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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第三章】刺客

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第35話 異端審問

 僕は急ぎ足で家に向かった。


 早くクリーゼさんに杖の成果を知らせたかった。ありがとうございます! 最高です! とお礼を言って喜びを分かち合いたかった。



 僕はあの老人を大好きだった祖父と重ねている。彼も僕のことを出て行った息子と重ねているのかもしれない。


 でも、魔法結晶採集は達成している。契約は完了したからここに留まる理由はもうない。一緒に過ごした時間は一週間ほどだったけど、別れるのは辛い。あの家は、クリーゼさんの家はこっちの世界にきてやっとできた居心地の良い場所なんだ。


 このまま僕が居座る理由はないし、クリーゼさんが止める理由もない。



 それでも、もし彼がもう少し居てもいいと言ってくれたなら、僕は――。



 家に戻ると玄関の扉が開いていた。


 玄関から椅子に座っているクリーゼさんの姿が見える。だけど様子がおかしい。両手を椅子の後ろに回して項垂れるように頭を下げている。椅子の下には血だまりが出来ていた。


「クリーゼさん!?」


 僕は彼に駆け寄った。

 彼の力なく開かれた口内は血塗れで、歯が全部抜かれていた。眼球も両目ともえぐられている。

 背中には蛇が巻き付いた剣の紋章が刻まれたナイフが突き刺さっていた。


「こ……これは……、まさか……」

 僕の後ろでラウラが声を震わせる。


「き、気を付けろ……まだ、ちかくに、いるぞ……」

 残った僅かな力を絞り出して首をあげたクリーゼさんは、くり貫かれてしまった眼で僕を見た。掠れた声を絞り出す。


「クリーゼさん! もう大丈夫です! ラウラ、光の加護を! 急いで!」

「あ、ああ!」


「……に、げ…………ろ……」


「クリーゼさん!」


 事切れた彼の体からふっと力が抜け、かくんと頭が垂れ下がる。


「クリーゼさん! クリーゼさん!」


 もう彼が僕の呼び声に反応することはなかった。


「そんな……、なんでこんなことに……」


 クリーゼさんの頬に触れた僕の目から涙がこぼれ落ちていく。

 

 ――一体、誰がこんなひどいことを……。


「あーあ、もう死んじまったのがぁ? もっとお涙頂戴的な寸劇が視たかったのによぅ、ざーんねーん」


 僕とラウラが使っていた寝室から出てきたのは枢機教会の神官服を着た猫背の男だった。

 ただ、リタニアスで見たものとは色が違う。空色ではなく、血が渇いて黒くなった色をした神官服だ。


 男はナイフに刻まれたのと同じ紋章を象った首飾りを付けている。


「ケッヘル!」


 ラウラが声をあげた。


 猫背の男はラウラに睨めつけるような視線を送り、醜悪な顔で卑屈な笑みを浮かべた。


「ウケケッ! これはこれはラウラ嬢ではありませんがぁ、最近お姿を拝見できないと思っておりましたがこんなところにいらっしゃいましたがぁ」


「なにを言う……とっくに私が逃げ出したことなど周知のはずだ。お前は私を殺すために送られた刺客なのだろ」


 猫背の男は嬉しそうにウケケッと笑う。


「実はこのケッヘル、一途にラウラ嬢のことをお慕いしておりまして、いつか犯してみたいと思っていたのですぜぇ」


「くっ……」


「ええ、そうですとも。これは精霊様がこのケッヘルめにお与えくださった千載一遇のチャンスでしょう! あなたを殺した後で、ゆっくりたっぷりと一途に犯してあげますぜぇ! ウケケケッ!」


「ケッヘル、無駄口はそれぐらいにしてください、給料分を超過しています」


 ケッヘルの後ろから長身瘦躯の男が姿を現した。

 男は猛禽類のような鋭い眼に深いクマを刻む。


「ソルモン!? お前まで!」


「……ラウラ、こいつらは誰だ?」


「気を付けろ、奴らは異端審問官だ。高位魔法を使うぞ」


「いえいえ、ラウラ嬢……、このケッヘルめの術は魔法ではごぜぇません。『加護』です。魔法などというあんな穢れたものと一緒にしないでくだせぇませ」


 猫背の男はぺろりと舌なめずりする。


「クリーゼさんをこんなにしたのは、お前らで間違いないな?」


 僕は男たちに訊いた。


「ええ、ええ、そうですとも。異端者をかくまったからにはこの老人も同罪でぜぇ。いやいや、それにしてもご老体のくせに粘ること粘ること。このケッヘル、一途に楽しんでしまいました。ここまでやり尽くしたのも久しぶりですぜぇ。最高に楽しかっ――――あがっ?」


 饒舌に語っていたケッヘルの口からドバドバと血が溢れ出した。


「もうしゃべらなくていいぞ、聞きたいことは聞いた……」


 僕は無詠唱で奴の舌だけを転移させた。


「§※±ΔΖΨッ!」


 意味不明な言葉を叫びながらケッセルはエストックを抜刀、僕に向かって突っ込んできた。


 キンッ!

 

 甲高い音を刻んでエストックの切っ先をラウラの剣が跳ね上げる。


「家の中をお前らの薄汚れた血で汚されたくない。外でやろう」


「……いいでしょう。ケッヘル、外に出ますよ」


 僕の提案に長身瘦躯の男、ソロモンは不気味なくらいあっさりと同意する。


「&%$#%ッ!」


 反論するケッヘルにソロモンは首を動かさず視線だけを送った。


「……ケッヘル、給料分を超過してしまうため二度は言いませんよ」


 びくりと肩が動き、僕を横目で睨みながらケッヘルは外へ出て行った。その後ろを長身の男、ソロモンが続く。




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