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第40話 冒険者ギルド

「うわぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっ!」


 呻き、喚き、仮面を顔に抑えつけたまま僕は必死に首を振る。


「ユウ!? 早く仮面を外せ!」


「ダメだぁぁぁぁっぁぁ! 外れないぇぇぇぇぇっぇぇぇぇうりぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


「うぐっ!? 斬り落とす! そのまま動くな! 絶対に動くなよ! いいか! 動くなよ!!」


 絶対に動いてしまうフレーズを叫んで立ち上がったラウラが、鞘から剣を引き抜いた。


 い、いかん、このままでは顔面が真っ二つに切られてしまう。弾けたザクロは嫌だ!


「なーんてね、うっそぴょん」


 てへっ、と可愛らしく舌を出して僕は仮面を外した。わたしってお茶目さん的な感じでポカリと頭を叩く。


「――ッ!?」


 ラウラは翡翠ひすい色の目を見開いた。

 剣を振り上げた状態で硬直する彼女の瞳から、大粒の涙が零れ落ち、頬を伝って顎先から滴り落ちる。

 涙は留まることなくぽろぽろと落ちていく。


「え、ちょ……、うそ、ラウラさん?」


 ラウラの膝が崩れた。その場にへたり込み、「う、うう……うう……」と嗚咽をあげて泣き出してしまった。手の甲で流れ落ちる涙を何度も拭う。


「だ、大丈夫?」


「……し、心配したんだぞ……」


 人の目もはばからず泣き続けるラウラに涙目で睨まれた僕は、自分のしでかしたことの大きさに気付いた。


「……ごめん、マジで謝るよ。ふざけた僕が悪かった」


 僕はこのとき初めて理解する。


 彼女はずっと不安だったんだ。僕が考えていた以上にずっと。


 この世界に来て初めから何もない僕と彼女は違う。

 国を失い、家族を失い、部下も友人も地位も名誉も失った。何もかも無くしてしまった。彼女はすべてを失ったばかりだ。


 頼れる人間は僕しかいないんだ。しかもそいつは出会って間もない異端者ときている。

 自分が一度殺そうとした相手でもある。いつ掌を返してくるか分らない男と旅をしているのだから、心細くて不安だったに違いない。

 

 ましてや彼女はまだ十代の少女なのだ。


 僕は泣き止まないラウラの頭に手を置いた。 

 払いのけられるかもと思っていたけど彼女は拒絶しなかった。

 

 悪かったと言いながら僕は優しく彼女の頭を撫でる。

 

 そんな僕たちの事情など我関われかんせずと、馬たちは足を止めることなく同じ歩調と速度で進み続ける。


 それから宿に到着してからも、しばらくラウラは口を聞いてくれなかった。


◇◇◇


 宿屋に荷物と馬車を置いた僕らは、さっそく冒険者ギルドへと向かう。

 

 場所はラウラが知っているそうだ。海外旅行のときもそうだが、現地人がいると非常に心強いものである。

 

 人で溢れかえる雑多な街、アイザムは物だけでなく様々な国から情報が集まり、情報が集まればおのずと様々なギルドが拠点を構えるようになる。


 重要な貿易拠点であるアイザムは周辺国の不可侵条約によっていかなる軍事施設も宗教施設も設置できないことになっているそうだ。

 街の中での国家間、団体間の抗争を避けるためであり、それはあの枢機教会でさえ例外ではない。


 運河の向こう側、アイザムの外に枢機教会の関連施設が建てられていたのはそのためだ。 

 衛兵がいないこの街を警備しているのは、血の気の多い漁業組合の連中である。



 で、ギルドに着く前に防具屋に立ち寄ってラウラの装備を整えることにした。


 僕は魔導士っぽい格好だからいいけど、ラウラの服装は街中をうろつくNPCと同等だ。これから冒険者登録するっていうのに町娘みたいなラフな格好で行っては同業者に舐められてしまう。


 こういうのは初めが肝心だからな。


 といってもこれからの生活費も考えると装備ばかりにお金を掛けられないのが現実。だから最小限の装備を店主に見繕みつくろってもらった。


 丈夫なハンマーバイソンの硬い皮で作られた小手と胸当て、それから編み上げブーツと戦闘中に動きやすい衣類も購入した。


 僕の独断と偏見で選んだチュニックとマントである。


 チュニックを選んだ理由は、ただ僕がラウラの生足を見たかっただけで、マントはカッコイイからだ、以上。


 新しい服に着替えさせ、装備を整えたラウラの姿はすでに一端の冒険者である。素材が良いから何を着させてもそれなりに見えてしまう。


 

 そして、いざ鎌倉へ。

 街の中心部から少し外れているが、大通りに面した立地の良い場所に冒険者ギルドの建物はあった。

 三階建ての石造りでなかなか立派な建物である。


「おお、立派なハローワークだな!」


 思わず思ったことを口に出すと、


「訳の分からいことを言ってないで早く登録を済ませるぞ」


 ラウラに冷たくあしらわれ、彼女はとっとと先に行ってしまった。

 まだオコのようだ。

 


 ギルド一階の内装はなんというかアイリッシュパブみたいな感じ。ただ、そこまでごちゃごちゃしていない。殺伐としていて全体的に簡素だ。

 

 まだ昼間だと言うのに冒険者と思われる屈強な男たちが樽のジョッキでビール(たぶん)をがぶがぶ飲んでいる。もちろん女冒険者の姿もあった。

 

 ざっと見渡すと革や鎖帷子の防具に無骨な剣や槍、騎士団みたいに全身ピカピカではなく使い込まれて年季が入っている。

 

 それにしても女冒険者の装備は、ビキニアーマーみたいな肌を露出した装備を期待……、もとい想像していたが意外と地味だった。

 

 ラウラも最初に会った時は全身を甲冑でかためていたし、こんなもんなのかな。どうやら僕はアニメを見過ぎてしまったようだ。



 店内奥のカウンターに受付担当らしき女性の姿があった。胸元が大きく開いた服を着た可愛いくて性的な娘だ。視線が吸い寄せられるように下がってしまう。


 カウンターの前に立つと彼女は、にこりと微笑んだ。

 

「ようこそ、アイザム冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


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