第47話 転生魔法
次回から第一部最終章【死闘篇】デス。
《時空転移魔法》
直径五メートルの黒球がスカルドラゴンのうなじに発現。狙い通りの位置で黒球は頚椎を呑み込んで消えていった。
首の一部を失ったスカルドラゴンは巨大な骨格を支えきれずに、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
この方法を思い付いたのはついさっき、魔法を発現させる座標をミスって人型スケルトンの首を消したときだ。
まるで糸が切れたみたいに膝から崩れていったから、まさかと思っていたが……。一応こいつらも脊柱から神経が走っているらしい。
この事実が確認できたことは今後の魔物との戦いに大いに役立つ。同じやり方でやれば生ドラゴンだって倒せるはず。
もし今回、予想が外れてスカルドラゴンが炎のブレスは噴いていた場合は、ブレスごと時空転移で消してしまえばいいのだと、ラウラを囮にした言い訳をしておく。
それにしても頭を飛ばしても動き続けるクセに、頸椎をやられると動けなくなるなんて、脊柱に脳ミソでも詰まっているのか? それともパイロットが中にいたりするのかな?
「ド、ドラゴンを……い、一撃……ですか」
僕の背中でミレアが驚嘆の声を漏らした。
「まだ後ろで待機してくれ、動くかもしれないからね。危険な牙や爪を削っておこう」
毒性のある爪や牙を時空転移魔法で消していくとスカルドラゴンは完全に動きを止めた。
時間が経てばまた復活するのかもしれないけど、脊柱が弱点と分かれば怖くない。
僕らはドラゴンの骨を迂回して最奥部の祠に向かう。
「ラウラ、ここからは僕とミレアだけで入る。見張りは頼んだぞ」
「そうか……」と彼女は少し残念そうな顔をした。
これからミレアがしようとすることは異端行為に該当する。ラウラはもう信者じゃないし、裏切る心配もないが、目撃者は少ないほうがいい。
どちらかというと、ラウラの場合はポロッとしゃべってしまう危険がある。
祠の奥には宝箱が置いてあった。
どこからどう見ても宝箱だ。
これはひょっとしてアルデラの遊び心なのか、見たまんまド〇クエに出てきそうな宝箱である。
「見るからに罠っぽい宝箱だな……」
あからさまな宝箱に僕は警戒せざる負えない。
「早く開けてみましょう!」
「あ、ああ……」
興奮するミレアに急かされて僕は蓋を開けた。
さすがに「どうぞどうぞ」と言って依頼主に開けさせる訳にはいかない。
ギギギとそれっぽい擬音と共にピカッと眩い光が瞬く――、なんてことは一切なく、カビ臭い匂いがモワっとあふれ出してきた。
宝箱の中には分厚い魔導書がぎっしりと納められている。
ひとつ手に取ってみたが、保存状態が悪くてカビが生えていた。中もインクが滲んでいたりカビていたりで読めないページが多い。
断片的に読める箇所をパラパラ見ていると僕が使っている時空転移魔法の他に時間遡行魔法や時間停止魔法、透視術、若返りの術式なる魅力的な単語が並んでいた。
「これ転生魔法について書かれていますよ!!」
食い入るように一冊の魔導書を読んでいたミレアが声をあげた。
僕はミレアの隣に立ち、松明の火を近づけて彼女の手元を照らす。
『転生先を指定する方法は第二章で記述したとおりであるが、転生魔法において重要なのは前世の記憶である。
記憶を保っていなければ自分が転生体であることすら気付くことはできない。
そこで開発中の転生魔法を施したモルモットに前世の記憶が残っているのかどうか実験を行った。
一月十六日、モルモットA(以降モルA)に対しモルモットB(以降モルB)の子宮で受精させた受精卵へと転生魔法を施す。
二月三十日、モルBから誕生したモルモットをモルモットC(以降モルC)と名付ける。
三月九日、成長したモルCに対して鈴を鳴らしてみた。するとモルCは私の元へ駆け寄ってきたのだ。
通常、警戒心が強く臆病なモルモットは鈴の音を怖がり絶対に近寄ってこない。
鈴の音はモルAに生前行っていた食事の合図であり、モルCが鈴の音に反応し、餌場に来たことからモルAの記憶を保有していると確認することができた。
この実験によって、転生体に前世の記憶を残すには死ぬ直前の記憶や印象が重要であることが同時に立証されたことになる。
予想していた通り、転生魔法の鍵となるのは前世の記憶を魂に刻むほどの強い印象である。
私はこれを【烙印】と呼称することにした。
そして烙印を刻む最も簡易的で安価な方法は苦痛を与えることである』
次のページには転生魔法に使う詠唱と魔法陣が記されていた。
「すごいです! アルデラは転生魔法を完成させていたのですね!」
瞳を輝かせるミレアの隣で僕は腕を組んだ。
「そうか……、いや、まさか……」
「どうしました?」
「いや、この迷宮って教会の奴らもお手上げなんだろ?」
「教会の主力を動員すれば攻略できないことはないと思います。でも労力に見合わないのは確かなのですね」
「どうも引っかかっていたんだ。こんな迷宮にさくっと入れるくらい強いアルデラが教会に簡単に捕まるのかなってさ……もしかしたらなんだけど。自分から捕まったんじゃないかと思って」
僕がそう言うとミレアはハッと目を見開いた。
「……まさか、自分に転生魔法を使うために火炙りになったっていうんですか!?」
「周囲に自分が異端魔法の研究をしているって吹聴していたっぽいんだよね、師匠。そう考えると辻褄が合う」
「だとしたら、もはや狂気ですね……」
僕はうなずく。
そうだとしたら、アルデラはとんだマッドサイエンティスト、いや、マッドマジシャンだ。
「確認しようがないから考えても仕方ない。もしも転生してるなら向こうから声を掛けてくるかもしれないし、期待しないで気長に待ってみるよ」
「いいですね、ロマンがあります」
「やり方は書いてあるし今度試してみる?」
「絶対に嫌なのです!」
僕らは顔を見合わせて笑い合った。
「あの、これって……」
おずおずしながらミレアが魔導書を抱きしめる。豊満なおっぱい様に押し付けられた本が羨ましい。
彼女は上目遣いで僕を見た。おねだりの眼差しだ。
「持って帰っていいんじゃないかな? アルデラも場所を吐いたってことは、誰かに見つけてもらいたかったのかもしれないしさ」
そう告げるとミレアは、ほっと息をついた。
「弟子の許可が得られたので安心なのです」
「ただし、僕にも読ませてくれよ」
「もちろんです!」
◇◇◇
その後、保存状態の良い魔導書を持てるだけ持って僕らは迷宮から帰還を果たす。
枢機教会の施設、バベルの門まで荷物を運んでミッションコンプリートだ。
「ありがとうございました。これは今回の報酬とは別のチップなのです」
ミレアのサインが入った書類の上に大銀貨が一枚置いてあった。大銀貨は初めて見たが銀貨二十枚に相当するという。
「こんなに? 多くないか?」
「ユウさんがいなかったらベテラン冒険者に頼むつもりでしたので浮いた分です。それにそれだけの価値がありましたし打算もあります」
「打算?」
「『極刀』に対しての先行投資です。あれだけの強さがあれば勇者にだってなれるかもしれませんよ」
そう言って微笑んだ彼女に僕は、「どうぞ今後ともよしなに」と貴族を真似して胸に手を当てて頭を下げてみせた。




