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3月8日 壁あて

 昨日、優聖と話していて気がついた。あの河川敷にいたのは、、、、、、、、、。そう思って、私はコートを羽織りながら、河川敷の土手沿いまで来ていた。ここまで、徒歩15分。決して近いわけじゃないけど、優聖の話を聞かずして行くしかなかった。優聖自体は、家の前でバットを振っていた。私がここに来ていることも知らないだろう。言ったら、おそらくなんで行くのか絶対聞かれる。いろんな理由はあるけど、今は伝えたくなかった。

コンクリート製の壁に向かって、スローボールを投げている男の子が。彼は、黙々とボールを投げていた。彼の名は、春風未來。優聖と明日花から聞いたら名前だった。たしか、かつては高校球児で、海美高校で活躍していたそうだ。いつも彼はこうして壁当てをしているのだろうか?  

 夕暮れの光が、彼の真剣な表情を照らしていた。彼は、リズムよくボールを投げ込んでいく。壁に跳ね返った球を素早くキャッチし、壁とは反対の方向に投げる真似をする。あれは、想定して動いているんだろうな。私は、昔野球をよく見てたからなんとなく理解していた。弟の優聖は、フィールディング練習は、あんまりしていなかった。まぁ、もともと内野手だからできるんだろうけど。春風って人は、ずっとピッチャーをしてきたんだろうか?春風のピッチングは、全く同じフォームで投げている。その動作は、まるで機械のように正確で何度も同じ様子だった。

 一見、壁当ては、単調で地味な練習に見えるけど、意外とそうじゃないのかもしれない。彼にとっては、何かを確認するようにボールを投げていた。しかし、私にとっては、ただボールを投げているにしか見えない。ボールが壁に当たる音だけが、静かな河川敷に響き渡っている。私は、彼のピッチングに釘付けになっていた。ボールと壁がぶつかる音に、彼の強い意志が込められているみたいだった。彼は、何か目標に向けて一歩一歩着実に歩みを進めているみたいだ。たしか、まだ怪我をしていて試合ではないとか言ってた気がする。

 それが彼にとってどれだけ大変なのかはまったくわからない。部活動を途中で辞めた優聖と、部活動ができなくなった彼とでは、同じ野球でも意味が異なるのだろうな。それが、彼の夢を叶えるために必要なことだということだけ知っていた。少しずつ日が暮れ始めている。河川敷が薄闇に包まれ始めた頃、私は、彼が最後の力を振り絞ってボールを壁に投げ込んだのを見つめていた。

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