表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第三章】刺客

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/291

第32話 異世界メシ

 この世界には小麦粉がある。塩もある。美味い天然水も流れている。


 そして僕が日本から持ってきた『めんつゆ』がある。

 と、なれば作るのはアレしかない。

 

 ジャパニーズソウルフード、《UDON》だ。


 小麦粉に食塩水を少しずつ混ぜて練っていき、塊になってきたらよく揉んで、叩いて平たくして折り重ねた塊を足でしっかりと踏む。

 

 この作業はラウラにやってもらった。生脚で。

 

 彼女がやる理由は言うまでもない。

 

 ワインを作る過程においても、美少女がブドウを一所懸命に踏んだのと、毛深いおっさんが一所懸命に踏んだのでは雲泥の差がある。



 ラウラは終始、【美少女、うどん踏み踏みするの巻】をじっくり観察する僕のことを怪訝そうな顔で見下ろしていた。


 だが、それがアクセントになって味を深めるに違いない。


 美少女のおみ足で踏んだ後は、三十分ほど寝かせる。

 

 寝かせている間に汁作りだ。


 裏の川から汲んできた天然水とめんつゆ、砂糖、こっちの調味料を混ぜて作った甘辛の特製汁の中に、クリーゼさんが仕掛けた罠に掛かっていたウリ坊の薄切り肉とネギ的な野菜をぶちんこんでしばし煮込む。


 弱火で煮込んでいる間に、寝かしていたうどんを棍棒で伸ばしていき、平たくなった生地を重ねて5ミリ幅に切って、うどんの完成だ。


 うどんを茹でたら冷水で締めて平皿に盛りつける。


 汁をお椀に盛ってうどんと一緒にテーブルに並べれば特製つけうどんの出来上がりである。


「ど、どうやって食べるのだ?」


 恐る恐るといった感じで、ラウラは未知の食べ物である茹でたてうどんと熱々の汁を交互に見比べている。

 漂う甘辛い汁の匂いに、食いしん坊が抑えられない彼女の口から垂れているのは涎で間違いない。


 よし、ここは日本男児としてUDONの食べ方の手本を見せてやらねばなるまい。


「この麺を汁に潜らせてから一気に啜るのだ!」


 箸がないからフォークでうどんを掬い上げた僕はズルズルと一気にすすってみせた。

 それを見た途端、ラウラの目がぎょっと丸くなる。


「なっ! 音を立てて食べるなどはしたないぞ!」


「ノンノン、マドモアゼル。これはこうやって食べる料理なんだよ」


 しかし、次からは箸を作っておこう。フォークじゃやっぱり味気ない。


「ふむ……」


 クリーゼさんは僕を真似して汁に潜らせたうどんをズルズルと啜った。


「おお、これはうめぇじゃねぇか。今まで食べたことがない味だぜ」と思わず感嘆の声をあげる。


「うう……」


 ラウラは決心が付かないようだ。さっきからお腹は鳴っているが手が動かない。


「ラウラ、お高く止まってんなよ。いいから真似してやってみろ」


「くっ……落ちぶれても元上級貴族、そのような下品な真似は、で、できん……」


 落ちぶれさせてすみません……って、落ちぶれたのは僕だけのせいじゃなくね?


「いいから命令だ。うどんをすすれ」


 強制力を声に乗せて発言するとラウラの薬指に嵌められたリングが仄かに赤い光が灯る。


 これがもし「しゃぶれ」だったらラウラはしゃぶるのだろうか。え? 何をって? もちろんうどんだよ?


 兎に角、いつか言ってみたいセリフとして心のノートブックにメモっておこう。


「う……」


 彼女の意思に反して手がわなわなと動き始める。二の腕をプルプルさせながらフォークでうどんを絡めて汁に浸した彼女は、ついに戦慄わななく口を窄めてうどんを啜ってみせた。


「うぬっ!?」


 勝ったな。ラウラの表情を見た瞬間、勝利を確信した僕は、ニヤマリとほくそ笑む。


「こ、これは……うまいな!」


 そう声をあげて爛々(らんらん)と瞳を輝かせた。


 そうこうしているうちに、クリーゼさんの皿がもうすぐ空になりそうだ。


 やっぱり自分が作った料理を美味しそうに食べてくれるのは嬉しい。みんなの口に合わなくて余ったらどうしようかと心配していたけど、いっぱい作っといてよかった。


「じーちゃん、おかわりいるか?」


 あ、しまった……。思わず言ってしまった。先生をお母さんと呼んでしまったのと同じくらい恥ずかしい。


「俺はお前のじーさんじゃねえぞ」


 クリーゼさんはフォークを置いて僕を見た。


「ごめん、素で間違えました……」


「……俺は、お前のじいさんに似てるのか?」


 彼は苦笑しながら湯呑に手を伸ばす。


「そうですね、雰囲気はどことなく似てます。一見するとおっかなそうなんだけど、怒られたことはなかったし色々と教えてくれた。優しかったです。いつも見守ってくれているような気がしました」


「そうか……、もう死んじまったのか?」


「分からないんです」

「分からない?」


「じーちゃんは僕が十歳のときに行方不明になってしまって……、まるで神隠しにでもあったように忽然こつぜんと消えてしまったんです。遺体も見つかっていません」


「……」


 何も言わずにクリーゼさんは湯吞に口を付けた。



 重苦しい空気になってしまったが、視界の端ではラウラが一心不乱にうどんを啜っている。


 おいおい、お行儀はどこにいったんだい、この元上級貴族め。実はこいつの正体は真名がアルト〇アとかいうサーヴァントなのではないだろうか……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >「じーちゃんは僕が十歳のときに行方不明になってしまって……、まるで神隠しにでもあったように忽然こつぜんと消えてしまったんです。遺体も見つかっていません」 おいおい、これまた強烈な伏…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