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第5話【再会】

5/31 修正。

「は──あぁ。うーむ、慣れたなぁ……」


 自然光で目を覚ましたベルは、そう呟きながらムクリと身体を起こす。隣にはルフトラグナが安心しきった可愛らしい顔で寝ており、ベルの手を左手でぎゅっと握っていた。小屋にはグランツの姿はなく、両刃剣が無いため外に出ているのだろう。


「ん、メモ書き? なになに……『村に用事があるから行ってくる。昼には戻る予定だが遅れるかもしれない。早朝に騎士の姿を見かけたから小屋からはあまり出ないように』か、騎士……なんか武器持っとこうかな」


 ベルはそう言うとベッドから出ようとする。ちょうどテーブルにグランツが手入れを終えたナイフが置いてあった。


「んむぅ………」


「──っと、忘れてた。ルフ〜、ルフちゃーん? 起きてくれないと私立てないよー」


 そう言いながらベルは自分の手を掴むルフトラグナの頭を撫でまくる。ふわふわとした感触に眠気が戻ってきそうだった。


「翼………触って大丈夫かな」


 髪よりもふわふわとしてそうな白い翼に手を伸ばす。……が、ツンと指先が触れた瞬間、ルフトラグナが物凄い勢いで飛び起きた。


「──ッ!」


 ルフトラグナは床に伏せて翼を大きく広げ、怯えた表情で睨む。


「あ、えっと……」


「べ、ベル……?」


 困惑した表情を見せるルフトラグナの瞳には信じたいという気持ちと、裏切られたと思う気持ちが混じりあっていた。こんなにも怯えているのは、今までずっと、その翼に触れられてきたのはルフトラグナを捕らえようとする手だったからだ。

 羽根をむしり取られたり、鋭利な刃物で背中を突き刺された過去がルフトラグナの脳内で再生される。


「ご…ごめん。そうだよね……嫌だよね、ずっと狙われてたんだもん、当然だよ。ホント…勝手に触ろうとしちゃってごめんね」


「……痛いことしないですか? わたしを…傷付けないですか……?」


「──しない! 絶対っ! ただふわふわで触ったら気持ち良さそうだったからつい手が伸びちゃって……! ルフトラグナを傷付けることなんてしないよ!」


「触りたかっただけ……?」


「そ、そう! ……ですっ!」


 ベルの言葉を聞いて、ルフトラグナは警戒を解く。


「ベル、なら……触ってもいいです…よ……?」



* * *



 ここは楽園か。ここが安住の地か。

 そんなことを思いながらベルはルフトラグナの翼をモフった。モフりまくった。


「やわい……きもちい……」


「ベル、すごい顔になってますよ?」


「ふぇ、そうかなぁぁ?」


 だらしなく、にへら顔を晒して言ったベルは翼に顔を埋め、大きく息を吸い込む。ルフトラグナも満更でもないようで、パタパタと翼を小刻みに揺らしていた。


「──すまない、ついでに狩りをしてたら少し遅れてしまった。すぐ昼飯にし……」


 しかし、グランツが戻ってきた瞬間、ベルはそのまま硬直する。


「……ようか。果物を貰ったから昼飯が出来るまで食べるといい、甘いぞ」


「スルーされるとそれはそれでつらいよっ!!!」


「あ……まぁ、なんだ。気持ちはわかる。ところでルフトラグナ、もう傷はいいのか?」


 グランツは果物を渡しながら傷を具合を聞いてくる。果物は赤いリンゴのような形をしていた。


「まだ……」


「そうか、じゃあ早速治してもらおう」


 グランツがそう言うと、小屋の扉がゆっくりと開く。


「それで、患者はどこなの?」


 ──凛とした声が小屋に響く。

 その姿にベルは目を見開く。思わず手に持っていたリンゴを落としてしまうが、それを気にする余裕はなく、小屋に入ってきた綺麗な赤髪をサイドテールにした少女をじっと見つめていた。

 そして、赤髪の少女もまた、ベルをじっと見つめ返す。そこには驚愕の表情があった。お互いの顔を、本物かどうか確かめるようにひとつひとつの顔のパーツを確認していた。


「あぁ、そこの白い翼腕型の女の子だ。右腕は応急処置程度だからそっちも見て欲しいんだが……どうした?」


「へぁっ!? い、いや、何でもないわよ! ほらそこの天使、さっさと服脱いで! グランツさんは外で待機よ!」


「わ、わかったわかった。君は相変わらずだな、“アップル”」


 グランツにアップルと呼ばれた赤髪の少女はテキパキとグランツを外に追い出し、ルフトラグナの服を脱がすとベッドに寝かせる。


「…………」


「…………」


 ベルとアップルはお互いの存在が気になり、度々目を合わせる。しかし、今はルフトラグナの治療を優先した。アップルは小さな背中を静かになぞる。傷には触れないよう、慎重に見ていく。


