第9話【大切な仲間と言える者たち】
「ベル平気…!?」
「ベル……!!」
「うん、平気平気」
若干涙目になっているアップルとルフトラグナが駆け寄りながら叫ぶ。少し放心状態になっているがベルの身体に深い傷はない。
そして傍観しか出来なかったグランツは、地竜の状態を見て驚く。たかだか1ヶ月の剣の腕で竜種を討ち倒したのだ。しかも少女の身でだ。
「な、何故だ…君にそこまでの力があるとは思えない」
「いや正直危なかったよ、私もビックリしてるくらい」
「君は一体、何者なんだ……」
「何者でもない。ただ穏やかな日々を送れることを願っているだけの人間だよ」
たったそれだけの願いで竜を討つことが出来るものかと、グランツは思う。
(その強さ……知りたい。俺が持ってないものを持っている君を知りたい……そのためにはッ……)
グランツは巨龍を前にして未だに震えていた両手を握り締め、真っ直ぐな瞳でベルを見る。
「ベル。君はこれからどうするつもりなんだ」
「多少なりとも剣も扱えるようになったからね、とりあえず王都へ行くよ。情報を集めて、魔王の居場所を突き止める。突き止めて……倒すんだ」
「そうか……。ベル、今の戦闘で、支援も、動くことさえも出来なかった俺だが……その旅に、どうか連れて行ってくれ。俺に…その強さを教えてくれ。傍で見させてくれ──頼む」
深々と頭を下げ、グランツは同行を願う。この少女から学ばなくてはならないと思ったからだ。
「魔王のこと、私は本気だよ。一緒に行くってことは……」
「もちろんわかっている。だから、君が俺を邪魔だと思うのならいつでも切り離してもらって構わない」
「……そこまで言うなら、わかった! それにグランツが居てくれたら心強いしね」
そう言うとベルは頭を下げるグランツに手を差し伸べる。
「ちょ、ちょっと待ちなさいって! 私も行くわよ!!」
「え!? で、でも……」
「ベル、あなたが魔王を討つというなら私も手を貸す。何を思っているのかはわからないけど、私はあなたの力になりたいのよ!」
「……ってことは、みんな着いてきちゃうってことか」
「愛されてるな」
差し伸べられた手を取り、グランツは微笑む。そのベルとグランツの手をアップルが掴み、皆の手を包み込むようにルフトラグナも手を添える。
「魔王の実力どころか所在すら不明。簡単には行かないわよ」
「それでも、やる」
「こう言うのもなんだが、王都の騎士達にも気をつけなければならない」
「ルフちゃんは必ず守るよ」
「わたしも…やれることは少ないけど、足でまといだと思うけど、みんなと居たいから……」
「うん。みんなで、行けるとこまで行こう」
それぞれ、思いを胸に決意を固める。険しい道だろう。途中で崩れてしまうような脆い道だろう。だからこそ己の全てを生きるために出し切る。
「……それで、この地竜どうしよう」
「売れる部位を解体する。まぁ竜種はどこも貴重な素材だ、全身使えるからそのまま売りに行ってもいいが、やはり解体されたものの方が扱いやすいから高く売れる。良い機会だし今教えよう」
「はい師匠!」
「だ、だから師匠はやめてくれ……ほら、まずそこに刃を刺せ」
グランツに教わりながらベルは地竜の皮膚にナイフを入れる。硬い肉質なため解体作業もなかなかの重労働となる。それでもこの世界で生きるためにはこうして狩りをしていかなくてはならない。
「……うん? なんか硬い……?」
「骨にでも当たったか?」
「いや骨にしては硬すぎるというか……なんかゴツゴツしてる?」
ベルがそう言うと、グランツは「おぉ…」と感嘆の声を上げる。
「この地竜、魔石持ちだったか」
「魔石……?」
「ま、魔石!? じゃあこの地竜、リーダー格ってこと!?」
“魔石”という言葉にアップルが両手をワキワキとさせながら叫ぶ。
「ああ、種族のリーダーに相応しい魔物は自身の魔力を体内に蓄積し、それを石とする。そして自身を倒した相手に新たなリーダーの力として受け継がせるんだ。……が、魔石持ちの魔物を倒してもその魔石を入手出来る確率は低い。遭遇することも滅多にないから簡単には手に入らない代物だぞ」
「自分が積み上げたものを簡単には渡さないってことか。でもそれを渡してくれたってことは……」
「彼に実力を認められたということだな」
「地竜に認められるなんて! ベルはすごいです!」
ルフトラグナは翼をパタパタと揺らしながら羨望の眼差しでベルを見つめる。相手は地竜という魔物ではあるが、強者に認められるというのは嬉しいものだ。ベルは慎重にナイフを入れ、ゆっくりと魔石を取り出す。透き通った金色の石は魔力を蓄えているからか綺麗に発光していた。
「ままっ、魔石なんて……売ったら数年は余裕で暮らせるほどの大金になるわよ……」
「あ、だからそんなに手をワキワキとしてたんだね」
「……はっ! で、でも竜を倒したのはベルよ! それをどうするかはベル次第。売って資金にするのも手だけど、多分地竜の素材で当分は平気よ。となれば残された道はただひとつ……! その魔石を加工して、武器にする!」
「そっか、その手もあるのか…! 確かにこの先のことを考えると強力な武器は必要になってくるだろうし……」
「…だがまぁ、加工にも金は必要だ。制作が難しいものなら高額になってくる。魔石の加工となると…もしかしたらこの地竜の素材を売っても足りないかもしれない」
「ちなみにこれらを売った場合の金額はいくらですかね師匠?」
「7万ゴールドってとこじゃないか? 普通の武器でも加工には1万ゴールドは持ってかれる」
それに加え、加工する側も慎重に選ばなくてはならない。どこも高額な資金と引き換えに魔石を加工してくれるが、腕の悪い者が加工すれば失敗するリスクもある。失敗した場合、魔石は塵と化す。
「ま、まぁ…すぐにやらなきゃいけないってことではないんだし、ある程度お金を確保出来たらにしよう。安全に慎重に行こう……! まずは旅の準備優先!」
まだ金銭面は乏しいため、ベルはすぐに大金を使ってしまうのには抵抗があった。それに、実力に見合った武器を持った方がいい。巨龍を倒したとはいえ、剣の腕はまだまだだ。いきなり慣れない武器に変えれば、いざ実戦の時どうなるかわからない。
「まぁそうよね」
「あぁ。死と隣り合わせである以上、よく考えて行動するに限る」
「よくわからないですけど…安全なのが一番ですよベルっ!」
「そうだよね! よーし、じゃあさっさと解体を済ませちゃいますか!」
こうして地竜を解体し終えたベル達は、素材を売るため近辺の村へ向かうのだった。
グランツさんの活躍はまだです( ˇωˇ )