第43話 金髪碧眼の依頼者
翌日、さっそく初クエストの依頼主の元へと向かった。
僕はラウラの後ろを付き従うようにして歩き、ラウラを引き立たせる。これから彼女には《極刀》の看板として振る舞う必要がある。
威厳を持たせるために人前では「うむ」か「わかった」しか言わず、交渉は僕がおこなう。
もっとも、一国の騎士隊長だったラウラにとって偉そうにする演技など朝飯前なのだ。というかデフォルトで偉そうだ。
約束の時間に潮の香り漂う港に着くと、ちょうど停泊したばかりの大きな帆船から荷物が運び出されているところだった。
屈強な船乗りたちに指示を出しているのは、でっぷりと太った男。彼が港の倉庫を管理している商会長であり、今回の依頼主だ。
依頼内容は倉庫に保管してある物資を食い荒らす魔獣、イーブルラットの掃討である。
要はでっかいネズミに困っているから駆除してほしいとのこと。
街には害獣駆除業者もいるのだが、この魔獣に関しては凶暴で牙と爪に猛毒があり危険を伴うため断られてしまうそうだ。
そういった専門業者でもお手上げの害獣駆除依頼は冒険者ギルドへと回される。
しかしこの街の冒険者はもっと高ポイントが狙えるクエストを優先させるため後回しにされてしまう。
その悪循環の末、成功報酬を引き上げたタイミングで依頼を引き受けたのが僕だった。なんともラッキーだ。
対象のイーブルラットは警戒心が強くて、人が見張っていると絶対に出てこない。だからといって一年間356日24時間ずっと警備を付ける費用もない。
監視の眼が離れたときに現れ、食材はもちろん衣類や家具など、ありとあらゆる物資を食い荒らして去っていくのだそうだ。
なので、僕は倉庫に隠れてイーブルラットを待つことにした。
ラウラに闇の精霊から隠匿の加護を付与してもらっているから気配は消せているはず。
今夜は倉庫で寝ずの番をする予定なので加護の持続性が心配だったがラウラ曰く、闇の精霊はねちっこいから、加護も他の精霊と比べて長続きするそうだ。
……もっと精霊を崇めろよ。
で、日が暮れてから荷物に紛れて待ち、ネズミ共が現れたのは深夜だった。
イーブルラットのでかさはウォンバットほどでビジュアルはタスマニアデビルによく似ているが、比較にならないくらい鋭い牙と爪を持っていた。群れの数は全部で六匹。
全身を麻布で覆い、魔銃を構える僕は照準を合わせてトリガーを引いた。
射出された黒球がイーブルラットの頭部にヒット、頭を失った首から血が噴き出す。残った体が遅れて倒れていった。
仲間の頭が吹き飛んだその瞬間、群れの動きがピタリと止まった。その間隙を突いてさらに一匹、もう一匹と次々と駆除していく。
最後の一匹が出口に向かって走り出す。その先にあるのはネズミ捕りならぬ、暗黒の球体。ネズミは自ら吸い込まれるように異世界へと旅立っていった。
僕は手を合わせる。
どこの世界に行ったかは知らないけど、異世界の人たちごめんなさい。
あっさりクエストをこなした僕は依頼主から確認のサインを貰った後、冒険者ギルドで成功報酬を受け取った。
銀貨ニ十枚、けっこう貰えたなと思っていたら三割はギルドに仲介料として徴収されてしまう。
ギルドを出ようとした僕とラウラは受付嬢に呼び止められた。話を聞いてみると『極刀』指名の護衛依頼が入ったとのことである。
しかも交渉を僕と依頼主の二人だけでしたいそうだ。
以前から東方出身の冒険者を探していた人物らしく、いまちょうど来ていて当館二階の応接室にいるから交渉してくれとのことだ。
登録して間もないのにご指名なんてただの冷やかしではないか、とラウラは言う。
メジャーリーグのルーキーヘイジングみたいなものか?
冷やかしならそれでいいし、罠だとしてもギルドの建物内なら安全だろうとラウラを説得して、僕は二階に向かった。
応接室の扉を開けると、長い髪を三つ編みに結った金髪碧眼の少女が椅子から立ち上がり、「はじめまして、ミレア・ワイズと申します」と丁寧にお辞儀してきた。