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第7話【星獲巨龍 -Stardust- 】

 異世界に転生してから1ヶ月が過ぎようとしていた。陽の光が射す窓辺で、ベルはこの世界の生物や植物のことが書かれた図鑑を開く。多くが見たことも無いものだが、少なからず元の世界と同じものは存在する。


「前にグランツが釣ってきた魚ってこれだっけ?」


「あぁ、恋魚だな。今が旬の川魚だ」


 見た目が鯉に似た恋魚であったり、グランツが貰ってきたという赤い果実…リンゴもそうだ。ベルが元いた世界とここは何かしら共通点が見られる。それも気になるが、一番はベルが全く知らない未知のものだ。この異世界に慣れるためにも知識は必要だ。


「魔木……東の地に多く、水分の代わりに地中の魔力を吸い上げて蓄える。魔力か……」


 植物類は普通に水などで成長するが、魔木だけは魔力で成長する。理由は不明だがおよそ10年前から増え続けているらしい。ちなみに魔木以外にも魔力で成長を遂げるものは存在する。


「──そうだベル、君も剣の腕を上げたことだし森の奥地に行ってみないか?」


「あ、私も行きたいわ! 前からここ気になってたのよ」


「ベルが行くなら、わたしも行きたいです……!」


 森の奥地は決して安全ではない。だが今の実力を把握するには、多種多様の動物や魔物が居るこの森は適している。

 それぞれ外出の準備を整えると、小屋を出て森の奥地へ向かっていく。森は奥へ奥へと進むほど陽の光が木の葉に遮られて薄暗くなる。魔木が植物にはエネルギーが強すぎて害となる魔力を吸い取るので、他の植物もスクスクと成長しており視界が悪い。


「……ねぇ、ここってこんなに静かなものなの?」


「いや、少し静かすぎる」


 不気味な静けさにアップルが周囲を警戒しながら言う。グランツも体験したことないほどの静寂だった。ベルはルフトラグナの左手を取り、左手に氷属性の魔力を集束させる。冷気が発生し、身に付けている手袋が少し凍りつく。


「ここまで来たか」


 少し開けた場所に着くと、グランツがそう言って立ち止まった。


「うわぁっ、デッカ…」


 目の前には大樹があり、それも小屋の裏手のものとは比べ物にならないほどの大きさのものだった。


「ここ一帯で1番大きい魔木だ」


「こ、これが魔木!? 一体どれほどの魔力を吸い取ったらこんな大きさになるのよ……」


 アップルは目を丸くさせながら大魔樹を見上げる。

 幹の奥をよく見てみると、魔木特有の青い発光が見える。


「……やはりおかしいな」


「うん、なんか……魔木にしては光が暗い?」


 ベルが周囲に生える魔木と目の前の大魔樹を見比べながら言う。通常の魔木は快晴の空のような青に発光しており、それと比べるとこの大魔樹は海底のような暗さがあった。グランツは幹に手を触れ、魔力の流れを感じる。


「この魔木、逆に魔力を吸収されている……!?」


 今まで無かった現象にグランツが驚きながら言った瞬間、地面が強く揺れる。大きな亀裂が走り、魔木が次々と倒されていく。


「───ッ! 何か来るよ!!」


 ベルの【インスティンクト】が発動し、驚異が迫っていることを感知する。左手にチャージしていた氷属性の魔力を地面に向けて放ち、凍結させてみるが…凍った地面も割れ、下から巨大な棘が出現する。


「全員その場から離れろ! 巻き込まれるぞ!」


 グランツが叫んだ瞬間、地面が大きく盛り上がって岩を巨体で退かしながら1匹の竜が現れた。


「これ、まさか地竜なの!?」


 後ずさりながらアップルはその地竜の大きさに驚く。ベルも以前自分が襲われた時の地竜を思い出すが、あれが幼体なのではと思うほど今現れた地竜は巨大だった。


「星を獲得してる……」


 瞳が白く輝くルフトラグナがそう呟くと、巨龍は大魔樹を背に大きく咆哮した。木々が風でざわめき、太陽が雲に隠れたのか森はより一層薄暗くなるが周囲の魔木の光がぼんやりと足元を照らしてくれる。

