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 ある日のことだった。




「あ、アリィー先輩。こ、こんにちは……」


「こんにちは」




 魔女先輩は、はにかんでくれる。僕は未だに何処かよそよそしい感じはあるが、前と比べて、魔女先輩と話をすることができているので、前進したと言えるだろう。




「あっ、そうだ。鈴陽くん」


「は、はい。なんでしょう」


「もうすぐ、クリスマスよね。何か、予定の方はあるのかしら?」




 僕は魔女先輩に僕の予定について訊かれていた。

 こ、これはなんだろう。もしかして、これはチャンスなのではなかろうか。もちろん、僕の返答は決まっている。「ありません!」と答えるのだ。だって、僕は魔女先輩のことを第一に考える主義なのだから。




「僕は……予定の方は特に……ないですね……」


「そう……」




 魔女先輩の反応は、意外にもあっさりとしていた。

 えっ。し、しまった。もしかして、クリスマスに用事すらもない寂しい人間なのだと思われてしまったのだろうか。

 てっきり、僕は、用が空いているならいっしょに過ごしましょう、的なお誘いだとばかり思っていたのに。くっ、くっ、僕のバカァ! お、思い上がりすぎだ! 自意識過剰過ぎだ!

 そもそも、魔女先輩ともあろう方だ。きっと、魔女先輩は用事……というか、いっしょに過ごす相手がいるにちがいない。……アレ、そう考えたら、結構、悲しいなぁ。

 僕はあれこれと考えて、落ち込んだり、自分のことを責めたりと、次々に思っていく。その感情が表に出てしまい、僕は表情を忙しいくらいに変えていっていた。




「えっと、そのね。鈴陽くん……」


「はい……」


「私を助けてほしいの!」


「……えっ?」




 魔女先輩の口から、爆弾発言が飛んできた。

 いや、爆弾発言というか、なんだろう。……もしかして、今、僕は魔女先輩に頼られている?

 そう考えたら、ちょっとテンションが戻ってきた。




「助けてほしい、って……いったい、どうしたんですか?」


「うーん……秘密……」


「ええっ!?」




 とても気になる言い方をされた。


 ひ、秘密……? 助けてほしくはあるけど、秘密とな。


 僕は頭の中にでっかいハテナマークを浮かべていた。




「えっとね、クリスマスイブの日かな。兎に角、私の家に来てほしい」


「は、はい。わかりました」




 僕はワケがわからなかったが、とりあえず魔女先輩のお誘いに了承だけしておく。

 魔女先輩と過ごせるとあれば、これはウキウキ気分だ。……しかし、やはり、秘密というものが気になりはする。むむむ。魔女先輩のお力にはなりたいのだが、内容が掴めなければ、お力になれるかどうか、不安だ。魔女先輩の前で、情けない姿を見せるわけにはいかない。だから、僕。頑張ろう。




「えっと、その……僕はアリィー先輩を……た、助けられるでしょうか」


「……えっ?」


「あっ! す、す、すみません! な、な、何を言ってるんだろうな、僕。よ、弱気になってしまって……」




 僕はポロリと本音を溢していた。しかも、よりによって魔女先輩の前で。

 僕のアホー! こんな弱気の姿を見せつけてしまったら、魔女先輩が不安がってしまうだろう!

 僕は心の中で自分のことを散々と責め立てた。




「ふふっ。大丈夫よ。鈴陽くんがいてくれるだけで、私、嬉しいから」


「そ、そうですか……」




 ここだけ聞くと、身悶えしてしまうくらい嬉しい言葉なのだが、あくまで魔女先輩は僕を頼っているというだけ。……いや、頼られているのであれば、普通に嬉しいことなのではないか、僕。

 僕はそんなどっちつかずなことを思いながら、ドキドキとした気持ちで魔女先輩と歩いていた。




「…………?」




 僕は先程、魔女先輩が言っていた言葉をもう一度脳内で再生させる。

 う、嬉しい、かぁ。心強い、じゃなくて、嬉しい……ということは……いやいや、僕のまた自意識過剰の考えすぎなのだろう。ダメだ、僕。僕にはもしかして、理想しか見えていないのか? 勘違い野郎と間違われてしまったら、嫌だ。……やめておこう。一瞬、ガッツポーズしそうになったけれど、ただの僕の深く考えすぎなだけなのだから、もしかして魔女先輩も……なんて考えは捨て置こう。


 僕は今度は感情を表に出さないように細心の注意を払いながら、そんなことを思っていた。




「それじゃあ、またね」


「はい、また……って、ええ!?」




 魔女先輩がピタリと止まった場所を僕は思わず振り返って激しいくらいに驚いてしまう。

 ……ビル? ビルとも館とも見えるような、立派な建物がそこにはあった。




「アリィー先輩……ここは……」


「私のおうち。なんなら、上がってく?」


「いえ、いえ! そ、その、迷惑になってしまうかもしれないので、その、ぼ、ぼ、僕はこの辺で失礼します!」




 僕はブンブンと頭を振って深々と頭を下げると、まるでロボットのようにガチガチな動きになりながら、自宅の方へと帰る。

 ま、魔女先輩って、お、お嬢様だったんだなぁ……やはり、見た目からしても、気品が感じられたし。

 僕はバクバクと鳴っていた心臓の鼓動を感じながら、自分と魔女先輩との身分の差について比べ始め、がっかりとしていた。

 魔女先輩と僕は、言うなれば、月とすっぽん。これじゃあ、釣り合わない。魔女先輩に相応しい男にならなければいけないのに、なんだか、どんどん魔女先輩の存在が遠くに感じる。距離は近づいたと思っていたのに。

