07
「カズヤちゃ~ん。180分ね~」
3時間か・・・長いな・・・
今日はもうこれで終わりにしてもいいくらいだ。
まあ、でも、アレだな。
俺は既に先ほど、史上最強の生物を相手に華麗な勝利を収めている。
もはや、あれ以上の生き物はこの世に存在しない。
今後はもう楽勝かー、これ。
後は話術と話題を増やして・・・
「カズヤちゃんお客さんよ」
よしっ!いざ出陣っ!
「お待たせしましたお嬢さ・・・」
・・・なん・・・だとっ・・・
そんな・・・馬鹿な・・・
こ、こんな事があって、いいわけがないっ!
まだこんな隠しキャラが存在するだなんて・・・
こ、これは何かの間違いだ。幻か何かに違いない。
幻・・・はっ! イリュージョン・・・
敵は既にスキルを発動してたと言うのかーっ!
ちょ、ちょっと待て・・・落ち着け・・・
「ま、マスター・・・」
懇願するような眼差しでマスターを見つめる。
「ええ、たまに来るわよ。」
外国人が現れた。
「ハローッ!!」
ぐふっ。
む・・・無理だ・・・なんせ、俺は・・・
生まれてこの方、外国人と話をした事がない。
外国人といえば、スキンシップ大国の住人・・・
だとすると、俺のホールドハンズも通用しない可能性、大・・・
スキルが封じられたとなると・・・打つ手・・・無し・・・
つ、強い・・・強すぎる・・・
俺は、こんなモンスターを相手に勝利できるのか・・・?
し、しかし、い、今はとにかく接客せねば。
「は、初めまして、カズヤと言います。」
「ルーシーといいマス。ヨロシクデースッ!」
ふむ・・・片言気味ではあるが、普通に会話はできそうだ。
「それでは、参りましょうか、お嬢さん。」
「イェーイっ!」
何か元気だなぁ。
店を出て、歩き出す・・・
「カフェ、行きまショー」
なっ!なななななっ!
なんだとーっ!!
馬鹿なっ・・・そんな事が・・あるはずが無いっ!
お、俺の考えが一気に覆された・・・
そんな・・・女性からは、してこないはずではなかったのか?・・・
恐るべし、スキンシップ大国の住人・・・
まさか、女性からホールドハンズを仕掛けてくるとは・・・
「フフフーっ、オプありなのデー、遠慮はしませんヨっ!」
納得した。
「大歓迎ですよ。」
が、しかし、照れたりはしないんだなあ・・・
今までの女性は照れているように見えたのだが・・・
何かこっちが逆にちょっと照れるし。
はっ、これがホールドハンズの威力って事かっ! 恐るべし・・・
いや、そんな事、言ってる場合ではない。
なんせ、こっちの必殺技が通用しないのだから。
「オーっ!そこの店にしまショーっ!」
「オッケー!」
ついつい相手に合わせてしまう。
店に入り適当に飲み物を頼む。
「る、ルーシーさんは、この国にお住まいですか?」
「イェースっ! 留学生デース。」
「そ、そうなんですね。」
うぅ・・・何を話せばいいか、わからん・・・
が・・・しかし・・・
ギャル同様、勝手にペラペラとしゃべっている。
ふふふっ、ならばスキル、相槌を発動しとけば問題はなかろう。
これで暫くは・・・
「・・・デスカ?」
「カズヤは・・・デスカ?」
「好きな・・・デスカ?」
な、なんだ・・・と・・・?
ば、馬鹿な・・・質問攻め・・・だと・・・?
ぐはっ、俺のスキルが完全無効化されとるではないかっ!!
ぬぅ・・・ここにもアビリティーインバリッドの使い手がおったか・・・
ど、どうする・・・
しかし、そんないっぺんに質問されても・・・
ここは何とか、凌ぐしかない。
「え、えーっと・・・ま、まずは何から答えたらいいかな?」
「好きなアニメですヨー!」
「やはりっ! 日本文化と言えば、アニメ!デスッ!」
ふむ・・・これはアレか・・・
外国人留学生は漫画アニメ好きが定番、みたいなアレか。
くっくっく。しかーしっ!その話題で一人目には既に勝利している!
今回も、この話題で行けるっ!!
一時はどうなる事かと思ったが、これでこのレディーにも有意義な時間をご提供する事ができるぜ!
さてと、ならば、まずは何から攻めていくかな~・・・
おっと、ここは勝利者の余裕を見せるために、まずは相手に先手を譲るとしますか。
「実は、僕もアニメ好きでね~。ルーシーさんの好きなアニメは何ですか?」
ふふっ、これで共通の話題がある事をアピールして、相手に好印象を与える策っ!