 ──魔木以外にも魔力で成長を遂げるものは存在する。それが“魔物”だ。その生物達の起源は不明で大魔樹の幹は傷付き、溜め込んでいた魔力が空気中に溢れ出ている。地竜が魔力を得るために傷付け、吸収して進化したのだろう。


「魔物の進化はさほど珍しくはない…だがこれは異常だ、この地竜……もはや竜種ではない! 魔龍と同じ異種だッ!」


 凄まじい威圧感に、グランツは背負った両刃剣に手をかけるが構えることが出来ない。ルフトラグナは震えながらじっと巨龍を見つめている。この世界の常識にはまだ疎いベルでもその異常性はよくわかる。


(逃げても許してくれなさそう……戦うしかないっ!)


 巨龍は品定めをするかのようにベル達を見ている。このままじっと立ち止まっていればいつか喰われるだろう。


(思い出せ、過去を……あの世界はゲームでもあったけど、現実でもあった。なら前のように、ここでも同じように、動けるはずだッ! あんな歪な世界より、こっちのほうがわかりやすいッ!)


 ベルは腰のナイフを抜き取る。身体が光の膜に覆われ、自然と【アクセルブースト】を発動した。光の膜は光属性魔法の【ミラージュ】だ。光を屈折させ、相手に自分との距離を測れなくさせる。


「アップル、支援お願いッ!」


「……! わかったわ、【リ・エームメルの領域】っ!」


 アップルは杖を指揮棒のように振り、範囲支援を施す。【リ・エームメルの領域】はこの世界で最高位魔法に位置付けられるもので、一定範囲内の味方の能力を上昇、自然治癒の加護を授ける。


『コロロロロ……』


 静かに喉を鳴らし、巨龍は後脚で立ち上がると前脚を地面に強くぶつけ、埋もれさせる。その瞬間、無数の亀裂が走り、そこから鋭利な岩が突き出てくる。


「【ニトロ・バースト】ッ!」


 ベルの前に現れ道を塞いだ剣岩に向けてアップルは炎属性魔法を発動する。岩は【ニトロ・バースト】の爆発によって粉々になり、逆に巨龍へ近付くための足場を形成する。


「ハァッ!!!」


 アップルが作った足場を踏み台に飛び上がると、ベルは巨龍の翼にナイフを突き立てる。鱗が硬く、刃が通らないが……。


「【アイシクル・ランス】ッ!」


 ナイフを中心に氷の槍を作り出し、無理矢理に巨龍の左翼を貫通させる。血が噴き出し、鮮血がベルの顔を汚す。


『ゴルォォッ!!』


 だが、その程度では巨龍の動きは止まらない。無理矢理【アイシクル・ランス】で左翼を貫通させたので、ナイフを持つ手ごと凍ってしまったベルを振り回して大魔樹に身体を打ち付ける。


「痛ッッ───!?」


 激しい痛みに、ベルは瞳に涙をうかべる。思考が一瞬で飛び、背中がジンジンと熱い。装備が裂けて背中が露出し、傷だらけになった肌が見える。【ミラージュ】が全く効果を発揮していないようだ。


『ゴォオオオオッッ!!』


「まずい、ブレスが来るわ!!!」


 地竜は炎を吐くことは出来ないため無属性のブレスを吐くのだが、その威力は岩を粉々にし、金属をも割る威力なのだ。それが異常進化で強化されているのなら、間近で受ければ身体の骨すら残らないかもしれない。


「い…や……ベル……!」


 ルフトラグナは手を伸ばしてその名を呼ぶ。その声に気付き、ベルは視線をルフトラグナに移すと静かに微笑んだ。


「……【クリンゲル・シックザール】」


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