第41話 アルティメット・ブレイド
いつも読んでくれてありがとうございますデス!
「えっと、冒険者登録をしたいんですけど」
僕が告げると彼女は手慣れた動作でカウンターの下から一枚の用紙を取り出した。
もっと異世界チックな物、例えばスキルやジョブが反映される魔法の石版とかを期待していのだけど意外とレトロというか、まるで図書館の会員登録だ。
「では、こちらの注意事項を確認の上、必要事項を記載してください」
こういった手続きは世界が変わって同じなんだな、なんて思いつつ書類を見ると保険の免責事項みたいに文字がびっしりと書いてあった。
もちろん読み飛ばして同意に☑をいれて代表者とパーティーメンバーの欄に氏名を記入していく。
もっとも僕らは指名手配犯のため偽名を使う。
ちなみに僕はテッド、ラウラはローラにした。特に意味はなくてまったくの思い付きである。
受付嬢に提出すると今度は口頭での説明が始まった。
にこにこ笑顔の彼女に僕もにこにこしながら耳を傾ける。
僕の知るゲームではランクによって受けられるクエストが違ったりするのだが、どうやらこの世界ではそういったルールはないらしい。
一部の特殊なクエスト以外は、どれを選ぼうとすべてが自己責任であり、死んでもギルドは一切の責任を負わない。
仕組みは単純で高いランクのクエストをこなすとポイントが加算されて、ランクがアップする仕組み。
ちなみにランクはアイアンから始まり、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル、最上位のオリハルコンまでの七段階ある。
なんのためにランクが存在するのかとえば、それは冒険者を傭兵として雇う場合の料金に繁栄される。
その他に護衛だったり、剣や魔法の教師だったり、決闘の代理だったりとランクに応じたオファーが来るそうだ。
もちろん単純にランクだけでなく名前が売れれば、それだけ依頼する料金もギルドが受け取る仲介料も高くなる。
――と、一通り説明が終わった後で、
「パーティ名はいかがいたしますか?」
なんて受付嬢が尋ねてきた。
パーティ名、まったく考えてなかったな。
腕を組んだ僕は頭をフル回転させてひねり出す。
「そうだなぁ、じゃあ葉っぱ隊でお願いします」
「はっぱたい……ですか?」
受付嬢にキョトンとされてしまった。
「却下だ」
さらにあっさりラウラにボツをくらってしまう。
「え、ダメ? じゃあ東方を目指す者ってことで東方? いや、極東もいいな。キョクトウか……よし、決めた。極刀にしよう!」
「キョクトウだと?」
眉をひそめたのはラウラだ。
なにか言いたげな顔をしてるけど、きっと意味を知らないのだろうと僕は勝手に解釈する。
「そう、極める刀で『極刀』、これから僕らは極刀だ」
で、さらさらっとパーティ名を書いて提出。ついでに、受付のお姉さんがお勧めする初心者でも無難なクエストを選んでもらった。
初陣は低ランクの害獣駆除だ。その割に成功報酬は高いとのこと。
アイザムのギルドは周辺都市のギルドと比較して中堅ランク冒険者の割合が高く、この手のクエストは後回しにされるらしい。依頼者も困っているらしく近日中に駆除してほしいとお願いされた。
今日はさすがに無理だから明日にでもさっそく依頼主のところへ赴くことにしよう。
さてと、これでやっと一息つける。
僕とラウラは小さな丸テーブルを挟んで椅子に腰を掛けた。
ギルドの一階では飲み物だけじゃなくて軽食を取ることができるようだ。とりあえず僕らは果実水で満たされた樽ジョッキをぶつけて乾杯する。
乾杯の儀式はこの世界でも同じなんだな、なんて考えていたらラウラがくすりと笑った。
「しかし魔導士が『極刀』を名乗るとは、いささか珍妙な感じがするな」
ん? 魔導士が極刀を名乗る?
ふむ、どうやら彼女は僕がパーティのリーダーだと思っているらしい。確かに主従関係では僕が上なのだからそう勘違いするのも無理はない。
「なに言ってんだよ、リーダーは僕じゃなくてラウラ、お前だぞ。書類もそれで提出したし」
「は?」
仮面越しにラウラの顔からさっと血の気が引いていくような気がした。
「いや、だって魔導士がリーダーじゃさ、締まらないだろ? やっぱりこういうのは剣士じゃないと雰囲気でないじゃん?」
「じょ、冗談じゃない! 私如きが『極刀』を名乗るなど笑い者にされてしまう!」
「なに焦ってるんだよ、たかだかパーティの名前で……」
「ば、馬鹿者ッ! あの『極刀』を知らんのか!? 『極刀』はこの世界で最も強いと謡われた伝説の剣士の称号だぞ! それを名乗る剣士は自分の名前を売りたいだけの馬鹿か、弱いくせにハッタリを噛まして相手を怯ませようとするマヌケだけだ! まともな剣士なら恐れ多くて名乗ることなどできん! 極刀を語った者が制裁を加えられたことだってあるんだぞ!」
ラウラは早口で捲し立てた。
ふーむ、登録時にラウラが眉をひそめた理由はそういうことだったのね。
「まあいいじゃん。バカにされている方が相手が油断してくれて助かるってもんだ」
「お……、お前は『極刀』の看板を背負わないからそんな勝手なことが言えるんだ!」
ジョッキをテーブルに叩き付けたラウラの肩がわなわな震えている。
極刀の名は僕の想像以上にビッグネームのようだ。しかしもう決まってしまったものは仕方ない。
「まあまあ、果実水でも飲んで落ち着きさないってばラウラさん」
僕が「これは命令だ」と思って告げた言葉に彼女は抗えない。
奴隷のリングが怪しげに光り輝き、ラウラの肩から力が抜けていく。
「くっ……」
ガヤガヤと喧騒しているおかげで、多少言い争ったところで注目する輩はいない。
現に後ろの席に座る二人組もまったく気にせず談笑している。
「聞いたか、ライノス市街ギルドの新人冒険者の噂をよ!」
そんなセリフが背後から聞こえてきた。なんとなく僕は男たちの会話に耳を傾ける。
「ああ、仮面魔導士だよな。クロミー峡谷のバーバリアンタイタンを単独で討伐してプラチナに飛び級したって話じゃねぇか、しかも冒険者登録してから僅か三日目だぞ! とんでもないヤツが現れたもんだぜ!」
「まったくよ、そんな化け物がよく今まで隠れてやがったなぁ」
男たちの話題は噂になっているという新人冒険者だった。
どうやらそいつはミシ〇ラン魔物ガイドでダブルAランクに分類されるバーバリアンタイタンなる魔物を一人で倒したらしい。
僕にとって誰が何を討伐したとかランクがアップしたとか、そんなこと一切気にならないしどうでもいいのだが、一点だけどうしても解せない箇所があった。
「仮面魔導士だって? 完全に僕のパクリじゃないか……」