 僕の口からは自然とため息が出ていた。




「あ。鈴陽」


「……うえっ?」




 トボトボと下を見ながら歩いていたら、ポスッ、と何かに接触し、その何かに声をかけられる。

 黒を基調としたドレスのような服。その服に白のリボンや黒のリボンを纏わせている。

 白い肌。……いや、肌というか、マネキンのような、シリコンとかプラスチックみたいな感じの肌だ。

 髪は銀に光っている。太陽の光が当たって、とても神々しい。

 瞳はエメラルドグリーン。宝石のようにキラキラと輝いた目をしている。

 頬っぺたは柔らかそうな見た目をしていて、何処もかしこも触ってしまったら、壊れてしまうんじゃないかと思うくらいに儚い。

 身体は華奢で、僕より背が若干低いくらい。一メートル五十センチくらいだろうか。


 そんな、お人形のような、何か、とは。




「ら、ラメア」


「またお会いしましたね」




 そう言うと、ラメアはペコリと挨拶をした。




「えっと、今日はスキンヘッドの人はいないの?」


「ああ。田本でしたら、今は庭のお手入れをしています」




 人間味を感じさせない声で、ラメアは話す。

 そっか。あのスキンヘッドのおじさん、見た目からは想像つかなかったけど、意外と手先が器用なんだなぁ。

 僕はそんな感想のようなことを抱いた。




「きみは、今、何してるの?」


「私ですか」




 僕がラメアにひとつ訊ねると、ラメアはきょとんとした顔で僕に聞き返していた。




「え、うん。そうだけど……」


「……私は……何を……しているのでしょうか」


「…………」




 ラメアは、自分でも何をしているかわからないようだった。




「えっと、今、きみは暇なの?」


「暇……そうでしたか、私は暇なのですね」




 ラメアはそんな風に言って、僕のことを見ていた。




「えっと……」




 やはり、会話が続かない。どう接すれば良いのか、どう話を続ければ良いのか、わからない。




「私は暇。ならば、鈴陽。貴方のお家に私を招待してください」


「……きみを?」




 突然、ラメアに強引に言われる。先程までは、掴みどころのないふわふわとした印象を受けていたのだが、意外にも、ぐいぐいと来るところがあるようだ。




「えっと、ウチに来たいの?」




 僕がそう訊くと、ラメアはウンウンと頷く。機械のような動作で。




「……まあ、僕も暇だし、いっか。じゃあ、ついてきて」




 僕が促そうとすると、ピタリと僕の腕をラメアが抱いて離そうとしない。




「ど、どうしたの?」


「手を」


「手?」


「手を繋いで」




 ラメアに言われて、僕は渋々と手を繋いでいた。


 ……大丈夫だろうか、この光景。傍から見たら、僕は等身大サイズのお人形と歩いているようなものだし、不審者に見えたりしないだろうか。警察に事情聴取とかされたらどうしよう。……もしかしなくても、これ、誘拐とかの行為に該当したりしなかったりするんじゃなかろうか。そうだったら、とてもまずい。僕はこの歳で前科持ちになってしまう。……いや、そもそも何歳だろうが、前科持ちになってはいけないと思うのだが。

 僕は足早に歩いて、自宅の方まで急いだ。




「ね、ねえラメア」


「何」


「きみは、いくつなの……」


「齢のこと?」


「うん」


「……さあ」




 ラメアはそれっきり、黙ってしまっていた。さあ、って何!? えっ、僕、このコをおうちに上がらせて、大丈夫なのだろうか。とても、とても、とーっても心配だ。




「五百歳」


「えっ」


「冗談」




 わかりづらい冗談を言われてしまった。

 表情ひとつ変えないので、本当にわからない。ラメアの感情という感情が。おそらく、今、僕はからかわれているのだろうことはなんとなくわかるのだけれど。




「十五」


「十五歳? ……まあ、なら友達だと言えば、大丈夫なのかな」




 僕はラメアの言葉を聞いて、少し安心したような顔をする。幼女誘拐とかにはならなそうだ。




「てか、きみ、十五歳だったんだね」


「うん。中学生」


「そっか~……そうなのぉ!?」


「驚くことなの?」




 失礼ではあるのだけれど、こんな格好をしているものだから、てっきり、そういった概念とかはないのかと思っていた。だって、魔法というものが(実は密かに)ある世界なのだもの。




「でも、私、人間じゃない」


「……えっ!? ……ああ、うん。やっぱり、そうだよね……そうじゃないかと思ってた……」


「冗談かもしれないけど」




 ラメアはクスリとあどけない笑みを浮かべていた。お人形さんが笑うときって、こんな感じなのかもしれない。




「……あれ、てかさ」


「はい。なんでしょうか」


「きみ、ということは受験生だよね」


「そうですが」


「こんなところでぶらぶらしてて、大丈夫なの?」




 僕は思ったことをラメアに訊いてみる。




「……気にしないのが吉です」




 それだけ呟くと、ラメアはまた黙ってしまっていた。

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