノが家にたどり着くまでは優しい雨だった。


カンノがいる群の近くにある樹木がよく育つように願いを込めた。



龍はまた気ままに過ごす。


湖から出てきて、ムベの香りを楽しみ、動植物を眺め、機嫌が良ければ雨を降らせた。


人の争いの声を聞いてしまう時には湖の底で耳を塞ぎ、ほとぼりが冷めるころに様子を見に出てみる。


人の子の笑い声が聞こえたら近くまで行ってその顔を眺めた。


暫くして、龍は湖の畔に小さな木で出来た台の上にムベが1つ置かれているのを見つけた。


ムベに混じってカンノの匂いがする。


カンノの匂いからその想いが伝わってきた。


『勝手にしろとの仰せでしたが、子等を見守って下さったり、優しい恵みの雨を頂いております。

皆が安心して暮らせるのも、龍神様のおかげです。

有り難いことでございます』


龍は今まで一人だったから感謝されたことがない。


だから何かがムズムズした。


ふわふわする。


これは何だろう。


分からない。


分からないから知りたくなった。


カンノなら分かるだろうか?


カンノの家は匂いですぐに分かる。


家の前に着くとカンノが直ぐに出迎えてくれた。


龍が来たのが分かるらしい。


(我に何をした?)


「どうぞお入りくださいませ」


カンノは龍を招き入れた。


龍が入るとカンノは戸を閉めた。


(湖の畔にあったムベからお前の匂いがした)


カンノは微笑んだ。


少し背が伸びたようだ。


「はい。私が置きました」


(何故)


「このムベは如何でしょうか?」


見れば家の真ん中にまたムベが1つ、木で出来た器の中に転がっている。


カンノに促されて香りを楽しむ。


すると、この群の子供の元気な匂いが混ざっている。


(子供の匂い)


子供の笑顔が見える気がした。


『ありがとー』


また、どこかがムズムズふわふわした。


「人は、感謝を表すために物に気持ちを込めることがございます。

子供たちも私も、龍神様に差し上げたいムベに感謝の気持ちを込めてお供えいたしました。

私たちの心を汲み取って下さり、ありがとうございます」


静かなカンノの声の話に驚いた。


自分は好きな事を好きな時に好きなだけやっていただけだった。


感謝されるようなことをしているつもりもなかった。


だが、


(では、我はお前たちの感謝の心をムベの香りと共に食べたのだな)


感謝の心が龍の中の何かを動かした。


(感謝の心は良い匂いだった。)


だから、ふわふわしたのだろう。


今まで誰とも交流出来なかった龍は、感動することがなかった。


眺めているだけだった。


誰かから何かをしてもらうことがなかった。


(子供に伝えてくれ。良いムベだったと)


龍は初めて笑った。


これが嬉しいという気持ちなのだろうか。


「はい。畏まりました」


カンノもまた笑った。


龍が喜び笑っているのが嬉しいのだろう。


それからは、龍の気まぐれではあるがカンノの家に龍がやって来ることがあった。


カンノは誰と話しているのか。


カンノの家の前を通り過ぎるとき、一人しか居ないはずなのにカンノの話し声が聞こえる。


群の人々はカンノの巫女の力を畏れた。

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