第37話 対魔導士戦2
体内の魔力がぐんぐん目減りしていくのを感じながら、僕はひたすら攻撃を続けた。
そして、そのときは来た。
ついに僕を追っていたソルモンが足を止めた。距離を取って迂回し始める。この回避行動は加護の効果が切れる前兆と判断した僕は、ソルモンに向かって一直線に走り出した。
接近されることを恐れて離れていくソロモンを追随する。
このチャンスを逃したら最後だ。可能な限り近づいて最大威力の魔法をぶつける。
「精霊アニマよ――」
ソルモンが早口でまくし立てるがもう遅い。この位置ならヤツを取り囲める。
今だ――。
《アナザーディメンション!》
直径二メートルの黒球を同時に五つ発現させた。ソロモンの左右前後と頭上に展開させて逃げ道を塞ぐ。そこから本体目掛けて六つ目だ!
逃げ場を失ったソルモンは動けない。五方を囲まれ飛び退くこともできない。
勝った!
勝利を確信した次の瞬間、ソルモンに向けて発現させた黒球がキャンセルされるように弾け飛んでしまう。さらにヤツは前方の黒球を素手でぶん殴った。撃ち出されて飛び出した黑球が迫りくる。
――ッ!?
ソルモンの全身を淡い光が覆っていた。すでに加護が発動していたのだ。
――が、こうなることも想定の範囲内だった。強がりではなく本当だ。
魔法が無詠唱できるんだ。だったら加護だって無詠唱できてもおかしくはない。
普段は詠唱して、「あ、こいつ無詠唱できないんだな」と見せかけておいて土壇場で使う、そんな切り札を持っていてもおかしくはない。
最悪の事態、それはソルモンが無詠唱で加護を発動して魔法が反射されること。その可能性を想定していた僕は、布石として地中に黒球を展開させていた。
直径ニメートルの黒球を地中に並び連ねて、僕の足元からヤツの足元まで、体重を支えられくらいの地盤を残して横穴ができるよう同時展開させていた。
強く踏み込めば簡単に地面が崩壊するはずだ。この絶妙な調整は完全に勘頼り、上手くいく保証はない。
地面が崩れず横穴ができなければ、黒球に呑み込まれて僕はこの世界から消失する――、イチかバチかの賭け。
ここまで僅かコンマ数秒。
僕の眼前にソルモンの拳によって打ち返された黒球が迫っていた。
時空転移魔法に呑み込まれそうになる寸前で僕は強く地面を踏みつけた。途端に脆い足場が崩れ始める。
僕の体は重力に引っ張られるがまま落ちていき、頭上を黒球が通過する。
視界の前方、同じように横穴に落ちていくソルモンの姿が見えた。
〝落ちる〟心構えがあった僕と違ってヤツは対応できていない。
突然大地が崩壊して落ちていくソルモンの体勢は崩れている。
着地と同時に地面を蹴った僕は、ソルモン目掛けて一気に走り出す。
直径ニメートルの黒球を地上に六つ、地中に五つ。今持てる力の限りを振り絞って作ったトラップ、これで全部だ。これが全魔力だ。
すでに体内の魔力が枯渇して足にきている。歯を食いしばり僕は走る。
これで勝てなきゃ終わりだ!
尻餅を付いたソルモンに飛びかかり、ヤツの頭に銃床の打撃を浴びせた。倒れたソルモンの上に馬乗りになった僕は、さらに打撃を顔面に打ち込む。何度も何度も何度も硬い銃床を叩きつけた後、僕は怒りに任せてヤツの首を両手で掴んで締め上げた。
「ぐがっぁぁっ!」
ソルモンが呻く。僕は力を緩めない。さらに込める。
「よくも……よくもクリーゼさんを殺したな! 殺してやる……、お前を殺してやる殺してやるッ!」
血が迸るソロモンの顔面が紅潮していく。目が血走り、必死に僕の腕を自分の首から剥がそうとする。
「だ、だずげで……ぐだざい……」
ソルモンは言った。
苦しそうに、自分を殺そうとする相手に助けを乞う。
その命乞いを聞いた途端、我に返った。返ってしまった。日本のどこにでもいる平凡な男、禅宮遊に戻っていた。
僕は人を殺すのか――、命のやりとりをしている最中に迷いが生じた。それは平和な国で生きてきた者しか持たない罪悪感という呪縛。
僕の腕からふっと力が抜けた僅かな間隙をソルモンは見逃さなかった。首を掴む腕が引き剝がされ、拳が僕の顔面を貫いた。
体を返されて上下が逆になる。馬乗りになったソルモンは僕の首を締め上げていく。
「ぐぅぅがぁっ!」
めりめりと指が首に食い込み、完全に息が止まる。
「おお、精霊神オベロンよ。この罪深き者を許したまえ」
次第に意識が遠のいていく。
――し、死ぬ……。
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