13
「うまい!」
火に近づけていた大人の男が木の枝に肉を刺して焼いていたのだが、肉を一口齧ってすぐに叫んだ。
周りで男の様子を見ていた者たちは、肉の焼ける匂いがとても食欲を唆るので感想を待っていた。
男の叫び声に「おおっ!」と、周りの者たちは驚きの声をあげる。
龍も人々と共に聞こえぬ驚きの声をあげた。
「我も試すぞ!」
「我も!食ってみたい!」
「わしはまだいい。匂いはうまそうだが腹をこわすかもしれんからな」
「お前が食った後、1日くらいして腹が悪くならんなら食ってやっても良いな」
わいわいと男たちが騒ぐので群の中の殆どの人がその場に集まってきてしまった。
「何やってるんだい?」
「嗅いだことのない匂いだね。何の匂いだ?」
「いい匂いだよ!」
「わあ!火だ!」
「カカ!火が出てるよ!?」
「火!?熱い!」
「あぶないよ!こわい!」
女たちが火を見つけて怖がり始めた。
子どもたちは女たちが怖がるので一緒になって怖いと騒ぐ。
が、何故か怖いと言いながら楽しそうにしている男の子どももいる。
そういう子どもは大人の女たちに叱られていた。
「大丈夫だ。火は怖いけど、怖くないぞ」
一番火に近い場所にいた男が、怖がる者たちに声をかけた。
「何言ってるんだい!」
「危ないから離れなさい!」
「だから大丈夫だって。近づきすぎなければ平気だ」
先に火のついた木の枝を持ち上げた男は、何でもない顔で周りにいる者たちに話しかけた。
「この木に火をつけたのは私だ。火は小さければ大丈夫。大きくなると熱くて危ないし近づきすぎるとケガをする。小さい火が飛んできたのをよけられなくてこんなケガをしてしまった。その時は痛かったよ」
そう言って男は火傷を見せた。
左腕から手首にかけて小さな跡がある。
龍も火のケガを見てみようと人々の中に近づいていく。
「とりあえずその火で焼いた肉を食わせてみろ」
男の近くで肉の焼ける匂いに興味を持った人が食べたいと申し出てきた。
「ああ。こっちの肉がいい匂いになったから食べてみろ。ちょっと熱いから少し冷ましたほうがいい」
鋭い枝に刺した肉を差し出されて、
枝ごと受け取った人は鼻をひくつかせた。
少し齧りついた挑戦者は目を大きく開いた。
「うまい」