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第6話【天使の黒花】

「なるほどね……もしかすると、ルフトラグナのユニークスキル…じゃなくて、能力なのかもしれないわ」


 ルフトラグナとの出会いの瞬間をベルから聞いたアップルはそう言った。


「まぁそう考えるしかないよね、この世界の人ってみんな何かしら能力を持ってたりするものなの?」


「まだ調査中。……だけど結構居るみたいよ。私は【テイム】って能力をアインから貰ってる。まぁ、今のところはやたらと生き物に好かれるだけなのよね……」


 この異世界には生まれながらに能力を持つ者が居る。その能力は他人と似たようなものであったり、全く同じものであったり、誰とも違う個性的なものであったりとバラつきがあるが、どれも凄まじい効果を発揮するのが特徴だ。


「私は確か、ルフちゃんから【インスティンクト】を持ってるとか言われたっけな……」


 ベルの言葉を聞いて、アップルは何か気付いたようで顔をハッとさせる。


「ねぇベル。これは村で小耳に挟んだ話なんだけど……魔龍の出現予兆を見たらしいのよ、王国の魔術師がね。魔龍はこの世界の災害のひとつと思ってもらっていいと思うわ」


「りゅ、龍の災害……さすが異世界、規模が凄い」


「…で、王国がルフトラグナを狙っているのはお金のためというよりは、きっと魔龍討伐のためね。ルフトラグナが他者の能力を見ることが出来るなら……魔龍の能力を知ることが出来れば、対処方法も見つかるかもしれない。それに魔物にも言葉が通じれば和解……いや、飼い慣らすことだって可能と考えている……っていうのが、今私が至った憶測よ」


 魔龍…別名は災害龍とも言われており、魔骸龍、歴老龍と様々な異名を持つ。過去に各地で三度襲来し、その全てが為す術なく被害にあっている。まさに災害級の魔物で、その見た目から竜種とも言われていたが、最近になって異種が加わったことで魔龍は異種なのではという声もある。


「飼い慣らす……王国についていろいろ調べないといけないみたいだね」


「まぁ、出現はまだ先みたいよ。時間はあるわ」


 アップルはそう言うと腰のポーチから紙を取り出す。


「あと……はいこれ、グランツさんからいろいろ話は聞いたから、渡しておくわ」


「…これは?」


「今はまだあれだけど、この先武器は必要になるでしょ? 村一番の武器屋を紹介しておくわ。あと、気付いてると思うけどこの世界に銃はないから、剣の修行頑張って」


「あ、ありがとうアップル! 資金確保出来たら行ってみるよ!」


「う、うん…まぁ、暇な時に顔を出しに来てあげるわ」


 恥ずかしそうに顔を赤らめてアップルは言う。月の光が2人を包み、無数の流れ星が夜空を斬るように流れる。


「……こうしてまた会えてよかった」


「そうね……でも、こっちで苺達と会いたくはないわね」


「苺…みんながこっちの世界に来るってことは、あっちで偽神に負けたってことになるからね。そんなことは無いって信じてるけどさ」


「えぇ、でも…出来ることなら、またあの世界でみんなと…」


 アップルが涙を零し、呟く。ベルがアインと約束した元の世界への帰還は異例なのだ。アップルがベルと同じようにアインを説得して、帰還を約束している可能性もあるが、【テイム】の能力を得ているということはこの世界でずっと生きていくことを決め、アインがその能力をアップルに与えたと考えられる。


(あれ……? でも私、【インスティンクト】なんてスキルあっちで持ってなかったよね……)


 アインは帰還を約束する代わりに、少しでも長く生きてもらうために与える能力を無効にして、さらに魔王討伐を条件にしてきた。ベルが現在持つ魔法は元の世界でベルが使っていたスキルの一部だが、そのスキルリストの中に【インスティンクト】などと言うものは一切無かった。

 この事をアップルに言うべきか、自分だけ元の世界に戻れるかもしれないことを伝えるべきか……そうこう考えている内に、アップルが手に空に伸ばしたことでベルの思考は途絶える。


「この世界では、星に苦しみを吐き出すと良いことがあるって言われているらしいわ」


「星に…?」


「そう、悪感情の全てを天に煌めく星々に受け取ってもらうことで、自分の心は清くなる。そして悪感情を受け取った星はそれを無くすために燃えて、より一層美しく輝いていく……そんな話よ」


「……そっか。アップルは何かあるの?」


「そりゃあるわよ、沢山。誰にだってあるわ。でも、私は特に…あの時、何の役にも立てないで死んでいった自分自身が憎い……だからせめて、この世界では誰かの役に立てる自分でいたいの」