決まったぜ・・・
おいおい、これは、3時間じゃー短いんじゃないのかぁ~
「勿論っ!魔法少女〇〇デースッ!」
ふむふむ、なるほど・・・魔法少女〇〇か、ふふっ・・・
なっ・・・・なん・・・だとっ・・・
魔法少女・・・に、日朝の・・・やつ・・・だと・・・
いかん・・・これはいかん・・・
なんせその時間は、余裕で夢の中だった・・・
ゆ、唯一、唯一といっても言いくらい俺が観てない系のアレだっ・・・
な、なるほど・・・彼女の笑みで確信した。
彼女は、確信犯だ! 敢えて俺が観てないであろう所を攻めてきた・・・
やはり強い・・・ならばどうする・・・
やむを得ん、ここはスキル、インダクションを発動し、別の話題に誘導するしかあるまい。
「あ~、なるほど~、魔法少女〇〇ね。アレ面白いよね~。所で、異世界〇〇は観た事ある?」
「オーゥッ!!それも大好きデースッ!」
よしっ!乗ってきたーっ!
このまま一気に畳み掛ける!
「それで魔法少女〇〇の誰推しデスカー?」
な、なんだとーっ!!!
インダクションを受け流し、透かさずリターンを発動し話を戻してた・・・だと・・・
そ、そんな高等技術を年端も行かぬレディーが体得していたとは・・・
次元が違いすぎる・・・こちらにはもうカードが無い・・・
ここはもう素直に観ていないと言うしかないか・・・
「えっと、実は・・・」
「そう言えば、〇〇物語も最高デスネッ!」
インタラプトだとーっ!!
お、俺のターンに割り込んで、更に、話題を変えてきよった・・・
底なしかっ!こうも容易く手玉に取られるとは・・・
どんだけスキルを持ってんだよ!
しかし、〇〇物語。くっくっく・・・墓穴を掘ったなっ!ルーシー敗れたりっ!
その能力の高さ故、スキルを乱発したのが仇になったな。
そして、俺のターン!
「〇〇物語はオープニングも最高だよねー」
「分かりマース!」
こうして、共通の話題に花を咲かせる。
そろそろ時間か・・・
後半は盛り上がったとは言え、前半は散々だった。このままでは終われない・・・
仕掛けるか?ホールドハンズっ!
これは、こちらから仕掛けなければ意味が無い。
何故なら、仕掛けられた側はちょっと照れてしまうからだ!
ソースは俺っ!
よし、店を出た瞬間に仕掛けるとしよう・・・
「そろそろ時間なので、戻りますか。」
「了解デースッ!」
店を出る。
今だっ!!食らえっ!必殺ホールド・・・
なななななななにーっ!!!
アビリティーインバリッドだとーっ!!!
くぅ・・・ギャルに引き続き、このガールまでもが・・・
み、右手に何か持っとる・・・
そして俺は彼女の右側に布陣している。
攻撃を仕掛ける為には彼女の左側に陣取らなければならない・・・
しかし、俺は既に陣立てを終えている。
今更布陣を変更する事など・・・
いや、まて、彼女は何故・・・
はっ!忘れている・・・
自分でオプを指定して、それを忘れているだと・・・?
そんな馬鹿な事があるのか?
ならば、これは好機なのでは?
彼女は今、前を向いていて、こちらを意識していない。
少しづつ歩く速度を遅くして、彼女の後ろから回り込めば・・・行けるっ!
「どうしましたカー?」
き、気づかれただとーっ!
な、何故だ・・・彼女は正面を向いていたはず・・・
複眼・・・トンボかっ!!
「い、いえいえ・・・」
死中に活あり!
この機に乗じて、靴の紐がほどけたフリをして彼女の後方に待機し、そして彼女の左側面に回り込む。
よし、早速ミッション開始っ!・・・
な、なんだとーっ!!
・・・俺の靴・・・紐が無い・・・
してやられたーっ!!!
ここ・・・まで・・・なのか・・・
ふと彼女を見ると、俺との距離が約1500ミリメートル。
こ、この距離があれば、強行突破が可能・・・突撃っ!
俺はすかさず彼女の左側面に陣取る。
初めてですよ・・・ここまで私をコケにしたおバカさんは・・・
気分はもう、フ〇ーザ様だった。
これはもう、ホールドハンズじゃ生ぬるい。
まだ一度も使った事が無い超必殺技をお見舞いせねば気がすまんっ!
行くぞっ!
ウルトラスーパーゴールデンデリシャス・・・以下略・・・
ダブルホールドハンズっ!発動っ!!
両手で彼女の左手をそっと握った。
「そ、それは、不意打ちデース・・・」
んー・・・反応が微妙だー・・・
取り合えず、このままじゃ歩きづらいので左手を離し右手のみにした。
「ふふっ、オプありなので、遠慮はしませんよ。」
彼女が言ったセリフを軽くパクってみた。
「忘れてマシター。」
やっぱりかいっ!
そうこうしてるうちに、店に到着。
こうして、外国人ガールとの初会話を終えた。