「……これは酷いわね、傷跡までは治せないと思うわ」


「わたしは痛くないなら、それでいいです」


「そう、じゃあ始めるわよ。……ベル、ちょっとこの子の足押さえてて」


「はいはい……ルフちゃん、すぐ終わると思うからね〜」


 ベルはそう言いながらルフトラグナの足を手で押さえる。しかし、ルフトラグナは2人の話し方のほうが気になっていた。


「…? 2人ともお知り合いなんです───」


「──【ヒール】」


「かぁぁぁぁぁぁああっ!!!??」


 アップルがルフトラグナの背に手を触れた瞬間、光がルフトラグナの中に入っていく。突然、何か得体の知れないものが体内に流し込まれていく感覚に、ルフトラグナは今までで一番声を出した。その声は外で待っているグランツにも聞こえるほどで、グランツはそっと耳を塞いだ。


「私の回復魔法は強制的に魔力注入して、あなたの治癒能力を活性化させるものだから結構キツイわよ! 踏ん張りなさい!」


「これなんかバチバチするよベルぅぅぅぅ!!!」


「が、我慢だよルフちゃんっ! 傷も治ってきてるから!」


 じわじわと、深い傷から癒えていく。ルフトラグナは絶叫しながらも何とか耐え、その後、アップルによる治療は数時間にも及び、終わった時には夕方になっていた。


「はぁ……はぁ……全く、この子全然魔力受け取ろうとしないから手こずったわ……! 治癒能力を無理矢理引き出したからしばらく無理はさせちゃダメよ、右腕は戻りはしないけど、これで痛みはないはず……あ、シールはオマケよ、何かあったら私を呼びなさい」


「う、うん……」


 力尽きたルフトラグナはうつ伏せのままそう返事をした。背中の切り傷は少し痕が残るも前よりマシになり、翼は完全に治っていた。右腕には新しく包帯が巻かれ、謎のキャラクターのシールが貼られていた。

 ベルが動けないルフトラグナに服を着せ直し、扉を叩いてグランツに合図する。


「というか突然変異体なんて聞いてないわよグランツさん!」


「い、いやしかし、村の中でその話をするわけにもいかなくてな!」


 小屋に入ったグランツは、アップルに言われ、慌ててそう言う。アップルはそれもそうかとため息を吐き、ベルの顔を見る。


「……あなた、あとでちょっと話があるわ」


「うん、私もだよ」


 2人は険しい表情でそう言った。

 ──日も落ちて、村に戻るには暗すぎるため一晩泊まることになったアップルは晩ご飯を食べ終えると、ベルを連れて外に出た。


「──まぁ、自己紹介もしてないのに私がベルって呼んだことに何の違和感もなかったようだし、というかその顔を見ればわかるんだけど……単刀直入に聞くわ。あなた、一条鈴で間違いないわよね? この異世界ではない、別の世界から来た……」


「……うん、そうだよ。そう言うそっちは九宮(ここのみや)さんちの林檎(りんご)さんで間違いないよね? 久しぶり…ってほどでもないかな?」


 ベルの言葉を聞き、アップルは大きく息を吐いて眉間にシワを寄せながら頭を押さえる。


「な、なんでそんなに冷静なのよ……! 私、これでもかなり混乱してるのよ!? ベルも死んじゃったなんて……思ってもなかったわ!」


 アップル……本名、“九宮(ここのみや) 林檎(りんご)”はベルが元々居た世界で一緒に戦っていた親友だ。

 仮想が現実と融合したことで死の概念が本物となり、あの気持ち悪い黒触手生物との戦いで死亡した時、ベルと同じようにアインに会ってこの世界に転生してきたのだろう。


「あの後ね、私が1人で戦って……まぁ結果は相討ちだよ」


「あ、相討ち……それでもあのモンスターを1人で倒したなんて、さすがとしか言いようがないわ……」


「アップルもアインって子に?」


「えぇ、そうよ。この世界に来た時はホント苦労したわ、言葉通じないから覚えるのに時間が掛かったし……」


「え…? 通じない?」


 確かに最初はよくわからない言語であったが、その後は普通に騎士やグランツと会話をしていた。アップルはベルの反応が以外だったのかキョトンとすると、何か考え込む。


「……まさか、いやでも…ベル、あなたさっき、ここの言語を話していたわ……よね……?」


「は……!? いやいやいやいや! 一文字も喋ってないって! 何一つ勉強してないしてないし!」


「ちょ、ちょっと待って……今私、何語を話しているの?」


「日本語……?」


「……私、ここの言語で話していなかった……? いやでも私、今……」


「最初から日本語だったと思うんだけど……」


 ベルの言葉を聞いてアップルは混乱していく。


「もしかして、転生する時にもらった特能……? 言語翻訳とか……そんなの!」


「え、いや、私は何も……」


「何も……って何も!? そ、そっちも気になるけど……それより今は、ベルがどうしてわからないはずの言語を理解しているのかよ! この世界では何があるかわからないんだから、こういった不確定要素は排除するに限るわ、心当たりとかないわけ?」


 心当たりと言われて、ベルは記憶を遡る。……そう、確かあの時だ。ルフトラグナに初めて声をかけた時、ノイズ音がしたその直後、騎士達が何を言ってるのかわかるようになったのだ。

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