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人は小さな群で暮らす。
その小さな群は大人と子供が一緒にいて、家族と呼んでいた。
家族が集まって少し大きな群となり、家族ごとの住処も集まる。
人にはそれぞれが呼び方が決まっているのを知った。
名前である。
龍は羨ましく思った。
自分には名前がないのだ。
ずっと孤独だ。
人の言葉が分かるようになってから今までの自分は孤独だったことに気づいた。
龍は人の群のなかに交じりたい、仲間になりたいと思った。
しかし、言葉を話せない未熟な子供にしか龍を見ることが出来ないのは龍も知っているので、やはり誰とも話せない龍は悲しく寂しく人の群をみているしかなかった。
笑っている人の顔を見ると龍も楽しい気分になった。
泣いている人の顔を見ると何があったのか心配した。
怒っている人の顔を見ると嫌な気分になるので、その人に近づくのはやめた。
人の顔が感情とともに変わるのが龍には不思議だった。
何故怒るのか、龍は遠くから観察することにした。
その人は別の者に対して大きな声を出して怒っていた。
相手は子供だった。
子供は泣いている。
大きな声で泣きながら謝っているようだ。
大人たちが何事かと集まってきた。
集まってきた者の内の一人が出てきて、泣いている子供の頭を撫でた。
子供が群の中で何かしてはいけない悪い事をしてしまったらしい。
大人は子供を叱って、子供は謝って、別の大人が泣いている子供を慰めて。
そして、それぞれが住処に戻っていく。
遠くから見ていた龍にはそのやり取りの内容がこんな感じなのだろうかと想像した。
泣いていた子供はもう泣き止んでいる。
龍はホッとして湖の中に戻った。