第24話 リトライ
それから一週間が経った。
リタニアス国枢機教会によって異端認定が取り消されて晴れて無罪となった僕は、王都での暮らしを満喫している。
ラウラから約束通り護衛料を日当分受け取り、食べたい物を食べて暖かい部屋で寝て過ごす。そんな当たり前の生活がこれほど幸せなことかと噛みしめつつも、ここ数日は稼いだお金で豪遊している。
「ふう、今宵の月も実にマンダムだ」
裸体にバスローブ一枚を羽織り、ワイングラス片手に夜空を眺めていた。
今夜は高級宿の一番良い部屋に泊まっている。一泊金貨一枚もする最上階のスイートルームだ。
晩餐会みたいな食事が三食付いて、お酒も飲み放題、夕方になれば使用人さんが大量のお湯を用意してバスタブに入れてくれる。
エロいサービスはなかったが、久しぶりに肩までお湯に浸かることができた。
「ぞんぶんに満喫したし、そろそろ旅立つか。明日はマーケットに行って必要な物を買い揃えよう」
独り言ちていると淡い光を放つ球体が窓から飛び込んできた。
「たいへんたいへんたいへんよッ!」
慌ただしく入ってきたのはアルトかと思ったらやっぱりアルトだった。
つい先日グッバイしたばかりなのになかなか忙しいやつだ。
「なにが大変なんだ? ていうかまだこの辺にいたのか」
「私にだって色々あるのよ!」
「そんよりなにが大変だって?」
「それがね……――」
アルトの視線が僕の股間へと移動していき、彼女の顔がボッと燃え上がるように真っ赤になった。
マイサンが「こんばんは」と挨拶してしまったようだ。
「な、なんで何も履いてないよの! 変態!」
「風呂上がりなんだから当たり前だろ、それに自分が借りた部屋の中でどんな姿でもいいじゃないか!」
正当性を主張すべく椅子から立ち上がってアルトに詰め寄ると、
「いやぁぁぁぁっ! 近づけないでそんなもん!」
アルトは露出魔と遭遇したJKのような悲鳴をあげた。
まったく……仕様がないヤツだな。奴隸商から助けてやったときだって見てたくせに。
僕はバスタオルの腰帯を結んでマイサンを封印する。
「で、なにが大変なんだ? そろそろ眠ろうと思っていたところなんだ。僕は一度風呂に入ったら天地がひっくり返っても外出しない保守派閥だぞ」
「助けて! カノンが捕まったの! お願い!」
「な、なんだと?」
僕は耳を疑った。
僕のカノンちゃんが捕まっただと?
誰がそんなことを……許せん。
怒りに震える僕の背後からゴゴゴゴゴゴゴと湧き上がる憤怒の鼓動が聞こえてくるのを感じた。
「……どこのどいつだ?」
「メンデルソンのヤツらよ! あのときの行商人のヤツら!」
「あいつらか……。許せん……、もっとギッタンバッコンにしてやるべきだった。これは僕のミスだ。まさか報復してくるとは思ってなかった。アルト、カノンちゃんが捕まっている場所は分かるのか?」
「うん! 付いてきて!」
バスタオルの上からローブを羽織り、僕は窓を飛び出したアルトを追った。
◇◇◇
右、そして左に揺れるアルトのお尻を見つめながら走り続けること十数分、到着した場所はリタニアス東部にある商業組合の商会が軒を連ねる一画、そこからさらに東側の倉庫街だった。
カノンちゃんがいるのはメンドルソン商業組合の傘下、ペリドール商会が管理する倉庫だそうだ。
倉庫か……。うーん、罠っぽい。実に罠だ。僕を誘き出すために、アルトは意図せずヤツらに利用されているのではないか?
うむむ、どちらにしてもカノンちゃんを救出しなければならない。
なぜ彼女たちはまた捕まってしまったのか、その経緯をここに来る道中でアルトから聞いた。
彼女たちは僕を牢屋から助け出した後、しばらくリタニアス王国の街をうろついていたそうだ。
冒険者を夢見るアルトがインプのメンバーを募集するチラシを街で見つけ、そこに書いてあった場所に行ったら捕まってしまったらしい。
そして、なんとか逃げ出したアルトが僕に助けを求めてやってきたという訳だ。
それはさておき、学習という言葉を知らないのだろうか、このインプ娘は……。いや、きっと純粋なんだろう。
以前捕まっていたときも、彼女たちはこの倉庫の地下に閉じ込められていたそうだ。
地下では様々な密輸用の魔獣が檻の中に閉じ込められていて、中には1マイクログラムで人を死に至らせる強力な毒を持つポイズンアロースライムで満たされる巨大水槽があるらしい。
外に置いてあった木箱によじ登り、窓から倉庫内部を覗くと、倉庫の中央にひとつだけ木箱が置いてあった。その上には鳥籠が置いてある。
中に閉じ込められているのはカノンちゃんで間違いない。
もう皆まで言わなくても分かる。これは僕をおびき寄せるための罠で間違いないだろう。
だが、行かない訳にはいかない。カノンちゃんへの愛ゆえに。
窓から侵入した僕は、ゴキブリのように床を這って木箱に近づいていく。アルトも床スレスレの低空飛行で僕の後を付いてくる。
「カノンちゃん、助けにきたよ」
木箱に近づき、カノンちゃんに声を掛けた。
「罠です! 逃げてください!」
カノンちゃんが僕を見て叫んだ直後、天井からロープで吊られた鉄の牢屋が落ちてきた。案の定、閉じ込めらえてしまう。
あー……、やっぱり罠かぁ……。罠だと分かっていたんだよ。でも、やっぱりまんまとハマったみたいで恥ずかしいな。
断っておくが、これは罠にハマったと見せかけてあいつらをおびき出すという、敵の罠を逆手にとった作戦なのである。……なのである、なのである――って、いま思い付いたんだけどね。
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