「私も、誰かを救える自分でいたい。今度は絶対に守るからね、林檎」


「背中は任せなさい、鈴」


 互いの拳をトンっとぶつけ、その心に誓う。今度こそは間違えないと───。




* * *




「──ヤァァッ!!!」


「まだ軽いぞベルッ!」


「はいッ!」


 早朝、木剣を握ったベルはグランツに向かってそれを振るう。グランツはそれを素手で受け、押し返す。今日から始まった修行はかなりギッシリとしたスケジュールで行われる。

 まず太陽が昇る頃に起床し、木剣を振る。その後朝食を終えると昼までアップルも交えた魔法修行だ。


「と、言っても。私これっぽっちも魔法のことなんて知らないだけど……」


「村で魔法を使いこなせるのが君だけだったからな……基礎だけでもいいんだ」


「はぁ、仕方ないわね。それじゃあまず──」


 ベルはアップルの話を聞きながら少し疑問に思う。アップル…林檎の死と自分の死は大体1日の差がある。それなのにアップルは魔法のことなど、様々な知識を持っていた。恐らくはアインが言っていた転生場所だろう。場所とは物理的なものだけでなく、時間的なものも指定出来る。アップルはベルのように最新時間に転生したのではなく、少しだけ遡った過去に転生したのではないか、とベルは予想する。もしくは、アインが勝手にそうした可能性だ。


(まさか、私がこうなるってわかってたからアップルを……? こんな近くに居たのも偶然ではないだろうし…もしかして意外と手助けしてくれたのかな)


「──ってことだから、回復魔法は魔力消費が大きい。無から有を生み出すには相当の魔力が必要になる。逆に既にあるものの形を変えるだけなら魔力消費は少なくなる。例えば……【アクア・レイン】」


 アップルが人差し指をクルクルと振ると、激しい雨音が小屋に響く。


「あ、アップル雨を降らせられるの!?」


「そ、そんな気象操作なんて出来ないわよ! 近くに水源がある場合、それを利用して水属性魔法を発動すれば無から有を生み出す必要が無くなるから、魔力を無駄遣いしないってことを教えたかったの」


「なるほど…ところで属性ってどれくらいあるの?」


「ベル、最初の話聞いてなかったわね?」


「あっ、あはは……すみませんもう一度ご説明願いますっ!!」


「はいはい…魔法とは自然の力。炎、水、風、土、雷、氷、光、闇の八属性があるわ。ちなみに、一番魔力消費が少ないのは風と闇ね。風属性はこうして身体を動かすだけでも空気が動き、風となるから使いやすい。闇属性は闇を生み出すんじゃなくて、逆に光を奪うからむしろ魔力が少し回復するわ」


 そう言うとアップルはロウソクの火を手で包み込む。


「こんな風に、火の光だけを奪うことも出来る」


「すごい…真っ暗な火! アップルすごいです!」


 ルフトラグナが翼をパタパタと揺らして瞳を輝かせる。ベルとグランツも「おぉ……」と思わず感嘆の声を漏らし、その暗い火を凝視する。


「あなたでも出来るわ。魔法はその時の動きと使う属性を強くイメージすればいい、やってみなさい」


「う、うん…!」


 アップルがロウソクの暗い火を消して、再び点火するとルフトラグナの前に差し出す。その火を小さな手で添えるように包み込み、ルフトラグナは目を瞑ってイメージする。


 ──火が消える。暗い。……光が見えない。ここはどこ。ここは……花園……? わたしは……誰だっけ……。


「は、花……?」


「……え?」


 アップルがそれを見て困惑した表情で言う。火が付いたロウソクは黒い一輪の花となっていた。ルフトラグナがそれに気付き、手を離すと花は一瞬で枯れて散ってしまう。


「まぁ、これも魔法かしら?」


「凄いねルフちゃん、私は火が燃えるばかりで……」


「そ、そうかな……! もっと練習して、ベルの役に立てるように、頑張ります……!」


 一瞬不安な表情を見せたルフトラグナは、ニコリと笑顔になってもう一度ロウソクに火を付け、目を瞑ってイメージし始める。


「……ベルは過去を思い出しすぎなのよ」


「な、なるほど……」


 ベルが手を添えているロウソクの火がバチバチと火花を散らして燃え上がるのを見て、アップルは呟くように言った。


「ほら、次よ次! 今日中に全属性試して貰うんだから! あとグランツさん、今日のお昼は魚がいいわ!」


「あ、私も私も! なんかすっごい魚っ! って気分だったんだよね!」


「わ、わたしも……!」


「全く…まぁ頑張ってることだし、わかった。魔法のことはよくわからないし、俺は釣りにでも行ってくる」


「「「行ってらっしゃ〜い!」」」


「一気に3人も娘が出来たみたいだな……」


 そう呟き、グランツは釣り竿と両刃剣を担いで小屋を出ていった。

次回、星を獲ます。

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