ムネアリムネナシムネムネ
大は小を兼ねる
我が校には『G7サミット』と呼ばれる美女生徒が七人いる。
七人全てがGであり、凄い。
G7の一人、楠木美智香は俺のクラスメイトなのであるが、俺は美智香の秘密を知ってしまったばかりに、とんでもない事になってしまった──
──ドサッ……
鈍い音がしたと思い振り向くと、美智香の足下に手のひらサイズの砂袋が一つ落ちていた。
「!?」
美智香が慌てるようにすぐに砂袋を拾い上げ、胸を隠しながら走り出した。
教室には俺と美智香だけ。
そして俺は直ぐにそれが何を意味するか、察してしまった。
「美智香……」
「な、なによ……!」
──ドサッ
美智香のジャージから、砂袋が一つ落ちた。
そして片方の胸が消えたように無くなっている。
「……ニセモ──」
──ガッッ!!
一瞬で間合いを詰められ、俺は口を押さえられた。
「口外したらコロス……!」
「は、はぃぃ……!!」
そのまま俺は、美智香に腹パンを喰らい……気絶した。
「……ううっ」
目が覚めると、そこは美智香の部屋だった。
「手荒な真似をして悪いけど、今からこの誓約書にサインしてもらうわ」
「えっ? えっ!?」
ヒラリと紙が一枚、美智香の手から滑り落ちた。
【楠木美智香のバストサイズを口外したら切腹します】
それはとてもシンプルな手書きの誓約書だった。
てか、誓約書っていうのか、これ……。
「サインしろ……」
にこやかに脅しにかかる美智香。その手には良く切れそうな包丁が握られている。
「は、はい……。けど」
「けど?」
「どうしてそこまでしてG7に居たいのか、聞かせてくれないか?」
「チッ」
美智香の舌打ちが、強く響いた。
「G7に居ると、チヤホヤ具合がたまらないのよ! 全ての男子の視線が私に釘付け! この凄い満たされる感じは、他では味わえないわ!!」
「狂ってる……」
「何とでも言いなさい!! 私は全てを投げ出してでも、G7にしがみ付くわ!!」
「狂ってる……」
「うっさいわね!!」
「……因みに、本当は?」
「ん?」
「Aよ!!」
「Z、Y、X、W……」
「何で逆から数えるのよ!! 数えるまでもないじゃない!!」
「A、B、C、D……」
「とっくに通り過ぎたわよ!!!! 殺してやろうかしら!?!?」
「あ、もしバレたらアンタも道連れで殺すから」
「──!?」
こうして俺は、美智香のウソに命をかけるハメになってしまった。
とりあえず、砂袋の中身を甲子園の砂に変えた。
なんとなくだ。
それから少しでもバレにくいように、仕掛けや服にも気を遣った。不自然な動きが無いように、二人で動きも練習した。
「砂袋二つは流石に肩が……」
「すぐにお揉み致します!」
マッサージも欠かさず、俺は献身的に美智香に尽くした。全ては己の命の為だ!
お陰で、まるで本物を着けているような、そんな動きを美智香はマスターしたのだ!
俺は喜んだ。
気が付けば俺は、自分の命よりも、自然な動きを身に付ける美智香の事に喜びを感じるようになっていた。
しかしある日、美智香のバストサイズに疑いの目が向けられた。
間違って甲子園の砂を入れすぎたのかと、気が気ではなかった。
「美智香に限ってウソなんかない! 本当だ!」
俺は美智香の無実を訴え続けた。
「それは採寸すれば分かるさ」
他のG7からの提案で、美智香の採寸が行われることとなった。
終わった。短い人生だった……。
「採寸、終わりました」
採寸を終えたG7が更衣室から出て来た。美智香の姿は無い。
こうなったら、速やかに謝罪して、少しでも延命効果を期待するしかない……!!
「美智香の胸は……俺のせいだ!! 俺が全て悪いんだ!! どうか、許してくれ!!」
「ん? Lカップは君のせいなのか?」
「……へ?」
遅れて美智香が更衣室から出て来た。恥ずかしそうにはにかみながら、アホ面の俺を見た。
「……ゴメン」
「ナンノコト?」
目が点になりながらも、俺は美智香に説明を求めた。
「なんか、あの後急に成長期が来たみたいで、爆乳になっちった♪」
照れ隠しに頭を掻く美智香。
俺には訳が分からない。
「だが、G7には居られない。それはルール通りだ」
「折角助けてくれたのに、ごめんな」
美智香がそっと俺の頭に手を置いて囁いた。
「美智香の為に……頑張ったのに……俺……!」
「私のために頑張ってくれたから、Lになったんだと思う。ありがとう」
美智香の目から雫がこぼれた。
俺も嬉しくなり、泣いた。
「ありがとう、ありがとう」
「良かったなぁ、良かったなぁ」
強く抱きしめ合う。
なりふり構わず、ぎゅっとした。
「AからLなんて、凄いなぁ! うん、うん!」
場がシンとなるのが、分かった。
「…………コロス……」
美智香の手にはいつの間にか良く切れそうな包丁が握られていた。
俺はなり振り構わず、逃げた。