3月31日 理解できない
今日が優聖の野球を見るのも、しばらく見納めみたいだ。優聖の目標は、次の大会で試合に出ること。おそらく、ショート以外で試合に出ることはないらしいから、他の人がショートにつくと、少し心配になる。最大のライバルは、八木という選手らしい。時刻は、19時を過ぎたということもあり、小さな照明が点灯していたのだった。ショートの八木は、ノックで飛んできたボールを軽快にさばいていた。ノックの音がリズムを刻み、ショート、セカンド、ファーストと続いていく。一方、私の弟である優聖はというと、ブルペンのところでバントを黙々とこなしていた、ボールは、外野へと飛んでいく。フェンスの向こうへ飛ぶたびに、選手から大きな声が響いていく。何してるの?前にも似たような瞬間があった。この感じは?後ろを振り向くと、そこには、円谷がいたのだ。
円谷「明日の入学式行くよね?」
私 「はい」
そうだ。私は、明日から大学生になるのだ。
円谷「もし、終わったら一緒に野球部見に行かない?」
私 「えっ?」
何を言っているかわからない。私は、野球なんてしないのに。
円谷「一人で野球部見に行くの勇気いるじゃない」
私 「まぁ、そうですけど」
円谷「一緒に来てくれたら助かるよ」
外野から、ピッチャーへと再び内野ノックへと変わっていた。
私 「私は、野球しないので」
円谷「マネージャーでいいよ」
私 「え?」
なんだ?マネージャーって。
円谷「野球部のマネージャーみたことない?」
私 「いや、それはありますけど」
円谷「それを言ったらいいよ」
まったく、話がかみあわないな。
私 「私、野球に興味あるわけじゃないので」
円谷「そうなの?」
私 「はい」
円谷「じゃあ、なんでここにいるの?」
私 「弟が野球してるんで」
まるでスポットライトが当たったかのように、円谷は口を開いた。
円谷「何言ってるの?野球に興味がない人がわざわざ、弟のためだけに見に来ないよ」
私 「そんなことないですよ」
円谷「たぶん、野球が好きなんだよ。だから、マネージャーになった方が絶対いいよ」
野球が好き?そんなこと考えたこともなかった。小さい頃から、お父さんが野球好きで、優聖が野球をやっていた。だから、テレビを見るくらい。それ以上は、何もないのに。なぜ、そんなことを言われるのか、やっぱり理解ができなかった。




